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 鉄腕のジャスティス

 王宮の中心部、磨かれた白い大理石が敷き詰められた『白き光の間』に、突如として出現した建設重機(・・・・)

 その車体は燃えるような赤で塗られ、まるで禍々しい赤竜のような迫力があった。


「パ、パワーショベル!?」


 巨大な鉄の一本腕をもつ建設重機は、ゴゥオオオオオン! とエンジン音を怪物の咆哮のように響かせると、ゆっくりと前進し始めた。

 ギュラギュララ……とキャタピラを回転させ、重量で宮殿の床板をビキビキと破砕しながら進んでゆく。


「鉄の怪物だ!」

「あんな化け物、見たことないぞ!?」

 宮殿内は現れた「異形の怪物」の動きと、エンジンの騒音に慌てふためき大混乱に陥っていた。


「ひぃいっ!」

「あっ!? 貴様らどこへ行くのじゃ!?」

 幼女君主(ロリ・ロード)ヘブラカーンの御輿(みこし)を放り出し、下男たちが我先に逃げ出した。床に落ちた人力玉座の上で、小さな人影がぴょんぴょんと跳ねている。


 ヴァル・ヴァリーが操る油圧ショベル――通称、パワーショベル――は日本の大手メーカ、日立製の中型クラスの重機だった。

 油圧ポンプの駆動音と同時にアームが力強く稼動する。鉄の爪を持つ先端のバスケット、それを支える複雑な機構。腕の間接部の外側を支える油圧システムのパイプが男心をくすぐって止まない。


「お、おぉ……! 凄い!」


 標準では黄色いカラーリングの車体だが、召喚された時に赤い炎のような色合いに塗りなおされている。

 少なくとも剣を手にしていた騎士達の半数が、アームの横なぎの一撃を浴びて吹き飛び、包囲網は崩壊していた。


 剣を手に俺達を囲んでいた騎士は、横なぎのアームでなぎ払われた衝撃で床に叩きつけられて失神していた。甲冑は歪み剣は粉々に砕けている。


 金の縁取りで飾り立てられた優美な甲冑など、重機のパワーの前ではアルミ箔のように意味を成さないのだ。


「……鉄のゴーレム! 鉄のゴーレムだ!?」

「一体どこから現れた!?」


「ジャスティス! 活動限界(・・・・)まで290……! だが、血路を開くには十分に、ジャスティス!」


 操縦席に乗り操縦かんを握ったジャスティス男、ヴァル・ヴァりーが肩の筋肉を波打たせながら鉄のアームを操作。

 ヴゥウウン! という油圧ポンプの振動音を伴いながら、鉄の腕を右から左へと振り回した。

 ズガガガガとテーブルと椅子が吹き飛び、無謀にも挑んできた騎士が空中に跳ね飛ばされた。

「ぎゃふぁ!?」


「流石だぜ油圧式パワーショベル! 重機最高!」

 思わず叫び手に汗握る。俺とパトナの社用車だって熱いが、やはりこの重厚感とパワーは比類なきものだ。ファンタジー世界だって負ける気などしない。


「し、知っているのかいライガ? あれは一体なんなんだい……?」

「ライガ兄ぃー、あの大男が乗ってるにー!?」


 見たことのない異世界の乗り物を目にし、流石の魔女ヘルナスティアも、猫耳少女ミィアも驚きと戸惑いを口にする。


「小型旋回油圧ショベル……! 通称『パワーショベル』。あのジャスティス男、あんな物まで呼び出せるなんて!」


 スポーツカーにバイク、そして自転車にパワーショベル。俺が暮らしていた元の世界では見慣れた「ありふれた」乗り物に過ぎなかった。

 だが、魔物が跋扈(ばっこ)し、魔法が飛び交い、食人族(・・・)が口を開けて獲物を狙うこの世界では、パトナの社用車同様これほど心強いものは無い。


「ぱわーしょべ? あの大男ゴーレムを操れるのかい!?」


「大丈夫! 意のままに操れる異界の乗り物さ!」

「私達が乗っている『魔法の馬車』みたいなものだよっ!」


 俺の説明をパトナが補強する。息の合った感じに、調子が戻ってくる。

 そうだ、俺達はこんな所で食われる訳にはいかないんだ!


「ライガといいあの大男といい、鉄の魔法使い……ということかい」

「凄いニー!?」


「話は後だ! パワーショベルの後について走れ! ここを脱出だ!」

「さぁ、こっち!」

 パトナは二人の手を取るとパワーショベルを追って駆け出した。


「おらどけおまえらっ!」

 俺も右往左往している大臣や貴族を相手に、ビュンビュンとでたらめに細身の剣を振り回して威嚇し、パワーショベルのアームの回転半径内に駆け寄る。


 ――本当は稼働中に近づいちゃダメなんだけど、今は()だ!


 ガシャガシャと背後から鎧の音が迫っていた。

 振り返ると、聖竜騎士団(ドラノゥルナイツ)が二人、抜き身の剣をギラつかせながら、低く身構えて走りこんでくるのが見えた。


「まて! 逃がさんぞ!」

「おれれ、化け物が!」


「ジャスティス! 我らを食さんとした貴様らに、化け物呼ばわりされたくは、ないっ!」

 運転席からヴァル・ヴァリーが叫ぶと、ヴォォオオン! とエンジン音が一層激しく唸りを上げた。


「頭を下げろ! パトナ、ヘルナスティア、ミィア!」

「きゃ!?」

「なんだいっ?」

「ニー!?」


 次の瞬間。ヴォオオンッ! と全長4メートルを超える鉄の豪腕が、物凄い勢いで頭上をかすめた。そして、背後に迫っていた二人の騎士を真横から薙ぎ払うように打ち砕いた。


「――ぐぎゃっ!?」

「ゴハッ!?」


 追撃して来た騎士二名は、ショベルを真横から叩きつけられて、そのまま壁まで吹き飛んでいった。ズンガラガッシャンと激しい音を立てながら、テーブルや椅子を吹き飛ばし、騎士の甲冑が飛び散り悲鳴が上がる。


「まったく、アンタ達といると退屈しないねぇ」

「そりゃどーも!」


 ギュラギュラとキャタピラの音を響かせたまま、ヴォォンン! とエンジンを最大稼動。油圧が鉄のアームを高々と押し上げる。


「ジャスティス!」


 そして、そのまま振り下ろすと、謁見の間を閉ざしていた、真正面の巨大な扉をバキバキと引き裂くように砕いた。

 硬い(かし)の木や鉄で作られた扉は無数の破片となって砕かれた。


「扉が!?」

「うわぁああ!?」

「ひぃいいい!?」

「おのれっ! 何をしている聖竜騎士団(ドラノゥルナイツ)! ドラゴンを……ドラゴンを差し向けるのじゃ!


 だが、幼女君主(ロリ・ロード)ヘブラカーンの甲高い声は、既に遠ざかっていた。

 俺達はついに謁見の間から脱出した。


 パワーショベルの後を追いかけて、50メートルほどいったところで宮殿の外へと脱出することが出来た。


 広い芝生の庭が眼に飛び込んでくる。

 緑色が眼に眩しい。

 だが、空には暗雲が立ち込めていた。


 庭には、何人かの貴族と武装した兵士が居たが、壁を破壊して出現したパワーショベルの大迫力に驚き、声も出せずに立ち(すく)んでいる。


 と、白い社用車が見えた。


「やった、私達の車、無事だよっ!」

「パトナ! ミィア! ヘルナスティア! 車に乗れっ!」


「おのれ貴様ら!? 止まれッ!」

 だが、兵士が二人、社用車の横に走り寄ると左右で剣を抜いた。


「わ、くそっ!?」

 俺も剣を持ってはいるが、素人だ。ていうか剣で怪我をしたらどうするんだ!?


「どいてよ! それは、私達の……車なのっ!」

 パトナが両手をバッ! と広げた瞬間。車のドアが勢いよく開き、左右に立っていた衛兵二人の腰部分を強打した。

「「ぐぎゃっ!?」」

 そのまま数メートル吹っ飛んで、顔面から芝生に突っ込む。


「ナイスパトナ!」

「えへへっ!」


 思わず頭をわしわっと撫でると、ツナギ少女パトナは嬉しそうに身をよじった。


「さぁ、今のうちに!」


「ニー!」

「あたいのゲームは無事だろうね!?」

「ライガ、車は異常なし! いつでもいけるよっ!」

「あぁっ!」


 俺達四人は社用車に駆け寄ると、転がり込むように車内へ乗り込み、内側からドアをロック。

 とりあえず、一斉に「「「「はぁっ……」」」」と安堵の息を吐いた。


 と、一瞬影が上空を横切った。


「――まさか!?」


 運転席から身を乗り出すと、上空にドラゴンが5匹、円を描いて飛んでいた。

 巨大なコウモリのような羽に、トカゲのような身体。

 聖竜騎士団(ドラノゥルナイツ)が乗っていた竜たちだ。


「「「ドラゴン……!」」」

 

 竜達が狙っているのは俺達の社用車だけじゃない。むしろ赤くて目立つヴァル・ヴァリーのパワーショベルだ。

 キュラキュラと芝生の庭の中央に進み出たパワーショベルは、キャタピラを左右逆に回転させてその場でターン。

 

 まるで「来い!」と言っているかのように、アームを振り上げた。


<つづく>


 ◆


 次回、『死闘! ドラゴン軍団 VS パワーショベル&社用車タック』


 お楽しみに!


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