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 招かれた理想郷(ユートピア)

 ◇


 聖都・ヒースブリューンヘイムには、『聖者の道』と呼ばれる王宮まで一直線に続く道がある。


 歓迎の声が響く中、俺たちは滑走路のように真っ直ぐに続く道を進み、都市の中心にそびえ立つ宮殿へと向かっていた。

 沿道には俺たちを一目見ようという大勢の人々が詰め掛けていた。


 社用車は、徒歩よりも僅かに速い程度の速度で進んでいる。 窓を全て開け放し人々の声や空気を肌で感じてみる。


「あれが異国の魔法の馬車か……!」

「ようこそ、聖なる都へ!」

「歓迎します!」


 老若男女、様々な人々が立ち並び、誰も彼も穏やかな様子で、微笑を(たた)えながら俺たちを拍手で出迎えてくれている。


「ライガ、なんだか凄い歓迎だよ!?」

「こんなの初めてだな……」

 あまりの歓迎ぶりに、俺もパトナは戸惑うばかりだ。

 後ろを振り返ると、ミィアと魔女ヘルナスティアも歓迎の拍手と笑顔を向けられて、戸惑いを隠せないでいる。


「あたしゃ騒がしいのは苦手だよ……」

「なんで、歓迎されているニー?」


 さらに、バックミラーには、仮面の男ヴァリ・ヴァリーが乗る赤い軽自動車まで付いてきている。


 先導してくれているのは、巨大な(ドラゴン)をまるで馬のように乗りこなす聖竜騎士団(ドラノゥルナイツ)の二人だ。

 自分たちが先導するので、俺たちに車ごと宮殿まで進んでよいと言ってくれた。

 1キロ以上続くという一直線の遥か向こうで、王宮の巨大な入り口が霞んで見える。


 『聖者の通り』は幅20メートルはあるだろうか。両側には緑豊かな街路樹が植えられていて、涼しげな木陰を人々に提供している。その木々の根元には凝ったデザインの植木鉢が並べられ、目にも鮮やかなベゴニアにも似た赤い花が咲き誇っている。


「すごく綺麗なところね!」

「凄いニー! こんな町があるんだニー!」


 パトナもミィアも無邪気に美しい街並みを眺めてはしゃいでいる。


 普通、城下町といえば曲がりくねった道ばかりで道幅も狭く、敵の侵入の勢いを阻もうとするのだが、この都市はそういう配慮がなされていない。

 街並みはすべて白い漆喰が塗られていて、道路にも塵ひとつ落ちていない。露天や商店もあるが何処を見ても果物や肉、穀物が山のように積まれていた。


 何よりも人々の顔を見て、俺は思わず息を飲んだ。


「なんだか、美形ぞろいじゃないか!?」

「ほ、ほんとだねぇ! ウヒヒ……」

「ヘルナスティアさんヨダレ!」


 男も女も美しく、青年も女性も目鼻立ちがはっきりとした彫りの深い美形揃い。髪は金色か明るいブロンド色。瞳の色はブルーやアクアマリンが多いだろうか?

 年老いて皺の多い者でさえ、かえって気品と深い教養からくる輝きを宿している。


 ここはまるで、神様が作った理想郷(ユートピア)なのではないか、とさえ思えてくる。


 だが――。

 俺の短い人生経験が、奥底で警鐘を鳴らしていた。


「まるで……作り物みたいだな」


 俺は思わず呟いた。


「……不思議に思われますか? ライガ様」


 不意に、騎士の一人が話しかけてきた。尻尾を揺らしながら社用車と並んで竜が歩く。


 太陽で甲冑がキラキラとまぶしくて騎士の目つきや顔つきはよく見えない。


「あ、いや!? ……その、あまりにも綺麗で、驚いてしまって」


 しろどろもどろと愛想笑いを浮かべる。


「そうでしょうとも!」

 もう一人の竜に乗る騎士も、急に歩く速度を緩め、社用車の反対側に並んで歩き始めた。車は両側を竜に挟まれた格好で進む。


「この都は、絶対にして唯一の神、偉大なるセトゥ様の加護を受けて発展してきました。神はあらゆる災害や国難から守ってくださいました。そして、我ら聖竜の騎士団は、神の力の代行者なのです!」


 誇らしげに胸を張り、長いランスを垂直に持ち上げる。


 沿道からは「騎士様!」「あぁ、騎士さま!」と拍手と歓声が沸き起こる。


「我らがこの国を守っている限り、何も心配はございません。それにあなた方が、忌まわしい災厄の権化『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』と戦って下さっていることも、われらが君主ヘブラカーン様はご存知です。ですから……歓迎されているのですよ」


「な……、なるほど」

「なんだかよくわからないニー」


 ミィアは窓枠に顔を乗せて疲れたように猫耳を垂らした。


「ヘブラカーン様ってのが、この国の君主なのか?」

「みたいだね。私の知恵(・・)の中には無いから、ちょっと驚いちゃった」


 パトナが俺にだけ聞こえるような小声でささやいた。


「え? 確か女神様は、この世界で生きるための『知恵』をパトナにプリセットしてくれたはずじゃ……?」

「うん、でもおかしいの。この都市のことや王様のこと、私……何も知らないみたい」

「……そうか」


 心の警戒レベルがまた上昇する。

 俺の考えを見透かしたのか、先導する騎士達は、前後を挟みながら王宮への道を進む。


 だが、ひとつはっきりしたことがある。

 ここは、女神フォルトゥーナと敵対する神、セトゥの版図だという事だ。


 やがて俺たちは都市の中心に燦然と輝く宮殿へと通された。

 宮殿と一言で言っても、西洋の城に中東のメソポタミアテイストを混ぜたような独特の雰囲気だ。

 遠目にはひとつの建物かと思ったが、実際は巨大な城壁だった。高さ20メートルはありそうな壁が周囲を囲み巨大な門が正面にある。

 門をくぐると、緑色も眩しい芝生の庭園が広がっていて、左右には大きな池や噴水が見えた。

 そして、真正面に本殿と呼べる建物が見えた。


 兎に角、全てが立派で美しく、大きい。

 デザインは優美で、細部にはコバルトブルーとゴールドに彩色された植物をモチーフとした彫刻が施されている。

 宮殿の敷地だけで、初めてこの世界に来たときに訪れた、テパの村よりも大きいかもしれない。


「うっ……わぁ……!?」

「すすす、凄いニー」

「綺麗……」

「ふぅん?」


 俺たちはただただ圧倒され、雰囲気に飲み込まれていた。

 

 そして、社用車を芝生に止めさせられ、俺たち4人は宮殿の中へと通された。

 やがて50メートルプールを4つ繋げたような巨大な広間に通されると、いよいよ王への謁見が始まるという。


 一体、どんな人物なのだろう?


【今日の冒険記録】

・同行者:炎の魔女ヘルナスティア(年齢?)

    :猫耳少女ミィア(13歳)

    :足つきの壷×2(ガソくんとリンちゃん)

・所持金:3560円(日本円)

    :65リューオン金貨(食料と雑貨を買ったので少し減りました)


・所持品:PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ

    :身の回り品、雑貨、毛布、パンと乾し肉と魚。

    :飲料水補給済み


・走行距離:500キロ

・ガソリン残量: 39リットル(予備、約55リットル)


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