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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
四章: ヒューマンガースの決闘 ~水の魔女と炎の魔女~
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 決着! 炎の大激突

「そ、それは……!?」

 ヘルナスティアが震え声で指をさす。


「これは車の電源からスマホに充電できる便利グッズさ」

充電(・・)できるのかい? そりゃぁ……いいものだねぇ……ヒヒヒ」

 魔女ヘルナスティアはそう言うと、後部座席から手を伸ばしてきた。


 俺はスマホの充電コネクターを、ひょいっと手の届かないところに持ち上げる。


「あぁ、実にいいものさ。これがあれば、お前のスマホだってずっと使える」


「くっ……! ライガ、それを……アタイにくれないか?」

「どうしようかなぁ」

 俺は運転席からシガーソケットにスマホ充電器を差し込んだ。そしてコネクターの先端部をプラプラさせながら見せびらかした。


「意地悪を言わないで、それをおくれよぅ!」

 甘えた声を出す魔女。

 助手席のパトナとネコ耳のミィアは若干引いている。


「やだね」

「それがあれば、ゲームがずっと出来るんだね?」

「そういうこと」


 スマホ中毒患者を弄ぶのは良心が(とが)めるが、緊急時なので仕方ない。


「わかったよ、じゃぁアタイと取引(・・)ってのはどうだい?」

「その言葉を待っていた」


 きたきた! これで魔女の力を借りて……。


「ライガ、アンタは何が欲しいんだい? あぁ……当ててみせるよ。アタイにはわかるのさ。感じるよ、アンタの心が……!」


 炎の魔女ヘルナスティアが仄暗い瞳に妖しげな色を浮かべる。そして、モジモジしながら自分のドレスの胸を締め付けていた(ヒモ)に手を掛けた。


「おい……?」


 はちきれそうな胸を押さえているのは、ジグザグに結ばれたフロントの細い紐だけだ。

 それを(ほど)いた瞬間に、ボヨンとメロンのような胸が弾ける様に飛び出してくるだろう。


「まったく男ってのはいつだってそうさね、身体だね? アタイの身体が目当てなんだね!?」


「ちげぇよ!? っていうか、どうしてそうなる!?」


「ライガ……そうなの?」

「怖い、男はやっぱり獣ニー!?」

 助手席でパトナとミィアが抱き合いながら、俺にジト目を向ける。

「違うっつーの!」


 後部座席ではヘルナスティアがフンフン♪ と鼻歌を歌いながら、頼んでも居ないのに脱ぎ始めていた。おまけに頬を赤くして「久しぶりだねぇ……」とかなんとかブツクサ言っている。


「だーーっ!? 自ら進んで脱ぐんじゃない! 違う! 違うから!? 充電させてやるから、あの化け物を倒すのを手伝えっての!」


 俺はフロントガラスから見える青いアメーバ状の化け物を指差した。


「……!? そんなんでいいのかい?」

 ヘルナスティアが驚く。ていうか残念そうな顔をするな。


「むしろそれ以外望まねぇよ!」

 俺も必死で叫び返す。兎に角、炎の魔法か何かでバーッと焼き尽くして欲しいのだ。


「ちっ……しかたないね! じゃぁ、この魔法の馬車をネルネップルに向けて走らせな!」


 野太い声に変わったヘルナスティアが面倒くさそうにドッ! と後部座席に両腕を広げて座り、足を組み大きくため息をつく。


 後部座席に紫っぽい女が乗って、前の席に手下2名という構図はタツ●コプロのアニメで見た気がする。だが、今はそんなことはどうでもいい。


「頼むぜヘルナスティア、充電してやるからさ」

「その言葉、忘れるんじゃないよ!」

 俺はアクセルを吹かし、一気に車を走らせた。


「ライガ、スライムがこっちに気がついたみたいだよ!」

「大きくなってるニー!?」


 小山のようになったスライムが蠢く。再び龍や魔女の姿に「再生」するんじゃないかという怪しい動きだ。


 俺たちの車との距離は僅か100メートル。数秒で突っ込む距離だ。

 すると後部座席で呪文詠唱の気配が伝わってきた。

 次の瞬間。窓の外が真っ赤に光ったかと思うと、車全体が激しい炎に包まれた。


「どぅわああ!? 燃えてる!?」

「ニィイイア!?」


「ライガ落ち着いて、大丈夫。車の表面温度も車内も温度変化無しだよ! 車のすぐ外側に真空の断熱層が出来ているの! これ、魔女さんの魔法なんだよね!」

 はっとして振り返ると、魔女ヘルナスティアは平然と座っている。

 ギラギラとした獲物を狙う視線が、スマホ充電器に注がれている。


「炎に包まれても中は大丈夫ってことか!」

 さすが、炎の魔女の名は伊達じゃない。

「当然さね、自分が燃えてどうするのさ。さあ! やーっておしまい!」

「あぁ!」

「いっちゃえ、ライガッ!」

 アクセルを吹かし加速する。

 水の魔女ネルネップルは目の前に迫っていた。

 突っ込む瞬間、巨大に膨れ上がったスライムに、人間の顔のようなものが浮き上がったが、お構いなしに車体ごと突撃する。


「決死! 炎のダイブ――――だああああっ!」


 アクション映画さながらに俺たちは巨大スライムの壁めがけて突っ込んだ。

 燃える車体ごと激突すると、青白いトンネルをズブズブと抵抗もなく突き進み車は反対側に突き抜けた。


「出た!?」

『――ウロロォオオオオオオン!?』

 巨大スライムの魔女ネルネップルは、一瞬悲しげな叫びを上げたかと思うと内側から膨らんで、大爆発を起こした。


 バックミラーに映る真っ赤な火柱は、飛び散る青い破片を飲み込んで天に昇ってゆく。


 激しい爆炎を背負いながら、俺たちの社用車は二度三度とバウンドしながら着地、ハンドルを切って、ギュルル! とドリフトしながらようやく停車することができた。


 揺れる車内を見回すと、パトナもミィアもそしてヘルナスティアも無事だ。

 荷物室ではガソくんとリンちゃんが、ならんでカタカタと揺れていた。


「ついに……水の魔女を倒した!」


「……倒した? ハッ、違うさね」

 俺の声に、ヘルナスティアは鼻で笑う。


「え?」

「あいつはまた雨季になればやってくるさ。アタイの永遠のライバルだからね」


「ずっと、こんなことを?」

 パトナが不思議そうに炎の魔女に尋ねる。


「……そうさね。アタイが消される事もあれば、今回みたいに蹴散らす事もある。何度繰り返したかわからないさ。まぁ……いつものことさね」


「仲良し、なんですね」

「おいおいパトナ……」

 天へと昇ってゆく白い煙を見上げながら、炎の魔女は、長い睫毛(まつげ)に縁取られた瞳を細めた。

 遠くを見るような視線をやがて閉じると、口元に笑みを浮かべる。


「仲良し? ハッ……ハハハ! そうかもしれないねぇ。……さ! 約束だよ! 充電させてもらうよぅう!」

 魔女ヘルナスティアがヨダレを垂らさんばかりの表情で、ワキワキと手の指先を動かした。


「あぁいいとも、思う存分………充電しろよっ!」


 俺は笑顔で片目をつぶると、充電コネクターを差し出した。



【今日の冒険記録】

・同行者:炎の魔女ヘルナスティア(年齢?)

    :猫耳少女ミィア(13歳)

    :足つきの壷×2(ガソくんとリンちゃん)

・所持金:3560円(日本円)

    :78リューオン金貨


・所持品:PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ

    :町で補充した食べ物や雑貨、毛布、乾し肉と魚。。

    :水は小さい樽で1つ分。


・走行距離:370キロ

・ガソリン残量: 14リットル(予備、約85リットル)


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