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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
四章: ヒューマンガースの決闘 ~水の魔女と炎の魔女~
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 ライガの迷いと決断と

 ミィアはネコ耳を動かすと、後部座席で左側の窓をペシペシと叩き、斜め後ろを指差した。


「後ろの方、あそこだニーッ!」

 俺とパトナが振り返ると、赤くメラメラと燃える「火の玉」の様な物体が浮いているのが見えた。

 それはヒューマンガースの街を背に、空中20メートルほど上空に浮遊していた。炎の円盤の上には紫色の人影もある。


「ライガ、あそこ!」

「と、飛んでる!?」


 俺は慌てて車を減速させて、障害物との衝突を避けてた。そしてギアをバックに入れてハンドルを回し方向転換。アクセルを踏み込んで、真上で俺達を狙う「龍」から一気に距離をとった。


 150メートルほど移動したところで、比較的自由に動けそうな開けた場所を見つけUターンして停車する。


「助かった……! 危なかった」

 もしヘルナスティアの炎の一撃が無ければ、龍の放つ水塊(・・)のブレスを浴び、圧壊(あっかい)していただろう。


 社用車のフロントガラスの正面には、二人の魔女が対峙する姿が見えた。

 左手にはヒューマンガースの街並みと、上空に浮かぶ「炎の円盤」が見える。右手側には竜巻のように渦を巻き続ける「龍」がいた。


 パトナが指先で絵を描くように空中をなぞると、フロントガラスの景色の一部が拡大され、対象物の輪郭や彩度を補正、鮮明な画像へと変化させた。


「モニタ拡大……画像補正オッケっと」

「相変わらず便利だな!?」

 ここから150メートル以上離れている魔女達の様子が、クッキリとした映像として四角いポップアップ表示に映し出された。


 輝く炎の円盤(・・)の上に立っていたのは、間違えるはずも無い。俺たちにガソリンを売ってくれた炎の魔女だ。


「……ヘルナスティア!」


 病的なほどに白い顔に長くウェーブした金髪、真っ赤なルージュをつけた唇には、不敵な微笑が浮かんでいる。

 紫色も鮮やかな(すそ)をはためかせ、肩から手首までを覆う長袖のドレス姿は、あの店頭にいた時とまったく変わらない。


「魔女さん、助けてくれたのかな?」

「いや、たまたま……かもな」


 少なくとも俺達の事を気にしたりしている様子は無い。

 睨み付ける様にして対峙しているのは、グネグネと身体をうねらせる「龍」に乗った魔女、ネルネップルだ。


 ヘルナスティアの放った炎のミサイルのような魔法を、ネルネップルは水の力で相殺してみせた。同じ『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』だというのに、二人は敵対しているのだろうか?

 

 確かに「火属性」と「水属性」は対立するものかもしれないけれど……。


「出ましたわね! 視界に入るだけでも暑苦しい、魔女が!」

「私の家の前で、下品な汁を垂れ流さないでくれるかしら?」


 ズームで映し出した二人の顔が険しさを増し、嫌悪を包み隠す事も無く吐き捨てる。


「邪魔だから消えなさい。この街は今日から私の領域、テリトリーにするわ」

「哀れなものね、住所不定(・・・・)の魔女。ドブ川になら住まわせてあげてもいいわよ?」


「なんですって、汗女!」

「何よ、カビ臭い汁女!」


 二人は激しく罵りあうと、ゴゴゴ……ズズズ……と空中から物凄い振動と、低周波のような波動が撒き散らされた。

 ゴゥアッ! と魔女ヘルナスティアの足元で渦を巻く「炎の円盤」が高速回転。

 コカァッ! と魔女ネルネップルが乗る「龍」が周囲の雨雲を吸い込んでゆく。

 次の瞬間、何の躊躇いも無く、お互いに向けて赤い輝きと青い輝きが同時に放たれた。

 空気を引き裂くような轟音とともに、赤と青のエネルギーが衝突する。

 ドンッ! という衝撃波が、球形の白い空間を形成する。


「こしゃくな!」

「あんたこそ!」


 それは、超高温の炎と超圧力で塊のようになった水が空中衝突し、一気に水蒸気爆発を起こしたものだった。

 衝撃波の波が広がると、街や俺たちの社用車も呑み込まれた。


「うわぁああ!?」

「凄い、揺れちゃう」

「ニァアー!?」


 互いに、赤い炎と青い水のエネルギーを放ち、衝突を繰り返す二人。

 稲光のようなものや、弾丸のようなものを撃ち合っては空中で大爆発を繰り返し、一部地上へも降り注ぐ。


「こ、こういうシーン、映画とかアニメで見たことあるぞ!」

「あわわ! ライガ、あの二人どっちも本気だよ!?」

「ニィイ!? この世の終わりかニー!?」


「俺たちは……どうすりゃいいんだよ!?」


 ブラック・カンパニーに属する魔法使いは人々を苦しめる。だから倒さねばならない相手だったはずだ。


 だが、その大前提が俺の中で揺らぎつつあった。


 少なくとも魔女ヘルナスティアは人々と共存し、普通に商売なんてものをしていた。

 最初に戦った二人の魔法使いが街を我が物にしようと侵略したのとは対照的に、ヘルナスティアはまるで、最初から住んでいたかのような様子でもあった。


 対して、水の魔女ネルネップルは「自分のテリトリーにする」と宣言して侵略してきたような格好だ。

 

「これって、つまり魔法使い同士の……領地(・・)の奪い合いなのか!」

「奪い合い……?」

 パトナが瞳を大きく見開く。


「あぁ、きっとそうだ。『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』はお互いの所有する領地(・・)を、陣取りゲームのように奪い合っているんだ」


 テパの村やシャコターンの町を魔法使が襲ったのも、自分の領地にする為という、至極単純な原理だと考えれば合点もいく。

 戦略拠点とかではなく、単純に「国盗り」をしているようなものかもしれない。


「魔法使いたちはお互いに仲間のようで仲間じゃない。組織に見えて強い繋がりがあるわけでもないんだ。実際はバラバラ……自分の利益のためだけに戦い、人々を巻き込んでいるだけなんだ……!」


 徐々に考えが整理され、確信に変わる。ブラック・カンパニーつまりはブラック企業。自分の利益拡大のみを考えた社会集団。


 目の前の空中で激しく激突する赤と青の光を見ているうちに、俺の頭の中にある考えが浮かび始めていた。

「ライガ……?」


 ――今なら、二人とも倒せるんじゃないか……?

 

 ドクン……。ドクンドクンッと、心臓が自分の意思とは無関係に暴れ始める。


 ――そうだ、あの魔女たちが激突した瞬間、ヘッドライトビームで狙えば……。


 こみ上げて来るどす黒い感情は、吐き戻しそうになるほどの不快感と緊張を伴って身体を支配しようとする。

 ハンドルを握る腕が強張り、(てのひら)がじっとりと汗ばんでくるのがわかる。


 今ならやれる。


 ならば、やってしまえばいい。


 けど。

 けれども。

 俺は、本当にそんな事が……出来るのか?


 自分の身とパトナを守るため仕方なくやるのではない。戦術上可能という理由だけで……人を殺せるのか?


 ズゥウン! と上空で一層重々しい衝撃が響いた。

 ハッと正面に目線を向ける。


 赤い光が地上へと落下してゆくのが見えた。


「ライガ! 魔女さんが……!」

「なっ……!」


 水の魔女が乗っていた龍が勝どきの様な咆哮を響かせて、水蒸気を凄まじい勢いで集め始る。


「あらあら、地べたに這いつくばるのがお好みかしら? では、ぶっ潰してさしあげますわ!」


 ――トドメをさすつもりだ……!


「ライガ……! 私たち、ヘルナスティアさんに協力すべきじゃないの!?」


「パトナ、でも……でも! 本当は、どっちも倒すべき相手なんだぞ?」


「かもしれないね。だけど、神様は『魔法使いを全員倒せ』なんて、一言もいってないんだよっ!」


「……!」


 ストン、と何かが腑に落ちた。殲滅(せんめつ)しなければならないという心の中の重荷、鎖のような呪縛が解ける。


「女神様が、この()と私に力をくれたのは、苦しんでいる人たちを救うため。そしてライガと生きろって。ただ……それだけなの」


 パトナは柔らかな笑みを浮かべると、強張りながらハンドルを握っていた俺の手に暖かな手をそっと重ねてきた。

 暖かい手の感触が、俺を正気に戻してくれた。


 助手席から見つめてくるパトナの顔を見返すと、やがて、暴れていた心臓の鼓動が落ち着いてきた。


 ――そうだ。


 確かに炎の魔女には恩もある。人々を苦しめている様子だって無い。


「だったら、今は共闘(・・)……したって」

「いいよ、大丈夫……きっと!」


 パトナが大きく頷くと同時に、俺は迷いを断ち切ってアクセルを思い切り踏み込んでいた。


「つかまってろ、ミィア! パトナ!」

 ヴォン! とエンジンが唸り車体を猛烈に加速させる。

「にー!」

「うん!」

 後部座席のミィアが座席のシートに押し付けられて悲鳴を上げ、パトナもドアの取っ手を掴み激しい加速度に耐える。


 一気に20メートル、30メートルと走りぬけ距離を縮める。

 目指すは、よろよろ立ち上がった、炎の魔女ヘルナスティアだ。

 金髪が水に濡れ、ドレスもあちこち破れている。


 水の魔女ネルネップルと龍はエネルギーを充填し終え、真っ青な光の球体を生み出していた。

 それは圧縮された水の塊であり、破裂寸前の魔法力の爆弾だ。


 上空30メートルでゴウォオオオオ! と渦を巻きながら、地上の炎の魔女へと狙いをつけている。


「やめろぉおおおおおおおッ!」


 俺は通常のクラクションを鳴らし続けながら、魔女達の戦いに割って入った。

 ドリフトターンのようにハンドルを切り、ヘルナスティアに横付けする。

 水しぶきと泥を跳ね上げながら、ギリギリで停車。


 パトナがすぐさま運転席後ろのドアをバコッと開けた。


「――!? あ、あんた達……何故!?」


 切れ長の瞳を大きく見開くヘルナスティア。


「あぁ、ドライブに誘いに来たんだ。乗ってくれよ!」


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