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 パトナ、ご飯とガソリンを欲する

 ゴブリンの襲撃から逃れた俺、いや……俺とパトナは、未舗装の道をしばらく走ったところで車を止めた。

 現場(・・)から距離にして2、3キロ離れただろうか。降り返ってみると、当然だが追って来るモノは居ない。


 恐ろしい襲撃者であるゴブリンたちは、社用車の超振動(ハイヴァイブ)クラクションで脳髄をシェイクされ悶絶、いわゆる『再起不能(リタイア)』したのだろう。

 つまり「死んでいない」ので俺はセーフ! 手はまだ血で汚れちゃぁ……


「異世界に来ていきなり8匹も始末しちゃったね」

「死んだんかい!?」


 やっぱり殺人クラクションじゃねーか!?

 ツッ込みを入れつつも、酷く疲れている。飲みかけのペットボトルのお茶を、思わず飲み干すとあっという間に空になった。


 と、そこで俺は嫌な予感がした。


「あ、あのさパトナ」

「なに?」


 俺の声を待ちわびているかのような反応のよさに、つい嬉しくなる。


「コンビニって……ある?」

「は? あるわけないじゃん」


 嫌な予感的中。いきなりサバイバル決定だ。


「スーパーとか、イ○ンとかも……?」

「見てのとおり、魔物が跋扈する異世界よ? 有ったら怖いわ」


 言い切った。


「そうだ! ガガ、ガソリンは!?」


 慌ててメーターを見ると、9割ほど残っていた。

 昨日入れたばかりで、あまり走っていなかったのは幸いだ。

 計算上、愛用の白い社用車は満タンで600キロぐらいは走れる。燃費はリッター15キロ程度。街中でも12キロは走ってくれる。

 まぁ、最新のハイブリットカーには及ばないが、電池だなんだと特殊な装置を積まないぶん、手荒く扱っても壊れない丈夫さもすばらしい。働き者で可愛いやつだ。


「……それね。大問題よねぇ」

「やっぱり、売って無いのか……」


 むーん、とパトナが腕組みをする。胸がもにゅんと腕組みの上に盛り上がる。

 ツナギの胸元のジッパーがすこし開いて、素肌が見える。


「ふ……普通さ、異世界に来れば魔法で燃料が減らないとか、聖なる力でチャージとかするもんじゃないのか?」

 慌てて胸元から目線をそらす。


「そこまで都合よくないみたいね。私もお腹すいてきたし喉がかわいたなぁ……」

「えっ!? おまっ……機械じゃないのか!?」


「失礼ねー! 人間と同じなんだってば! お腹もすくしトイレにも行きたいの! ほら……触って確かめたら?」


 ぶー! とパトナは頬を膨らませて、ほっぺたを突き出してくる。思わず、言われるままに「つんつん」と指先でつついてみる。


「お、おおぅ……!?」


 ぽにゅん、ぽにゅんとして、とても柔らかい……!


 押すたびに柔らかそうな唇から、ふっと甘い吐息が漏れる。


 ――もう、別のところも……確かめてもいいよ?

 と、そんな風にさえ聞こえてくる(※妄想です)


 てか、女の子のほっぺた触っただけで興奮してくる自分が悲しい。


 しかし、だ。

 女神様の祝福(・・)とやらで生き返り、妙な装備まで付いたくせに、肝心な部分はそのままだと?

 一体どういう仕様だ。

 けれどパトナは何かをじっと考えているように目をつぶり、うーんと唸る。

 赤いツインテールがサラリと肩で揺れる。


 そしてぱっと顔を明るくした。


「ガソリンはあるみたい! ただ、200キロ先の街に行かないと手に入らないわ。そもそも『魔法の触媒』みたいな扱いで、かなり高額らしいわ」


 すげぇ! 検索魔法(グゴール)か!?

 そういえばスマホの電波はもう入らなかった。毎日昼に読んでいたニート賢者の物語が読めなくなるのは悲しい。


「で、高額って? どれぐらい?」


 俺はポケットの財布を探る。所持金……3560円。あとはポイントカードとかレシートとか。


「1リッターでリューオン金貨3枚」


「それって……」

「この世界ではパンが30個買えるみたい」


 パンなんて何処の世界でも同じと仮定して、たとえば一個100円とすると……。


「リッター3千円!? 高ッ! 鬼か!?」


 だが、パトナの頭脳に入っていると言うこの世界の知識は頼りになるようだ。

 地図が表示できればもっといいが……。


「この道をまっすく15キロほど進むと、小さな村があるわ。そこで休んで明日になってから向かえばいいんじゃない?」


 と、フロントガラスに浮き出した、半透明(・・・)地図(・・)を指差して説明するパトナ。


 村の名前はテポの村。

 うん、ファンタジーで最初に立ち寄る村っぽい。

 まぁ、これはいい。


 目的地の街は、ヒューマソ・ガースという街らしい。

 いかにもガスが噴出していそうな、あるいはフェイスマスクの支配者が居そうな街の名前が気にかかる。


「っていうか、こういう装備はあるのな!?」

 俺はフロントガラスの輝きを指差した。


「ん? 仮想空間表示(バーチャアレイ)ディスプレイね。ここに地図とか現在位置とか、フロントガラスから映る建物とか魔物の名前とかも映せるの。いろいろ情報を表示できるんだもん!」


 スラスラーと凄いことを事もなげに言うパトナ。

 ピコピコとガラス面の表示を変えてゆく。とんでもない近未来装備だ。


 ん? 現在位置? ってことは。


「まてい? GPSがあるのか!?」


「んー? 上空の衛星軌道上に、女神様が慈悲(・・)で衛星っぽい何かを24機飛ばせているんだって!」

「それよかガソリンエンジンを変えろよ!?」


 俺は天に向かって本気で吼えた。


 女神はまさかバカなのか!?

 GPS衛星を造る力があるなら他になんかあるだろ!?


 やはり……、俺たちの異世界旅は、困難に満ちているようだ。


【今日の冒険記録】

再起不能リタイア:ゴブリン×8


・持ち物:3560円、使えないスマホ、空のペットボトル

・走行距離:3キロ

・ガゾリン残量:55リットル


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