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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
四章: ヒューマンガースの決闘 ~水の魔女と炎の魔女~
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 赤き正義! 無限召喚車庫(インフィニットサモナ・ガレェジ )

「白い……悪魔?」


 俺とパトナは互いに顔を見合わせた。思い当たる事が無いわけでは、無い。


 目の前の大男は、間違いなく「赤いスポーツカー」のドライバーだ。

 この街に来る途中、俺たちを襲撃してきた「赤茶けた彗星」。チキンレースのように目前まで突っ込んできた以上、俺たちの顔を覚えていてもおかしくはない。


 俺は背後にパトナを庇うように隠し、手を掴む。パトナの手は緊張のせいか指先が冷たくなっていた。

 命綱とも言える社用車がない今、逃げるにもパトナを連れて、自分たちの足で走るしかない。


「ライガ……どうしよう」

「しっ……!」


「白い悪魔。奴は、ここではない何処か、遠い異界より来た恐るべき相手だ。そして、この美しい世界の正義と秩序を乱さんとする……憎むべき相手よ』


 リーゼント頭に目だけを隠すマスクをつけた大男は、ゆっくりと分厚い胸板を上下させ、俺とパトナを威圧するように立ち塞がっている。

 マスクを通してでも分かるほどに、鋭い眼光が俺に向けられているのだ。


 ここは人通りも多い通りだというのに、襲い掛かってくるつもりだろうか? しかし、ネコ耳のスリ娘ミィアを、何の躊躇いもなく絞殺しようとした以上、油断は出来ない。


 ヴァリ・ヴァリーは深く呼吸をし、全身に()を巡らせているのか、まるで精神集中をしているようなそぶりを見せる。

 赤い革ジャケットと革のズボンの内側で、恐ろしいほどの筋肉がビキビキと動いていた。


 --格闘戦ってわけか……!?


 やがてゴゴ、ゴゴゴ……と、何処からともなく地鳴りのような音が聞こえはじめた。

 それは幻聴などではなく、確かに空気が震えている。


「ライガ、何か……変だよ!」

「赤ジャケットの全身筋肉に絡まれてんだから、十分に変だけどな」


 軽口を叩いてみたけれど、全身から冷たい汗が吹き出てくるのが分かった。


 ――こいつ、ヤバイぞ……!


 俺は武術や格闘技はド素人だが、そんな俺でも判る。

 ここまで伝わってくる気迫は、素人でさえ判る明らかな「殺気」だ。


 俺とパトナは腰を落とし、じりじりっと逃げる体勢に移る。

 というか、今すぐダッシュで逃げ出したい。

 

 車でのバトルなら受けてたつが、生身で殴り合うなんてガラじゃないのだ。


「すでに……『(ザドゥ)』と『(デゥナ)』、二つの聖なる力を司る、偉大なる魔術師(・・・)が散った……」


 低く呻く様な言葉を聴いた瞬間、俺は理解した。


 この男は俺たちを敵だと認識(・・)している!


「――逃げるぞ! パトナッ!」

「うんっ!」


 俺はパトナの手を取って駆け出した。

 街行く人々が何事かと驚く中、俺たちは人々を縫うようにして走る。


 背後からはヴァル・ヴァリーが追って……、


 ――来ない!?


 ハッとして振り返ると、既に15メートルほどの距離が開いていた。


 赤い大男は、仁王立ちのまま一歩も動かず、それどころか微動だにしていない。その代わり、ブツブツと口上を垂れ流し続けている。


「私は……力と勝利の神・セトゥに神託を授かり、世界の均衡(・・)を保つために遣わされた……救世(・・)英雄(・・)、ヴァリ・ヴァリー!」


 次の瞬間、カッ! と赤い大男の周囲に炎のようなオーラが吹き上がった。

 それはヴァル・ヴァリーの全身から噴出した赤い光だった。

 俺とパトナは思わず足を止めた。


「――な、なんだ!?」

「わからない、けれど……女神様じゃない誰かの力を感じるよ!」


「一体何だ!?」

「きゃぁああ!? 火事!?」

 人々が驚き悲鳴を上げる。通りを赤く染めた光は、やがて火炎のような真っ赤な渦を巻きながら、大男の目の前に収斂(しゅうれん)してゆく。


「ぬぅうううん!」


 炎のような光が、何かを形作りはじめた。

 赤い光の粒子の奔流が渦を巻きながら一箇所に集まると、その中から曲線で構成された金属のパイプと二つのタイヤ、突き出したハンドル、そして……ギラギラと輝く大きなマフラーを生やした乗り物が出現した。


「うそぉおおっ!?」


 それは、巨大なアメリカン・バイクだった。

 カウルとタンクの色は燃えるような赤。この男のテーマカラー。


「二輪? 異界(・・)鉄馬(・・)か……! 街中なら都合がいい!」


 ヴァル・ヴァリーが大股でバイクにドウッ! と跨ると、ギアを入れ、アクセルを回す。途端に、ヴォアアオオオオオン! とエンジンが凄まじい咆哮をあげた。


 ――この世界の人間なのに、操縦方法が分かるのか!?


 大きなエンジン音に、雷だ竜だと叫びながら街の人々が逃げ惑う。


「バッ……バイク!?」

「なんで、どうして……赤いバイクが!?」

 

「赤いスポーツカーじゃない……! 屋根をぶっ飛ばしたあの車以外にも……ハッ!?」


 疑問が湧き上がるが、俺はその「答え」の察しがついた。


 ――異界(・・)からの召喚能力(・・・・)


「そう! 力と栄光の神! セトゥ様から授かった力――それがッ! この『無限召喚車庫(インフィニットサモナ・ガレェジ)』だぁああああっ!」


 ヴォドゴォオオオン! とアクセルを回すと、タイヤがギュルルと石畳の地面で急回転、真っ白な煙を噴き上げながら、爆発的な加速をみせて俺たちを追跡し始めた。

「うわぁ!?」

「鉄の馬だぁ!?」

 街の人々が叫びながら、転がるように左右に逃げ惑った。


「逃げるぞパトナッ!」

「うんっ!」


「私もつくづく運がいい! 見つけたぞ白い悪魔――! この、正義(ジャスティス)の申し子が、貴様を成敗してくれる!」


 赤いアメリカンバイクは、ドドドドドド! ヴァォオオオオン! と凄まじいエンジン音とマフラーの排気音を響かせると、露天の商品を煙のように巻き上げながら、通りを猛烈な勢いで追いかけてきた。


「――うぉおおっ!?」


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