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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
四章: ヒューマンガースの決闘 ~水の魔女と炎の魔女~
31/70

 探訪、異世界の町ヒューマンガース

 ◇


 ヒューマンガースの街を歩いてみると、いよいよ異世界に来たんだなという実感が増す。


 街の雰囲気は中世ヨーロッパ風のファンタジーRPGそのものだ。

 石畳の道の両脇に、壁に白い漆喰を塗った家々が建ち並んでいる。家々の壁は黒っぽい木の(はり)が剥きだしで、ドイツや東欧の街並みに似ている気がする。

 けれど看板の文字や道行く人々の人種をみると、異世界だけあって元の世界とはだいぶ違っていた。


 道幅は広く10メートルほど。街路樹が整然と植えられていて、とても綺麗な街だ。

 通りの左右には宿屋や住宅、あるいは公館所のような公共施設が並んでいる。十数メートル置きにある路地が続いていて、路地に入ると何軒もの商店が軒を連ねている。

 そして、ついつい目がいってしまうのは、猫耳の女の子や、エルフ耳の女性など、異世界ムード満点の亜人種(・・・)とでも言う人々だ。

 

 東京の雑踏を歩いていて出会う外国人よりは少ないが、ポツポツと見かける感じだろうか。街の人々は大して気にもしていないので、それほど珍しい訳でもないのだろう。


「パトナ、あれは?」

「うーんと、薬草屋さんだって。となりは占いの館……あ! アクセサリーショップだって!」

「ま、まてよっ」


 瞳を輝かせて走り出すパトナの後を追う。

 なんというか、定番デート中の仲良しカップルみたいで恥ずかしいが、離れるわけにはいかない。


 あとを追って走りだすと、背中の荷物入れがガチャガチャと音を立てた。

 中身はPCパーツのガラクタだが、魔法の品だということにして、売って小銭を稼げないかと思っている。


 パトナが目をつけたアクセサリーショップは、高級店というよりも、採掘職人と加工職人が二人でやっているような店だった。

 ドワーフ(!)らしいずんぐりとしたヒゲ面の筋肉質のおじさんが、カンコンカンコンと金槌で金細工を打ち付けて加工している。

 その横では奥さんらしい同じくドワーフの女性が店番をしつつ、アクセサリーを作っていた。

 俺達に気がついて、奥さんが愛想よく声をかけてきた。


「いらっしゃい! ……まぁ、珍しい異国の方たちだね? お安くしとくから見て行っておくれ」


「はーい!」


 ツナギ姿のパトナは腕まくりをしながら、屈託無く返事をする。

 あまり印象付けると買わない訳にはいかなくなるだろうが……。


 店にはドアも無く、露天のような店舗だった。入りやすい感じの、どうやら宝飾にしては安い庶民向けの品揃えの店らしい。


 お客さんは俺達のほかに、若い娘さんが二人、ガラスケースを覘いて楽しそうにウィンドゥショッピングをしている最中だ。


 ガラスケースの中をみると、赤や緑がかった透明な宝石が収められていた。


「へー? 綺麗な宝石」


「それは赤輝石(ジスト)、こっちは緑輝石(ラルド)。二級品だが透明度は抜群さ。その分お安くお出しできるってわけ」


「ははぁ、なるほど」


 大きさはどれも小指の先ほどのものだ。

 どうやら一級品の色の綺麗なものは、どこかの高級店にでも卸しているのだろう。

 ここで売っているのは二級品、それをペンダントやアミュレット状に加工して売っているようだけど、そこそこいい値段がする。


「わぁ、赤輝石(ジスト)だって。えっと……ペンダントが5リューオン金貨……!」

「た、高いなぁ」


「べっ、別に欲しくなんてないから! うん」


 めっちゃ欲しそうだ。

 パトナはじぃーと赤い輝石から目が離せない。

 このままだとヨダレを垂らしそうな勢いだ。


 俺は尻のポケットに入れた金貨の袋を確認する。

 50枚だけポケットに入れ、残りは全て背負いカバンに入れてある。


 何よりも、俺達はこれからガソリンを手に入れなければならないが、確か1リッターが3リューオン金貨が必要だ。


 金貨150枚でほぼ満タンに出来る計算だ。

 予備も買うとして……金貨200枚は必要になるだろう。


 手持ちのお金は金貨290枚ほど。つまり使えるお金は金貨90枚の計算だ。


 宿屋はさっきチラッと調べてみたところ、どこも一人あたり金貨2枚程度で泊まれて高くは無い。シャワーつきだと金貨5枚が相場のようだ。

 俺達はシャワー無しの生活には慣れていないので、二人で金貨10枚の宿に泊まることになるだろう。


 それで金貨の残りは80枚。


 食事も銀貨での清算が殆どで、金貨だと高級店で食事が出来てしまう。

 銅貨ならば露天の揚げパンや串焼き肉など、軽食が食べられそうだ。

 

 どうやら金貨は1枚3000円、銀貨は1枚300円、銅貨は30円と考えればわかりやすい。

 確かに近くの露天では、揚げパンを銅貨4枚で売っていた。

 そう考えると1リットル金貨3枚のガソリンは実に高額だ。


 さて、ここまで考えてみると金貨5枚のペンダントは、果たして高いのか安いのか……。

 これからの旅がどこまで続くのか判らないが、少しでもお金は残しておきたい。

 正直、赤輝石のペンダントなど生きる上で必要なものじゃない。


 けれど、二人の思い出みたいな、何か……そんな品物があってもいいんじゃないかな、という気がした。

 

「パトナ、その……、買ってやるよ」

「えっ!? いいの? ほんとに」

「あぁ!」


 パトナがぱあっと笑みを浮かべる。もう欲しい品物は決まっているようだ。皮の細い紐の先に銀細工が付いていて、その先に果実のような赤い輝石が埋め込まれている。

 パトナの赤毛とよく似合うペンダントだ。

「すみません、これをください」


「あら、よかったね彼女さん! うん、そのペンダントなら金貨4枚にしとくよ」

「わぁ!」

「あ、ありがとうございます!」


 嬉しそうなパトナを見てつい、俺も財布のヒモが緩む。

 

 以前、町でイチャイチャしながら彼氏が服やら鞄を買い与えているのを見て、ケッ! と思っていたけれど、自分が似たような立場になってみると、なんというか……笑顔を見られるならこれぐらい安いぜ、という気になってくる。

 

 ……恐るべし、女の子の笑顔。


 代金を支払って商品を受け取る。そして、パトナの首にかけてやると、それはもう花の咲くような笑みを浮かべて……抱きついてきた。


「うわっ!?」

「ありがと、ライガ!」


「あらあら、いいわねぇ」

 店の女将さんがオホホと楽しそうに笑う。旦那さんのほうはチラリとこちらを見たけれど黙々と仕事を続けている。


 ちょっ! やめ、恥ずかしい!?

 パトナの温かくて柔らかい胸がもう、もにゅんもにゅんと押し付けられる。けれど、なんだろう……この幸福感は。

 初めてのプレゼントに、すごく喜んでもらえて嬉しいのだ。


 これが……恋愛ってやつなのかな?


 っと、いかんいかん。それ以外にも目的があった。

 俺はパトナを落ち着かせて、俺の用事を切り出してみる。


「あの、すみません、これ……なんだか判りますか?」


 俺はそう言って、背中の鞄からPC用のガラクタパーツを一つ取り出してカウンターテーブルの上に置いて見せる。


 それはパソコンの増設ポートに差し込むタイプの、グラフィックボードでとても古いものだ。

 緑色の基板にいくつもの電子部品がボコボコと付いている。大きさは10センチ×20センチほど。


「はて? なんだろうねぇ?」


 奥さんが困惑していると、店の奥で金属加工をしていた旦那さんの手がとまり、ゆっくりと立ち上がった。

 そして近づいてくると俺に小さく礼をして、目を細めた。


「ちょっと見せてくれないか?」



【今日の冒険記録】

・所持金:3560円(日本円)

    :293リューオン金貨

     ※パトナにアクセサリー購入で-3


・所持品:使えないスマホ、中古PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ


・町で補充した食べ物や雑貨。毛布など

 パンやチーズが減少。

  

・水、小さい樽で2つ。(36リットル)


・走行距離:350キロ

・ガソリン残量:16リットル


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