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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
四章: ヒューマンガースの決闘 ~水の魔女と炎の魔女~
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 魔法使い(?)ライガの世渡り術

「ライガ、凄い馬車の数だね。どこに停めればいいのかな?」

「うーん? どうやらこの馬車の流れに沿って進んでいくのがいいみたいだな」

「あ、確かにこの先に誘導されているんだね」


 パトナが窓を開け、あたりをきょろきょろと見回す。

 周囲を歩く人々や、他の馬車の御者が、見慣れない「自動車」を見て驚いているが、積極的に話しかけてくる者は居ない。


 パトナがフロントガラスに映し出した、ヒューマンガースの地図を見ると、俺たちのいる場所は街の東側の「関所」とある。

 確か、自治組織としての収入を得る為にお金を徴収しつつ、治安を維持するための身分チェックも兼ねている場所のはずだ。


「えっとね、関料(せきりょう)っていう料金を徴収する所があるみたい。町への入場料ね」


 パトナが俺の想像を補完する。


「なるほど。幾らぐらい必要なんだろう?」

「それが……すこし、いい加減みたいね」

「ははぁ……?」


 俺達の手持ちのお金は300リューオン金貨。

 ダッシュボードの中に100ゴールドづつの袋に分けてある。


 やがて馬車の車列は、1台づつの行列になりながら、街の入り口付近の駐車場へと進んでゆく。丁度、大型のショッピングセンターの駐車場へ順番に停めさせられるような感じで、誘導されているようだ。


 道の左右には、普通の市街地が広がっていて、色とりどりの服装をした人々が行きかっている。

 道行く人々は瞳の色も様々だが、青かグリーン系統が多いだろうか。肌は全体的に白く美しい。

 髪の毛はブロンズや青みがかっていたり、茶色かったりと、中世ヨーロッパの街に迷い込んだ気分になる。

 驚くべき事に、猫耳の女の子やエルフ耳の少年が歩いていたりして、俺は物凄く興奮した。

「おぉおおお!? いい意味で異世界に来たって実感がしてきたよ!」

「何故にそんなに興奮してるの?」

「だって、エルフとかすごいじゃん!?」


 どちらかと言えば、ファンタジーRPGに出てくる街のような印象のほうが強いだろうか?


 街は大勢の人々で活気付いていて、買い物帰りの親子連れや、仕事帰りらしい男達、学生らしき少女、そして地面に座り何かを売る露天商の老婆と、実に様々な住民達が行き交っている。

 雰囲気はどこかシャコターンの町に似ていたが、規模が桁違いに大きい印象だ。


 道行く人の多くが俺達を見て驚くが、積極的には話しかけてきたりする感じでもない。

 かといって敵対的な態度を取られることもなければ、恐れられていたり、奇妙がられている様子も無い。

 

 ――珍しくないのか?


 疑問はやがて氷解する。


「ママー! あの白い馬車、魔法使(・・・)いさん?」

「しっ! 多分ね。でも、指をさしちゃダメよ」


 どうやら、魔法使いの(たぐい)と思われているのだろう。


「パトナ……。俺達、どうやら魔法使い扱いされているようだぞ?」

「確かに馬も無いのに動いていたら不思議かもねぇ」

「相変わらずのんきだなぁ」


 まぁ、取り立てて危険な事が起こりそうも無いのは幸いだ。


 他の馬車に紛れながら低速でゆっくりと街の中を進み、ようやく駐車場らしい場所へと到着した。


 すると程なくして、駐車場の案内係らしい男たちがやってきた。

 パリッとした紺色の軍服のような制服を来た男が3人。見れば腰に剣を下げ、街に入ってくる馬車と次々と確認している。


 と、老人とその孫のような二人が乗る、一台の馬車の荷物を確認し始めた。


「荷物は何だ?」


「ご覧のとおり、麦と野菜です」

「よし、銀貨6枚だ」

「そんな……!? 先月来た時は3枚だったのに……」


 老人が困惑したように制服男達に訴える。


「文句があるなら倍にするぞ」

「は、はい……」

 老人は不服そうに、銀貨6枚を男たちに渡す。


 男たちはすぐさま1枚ずつを3人で分けて、残り3枚を腰に下げた徴収袋に投げ入れた。

 その代わりに「許可証」と書かれた紙を老人に渡す。


「……ふぅん?」

「ライガ! あの人たちズルイことしてなかった?」

「してたな」


「してたなって……なんとも思わないの?」

 パトナがちょっと怒ったように声を潜めた。


「思うけど、こういう社会ってのはそういうもんだろ。賄賂やチップ、そういうのが当たり前の文化ってことは、逆手にも取れるさ」


「……ライガ?」


 悪いが、世間知らずのパトナは怒るかもしれないが、俺は一応社会人だったのだ。

 ドラマや映画で散々こういうシーンは見てきた。

 まぁ、実生活では経験はしていないが、いちいち驚いていたら事件に巻き込まれて苦労するだけだ。

 ここはすこし演技でもして、上手いこと乗り切るのが賢い生き方だ。


「おい、お前達、何者だ?」


 いよいよ俺達の番が来たようだ。制服男の一人が警戒した様子で社用車の横に立って声をかけてきた。

 カチャと物騒な腰の剣に手をかけている。


「やぁ、こんにちは。俺達は魔法の触媒を買いに来た……魔法使いだ」

「魔法使いの助手ですー!」


 えへっ! と愛想笑いのパトナ。世渡り上手なのは元社用車だからだろうか。何にせよ面倒ごとにならないようにうまくやらなければ。


「――触媒? 魔法使い……さまですか?」

「これは、魔法の馬車ですか?」


 男達は顔を見合わせて、俄かに顔を見合わせる。


「そのとおり。そして、俺達は買い物に来た」


「あの、後ろの荷物は何ですか?」

「生活必需品のパンと食料、それと……魔法の品々さ」


 後ろに回りこんだ男が、ガラス越しに箱に入っていた中古PCのガラクタに興味を持ったようだ。


「見せてください」


 3人の中でも一番仕事熱心そうな男が尋ねてきた。


「……通行料は幾らだい?」


 俺は男の言葉を無視し、金貨4枚をリーダーらしい男に押し付けた。


「ライガ!?」

「しっ、いいんだよ」


 先ほどの老人が銀貨(・・)()

 銀貨一枚づつをチップにネコババしていたのだから大金のはずだ。

 金貨4枚は惜しいが、お金の使いどころをケチるとロクな事が無い。


「きっ! 金貨!? ……はい! いらっしゃいませ! あのこれ、許可証です」


 ビシッ! と背筋を伸ばして両手で差し出された許可証を、俺は受け取ると、余裕の笑顔を浮かべて聞いてみた。


「魔法の触媒は、どこで手に入るだろうか?」


「そっ! それなら南のサウザリン2番通りです!」


 なるほど。


「美味い飯は?」


「はい! あの、ここから真っ直ぐの、王政府御用達のレストランが美味しいかと」


 三人は直立不動で背筋を伸ばして指をさす。

 

「あぁ、それは嬉しいな」


 王政府か。いろいろ情報が得られるかもしれないな。


「わかった。ありがとう。それと……この車には触れたらヤバい『呪い』をかけておくから、誰も触らないようにしてほしいな」


 僅かに声を低くして薄く笑う。演技とはいえなかなか上手く出来た気がする。


「「「は、はい! それはもう!」」」


「ありがとう」

「おねがいねっ!」


 俺とパトナは全財産を懐に仕舞いこんでから車から降りた。

 そして荷台のバックドアを開け、PCのガラクタをいくつか、それとライターをポケットに仕舞いこんだ。

 勿論、魔法使いっぽく振舞うための「インチキアイテム」としてだ。


「じゃぁ、まずは何処へ行くの?」

「まずは腹ごしらえだろ」

「やったね!」


 ぴょんと跳ねるツナギ姿のパトナに苦笑しつつ、俺達は腹ごしらえに向かうことにした。


【今日の冒険記録】

・所持金:3560円(日本円)

    :296リューオン金貨


・所持品:使えないスマホ、中古PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ


・町で補充した食べ物や雑貨。毛布など

 パンやチーズが減少。

  

・水、小さい樽で2つ。(36リットル)


・走行距離:350キロ

・ガソリン残量:16リットル


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