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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
四章: ヒューマンガースの決闘 ~水の魔女と炎の魔女~
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 遭遇、赤いアイツ

 なぜだろう。


 なんとなく納得できない。

 女神様はもしかして、いい加減な感じで俺とパトナを危険な世界に送り込んだのだろうか?


 俺たちはいつしか森を抜けて、明るく開けた場所を進んでいた。

 フロントガラスに映るナビゲーションの画面には、道がこの先で大きな川に突き当たり、川を迂回して行くことが示されている。


 ナビのとおりに進むと、やがて河川と平行して作られた広い道に突き当たった。

 川幅はとても広くて幅は約50メートル。流れは緩やかだが濁っていて船でないと渡れないだろう。

 川沿いの道を左折して東へと進路を変えつつ、背の低い木々が生えただけの道路をひた走る。

 

 ――ヒューマンガースまであと35キロ。


 このあたりから馬車とすれ違うようになってきた。

 藁を荷台一杯に積んだ馬車や、屋根つきの幌馬車、金持ちが乗っていそうな装飾つきの2頭立ての馬車など、様々な馬車が走っている。


 すれ違ったり、俺たちの社用車が加速して追い越すたびに、御者は必ず「んっ? ……はぁ!?」と二度見するのが面白い。


「みんな驚くねぇ」

「まぁ、そりゃそうだ」


 馬の引かない車が走っているのだから、驚くもの無理は無い。


 周囲を見ると、赤い屋根瓦の民家がポツポツと見え始め、麦畑や小さな集落が点在していた。

 この辺りからヒューマンガースを治める領主様の直轄地らしい。これはナビにそう表示されていた事だからだ。

 だが、特段おかしなことが起こっているようには見えない。

 畑を耕す農夫さんや、道を歩く村人など、のんびりとした雰囲気にホッとする。


「ライガ、もうすぐだね!」

「でも、流石にガソリンが不安になってきた……」


 ガソリンの残量を確認すると、いよいよ3分の1ほどの位置を指していた。

 燃費には極力気をつけて走ったので、おそらくリッターあたり14キロほどは走っただろう。テパの村からここまでの走行距離は150キロメートルほど。おそらく11リッターほどを更に消費した計算だ。


 既に6割ほど消費し、おそらくタンクには20リットルあるかないかだろう。

 

 残り35キロほどの道のりなら、3リッターほどの消費で済む。

 

 問題は街で手に入れられるかどうかだ。


「ガソリン、手に入れないとな」

「うん! でもきっとなんとかなるよ!」

「パトナは楽観的でいいよなぁ」

「そう? なんとなくそう思うんだもん」


 明るいパトナとの会話がかなり心の支えになっていた。実際、女神ラジオだけならちょっと自分を保てるか自信が無い。


 鬱蒼とした森の木々は遥か後方へ遠ざかり、川沿いに作られている道は、蛇行しながら延々と続いていた。


 女神ラジオからは相変わらず愉快で、どうでもいい一人語りが続いていた。

 時刻は10時近くになり、ラジオの番組も変ったようだ。


『女神、わたしのお悩み相談ー♪』


「今度は悩み相談だって!」

「誰が相談するんだろ?」

「うーん? 天の神様?」

「相談される側だろ……」


 しかし、いくらなんでも女神様が一人で話し続けているのは変だ。


 SF的、厨二的解釈で無理やり理由を考えるなら、これはきっと「時間と空間」に囚われず、いろんな女神が多元宇宙に同時に存在して、あたかも話し続けているように錯覚しているのではないだろうか? ……なんて、考えてみる。


 どんな内容かと女神ラジオに耳を傾けると――


『――でね、私、悩んでるの。悲しくて』


「おいおい、女神様自身の悩みかよ……」


『何が悲しいかって? うん! あのね、慈悲を授けた愛しい6人の子達がいたの。その子たちはすごい魔法使いになって、やがて王国を危機から救って英雄になったんだ! みんなも知ってる? 魔法使いの6聖者!』


「ライガ! 6聖者って言ったよ!?」

「それって確かあの……『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』とかいうヤバイ連中が、狂う前の名前だよな?」


『それがね……私のちょっと苦手なセトゥくんが意地悪をしたの。彼の言葉を聞いちゃった6人は、悲しいことになったんだー。え? どうなったのかって? うん、怖い顔になって、私の言葉も聞こえなくなって、とっても悪いことをしはじめたの。……壊れちゃったのかな? 私が無理させちゃったのかもね……』


 それは、シャコターンの町で聞いた話と合致していた。

 運転に気をつけつつ、耳を傾ける。


『それでね、私! こことは違う別の世界で、()しい救世主(・・・)を見つけたの! その子に……頑張ってもらうことにしちゃいましたっ!』


 ――俺たちだ!?


 思わずパトナと顔を見合わせる。


『鉄の文明の星、とーっても珍しい世界で見つけた正義の魂! 白い乗り物の中で暮らす変わった子だったけど……。ちょっと私好みだったから、サービスしちゃったんだ! きゃっ! ……聞いてるかなぁ? このラジオを聞いてたら、これからも頑張ってほしいな!』


「え……?」

「ライガ! これ、私達のことじゃない!?」


「だよな!? でも、なんか今ものすごく重要な話してなかったか!? 情報量ドバーッて感じでちょっと混乱気味なんだが!? 早口でよく聞き取れなかったし」


「わ、私も……」


 くだらない話の後に、俺達に関する物凄い情報が突如出てきて不意を食らってしまった感じがする。

 だが、一つだけ理解できたのは、慈悲(・・)とやらは本物なのだ。

 ないがしろにされていたなんて気持ちは消えうせた。


 6聖者とか、セトゥとか救世主がどうとか、それに……好みって俺が?

 そしてラジオの女神様は続ける。


『でも、いつも意地悪なセトゥ君も、私の慈悲(・・)を真似したって聞いたけど、あの子たち、大丈夫かな……?』


 と、パトナがそこで正面の遥か先に目線を向けた。

 きっ……と眉根を寄せる。


「パトナ?」


 次の瞬間、フロントガラスに赤い光点が浮かび「警告!」の文字が浮かぶ。


「何か……何かが接近してくるわ!」


 俺たちの進む道の先、何かが物凄い速度で近づいてくる様子が映し出されていた。

 赤い危険な敵を示す点が、馬車などよりも早い速度で。


「早い! 通常の馬車の3倍は出ているわ」

「通常の……3倍?」


 正直、嫌な予感しかしなかった。


「――来たわ!」

「相手も……車なのか!?」


 すると、前方から土煙が見えてきた。

 1キロ以上離れていても、見晴らしのいい平らな道、巻き上がる煙は、明らかにここを目指している。

 ナビの画面で見ると、互いの距離は見る間に縮まっている。

 道は一本、このままでは正面衝突してしまう。


「あ、あれだ!」

「来たよライガ!」

 ついに真正面に「車」の姿が見えた、それは、真っ赤なスポーツカーだった。

 フォオオオオオオオン! と、スーパーチャージャー特有の音が響いてきた。

 そして、ついに前方200メートルにまで急接近。

 だが、相手は減速する気配が無い。


 ――やばいぞ、コイツ!


 俺は思わずアクセルを離し減速し、すぐに対応できるようにハンドルを握る手に力をこめた。


 と、相手の運転席に座るドライバーの顔が見えた。

 目だけを隠すサングラスを大きくしたようなマスクをつけた金髪の男だ。声こそ聞こえないが、不適に微笑む口元は、こう言っていた。

 

 ――見せてもらおうか、女神の寵愛を受けた救世主(・・・)の実力とやらを……!


【今日の冒険記録】

・所持金:3560円(日本円)

    :300リューオン金貨


・所持品:使えないスマホ、中古PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ


・町で補充した食べ物や雑貨。毛布など

 パンやチーズが減少。

  

・水、小さい樽で2つ。(36リットル)


・走行距離:328キロ

・ガソリン残量:18リットル


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