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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
四章: ヒューマンガースの決闘 ~水の魔女と炎の魔女~
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 ふぉるふぉる・もーにんぐ♪

 ◇


 東の空が白々と明るくなり始め、俺は暖かい毛布の中で目を覚ました。


 外は気温が下がったらしく、社用車の窓には白い朝露がついていた。


 毛布から腕を出すとひんやりと冷たい空気が触れた。指先で窓をキュッとなぞってみると内側にも水滴がついていた。


 どうやら曇ったのは朝露だけが原因でなく、俺とパトナの体温(・・)吐息(・・)のせいだと気がついた。


 ――汗、体温、吐息


 何のことは無い言葉に、俺は「ぐはぁ!?」と身体をビクつかせた。ビクンビクン。


 すると、密着して眠っていた半裸のパトナがふにゃーと、眼をこすった。


「んーなにー?」

「あっ……朝だよ、おはよ」


 パトナは寝ぼけ(まなこ)で髪も乱れているが、半身を起こして辺りを見回す。

 露になった鎖骨やタンクトップから覗くの谷間とか、朝から刺激物でしかないのだが、パトナはきゅーばたんと倒れると、再び毛布に潜り込んで俺の腰に密着してきた。


「あと五分だけ……」

「お、おいっ!? 朝は五時に起きるべし……」


 照れくさくて意味不明なことを言いつつも、やっぱり誘惑には勝てず、五分だけならいいか……と、一緒に毛布にもぐりこんで密着する。


 寒い朝の「二度寝」の心地よさったら、ない。


 まさに至福のひと時だ。


 何よりもフニッフニと柔らかくて、とっても良い香りのする女の子と、組んず解れつの幸せ密着24時、いや二度寝タイムなのだ。


 夢か、異世界か。

 

 もういっそ、このままここで怠惰に(ただ)れた生活を送りたい……という強い誘惑に駆られるが、そうもいかない。


 俺は世界を救い、いや……正直に言えば、今腕の中に居るパトナを本気で救いたいと思っていることに気がついた。


 悪の限りを尽くす魔法使い秘密結社を倒し、『女神の約束』を果たす。


 そうしてはじめてパトナは本当の人間になって、俺と……け……けけ、ケコーンして結ばれるのだ。


 いろんな意味で。


 ケコーン。なんて悶絶しそうな単語を口にできずモヤモヤしていると――コケコッコーと遠くで雄鶏が鳴いた。


 本気で朝が来たらしい。


「起きるぞ! パトナ! 旅の続きだ!」

「ふぉー?」

「寝ながら返事をするな目を開けろ!?」


 ◇


 俺たちはその後、残り物のポトフとパンとチーズで朝食を終え、身支度を終えると宿営地を出発した。


 次の目的地であるヒューマンガースの街まではおよそ90キロ。


 森の中の道は速度が上がらず、時速30キロも出ればいいほうだ。こんな道を20キロほど進むと開けた場所に出るらしいので、走るペースも上がるだろう。

 今は朝の6時なので、いくらゆっくりでも三時間も走れば目的地に到着するだろう。


 森の中の道幅はそこそこ広く、馬車が余裕で通れるほど。小石や水溜りによる凸凹はあるが、そんなに酷い道ではない。コトコトと揺られながら俺たちは進む。


 窓を開けると、風が心地よく頬を撫でてゆく。

 朝の風と小鳥のさえずりがなんとも心地よいBGMだ。


 昨日よりは緊張も解け、余裕でハンドルを握る俺。助手席に目を向けると髪をひとつ結いにしているパトナが微笑んだ。

 朝日で白さを増した首筋に、思わずドキリとする。


「あー……、当たり前だけどラジオも入らないんだよな」


 俺は無意識にインパネ(※車のハンドルやメーターがついている機器類の並んでいる部分)のオーディオスイッチに手を伸ばしていた。


 ラジオのラジオのつまみをひねってもザザーと雑音が入るだけだ。


 当たり前といえば当たり前。

 ここは文明とは程遠い中世ヨーロッパのような異世界なのだ。


「ラジオ? AMとかFMは入らないよ」

「は、ってことは他の何かなら聴けるとか?」


 髪をひとつ結いにし終えたパトナが手を伸ばす。ツナギの長袖に包まれた腕の先端から、細い指がちょこんと覗いている。

 なんというかブカブカな感じが可愛らしい。


 ちなみに本日のパトナは、ひとつの「ゆるふわ三つ編み」を左側に垂らした髪型だ。


「えーと、確か……」


 今度はパトナが俺の代わりにラジオのチューナーボタンを回す。ザザー、ズザザザ、ズゾッと雑音の調律をしていると――


『はーい、というわけで絶対暦23567年、あっ、王国歴なら236年ね! 5月12日の朝、爽やかにいってみよーっ(ずんちゃっちゃら♪)』


「えっ!? はっ!? ラジオ入ってるじゃん!?」


 俺は思わず叫んでいた。


「うん! よかった……女神さまがね」

「あーもう言わんでいい! 慈悲(・・)のお力でラジオが聴けるんだろ? ハハ」


 俺は思わず米国人みたいな大げさなリアクションで、一瞬ハンドルを離しながら肩をすくめてみた。


「もう! ライガってば、違うわよ」

「違う? 何が?」


 スピーカーからあまり聞きなれない、エキゾチックムードな音楽が流れ、さっきの女性DJが話し始める。


『はーい! 異世界にきちゃったみんな? 聴いてるかなー? 私運命の女神こと、フォルトゥーナがお送りする楽しい朝のひと時! ふぉるふぉる・もーにんぐ♪ はじめちゃうぞっ!』


「これ……女神さまの生ラジオなんだってば」


「んなぁああああああああああああああっ!?」


 俺は最大級の驚きを全身で表現した。


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