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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
三章: シャコターン防衛戦 ~死闘! 二人目の呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)~
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 女神フォルトゥーナと、悪神セトゥの伝説


「美味い!? ……うまっ! はむっ!」

「お、おい……落ち着いて食えよ」


 呆れる俺の言葉など聞こえていないのか、パトナはまるで飢えた獣のような勢いで、テーブルの上のご飯を次々と口に放り込んででゆく。

 ガソリンが減った以上に、パトナのお腹も減っていたらしい。


 まぁ、食欲のある元気娘は嫌いじゃないけどな……。

 俺はパトナの健康的でつやつやとした頬と、ポニーテールに結ばれた綺麗な髪を眺めながら、小さく溜息をついた。


 ここはシャコターンの中心に程近い、町役場に併設された公共食堂だ。普段は役場で働く人たちや衛兵、近隣の住民たちの憩いの場なのだとか。

 15メートル四方もある大きな食堂は、前金方式で注文するスタイルらしい。20人がけの長テーブルが3列あるが今はどれも満席だ。


 本来ならば俺たちも代金を支払わねばならないのだが、今は若き領主ボッシュ様の心遣いにより、俺たちは無料でメシにありついていた。

 給仕のオバちゃんが「どんどんお食べ!」といろいろな料理を運んでくるものだからパトナのテンションも上がりっぱなしだ。


 俺はそのたびに恐縮しつつも、横ではパトナが料理を遠慮なくガッついている。


 周りのお客さんはすべて、女神の救世主(・・・)である俺たちのことを一目見ようと集まって来た町の住民や衛兵たちだ。

 彼らも思い思いの食事をしながら、珍しい異世界の客人を興味深げに眺めている。

 窓の外には、店に入り切れなかった人々や近所の子供達も集まっていて、俺たちを指差しては何かを囁いたり、祈りをささげたりしている。

 挙句の果てにはコインを投げてよこしたりして、何がなんだか分からない物凄いことになっている。


「ラヒガ、これおひしいよ! 早くたべなはひよ!?」

「口にモノを入れながらしゃべるな」


 俺だって食べている。とはいえこの状況ではあまり喉を通らないだけだ。

 隣に座るパトナと、さらに隣にはリリナ。リリナは少し恥ずかしそうに赤面しながらシチューを小さなお口に運んでいる。


 反面、パトナはお構いなしだ。パンにハム、ソーセージ。トマトで煮込んだミートボール、鹿肉の香草焼きにマッシュポテト。そしてボコボコと穴の開いた大きなチーズをガッツガツと、口に詰め込む。

 モグモグと頬をリスのように膨らませたところで、突然「んぐっ!?」と顔を青くして、やがて目を白黒させはじめた。


「ほら、言わんこっちゃない!」

「パ、パトナさんこれ!」

 俺とリリナが慌ててブドウ果汁のジョッキを差し出すと、それを奪うように受け取って、ゴキュゴキュと流し込んだ。


「んごっ! んごっ……ぷはぁ!?」

「……お前は青ジャケットの大泥棒(ルパソ)三世か」


 このツッコミにリリナがきょとんとした顔をする。

 意味がわかる人間はこの場には誰も居なかったようで、俺は少し悲しかった。


「あれが本物の救世主さまか……!」

「黒髪の若者……女神様の伝説のとおりじゃ!」

「俺はこの目で見ていたぞ! 白い魔法の馬車で、魔物たちを蹴散らしてくれたんだ!」

「あぁ! 凄かったぜ。あの恐ろしい魔女を聖なる炎で焼き尽くしてくださった!」


「女神フォルトゥーナの伝説にうわたれる、勇者様が俺達の町を救ってくれるなんて……!」

「ちょっと聞いたかい!? 白い魔法の馬車を掃除すると……ご利益があるらしいよ!」


「あ……。気持ちいいって喜んでる」

「え? 何が?」

「私の身体」

 思わずその言葉にゲホゲホとむせる俺。


 だが、パトナは窓の外に目線を向けていた。

 窓の外では、女達が集まって代わる代わる社用車に水をかけては布で擦り、洗車をしてくれていた。

 あの魔女の胸糞悪い術で、変な汁がついてドロドロに汚れていたので本当にありがたい。


 やがて車体が綺麗になると、次に少女たちの手によって周囲に花びらが散らされ、お祭りムードに飾られてゆく。


「洗車までしてもらったうえに、崇められてる……」

「うん! がんばった甲斐があったじゃん」

 パトナがうんっ……! と伸びをして膨らんだお腹をさする。


「リリナもよかったな。村も一安心、だよな」

「はいっ!」

 俺は明るい笑顔を見せてくれたリリナに目を細めながら、小一時間前に行われた領主ボッシュの会談を思い出していた。

 

 ◇


 このシャコターン地方を治める領主、ボッシュ様は聡明で頭の切れる人だった。

 リリナの村の惨状も瞬時に察してくれて、村長からの親書を受け取り、警備の強化を約束してくれた。


「よかった!」


 これでリリナは村に戻れるだろう。

 しかし。

 あの魔法使いと同レベルの相手がまた襲ってきたら、町の守備隊だけでは護り切れないだろうと、苦しい胸のうちも明かしたのだ。


 そして俺たちと会話を交わしたボッシュ様は驚くべきことを口にした。


「――あの魔法使いは、この大陸を統治する神聖フォルトゥーナ・モーレィス王国に遣える、『6聖者』と呼ばれた王宮魔法使いの一人でした」

「な、なんだって!?」


 つまり、秘密結社「ブラック・カンパニー」という連中の正体は、離反(・・)した王宮魔法使いの集団だと言うことなのか?


「この町を襲ったのは、間違いなく『6聖者』の一人です。あの魔女(・・)はあんな風ではなかった。死者を弔う儀式を司る、巫女のような役割を担っていたはずですが……」


 ボュシュ様は表情を険しくした。

 それが屍肉で出来た人形を操り町を襲ったのだ。彼らにしてみれば由々しき事態だろう。


「そんな……! 一体何が?」

「まさか、この国自体がおかしくなったって事か?」


「それはありえません。この、神聖フォルトゥーナ・モーレィス王国は、その名のとおり、女神フォルトゥーナ様の栄光を受けつぎ千年続く王家と、悠久の歴史を誇る王国です。簡単に揺らぐものではありません。現にこうして、女神さまは救世主を遣わしになった!」


 若き領主ボッシュの声に力と熱がこめらる。流石国から領地を任された地方領主ともなれば責任感と覚悟が違うのだろう。


「では、どうして6人の魔法使いさんが離反をしたのかな?」

 パトナが素朴な疑問を口にする。


「おそらく、悪神セトゥに(たぶらか)されたのでしょう。歴史上、女神フォルトゥーナと悪神セトゥは、幾度と無くこの国の覇権を巡って争ってきましたから」


「なるほど……」

 なんとなくだか納得は出来る。

 俺たちの役目は女神様が言ったとおり「人々を救うこと」つまりは、悪事をなす連中を平定することなのだろうか。


「ただ、現にこうしてライガさんのような『救世主』が現れたということは、既にこの国のどこかに悪神セトゥの寵愛を受けた『混沌者(カオスカイザ)』が出現しているはずです。残念ながら、王国の協力者であるはずの6人の魔法使い達も、セトゥ、あるいはその代弁者である『混沌者(カオスカイザ)』に影響されたのかもしれません。破壊と混乱をもたらさんとする悪神セトゥの名の元に」


「カオスカイザ……、悪神セトゥ」

 それは、新しい敵の存在を示唆していた。


「伝説によれば、『混沌者(カオスカイザ)』は赤い魔法の馬車を駆る、とも言われています」


「魔法の馬車ってまさか! 俺達と同じ……車を使う?」

「なんとなくそう聞こえるよね」


 俺とパトナは顔を見合わせた。


 と、そこへボッシュの部下と思われる男が息を切らせながらやって来た。


「ボッシュさま! お探しのものはこれでしょうか!? 町中探したのですが……これだけしかありませんでした」

「うむ、ご苦労だった。救世主様、それを確認して頂けますか?」


 男の手には小さな「壷」が抱えられていた。

 近づきながら蓋を開けると、独特の臭気が鼻をついた。壷を持っていた男が顔をしかめる。


「ライガ、これ!」

「うん、間違いない! ガソリンだ……!」


 その量は僅か1リットルにも満たない。けれどこの世界にも有ったのだ!


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