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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
三章: シャコターン防衛戦 ~死闘! 二人目の呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)~
20/70

 異世界転生した俺は、どうやら『白き魔法の馬車を駆る、黒髪の勇者』らしい

 町の外で盛大な火柱が燃え上がった。

 火柱は高さ20メートルを超えているだろうか。

 シャコターンの町を囲む壁の中からも、激しい火勢を窺い知ることが出来た。


『ギッシャァアッ…………!』

 魔女は悲鳴とともに大爆発を起こすと、赤黒いキノコ雲を生じさせた。そして黒煙はやがて黒い髑髏のような形の雲になり、苦しげに顔を歪めながら徐々に薄れ、霧散し消えていった。


「邪悪な魔女を倒したぞぉおおおっ!」

「ォオオオオ!」

 壁の上で兵士達が勝どきをあげた。その喜びの声と波は、シャコターンの町全体に伝播してゆく。


「や、やったぞ!」

「うんっ! 魔力の反応が消えたわ」


 パトナはフロントガラスの一部を確認してから言った。レーダー表示のような画面には、敵を示す「赤い光点」は一つも映っていなかった。


「だけど……ガソリンが……」

 残量を見ると9割近く残っていたガソリンは、6割ほどに減っていた。

 ここまでの旅で消費したぶんを差し引いても、ブーストジャンプだけで1割以上消費したことになる。

「うん、けど生き延びたよ」

 パトナはそう言うと、俺の左袖をそっと掴んだ。優しい瞳が俺をじっと見つめている。

「そうだな……」


 謎の魔法使い秘密結社『ブラック・カンパニー』。

 その最強幹部(・・・・)を自称した赤の魔女、ゴージャス・マイリーンを、俺たちは貴重なガソリンと引き換えに撃破することが出来た。

 屍肉操者(ネクロマスター)という恐るべき術者だっが、正直あんな連中があと4人もいるかと思うと先が思いやられるが……。


「ライガさん、パトナさん……ここって」


 後部座席でリリナが顔を上げ、恐る恐る辺りを見回す。

 空まで飛んでしまった少女は、一生分の悲鳴を上げたような顔をしている。


 気が付くと、周りには町の人たちが集まってきていた。

 そもそも俺たちが「ブーストジャンプ」で飛び込んだのは、町の門をくぐった先にある広場のような場所だった。

 中央に噴水があり、石畳の円形の広場の差し渡りは100メートルほどあるだろうか?


 集まってきた人々の服装は、中世ヨーロッパの様子を描いた絵画そのものの雰囲気だ。想像していたよりも服の色が様々で自由な雰囲気だ。身なりも小奇麗で、豊かな感じの人たちが多いのだろう。


 俺たちの車を警戒している男、唖然と口を開けている若者、なにやら身振り手振りで、俺たちが空から飛んできたと訴えている商店主。

 好奇心剥き出しのオバさんに子供に、楽しいことが起こったのかとワクワク顔の老婆達。そしてワンワンと吠える犬。

 いつのまにか社用車は大勢の人たちに囲まれていた。


「ここは……少なくとも地獄じゃないことは保障するよ」


 俺はフッと口角を上げ、肩をすくめて見せた。


「ライガ、ちょっとハリウッド意識してる?」

 助手席でツナギ少女パトナが半眼で笑う。


「ばっ!? し、してねーよ! せいぜい洋ドラだ!」

「してるじゃん……」


 俺だってアニメとコミックとゲームと「なろう小説」だけで大人になったわけじゃない。

 実写の24時間がんばるやつとか、救命救急とか、宇宙人とかゾンビとか、洋物だって沢山見てきた。そういや車がしゃべるのもあったっけ……。


 と、それはどうもでいい。


「リリナ、ちょっと揺れたけど、シャコターンの町に到着だ」

「よかった……!」

 リリナはホッとしたような顔でシートベルトを外すと、ドアを開けて外に出た。途端に「おぉおお!?」と、周囲から悲鳴とも歓喜ともつかない声が沸き起こる。


 けれどリリナはそこで急にフラフラと、地面に倒れこむように手を付いた。


「リリナちゃん!?」

「大丈夫か!」


 俺とパトナも車から降りてリリナの元へと駆け寄る。

 うぉおぁ!? と町の人たちの輪が一気に広くなる。

「ちょっと、立ちくらみがして」

 車に揺られて酔ったのだろうか。パトナが額に手を当てて様子を見ている。


 と、その時。

 人垣をかき分けて、背の高い若い男が俺たちのところへやってきた。


「あ、あのひと……!」

「弓の名手(・・)だな」


 その顔には見覚えがあった。赤い魔女の額にトドメの火矢を叩き込んだ兵士だった。


 革の鎧を身にまとい弓を持った兵士。だが、装備は他の衛兵と同じでも、雰囲気が違っていた。何よりも、年上の衛兵が左右を守るように付き従っているのだ。


 町の人たちが「ボッシュ様!」と口々に名を呼んで礼をする。

 その様子からかなり身分の高い男のようだ。


「ボッシュさま……!? 領主! あのお方が領主様です!」


 リリナが立ち上がった。


「領主様! はじめまして、御世話になります! わたくし、内藤雷牙(ないとらいが)と申します。このたびは助けて頂き、大変ありがとうございました! こっちは相棒のパトナと申します」

「ラ……ライガ?」

 俺は思わず反射的に直立し身体を90度折り曲げて礼をした。偉い人となればこうせずにはいられないのだ。

 隣でパトナが目を丸くしているが、お前も礼をするんだ! と袖を引く。


 ちなみに、テパの村長さんに会ったときは混乱していてこの挨拶を忘れてしまったので、翌日になってから俺は非礼をわびて90度深々と礼をしている。


 悲しいサラリーマンの(サガ)は、異世界に来ても簡単に抜けるものではないらしい。


「そんな! 助けられたのは私たちのほうです。恐ろしい魔女の軍勢を蹴散らし、魔女さえも倒してしまった! 君達が……伝説の救世主なのですね!?」


 若い、おそらく20代の後半だろう。鍛えられた身体に、知性と落ち着きを感じさせる青い瞳。ブロンズの髪を後ろに撫でつけている。甘いマスクとその雰囲気から相当モテるのだろう。

 町の娘達がキャー! と目をハートにしている。


「救世主? わたしたちが?」

「そういえばテパの村でもそんな事を言われたよな?」


 俺とパトナは思わず顔を見合わせる。


「はい。この国にはある言い伝えがあるのです。 ――邪悪なる神セトゥの魔力が増大し世界が乱れたとき、女神フォルトゥーナの御慈悲(・・・)を受けた、『白き魔法の馬車を駆る黒髪の勇者』があらわれる……と! まさに予言(・・)のとおりだ!」


 ボッシュと呼ばれた若い領主が、驚きと感動を抑えられないといった様子で、大きく広げた両手を胸の前に当て、俺たちに向かって深々と礼をした。


 おぉお!? と町の人たちに驚きが広がってゆく。


「ようこそ、ライガ……様、大歓迎です!」


 こうして俺たちはシャコターンの町に歓迎と共に迎え入れられた。


 そして俺たちは女神フォルトゥーナの伝説(・・)を耳にすることになる。


 ――『白き魔法の馬車を駆る黒髪の勇者』そして、世界に混沌と恐怖をもたらすという『赤き魔法(・・)馬車(・・)を駆る金髪(・・)魔王(・・)』の伝説を。


【今日の冒険記録】

・所持金:3560円(日本円)

    :100リューオン金貨


・所持品:使えないスマホ、中古PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ

・村から貰ったパンや飲み物二日分

・ペットボトルの水×2


・走行距離:61キロ

・ガソリン残量:32リットル

(18リットルをアフターバーナーで消費)


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