俺、社用車(パトナ)の柔肌を想像する
◇
――なな、なにぃいいいい!?
「洗車……洗車ッ……ですか?」
「そ、洗って欲しいな!」
パトナが俺の腕を甘えるように掴む。
ごくり……。と思わず溜飲する。
ここは落ち着いて、パトナの姿を改めて確認してみよう。
身長は160センチほど、胸は大きくて……おそらくCかD。
顔は、綺麗な美人というよりは、笑顔が可愛くて元気のいい感じがする。たとえば妹とか従妹だったなら、人生がさぞかし楽しかった事だろう。
髪はツインテールに結わえているが、解けば胸の下ぐらいまでの長さだろうし、きっと手触りも滑らかな素直な髪質に違いない。
つまり、車載妖精とはいえ、その姿かたちは、どう見てもお年頃の可愛らしい美少女だ。働く社用車を擬人化したのがパトナだと思うと「なるほどね」と納得する。
そんな彼女と、俺はいきなり一緒にシャワーを浴びるというのか……!
「戦い続きで、アイツらの体液とか飛び散ったかもしれないし、汚れたままじゃ……気持ち悪いの」
俺をじっと上目遣いで見つめるパトナ。長いまつげと、くりんとまぁるい瞳がなんとも可愛らしい。
「そ……それもそうだな!」
「よかった! ありがと、ライガ!」
ぱぁっと小花のような、笑みを浮かべる。
作業着は長袖タイプで、中央をジッパーで開け閉めできる。色はピンクで、足元は動きやすそうなスニーカーを履いている。
はち切れそうな胸元は、首筋の下の部分まで開いていて、そもそもアンダーウェアというものを身に着けていないのではなかろうか?
――おふぅ!?
ぎゅぉおおおおん! と健全に血流がゴウゴウと逆流し、いろいろと……マズイ。
既に俺は若干前傾姿勢だ。
「ライガさん、パトナさん! シャワー使えますよ!」
ドアを開けて、リリナが入ってきた。髪を後ろで結い、額には汗がにじんでいる。
おそらくシャワーの準備の為に火起こしをしていたのだろう。
「わぁ嬉しい!」
「はいっ!」
俺は天にも昇る気持ちで、パトナと共にリリナの案内するシャワー室へと向かった。
肌とかスベスベなんだろうなー……とか、パトナの後姿を眺めながら廊下を進み、シャワー室前の脱衣所へと入る。
リリナが少し怪訝そうな顔をしているが、ここから先は「大人」の世界。
子供は見ちゃいけないぜ。
とはいえ、ゲスな考えを全力で大脳新皮質の裏に押し込めて、今はとにかく紳士を装う。
そう! 今までと同じ、仕事を終えたら洗車をするように、パトナを背中からごしごしと洗ってあげればいいだけだ。
平常心を保とうと、俺は深呼吸。我が愚息の猛りを押さえることに成功する。
まぁ……雰囲気と成り行き上、パトナがいいと言うなら前も洗ってあげてもいいし、なんなら俺を洗ってくれてもいい。
「……ライガ?」
「お、おうっ! 大丈夫! 俺はいつもどおりだ! 背中が屋根で、尻がボンネットだな?!」
ばちーん!
殴られた。グーパンチでだ。痛い!?
「痛い!? 何で!?」
「何でじゃないわよ! 出てけ! 脱げないでしょうがっ!」
顔を真っ赤にして、げしげしっ! と俺を足蹴にするパトナ。
「え、えぇえええ!? な、ななな! セッ、洗車は!?」
「はぁ!? だから洗車は洗車! ……ってまさか、洗車イコール私の全身を洗う隠語だと勘違いした……わけじゃないよね?」
じぃ……と、俺は初めてリアルで美少女の「ジト目」というヤツを見た。
「いいい、いや!? んなわけ……あるか! 洗う! 今から外に停車中の社用車の洗車をしておきますね!?」
俺は涙目で頬を押さえながら叫ぶ。
「よろしい。わかったらとっとと出て行く!」
ばしん! と膝蹴りで俺の尻を蹴り上げて、パトナはシャワー室のドアをバタムと閉めてしまった。
「……ライガさんの、えっち」
リリナまでもが顔を真っ赤にしてトテテと走り去ってしまった。
「うがぁああああああああ!?」
お約束の勘違い。
俺はどうやらとんでもない思い違いをしていたらしい。
赤面を通り越して、頭を抱えて悶絶する。壁にガンガン頭をぶつける。
恥ずかしくて、死にたい。
まぁ一回死んでるけど。
……ライガの、ばか。
シャワー室の中からは、パトナのそんな静かな声が聞こえた気がした。
◇