2:マロンからエクターへ
外に出て、エクターはその光景に愕然となる。いやな予感が的中していた。
孤児院が、礼拝堂が燃えている。
「うそだろ……」
夜の裏庭、月の出ていない夜でも明々とした情景。バチバチと音を立てて、夜空を焦がす二棟の建物。エクターはその光景に呆然となった。
そしてその近くで、孤児と修道女たちが固まって座っているのが見えた。
一瞬、エクターは火事が起きて避難してきたのかと思ったが、そうではなかった。
彼らの周囲を、オークの戦士が見張るように立っている。
オーク。大きく筋肉質な緑色の身体に、鋭い牙と豚の頭を持つ魔物。総身をおおう革の鎧と、ギロチンみたいに大きな斧を持っていることから、彼らが戦士だと分かった。そして状況からいって、火は彼らが放ったに違いない。
エクターは近くの木陰に身を潜めた。
――なんでいきなり、魔物が攻めてきたんだ? 魔界と天界の戦争は終結して、いまはどんな魔物も教会には手を出さなくなったはずなのに。
エクターは高鳴る心拍を落ち着ける。そして彼の考えるように、戦争終結以後、少なくともここ500年は魔物が人里を荒らすことはなかった。それは魔界と天界がそう取り決めたからである。この締結を互いが解除するまで、争うことはしないと。
――でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。皆を助けないと。
エクターは自分にできることはないか、周囲の様子を伺う。他の村に助けを呼びに行くことも考えたが、最寄りの村でも自分の足では半日以上かかってしまう。いまの事態に、そこまでの余裕はない。
「も、もう十分でしょう!」
声に目を向ければ、修道女長のマローリがいた。彼女は、オークの群の中でも一際大きく、また血のように赤い身体を持つヘビーオークの前で跪いていた。
「教会にはもう何も残っていません! 食料は貴方たちが持っていたものが全てで、金品もさっきの祭具や食器だけしかありません! だから、もうこの子たちを解放して、教会から出て行って下さい! ああ、エクレール様どうか私たちをお救い下さい!」
マローリは声を震わせながら必死に嘆願していた。しかしヘビーオークは豚のような鳴き声で笑うと、その太い手で彼女の首を掴みあげた。苦しそうに呻く彼女の身体が持ち上がる。その様子に孤児たちが泣き叫んだ。
「お前たちは俺様達がここにやってきたのを締結違反だと言ったな。ふざけるなよ、先に締結を破って魔界に攻撃をかけてきたのは天界の方だ。天界の天使が、俺達の巣に攻撃をかけやがった。これはその報復だ」
マローリの目が苦痛から絶望に歪む。
「拝み屋だろう。天使にでも祈ってみろ。殺されると知れば助けてくれるかもしれないぜ、ブヒヒヒ」
言って、ヘビーオークはもう片方の手を持ち上げる。そこには人間一人を真っ二つにできそうなヘビーソードが握られていた。
マローリはその刃を見上げながら「エクレール様」とかすれた声で呻く。
――くそ!
エクターは後先の事を考えずに飛び出そうとした、そのときだった。
「ブギィイイイ! 隠れている奴がいやがったぞ!」
オークの怒号を聞いて『バレた!』と足がすくんだエクター。そしてヘビーオークの血走った眼が、マローリからギョロリとエクターの方に向けられる。
いや、違った。
ヘビーオークの目は木陰のエクターを過ぎて、その奥の茂みに向けられていた。
「ブゥ! 歩け人間!」
と、襟を掴まれてオークの戦士に引き連れられて来たのは、マロンだった。
エクターは、マロンが自分の傍を通り過ぎるとき声をあげそうになった。しかしその口を固く抑えて声をこらえる。一瞬、目があった彼女から『黙ってて』という目配せがあったような気がしたのだ。
マロンはヘビーオークの前まで引っ立てられると、その場に打ち捨てるように倒された。孤児や修道女たちが彼女に不安げに声をあげる。
マロンを連れてきたオーク戦士は、ヘビーオークに言った。
「ボーグ様。こいつ、茂みの影からこんなものでボーグ様を狙ってやがりましたぜ」
言いつけるように吠えた後、オークはマロンの近くにクロスボウを叩きつけた。
それを見たヘビーオーク――ボーグは、マローリを突き放し、代わりに地面のクロスボウを鷲掴みにした。大の大人が両手で構えるような弩弓も、ボーグが持てばミニチュアのようだった。
「ブフフフ。こんな玩具でこの俺様を殺せるとでも思ったか、人間?」
バキバキバキと、まるで小枝でも折るようにボーグの手がクロスボウを粉砕する。その信じられないような怪力に、孤児たちはいっそう震え上がった。
怒りから牙を剥き、目を血走らせるボーグ。その形相に皆が青ざめる。しかしエクターはそのとき、マロンが呪文の形に口を動かしたのを見逃さなかった。
「蔓よ草木よ固く撓れ」
ん? とボーグが彼女の呟きを気にしたとき、異変は起きた。突如、ドンという土の飛沫が巻き上がる。驚く間もなく、土から這い出た大蛇のような蔓が瞬時にボーグを締めあげた。
「な、なぬぅう!?!?」
あっという間だった。太い蔓は幾重にもぐるぐると絡みつき、ボーグを雁字搦めにして吊し上げた。彼はそこでようやく驚嘆の声をあげたのだ。
万力のような力でミリミリと締め上げる太い蔓。ボーグが苦しげに呻く。あの怪力のヘビーオークが身動きを取れないのだ。想像を絶する力なのだろう。
それを操っていると思われるマロンに、修道女も孤児たちも釘付けとなった。
「シスター・マロン……あなた……まさか」
信じられないというような声をあげたのは、尻もちをついているマローリだった。マロンは彼女に詫びるかのような沈痛な面持ちで、しかし意を決したように自身のブロンド髪をかきあげる。髪の隙間から現れた彼女の耳は、鋭く尖っていた。
森の精霊――エルフの象徴だ。
「黙っていて申し訳ありませんでした。この通り、私は人間ではありません」
再び、ドンと土煙が舞い上がる。今度は修道女や孤児たちの周りから蔓草がうねり出て、彼女たちを取り囲むオーク戦士たちを拘束した。
「ぬぐがががブギギギ」「アガゴゴゴブブブ」「ぐ、ぐるじひひ」「べぶびびび」「だ、だじげで」
ギリギリギリと、まるで大蛇のようにオーク戦士たちを締め上げる蔓。あっという間に、形勢が逆転していた。
「申開きはこの場が片付いてから致します。だから、今だけはこのまま教会に留まることをお許し下さい。そしてこれから働く無礼についても、どうかお許し下さい。後で如何様な罰でもお受けします」
そうして詫びの言葉を述べると、マロンは逆さ吊りになったボーグに目を向けた。
「見ての通りだオーク。私は人間ではない。エルフだ。お前も精霊だから知っているだろう。エルフには森の草木と対話する力があり、そして草木には、お前たちごとき造作もなく引き千切る力を備えていることを」
ギリギリギリ、とさらにボーグの身体に蔓がめり込む。ボーグが恐怖と苦しみから喘いだ。
「火を放ったのは失敗だったな。いまモンブランの森は大いなる怒りをお前たちに抱いている。私がこの者たちをけしかけていると思うなら、それは大きな誤解だ。私は不必要な血でこの教会を汚すことがないよう、この者たちを押しとどめている。今すぐバラバラに引きちぎって、その青い血を啜りたいと言っているこの草木たちをな」
そう言ってマロンが凄むと、オーク戦士たちから怯えたような声が上がる。
「大人しくモンブランの地から立ち去り、二度とここに足を踏み入れないと誓うなら、ここを出て行くまでお前たちを襲わぬように森を説得してやる。どうする? このままここで絞殺され、最後の一滴まで血を啜られるよりはいいだろう」
そうして、マロンがボーグを問い質そうと目を向けた時だった。血のように赤いその口が、醜悪に歪んだ。
「やれ」
マロンが目をすがめる。同時、孤児院の屋根から何かが閃いた。
どす、という重い音の後、マロンが揺らめいた。
目を向けると、屋根の上で細身のオーク戦士がクロスボウを構えていた。
あ、とエクターが呻いた時には何もかもが遅かった。そこから放たれていた矢は、真っ直ぐにマロンの背中を突き破っていたのだ。
彼女の鎖骨から突き出ているのは、まるで銛のように太い鏃。見開かれた彼女の目が、その朱に染まった切っ先を見ている。
「……そんな」
エクターは呆然と口にした。
よろりと、マロンが崩れる。
それと同時に、ボークやオークの戦士たちを拘束していた蔓がゆるんだ。
エクターは悲鳴のようにマロン先生と叫んでいたが、その声はボーグの怒号によって掻き消される。
「ここにいる人間どもを皆殺しにしろ!」
やめろと叫ぶエクターの前で、ボーグのヘビーソードがマローリの胸を貫いた。オーク戦士たちのギロチンのような斧が、孤児や修道女たちに向かって振り下ろされた。
何も考えられなくなって、彼らに突っ込んでいくエクター。それを辛うじて正気に押しとどめたのは、マロンの目だった。倒れ伏して血だまりを作る彼女は、定まらぬ焦点をエクターに向けて、そして震える指で礼拝堂の先を、大天使エクレール像の方を指さしていた。
――剣を。
マロンのそんな声を聞いた気がした。
「ブギギギギ! ここにもガキが隠れていやがった!」
オークの咆哮。今度こそエクターは見つかった。見れば、血塗れた斧を振り上げて、猛然と襲い来るオークの姿があった。
エクターは背を向けて脱兎のごとく駆け出した。千切れそうなほど手足を振って、エクレール像を目指す。逃げ足には自信があったが、それでもオーク戦士を振りきれるような早さではない。二人の距離はあっという間に縮まった。
獲物を射程圏に捉えたオーク戦士が、斧を振り下ろしてエクターの後頭部を叩き割る。
「草よ草よ固くなれ!」
刹那、急に足を絡め取られたオークは勢い良く転倒した。
全力走から足を取られて、顔をしたたかに打ったオーク戦士。しばらく目眩に襲われたが、顔を振って正気に戻す。オークは鼻血を零しながら足に目をやった。見ればブーツに細い蔦が絡みついている。
「くそ! あのガキも妙な術を使うのか!」
オーク戦士は蔓を一掴みすると、それをブチブチと引き千切った。そして取り落とした斧を掴み、再び獲物を狩ろうと片膝を立てて立ち上がる。
「あのクソガキ。刺し殺す前に脇腹を噛みちぎってやる」
目を血走らせて吠えた時、その喉に深々と剣が刺し込まれた。
「が?」
オーク戦士は何事かを悟る前に、刃は容赦なく喉と鎖骨の間を貫いた。吹き出す血飛沫に、ようやくオークは事態を悟る。目を向けると、エクターがいた。
「こ、こ、このクソガキ」
口から緑の血泡をふきながら呻めいたとき、エクターは剣を抜き払い、雄叫びをあげながら横薙ぎ一閃。オークの首を半ばまで断ち切った。
エクターが剣を引き抜くと、オークはうつ伏せに倒れた。そして二度三度痙攣すると、その巨体は動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
エクターは肩で息をしながら、剣を見つめた。
緑の血に塗れた刃は、歪みも刃こぼれもしていない。エクターはそれを始めて手にするまで、剣は作り物だと思っていた。しかしそれが草木を凪ぐくらいはできる本物だと知ってから、毎日、訓練の最後に磨いていたのだ。もちろん、こんな形で使うことになるとは思わなかったが。
は、と我に返った時、あたりには雨が降っていた。
「そ、そうだ。皆を助けないと! 他の先生も、友達もまだ。マロン先生だって助かる!」
すがるような声で言って、エクターは走った。
わき目も振らず、必死に。
あの孤児たちと修道女がいた広場へ向けて。先に見たあの悲惨な光景は、まるで嘘だったと自分で否定するような気持ちを抱いて。
息を切り、足の震えを殺し、真っ白な頭でそこにたどり着く。
そしてエクターは、あまりに無残な現実を目の当たりにした。
孤児たちと修道女たちが、真っ赤になって折り重なっていた。
オークの戦士たちがそれを囲むように屈みこんで、バリバリバリ、バリバリバリ。湿った音を立てている。
マロンは、少し離れたところで倒れていた。
彼女は口から血の滴を垂れて、虚ろに空いた眼は雨空を眺めている。
そしてボーグが、まるで下品な遊びを思いついたように醜い笑みを浮かべて、今彼女にのしかかろうとしていた。
エクターはそれで弾かれたように飛び出した。
許せなかった。
友達を、家族を、みな殺しにした魔物が許せなかった。しかしそれ以上に、傷ついたマロンの上に、あんな醜悪な化け物が重なろうとしている、それがどうしようもなく許せなかった。
何者かの突進に気付いたボーグが、マロンから目を向ける。そこにエクターの一閃が振り下ろされた。
がしりと、あっさり彼の一撃は受け止められた。分厚い手が、彼の手首ごと握る形で。
「……その剣。お前、俺様の部下を殺したのか」
未だ緑の血を滴らせる刃に目を細めると、ボーグは躊躇いなくエクターの手首を握りつぶした。
ばきり。
エクターは骨の砕ける感触を知る前に、人形のように放り投げられた。
浮遊感。何回転もする視界。エクターはそして、地面に叩きつけられた。
身体を打つ衝撃の後、手首の砕かれた痛みと、地面に激突した窒息感に襲われる。こみ上げて来た嘔吐感に身をよじると、口から血の咳が出た。
意識がじわっと遠退き、体の感覚が鈍くなる。雨の冷たさどころか、痛みも曖昧になった。
霞む視界のなか、ボーグが近付いてくるのが見える。手に握られたヘビーソードは赤く染まっている。ボーグはあれで修道女長のマローリを殺し、そしてその後に友達を殺したのだ。
――許せない……!
激情が彼の意識を再び覚醒させる。しかし身体は言うことを聞かなかった。
「ブグゥ。妙なガキだな。なぜ泣かん? なぜ怯えん? そもそもなぜ隠れていなかった? 息を殺して影にいれば、助かったかもしれんぞ」
言いながら、ボーグは大きな足でエクターの背中を踏みつける。大した力をかけることもなく、メキメキと肋の砕ける音がした。
エクターが呻くと、口からは声の代わりに血が溢れる。しかしその目は、ボーグの方を射抜くように見ていた。
「狂犬のようなガキだな。その殺意はなんだ? んん? 敵討か? いいだろう、誰の敵がうちたい?」
ボーグは足をのけると、エクターの襟首を摘んで持ち上げ、広場の無残な遺骸を見せつけた。
エクターの目に映る、血にまみれた孤児たち。修道女たち。みな悲しい顔をしていた。中にはオークの戦士に食い荒らされて、面影のわからないものもいる。
彼はしかし、その誰でもなくマロンを見ていた。まっすぐに、じっと。何故なら、あのとき彼女は生きていたから。自分の方を見て、剣を手にしろと、確かに訴えていたから。エクターは必死に目をこらす。しかし視界はかすんで、彼女が生きているのか判断がつかなかった。
「……あのエルフの女か。ふん」
エクターの視線からマロンにあたりをつけて、ボーグはエクターを彼女の元に放り投げた。
地面に落下したとき、左足の折れる音をエクターは聞いた。しかし痛みはなかった。身体の感覚がない。それでも彼は、這いつくばってマロンの傍による。
かすむ視界でもなんとか彼女の顔が分かる距離まで来ると、まだマロンには息があることが分かった。彼女の口が弱々しく動く。
「……クター。手……を」
エクターは何かを言われたが、それを理解するよりも先に、マロンは彼の手に自身の手を重ねた。雨のせいか、彼女の手は氷のように冷えていた。
マロンは口の中の血を飲み込むと、静かに呪文を唱える。
「草よ……木よ……。かの……ものに……命を」
言い終えると、エクターの周囲でサワサワと草の鳴る音がした。するとみるみるうちに、エクターの周りの草が枯れていく。
まるで命の早送りを見ているかのような光景。エクターを中心として、円が広がっていくように草が命を終えて、茶色に萎れていく。そしてそれとは逆に、エクターの感覚はどんどんと鋭さを取り戻していった。
――手が、動く。
ボーグに握りつぶされて、歪な形に崩れていた手首が、まるで時間を巻き戻すかのように戻っていく。そして刺すような痛みを訴えていた肋も、足も、まるでウソみたいに痛みが取り払われていった。
「……先生!」
エクターは跳ね起きて、マロンにすがる。オークの戦士たちはどよめき、ボーグも近づく足を止めた。エクターは周囲など構わず、マロンに呼びかける。
「マロン先生! しっかり! しっかりしてください! そ、そうださっきの魔法を俺に教えてください! 必ず成功させて先生を元気にします! お願いです! 先生!」
言いながら、エクターは涙をこぼした。呼びかけても、肩を揺すっても、もうマロンは瞬き一つしなくなっていたから。
彼女は死んでいた。
エクターは泣いた。泣きながら己を責めた。どうして自分は魔法の修業をおろそかにしたのか。なぜもっと熱心に、マロンが教えてくれた森の魔法に取り組まなかったのか。あと数小節を学んでいれば、治癒の魔法を覚えられたではないか。どうして拘束の魔法を学んだ時点で、彼女の言いつけをさぼってしまったのだ。
「……マロン……先生。……なさい」
おえつ交じりに声を絞り出したとき、エクターの目に剣がうつった。ボーグに手首を潰され、二度投げられても、彼はそれを離さないでいた。雨に洗われたそれは、オークの血を洗い流して、鏡面のような輝きを放っている。
それが、いまの彼に何をすべきかを教えてくれた。
エクターは立ち上がる。
マロンの亡骸を背にして、剣を構える。
その姿に、オークの戦士たちは警戒した。
「思っていたより、人間は愚からしいな」
ボーグは唸った。
「人間は天界にも魔界にも暮らすと聞いていたから、もう少し要領の良い奴だと思っていたぞ。……ガキ、どうやって傷を治したか知らんが。これだけのオーク戦士を相手に戦えるのか」
それは確かに、ボーグの言う通りだった。今のエクターでは、オークの戦士一人であっても勝ち目は薄いだろう。それなのにこれだけの数がいて、しかもヘビーオークまでいるとなれば、万に一つも勝機はない。
「お前たちは一匹も生きて返さない!」
エクターは吠えた。
絶対に逃げない。
戦う。
何故なら、あのときマロンは逃げろと言わなかったから。途切れそうな命をつないで、彼女がエクターに言ったのは『剣を取れ』だったから。
その真意は今となっては分からない。
けど、たとえ無駄死にすることになろうとも、
それが先生の最期の意志なら、己は貫き通す。
そしてエクターは、この戦いを、マロンが生涯に渡って信仰し続けた大天使に捧げる。彼は目を閉じて、剣を天高く掲げた。
「天にまします聖なる雷、大天使エクレール様。今宵、多くの信徒が貴方の御許に参ります。どうか彼女たちに慈愛と祝福を。そしてどうか、貴方に仇なす不浄の者どもを裁く力を、この私にお与え下さい」
静かな祈り。切実な願い。
それが果たして天に届いたのか、それともただの偶然なのか。突如、天を割るような轟音を伴って、蒼い稲妻がエクターに駆け下りてきた。
ブクマありがとうございます。