拾伍章─大丈夫だよ、気にすんな─
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前作の単語、結構出てきます。
まだ読んでないなら先にお読みになった方が、いいかと思われます。
聡「ち、ちなみに、この男のどこを気に入られたので…?」
アレシア「特に?」
アレシアは平然と答える。
やはり政略だ。
優「ホント、おっそろしい女だぜ。」
宰「…ま、結婚などなさらぬことですね。」
健「………」
優「なっ、健!」
健「……………」
明「ん、どした、健。」
健「ん、あ、いや、何でもねぇって。」
宰「桜さんのことをお考えになっていたのでしょう。
ですが健様、これだけは申しておきます。いや、申しておかねばなりません。
見てくれに惑わされ、冷静さを欠いたり、本心を揺るがせてはなりませんよ。あなたは老婆様から、それを散々、教わってきたのでは?」
健「…大丈夫だよ、気にすんな。」
健は一人、案内された自分の部屋のベランダに居た。
優「『大丈夫だよ、気にすんな。』か。」
健「!!!」
優「お前らしくねぇぞ。凹んじまって。」
健「何でお前がここにいんだよ。」
優「鍵、開いてたからな。」
健「何の用だ。」
優「あれ、自分に向けた言葉だったんだろ?」
健「…何が?」
優「惚けんなよ。3ヶ月も一緒にいりゃ、単純なお前の事なんて、とうに分かってるって。」
健「…当たり前、だったんだよな。桜といるのが。朝起きるときも、飯食うときも、学校行くときも、学校にいるときも、家に帰るときも、夜寝るときも、合宿の時も。
でもそれは、当たり前であって、当たり前じゃなかった。」
優「…」
健「いきなりいなくなると、心配になるんだよ。あいつ、怒ったら本当に強い。本当に。
だけど、本当に強いけど、弱いんだ。」
優「………」
健「だから俺が護ってやらなくちゃならない。そう誓ったのにっ!」
健は悔しそうに、そして自分に腹を立てているような表情で、拳でベランダの柵を叩く。
優「『守衛・血』。覚えてるか?」
健「…あぁ、あの『使徒神殿』のか。」
優「あいつが言ってた。
お前は、桜のこととなると、冷静さを欠き、精神的に弱くなるって。」
健「…バーカ」
優「はぁ?」
健「俺はいっつも、強くなんかねぇよ。」
いつのまにか辺りは暗くなり、空には星が光っていた。
星空はいつもと全く変わらず、輝きを放っていた─
「おっはよーぅ!朝だよーぅ!」
─飛び起きた。
ビックリした。超ビックリした。
心臓が飛び出るかと思った。
少なくともこの島に来てから、準は誰かに起こしてもらったことなどない。
しかも上は知らない(しかも超豪華な)天井、そしてさらに目の前にはにっこり笑う美─
美少女ォ!?
そんな筈はない。今まで準は、自分の人生の中で、ここまでの美少女に起こしに来てもらう記憶などない。あるとしても中学の同級生だった─
準「何だ白山か。ビックリさせんなよ。」
やっと思い出した。昨日中学の同級生、白山 純が転校してきて、俺を『キモヲタ』と呼んだ男どもをボコし、学校を案内させられ、劇コワ市長が校長を怒鳴り付けている場面を盗み聞きし、挙げ句の果てには準の寮の一室に『泊めて』と上目遣いで迫られ、疑問に思って白山の家まで来たところ、超シビアだった上に辺りが暗くなってしまったので強制的に泊まる羽目になってしまったことを。
純「植原さんが、朝食の用意が出来たから起こさなきゃって言ってたから、代わりに私が起こしに来ちゃった。」
植原 仁。ここの執事長である。
準「ってか、その体勢、ヤバくね?」
純は布団の上に乗っていた。
このままでは、フラグ的な展開が─
純「じゃあ先行ってるねぇ!」
来なかった。3%くらいは期待してたんだけど。
ドアが閉まる。
はぁ…この俺にはもう、一生フラグはやってこないんじゃないか。非リアから見りゃもう結構幸せだけど。
そんなことを考えながらベッド脇のテーブルを見る。すると─
執事長室の内線番号の下に、見たことのない、この世に存在しない番号が走り書きされていた─




