目薬が私に及ぼした影響
「なんにしてもとりあえずこれで終わりだ。ほら立てよ」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
私は清々しい気分でお兄ちゃんに感謝の意を表す。
「この恩は一生忘れないから」
「そうか。妹よ、また来いよ」
「嫌だよ」
なんでお兄ちゃんにわざわざ会わなきゃならんのだ。
「お前いっつも休日は俺の部屋にいるよな⁉︎」
「……別にただの偶然だし」
そう偶然。だって私、無意識だし。
「それに友達と買い物行ったりもするよ」
「せやな、またにな。いつもは俺と行くよな」
もう、ああいえばこう言う。
「とにかく今は戻るからっ」
「わかったよ、目が疲れたら言えよな、またさしてやるから」
「また?」
「目薬の効果は永久的じゃないし、お前自分じゃ目薬させないだろ」
OTZ
うっかりしてたわ〜〜、そうじゃん効き目今だけじゃん。私一人じゃさせないじゃん。
そうだ、お母さんに頼もう…………いや、だめだ。あの人やたらの天然だから『目薬さして〜〜』なんて言ってら眼球ブスッだぞ。
それじゃあお父さん……は臭いから無理。
「あとお前に頼みがあるんだが」
「頼み?」
「ああ、さっき俺に『この恩は一生忘れないから』って言ったよな。だったら今回コスプレをしてもらいたい」
「なんの?」
とりあえず聞いてみる。
「バニーガール」
「嫌」
「恩は?」
「…………くっ」
またしても墓穴か。もうやだよ。
「まあまあ、目薬係りを買って出たんだ、そのくらいいいだろ」
はあ……私が目薬をさせないばっかりに……
「わかったよ、お兄ちゃん。で、いつ着るの?」
「今週の日曜日だ。大学の友達にカメラ好きの奴いるからそいつから借りてくる」
「ちょっ……ちょっと⁉︎ 写真撮るの⁉︎」
「ああ、そしてコミケで売って、金儲けだ」
「……そのお金は、私にも入る?」
「もちろん」
写真撮られるだけでお金がもらえるんだから安いもんだ。ちょっと衣装が恥ずかしいだけじゃん。
と、私はそのときは本気で思っていた。
結論からいうと、お兄ちゃんの指導キツい。
私の体そこまで曲がらないよぅ。というぐらい激しく、そして厳しく指示してくる。
おかげで写真集がかなりの反響を呼んで、私がコスプレイヤーになるなんて夢にも思わなかった。
あれからもお兄ちゃんには目薬をさしてもらっている。
目薬にはだいぶ慣れたが、まだ自分じゃさすことが出来ない。
でも、大丈夫。お兄ちゃんがいるからね。あれ、これじゃまるで私がお兄ちゃん好きみたいじゃん。違うからね? お兄ちゃんに『一生養ってやる』って言われたから仕方なくね。
お父さんにも『これからもずっと養ってやる。だから老後は優しく介護して♡』って言われたし。
それにしてもコスプレイヤーは大変だ。毎日のように自撮りの写真をネットにアップしなければならない。……だから重いな、このスマホ。
目薬が私の及ぼした影響は……ないかも。目薬がなくてもいつかお兄ちゃんに誘われてただろう。ていうかお兄ちゃんが言っていた。『別に目薬のきっかけがなくともコスプレイヤーにさせてた』と。
ただコスプレイヤーとして〝目薬が自分でさせない〟というのはポイントが高く、その点では影響というか反響を呼んだ。
目薬が私に及ぼしたのはその程度だ。
「妹よ、今度はコスプレの関係でカラコンつけようと思うんだが」
「カラコン? 殺す気?」
お読みくださりありがとうございました。