プロローグ
はじめまして、かごめと申します。
今回が初投稿です。
至らぬ点も多いかと思いますが、サボらず頑張って書いていきたいです。
さて、これはチャラ男名探偵が繰り広げる謎解きストーリーということで、今までの探偵小説にはない緩さを、楽しんでいただければと、思っております。
宜しくお願いします。
2014.2.14 かごめ
もう随分と冷え込んできた昼下がり。ピンと
張り詰めた空気の中で日の光だけがやけに真っ直ぐに差し込まれていた。
私は先程までの仕事のために外していた眼鏡をかける。急にはっきりした視界に思わず目が眩んだ。
ぎゅっと目を瞑って特有の眩みをやり過ごす。もしかしたら最近寝ていないからそろそろ身体にも来ているのかもしれない。久しぶりにあの人に仕事を任さなければいけない事態になりそうだ。私としてはそちらの方が心配なのだが背に腹は変えられない。
通りすがる女子の自分に向けられる視線と黄色い声を背に真正面にあるボロいビルに足を進める。
ぎしっ、ぎしっと危なっかしく音が鳴る鉄製の階段を踏みしめてため息をつくと、吐いた息が白く広がり消えていく。そろそろ替えた方がいいと思うんだけどなぁ。この階段いつ穴が空いてもおかしくないこの錆び付いた階段は『彼』のお気に入りで、「誰か来たって直ぐ分かる方が良いでしょー」なんて呑気な声を出した『彼』にアッパーを食らわせたのは良い思い出だ。
私は松本薫という。
ほんの少しだけ目つきが悪くて、『彼』よりもほんの10cmだけ身長が高い、ほんの少しだけ愛想の悪い女である。先程のように、どうやら私は男よりも女にモテる性質のようで。確かにそこまで顔は崩れていないと思うが何故女に、なのかは永遠のテーマである。
簡素で今にも外れそうなドアノブに鍵を差し込み、軋んだ音を立てながら少しずつ開いていくドアを乱暴に押し開ける。
「ただいま帰りました」
「おかえりぃ」
壁からひょこっと顔を覗かせた『彼』はにぃと笑みを浮かべて、こっち来てと手招きをした。
「お疲れぇ」
「はいはい、ありがとうございます」
むぎゅう、と効果音が付けられそうな『彼』からのハグは最早任務後の恒例となっていて、最初は戸惑っていた私も時を経るうちにすっかり慣れてしまった。
「…長いです」
「良いではないかぁ」
ホールドした腕の力をさらに強めて肩口に頭をぐりぐりと擦りつけてくる。その度に少し痛んだ髪がふわふわと首のあたりを擽って何ともむず痒い。
しばらくされるがままになっていると、満足したのか伏し目がちの垂れ目がふにゃりと細まった。
「菫ちゃんおかえり、もう少しでおやつの時間だよ」
「私はコーヒーが良いです」
「紅茶も美味しいのにぃ…」
今日はアップルパイ焼いたよぉ、と言って彼はぱたぱたと簡易キッチンへ走って行った。
またピアス、開けたのか。
もう開ける場所なんてないと思っていたがピアスを開ける場所はまだまだあるようで、『彼』の耳は点々と穴が空いており、それを埋めるように銀を基調とした装飾品はつけられていた。
女顔寄りの整った顔立ち、ぱっちりと睫毛の長い二重の瞳、薄い身体、肌は全体的に白く透き通っており、明るい茶髪に染められた髪は傷んでいてちょっとパサパサしてる。
『彼』は限りなくニートに近い、女子力チートチャラ男なのである。
「うー…目がしぱしぱする」
「寝不足はお肌の大敵だよ?」
はい、と置かれたコーヒーはインスタントだが、それでもコーヒーの匂いとほろ苦い味は健在なので良しとする。
「あったまる…」
「随分と外も寒くなってきたみたいだね」
そう言って置かれたアップルパイはまだ湯気が出ていて甘酸っぱい林檎とシナモンの香りが漂い、パイ生地も黄金色に光っていて食欲が誘われる。
「菫ちゃん美味しい?」
「私がアップルパイ好きって知ってるでしょう」
「うん、その上で。美味しい?」
「……美味しいですよ、貴方の作るアップルパイが一番だと思います」
「……そ、そっか」
「……ちょっと、本気で照れないでください」
「いや、えっと、菫ちゃん男前で惚れそう」
「嬉しくないです」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!はいそこの二人何いちゃいちゃしてるんですかねぇこの天下のタマちゃんの前での男女のいちゃいちゃは断じて許しませんよ真昼間にこんな私みたいな可愛い女の子の前でなんて不健全なことをしてるんですかやるなら他所でやりなさい何でそんな甘いムード垂れ流してるんですか心無しか甘ーい匂いもするし…甘い匂い?
類さんのアップルパイじゃないですかぁ!頂きまーす!」
風のように素早くテーブルに腰掛けて手を合わせたかと思うと、彼女は私の目の前のお皿にあったアップルパイにかぶりついた。
「…珠紀ちゃんただいま」
「ほはえひなはい、んく、タマちゃんって呼んでって」
「…タマちゃん、それ私のアップルパイ」
「ありゃ、ごめんなさーい」
こてんと招き猫のように首を傾げ、てへぺろを見事に決めたタマちゃんこと、珠紀さんは同じくここで働いている。働いているといっても『彼』同様殆ど働いてないに等しいが。
彼女はまるで猫のようで、くりくりとした目が印象的である。
くるんと内側にカールしたツインテールは色素が薄く、日光に反射すると飴色に透き通るようなその髪が私は好きだった。
「薫ちゃん、例のアレ。買ってきてくれました?」
「あ、これです」
「やっぱり表紙はこれですよね!
まさかこんな温厚そうで汚職とは縁遠そうな知事が汚職事件なんて意外も意外、しかも原因が博打で借金ですもんねー」
珠紀さんの趣味は過去何度も芸能人や政治家の衝撃的なスクープを出してきたことで有名な『週刊 カインド』の収集。「女の子は流行に敏感でなきゃ」と見事なウインクを添えられたその言葉は、少し間違ってると思うけど。
「またそんなの読んでるの?」
「またとは何ですか!こんなに刺激的な週刊誌他にないですよ」
「もっと刺激的な現場、タマちゃんも見てるでしょぉ」
「私は客観的な面から刺激的なものを感じたいのであって、巻き込まれるのはあんまり好きじゃないんですよー」
そう言って数々のゴシップが広がる週刊誌を見て陶酔したかのようなうっとりとした表情を浮かべる珠紀さんに寒気を覚えながら『彼』を見る。女も真っ青なほどに華奢な身体は脂肪も筋肉も乗っていないようにさえ見える。
「……ひょろいですよね」
「うっ、これでも結構食べて腹筋とかしてるんだけどね……でも絶対守るよ。だって」
「俺の周りは誰一人死なせたりしない、でしょ」
「当たり。だけど、いやそのために俺は『名探偵』であり続けるよ」
ふわりと笑う笑顔の裏に、一体何が隠されているのやら。
「……分かってますよ、『糸杉』さん。貴方が名探偵である限り、私は『名助手』であり続けます」
「それでこそ薫ちゃんだね」
「うるさいです」
『彼』、『糸杉類』は限りなくニートに近い、どうしようもない女子力チートチャラ男。
そして彼の職業は、『名探偵』なのである。




