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守護者  作者:
メッセンジャー
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ミリー

翌日リックは部隊の異動や自身の書類手続きをする為に司令部の事務フロアーに顔を出した。


「よう、リックもう出られたのか」


「昨日な、辞令書と装備リストきてるかい?ディンキー」


カウンター越しにコーヒーと煙草を事務官に渡すリック、いつもこうやって追加情報を貰うのだ。

カンプグルッペ小隊は任務によって乗艦がよく変わるので辞令書も含めて装備受け取り証等のリストはここで貰う。


「これだ、まだ六隻しか決まってないけど今度の第16艦隊は凄いぞ」


手渡された編成表の名簿を見て「ほう」と声を上げるリック、やはりフォレスト少佐が中佐に昇進してブランデンブルグの艦長になっている。

「ヴィーキング」のハイマン大佐、「ナルビク」のホルスト大佐、「ホーエンローエ」のメイスン大佐もいる、クルーザー乗りの層々たる顔ぶれであり、どの艦長も戦隊指揮官クラスだ。

メイスン大佐はフューゲル号の時の戦隊指揮官なのでよく知っている、強面の顔に似合わない細心さと閃くようなアイディアを出す指揮ぶりに、リーダーとはこうあるべきだとリックの理想としている艦長だ。

他の二人は知らない名前の中佐だ、今回の昇進組だろう。


「な、笑えるだろ?」


「まるで動物園だね」


ハイマン大佐は「ブルファイト(闘牛)」、ホルスト大佐は「イーグル」の渾名がある、メイスン大佐は「バーニング」だが、風貌は虎に近いものがある。


「今度こそ中隊長だな、しばらくは大人しくしておけよ」


ハイガードの中隊長とは他の軍と違って特別な意味を持つ、艦船勤務からスタートしてカンプグルッペ小隊を経験しない士官も多いが中隊規模が100人前後と少ないだけあって「百人隊長」と呼ばれる。

兵卒からスタートした者の行き着く先だと考えられがちだがカンプグルッペの中隊長になれるものは能力が限定される、指揮官の資質が無くて成れぬ者も多い。


「運みたいなものさ」


部下を選ぶ事はあっても上官は選べない。


「ムーア准将もそうだが第16艦隊の艦長クラスは全員カンプグルッペあがりだからな、下手な事するとその場で叩っ殺されるぜ」


総じてカンプグルッペ上がりの士官は気が荒い、常に戦闘の最前線に立つ事に加え、しない士官も多いが酒場での艦や隊同士のいざこざが元で上官の代理決闘の慣習がある、勿論素手の殴り合いだが、憲兵隊も代理決闘はトラブルの最上の解決法だと考えているから店の訴えがない限り出て来ない。

リックは代理決闘の常連だから小隊経験者の士官の荒っぽさを一番よく知っている。


「そうだな、気をつけるよ」


「本当かよ」と笑うディンキーに対し笑って帰るリック。


リックはヤードで装備の受け渡しを終わらせた後に近くの公園のベンチで煙草を吸いながら貰ったリストを見ている、小隊が仮泊しているヤードの宿舎でもいいのだが、あそこだと前回の騒ぎの質問攻めで落ち着かない、考え事をする時はいつもここだ。


名簿を改めてみると各艦隊から引っこ抜いたとは言え中尉以下は殆どハイガードに入って数年と言うものばかりだ、准尉も多い。

カンプグルッペは歴戦の中隊長の名もあるが知らない名前のほうが多い、人事担当者は苦労したことだろう。


ハイガードの艦隊編成は人材育成を第一とする、戦争は始まってないとは言え戦闘スキルの継承をするには適度な経験者と未経験者の組み合わせを異動と言う形で続けていく、そして士官は部下の能力を測り公平に経験の場を与えて練度の底上げをする。


士官は部下の能力と信用を測る計測器でなければならない、昇進の基準にもなるからだ。

そしてハイガードのマイスターはその「士官」を計測して修正する者だ、人は心掛け次第で計測器として誤差が出る、最悪の場合は公私混同で機能しなくなる。

マイスターは口頭で修正を加えるが強権を行使する事もある、羨望の目で見られる「マイスター持ち」は巷で言われるエリートとは違うのだ。


「ならマイスターの選択基準は何だ?」


ここでいつも突き当たる疑問が沸いて止まってしまう、父のニックもマイスター所持者だがリックにはどうして自分がマイスターになったのか判らない。

リックはいつもこの命題をありきたりな父の影響として考えるしかなかった。


思考が止まったリックの眼の先に砂場が見える、子供達が砂遊びをしている。

母親の集団達が子供達に声をかけて去っていく、女の子が一人だけ残った、まだ5.6歳くらいだろうか。

リックは砂遊びをしていた頃と異父妹を思い出していた、8歳離れた妹の遊び相手に砂場は格好の場所であり、自分も母が帰ってくるまで一人でやっていたものだった。

女の子に話し掛けるリック。


「どこの建物を作ってるんだい?」


「あそこ」


ハイガードの建物を指差す女の子、一人で作る時は誰しも同じ事を考えるものだろうか、自分もよく近場に見える建物を似せて作ったものだ。


「俺はリック、名前は?」


「ミリー」


「ミリー、ちょっとごめんよ」


ミリーを抱きかかえて、自分の肩に乗せるリック。


「これならよく見えるだろ」


「うん」


「もうちょっとこっち寄って」


ミリーに合わせて移動するリックだが、ミリーは砂遊びを忘れてリックをあちこち引き回す。

自分が子供を持つなら女の子がいいなと思いながらも、その場から遠くに離れないように気をつけるリック。

母親が来るかもしれない、ハイガードの制服を着ているとは言え変態扱いは御免だ。


「もう時間だから帰るね」


「そうか、またここで会おうな」


「うん、またね」


ミリーと別れたリックはとっくにマイスターの事など忘れていた。



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