Let's Dance
リックはその時17階の階段前で指揮中だった、一度は止んだ敵の勢いだったが10分と立たないうちに再戦になっている、判っている範囲でも乗り込んだビートルの数は400に達している、強襲艇のピストン輸送があるからだ。
所々で仕掛けた爆薬が炸裂してビートル達をなぎ倒すが、爆薬を恐れて敵はスモークから飛び込んでくる、敵も馬鹿じゃない、リック達はビートルを倒すのに関節部への射撃か白兵戦で押さえ込んでいる。
グレネードを打ち込んでから突撃してくるビートル、リックの至近距離に爆発が起きる、壁に叩きつけられたリックは目の前にアクロイド中尉が倒れているのを見た。
リックはバイザー内で浮かび上がるメディカルチェックを確認した、アクロイド中尉に外傷は見られない。
(よかった、気を失ってるだけか)
「アレン!下がる用意をしろ、ジョニーとアデーレはラインを維持だ、
バレットはブラスター以外はフォワード(前衛部)支援だ!
ケリー!そっちはどれくらいきてる?!」
リックは後部で陣取っているケリー小隊とアーネット小隊の様子を聞いた。
「まだ40程度ですがスモークが切れそうです!」
11階後方にいるケリー中尉達の敵の数が40なら1個中隊は集まる筈だと踏んだリックはレシーバーでカーライル大尉に叫ぶ。
「ドーラー1よりアテナへ、後部に応援か退却を頼む!
スモークが切れそうだ!」
リックの中隊は二手に分かれていた、カーライル大尉に早めに退却を請う。
「アテナよりドーラーとチタデレへ、15階へ退却を、そこでスモークを用意してるわ」
「全ドーラー、15階へ移動する、前列から引け!
バックスにブラスター使い残せよ!」
「チタデレ側は敵戦力30だがレーザーが見えてきたぞ!」
リックはアクロイド中尉を敵の死角へ引きずりながら戦況を見守る、敵のグレネード射撃はスモークで回数が減ったが、レーザーライフル主体の攻撃に切り替えてきたのがわかる。
エリザベスは管制ルームの外が騒がしくなっているの感じた、「装備を外せ」と声が聞こえる、負傷兵が担ぎこまれているようだ。
「エイミー、シェリー、ローラ」
友の名前を呼んで集まった四人、三人に耳打ちをするエリザベス。
エリザベスの怪しげな行動に目を留めたムーア少佐は
「何してるの?」
エリザベスが答える前に三人がその場から去る
「私達には救護の心得があります、外の人の手伝いをしますね」
目をぱちくりするムーア少佐だが
「いいわ、でも声を掛けられる範囲にいてね」
「はい、手間は取らせません」
エリザベスも外に出て行った。
(あれで18歳とはねえ)
エリザベスは地球滞在時に護衛していたイギリス海兵隊の人間から医療キットの使い方や、外傷時の心得などを教わっていた、仲間がいつテロの凶行に倒れるか判らなかったからだ。
カーライル大尉は3次元ホロに移る船内部屋割り図を見ている、黄色がKゾーン、赤が交戦区域、青が敵制圧区画だ。
青いゾーンが後方から前部にかけて貫通しつつある、既にブリッジは制圧されている。
モニターには前部客室層から進入してきたビートル達が隔壁を破るのに成功して突入し始めた。
リックの中隊はリタイアカウント3割と多くなってきている、カーライル大尉は何らかの決断を迫られている。
(シュテファン大尉のベアーを投入すべきか?、それともモール隊を一部使うべきか)
シュテファン大尉は前部客室層の最下層にいる、4階から11階まで中部甲板層に貫くミュージアムパークでの大舞台での後方強襲用にとっておいていたのだ。
ミュージアムパークは遊園地や公園となっており、最後に敵を引き付けるのに格好の場所だ。
敵の指揮官には出血させながらも作戦がうまくいってると思わせねばならないと考えたカーライル大尉は発令した。
「アテナより全ガードへ、ディフェンスコンディションレベル2に移行します
チタデレは13F、ドーラーは11Fで展開、アーチャーは希望の樹周辺でドーラー支援の銃座を確保」
ディフェンスコンディションレベル2はパーク部への敵の封じ込め作戦の準備段階である。
「敵が入り込んできた区画は即座に爆破よ」
四階の客室船層で陣取っているベアー隊のシュテファン大尉は部下を静めるために命じた。
「タバコ吸いたい奴は今のうちに吸っとけ、あと10分は出番無しだ」
熊達は空腹状態だ。
管制ルームの外へ運ばれてくる負傷兵達は多くが気絶した状態で骨折か出血している状態だ。
エリザベス達は看護兵の代わりに二人一組で負傷兵を受け取り、運んできた兵達が直ぐに戻れるようにしている。
負傷兵の装備を剥がすか止血をして医者の判断待ちを待っている間に、応急処置の終わった兵の寝かせ付けまでやる。
意識を取り戻した兵達は目の前にエリザベスを見つけた途端に装備をつけ始める。
左手足を骨折して処置済みの顔見知りの兵が装備を付けているのを見たエリザベスは
「まだ動いたら駄目ですよ」
「仕事さ、まだ大尉達が頑張ってるんだ」
兵士は笑って装備を付け、足を引きずりながら前線に戻ろうとする、エリザベスが見回すと他でも動ける兵は装備を付け始めている。
エリザベスは自分がこの場にいてもいいものだろうかと思いながらも、目の前に運ばれてくる負傷兵達への受け取り作業に向かっていった。