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守護者  作者:
メッセンジャー
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ゴールデン・シープ

ゴールデン・シープ(黄金羊)は丸テーブルを多数置いたレストランだ、高台にあって眺めがよいのでハイガード軍関係者の食事のみならず民間人のデートコースにもなっている。


小隊復帰を祝ってリックは小隊全員でゴールデン・シープに繰り出した、まずは飯だ。

テーブルについたサカキ軍曹はリックにニヤッと笑いながら


「まだ入院中だそうですけどキム大尉は除隊願いを出したそうですよ」


当然だろう、リックも降格になったが定時昇級で追い抜かれるのは時間の問題だ。


「さすがの大将も年貢の納め時だと悟ったようだな」


「そりゃあ、機関長相手に立場が逆転するから怖くなっての敵前逃亡でしょう」


「愚かな奴さ、喧嘩売る相手の反撃能力も予測できないんだからな」


「軍法会議となってハラハラしましたけど無事に隊長が戻ってこれて良かったです・・・」 


リックのテーブルには古参のアレン伍長、ベケット伍長等が座って言いたい放題に言っていたがフィンケ伍長の漏らした言葉にリックは話題を変えようとした、彼女は格闘戦のスペシャリストだが泣き上戸だからだ。


「そういえば今度乗る艦の艦長の名前は聞けなかったな」


あの306号室の会見では乗艦の名前は聞いていたが、まだ内定段階らしく艦長は決まっていなかったようだ。


「山賊の溜り場はこちらかしら?」


その聞き覚えのある声でリックは即座に起立をして敬礼した、他の小隊員達も一斉に敬礼をする。


「カーライル大尉!いつ帰還されたのですか?」


カーライル大尉は前の作戦で一緒だった、「ライムント」でリック達のオペレーション・チーフだった、そしてフォレスト少佐と同期でもある。


「ヘレンでいいのよ、どうせ明日にはあなたは同じ大尉になるんだから」


リック達はその言葉にホロ酔い加減が醒めた、同時に小隊の面々は「ウオー!」と歓声を上げる。

ハイガードの歴史は60年あるが、たったの一ヶ月で階級が三回変わるのは前代未聞の事だ。

同時にキム大尉は哀れである、職権乱用に対し上層部は職権を以って意思表示したのだから。


「今更だけど、自分の階級の確認はしておいてよ?」


いたずらっぽく笑うカーライル大尉だが、その仕草にリックは「いつ見ても大人の女だ」と唸らせられる。

女性の資質は外見だけでなく仕草や言動も併せて見てこそとリックは思っている。


「司令部ではそんな事一言も言われませんでしたよ、他に何か聞いてますでしょうか?」


カーライル大尉は情報部に親友がいるので地獄耳だ、しょっちゅう情報部から彼女宛にメッセージが流れているのをリックも見てきている。


「その前に紹介させて頂戴、後ろの雀達がせっついてうるさいんだから」


カーライル大尉の後ろでは興味津々の眼でこちらを窺う女性仕官が3人いる、カーライル大尉と同じ艦のオペレータ達であろう。


「彼があのランダース中尉よ、こちらはエッセン中尉とカレル少尉、その後ろがディーケ少尉よ」


「あのランダース中尉」という言葉が何の件をさしているのか察しがつくのでやれやれと聞き流すリックだがこの言葉で周囲の視線を感じる、

ハイガードの制服が多い。ここはハイガード軍関係者がよく来る店なので艦隊中の人間に見られているようで何とも具合が悪い。


リック達が話している間に小隊の面々が大急ぎで持ってくる椅子に彼女達は礼を言いながら座っていく。


「また派手にやったものね、航行中はベルマー艦長もみんな官報サイトに噛じり付きだったわよ」


「騎士十字賞授与のあとの軍法会議ですからねー、みんな一体何があったんだと大尉に聞きにきてましたもんね」


「憲兵本部の友達から聞きましたけど、何かいい知恵はないかと大騒ぎだったみたいですよ」


「私もあのキム大尉にはせまられそうになったのよねー、うまく逃げたけど」


「最初から殴りにいったって本当なんですか?」


カーライル大尉の話と同時に一斉に喋りだす女性士官達、こんな上官を持つと部下もこうなるのかとリックは思う。

勢いに呑まれるリック達を他のテーブルの隊員たちはニヤニヤしながら様子を見守り、他の客は聞き耳を立てている。

今回の事件を一通り話し終えてからカーライル大尉は聴いてきた。


「リックはどの艦に乗るのかしら?」


新設される艦隊の編成で衛星軌道上のハイガード軍は艦船でごった返しになっている、町はちょっとした特需景気だ。

リックが小隊ごと異動になる事は先刻御承知らしいが、さすがに彼女が知らないところを見ると編成中の真っ只中である事が判る。


「確かブランデンブルグだったかな、新造艦でクルーザー(巡洋艦)らしいです」


艦名を聞いたカーライル大尉は低く口笛を吹いた、女性仕官達は聞き逃すまいとお喋りを止め、サカキ達は訝しげに見ている。


「どうしたんですか?」


「あなた、知らないの?」


カーライル大尉は意外そうな顔つきでリックを見る。

リックの知ってるか?の目線に「全然」と言う素振りで返すサカキ軍曹。ため息をついてからカーライル大尉は言う。


「ブランデンブルグはあなたのお父さんが最後に乗っていた艦名よ」


何とも言えない一瞬の沈黙の後にカーライル大尉は続ける。


「きっとお偉方はあなたのお父さんを忘れられなかったのね、あの船はハーデルで沈んでるもの」


リックの父がハイガードの人間であった事は小隊内で周知の事だ、しかしそれはタブーになっていた。

リックは顔も知らない父の事を深く知ろうとは思わなかった、まだリック・ベイカーの名前の時に母から言われたのは、


「ハイガードに入る時はランダースの性を使いなさい、それがお前の身を守ります」


あの時の母の口にした言葉と顔を今でも覚えている、薄々とは判っていたが父がハイガードにいた事とマイスターである事をはっきり知ったのは、士官学校卒業時にマイスターを取得した時が初めてだった。

マイスター取得は父の存在が影響していたのは間違いないと思っていた、父の声望でマイスターになったと思われるのが嫌で父の事に関しては深く知ろうとは思わなかった、隊内でも当然のこととして皆興味はあっても口にしなかった。


「艦長は誰でしょう?」


リックは尋ねてみた、自分の父の乗艦よりその事のほうが気になる。

カーライル大尉はちょっと困ったような顔をして呟いた。


「エリスよ」


カーライル大尉の言葉は予想通りだった、それであの場にフォレスト少佐がいたのが頷ける、カーライル大尉が躊躇うのはまだ公にできないのだろう。


「私達もその艦に乗る事になってるわ、宜しくね」


ウインクしてくるカーライル大尉、サカキ軍曹はリックに耳打ちする。


「何だか、ハイガード中の綺麗どこが集まるような感じですね」


リックは別の事を考えていた、フォレスト少佐の名を聞いた時リックは戦時編成だと直感した。

フォレスト少佐はフリゲート艦「バウンティ」号の副長だったはずだ、通常なら次の昇進は駆逐艦の艦長か戦列艦の副長クラスのはずだが、大量に人員が必要となる戦時編成は各艦の年齢層を一気に下げる、20代での巡洋艦の艦長なら過去の大戦時に前例があるからだ。


戦時編成を外部に知られないために非公開扱いにしているのか、新設された第16艦隊は何のために作られたのか、喧騒の中で嫌な予感はしてもそれが何故なのか判らない、リックは予感の答えを見出そうとしていた。

そんなリックをカーライル大尉は量るような視線で見ている。


戦争は始まっていない、しかし既に国家間の謀略戦は始まっていた・・・。




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