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守護者  作者:
メッセンジャー
15/88

序列



フル装備で整列した中隊に大声で命令するリック。


「今日はフル装備で格闘戦の総当りをやる、各自終了したらこれに勝敗と終了時間を書き込んでくれ」


リックは建物の壁に対戦クロス表を貼り付けた、総勢101人分の名前のリストが並んでいる。

フル装備での実戦ではヒートナイフを銃先につけるのですぐに決着がつくが、訓練では模擬銃でギブアップまで打撃戦が続く。

ヒートナイフは使用時間は短かいがプラズマで18000度まで達し、その青白い刃で装甲服を貫通する、

青地にクロスさせたナイフがハイガードの隊章にもなっている、元々ハイガードはカンプグルッペだけでスタートした傭兵部隊だからだ。


装甲兵のフル装備重量は20キロと重く、時間が経てば経つほど立っていても体力を消耗していく、終了時間を書き入れさせるのはリックから見れば誰が体力の底辺かを知る目的もあるが、やはり分隊毎の能力が知りたい。


あちこちで組み合わせが始まっていく、基本は打撃戦なので長引かないように直径10mの円の中でやって円から出たら負けとした。

心得の無い者は長期戦となり、最初の一組目で先にバテた方のギブアップが目立った、そんな時でも10分以内でケリがつく。

バレット中尉は鬱憤を晴らすべく飛ばしている、負け無しで進んでいたが10戦目辺りから疲労でギブアップが目立つ様になってきた。


リックは全ての組み合わせを10秒以内で終わらせた。

明らかに弱い相手には自分から動いて二合目で仕留めた、リックの戦い方は足を狙うが、殆どの人間は足のガードを気にする余り下からの摺り上げで頭部か腕を狙われる。

しかしアレン伍長やフィンケ伍長等、強敵相手には誘いに乗って打ち込まれた時にギブアップした。

フィンケ伍長は首を傾げながらサカキ軍曹に耳打ちする。


「軍曹、変ですよ、大尉はわざと負けましたよ」


サカキ軍曹は察しがついている。


「体力を温存してるのさ、俺達相手には3分は掛かるからな」



リックは第四小隊の少尉相手だと戦い方を変えた、リックは相手の打ち込みは受けるだけで打ち込まず、様子を見ている。

首の辺りを突いて来た時は軽く左に避けて、台尻で右肘を打ち上げた。

相手の肘が使い物にならなくまるでリックは容赦無く同じ場所を狙い続けた、装甲服を着てても間接部は柔らかい。

闇討ちに参加しても暫くは使い物にならないように本気で打ち込む。


最後の少尉だけが体当たりをしてきたがリックも突っ込んできて跳ね飛ばした、右肘に台尻が振り下ろされる。

バレット中尉の取り巻き少尉達は3人全て同じ手でギブアップした、


昼休憩に入った頃には各小隊の戦績が相当数書き込まれていく、それに見入るリック。

やはり第四小隊の成績が悪い、意外だったのがケリー中尉の第三小隊が勝ち星が多かった、一番勝ち星が多いサカキ達がいる第一小隊の二番手に食いついていた。


アクロイド中尉はあの小兵で27勝しており対戦数も39と多い、時間の経過と共に勝ってきている。

この総当たり戦は個人の強弱や体力が判るだけでなく、ペース配分が重要なので個人の頭脳も試される。

この時間と勝敗ががリックの隊員の能力を知る重要なデータとなるであろう。


午後一番の目玉はサカキ軍曹とフィンケ伍長のカードだった、この時ばかりは他の小隊も対戦を休んで見ている。

この2人だけが2敗で並んでトップだ、2人共ケリー中尉とアクロイド中尉の防御一点張りに根を挙げてギブアップしたのだった。

動きはフィンケ伍長が早いがサカキ軍曹は殆どブロックする、リックもこのサカキ軍曹に鍛えられた、未だに5本の内2本とるのが精一杯だった。

サカキ軍曹は元々ナイフ使いだ、フィンケ伍長も小隊内で白兵戦は強いのだがフル装備の重量が加わるとサカキ軍曹からみればハエが止まるようなものだろう。


「ダメ!ギブアップ!」


5分くらい経過してフィンケ伍長は白旗を挙げた、今までサカキ軍曹と5分以上組み合って勝った事がない、体力差が出てしまう事をよく知っている。


いよいよリックとバレット中尉の対戦に組み合わせのない隊員達の目が集まる。

対照的な2人の因縁のカードだ、皆何かあるだろうと思って心配半分と好奇心の半分で見ている。


最初は睨み合いが続いていたがリックが一向に動かないので痺れを切らしたバレット中尉が打ち込む展開になった。

打ち下ろすようにして足を狙ってくるが、装甲服を着て今までの対戦による疲労で動きが遅いためリックに簡単に避けられた。

バレット中尉は横殴りを試したが、リックは避けずにガッチリと模擬銃でガードする、リックはまた受けるだけで仕掛けない。


バレット中尉はフェイントを織り交ぜながら突きや足を狙う、リックから見れば余りにも遅すぎてフェイントにもならないので、殆どリックはかすらせない。

突きを装って体当たりを試みるバレット中尉、交わされるついでに足を引っ掛けられたバレット中尉は転がった。

サカキ軍曹は腕組みしながらリック達を見ている、隣にいるアレン伍長が呟く。


「パワーも戦い方も悪くないけど」


サカキ軍曹が言葉を継ぐ。


「朝一でやるべきだったな」


午後の部になれば若いリックの方が回復力がある分有利だ、何発かはリックに当てる事が出来ただろう。


「大尉はいつまでやるんでしょね?」


困ったような顔つきで問うフィンケ伍長にサカキは表情を変えずに言う。


「気が済むまでさ」


開始して既に20分が経過している、2人共立っているのがやっとの筈だとサカキ軍曹はみている。

既に他の隊員達の組み合わせは終わっている、全員この一戦に見入っている。


バレット中尉は模擬銃の台尻で振り回すだけになっていた、しかしリックは受けるだけで打ち込まない。

ヘルメットの奥でリックの眼が光っている、バレット中尉は一振りする毎にその眼を見ながら打ち込む。

バレット中尉にはいくら打ち込んでも受け止められて光るその眼が「いつでもお前を倒せるんだぞ」と言っているように見えた。

それが彼にとって無性に腹が立ってしょうがない、今やバレット中尉の力の源はこの一事だけで奮い立たせていた。


「ウオーッ!!」


バレット中尉は肩から体当たりを噛ましてきた。

リックは避けない、模擬銃を前にして鈍い音と共に受け止めた、20cmほど後ろに下がったリック。

ウエイトは向こうが上でもパワーでは負けない、バレット中尉は力任せで押すがリックも力でグイグイと押し返す。


リックは最初からこのバレット中尉だけは力で捻じ伏せる気でいる、そのためにいつ挑戦されてもいいようにペース配分を守っていた。

リックの眼には怒りの火が灯っている、アクロイド中尉のように常に己を鍛えているのに比べ、この男は言葉だけの自己満足に浸ってそれを拡げようとしている、自己満足の結果は無知である、それは装備の扱いとこの小隊毎の勝敗が示している。


(俺の中隊で甘えは許さん)


甘えを拡げて隊の実力低下を招く者には厳しい現実を見せ付けて序列をはっきりさせるしかないと思っている。

リックに上から圧し掛かられるたバレット中尉は悔し涙を浮かべながら力尽き、組んだまま膝から崩れ落ちた。


「ギブアップです。」


バレット中尉を見下ろしていたリックは顔を上げて中隊全員に下命する。


「訓練終了だ!解散!!」


サカキ軍曹はそれを黙って見ている。



リックはあのミリーのいる公園に走っていった。


(まだいるかな?)


公園を見回したリックにミリーの姿は捉える事はできなかった。

しかし、砂場に多くの建物を模したと思われる砂の建物がこの前より数多く残されていた。

リックはそれに近寄り、一つ一つ見ていった、前に見たより精巧に作られており工夫のあとが見られる。


(元気だったんだな・・・)


リックはその場を去る時に振り返って呟いた。


「じゃあな、ミリー」



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