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守護者  作者:
メッセンジャー
1/88

ブランデンブルグ

AD-2371  ニューエセックス星系 ハーデル小惑星帯



星間護衛軍「ハイガード」重巡洋艦 「ブランデンブルグ」


ブランデンブルグに纏っている黄色のシールドの光球が無くなった、その瞬間に「ホーキンス」と「ブランデンブルグ」は同時に正面から主砲直撃を受け、直撃の衝撃でハウンド達は倒れた。


「艦橋基部と第一砲塔!直撃受けました!」


「右舷エンジン出力落ちます!」


「ホーキンス」と「ブランデンブルグ」は相打ちに見えたが「コベントリー」から右エンジンブロックに直撃を受けた分、ブランデンブルグの損害は大きかった、士官達の叫びに体を起こしたランダース艦長が叫ぶ。


「シールド張れ!」


再び光の輪に包まれる「ブランデンブルグ」、ブランデンブルグの艦内では装甲兵達が必死の消火活動をしているが被弾したジェネレーター部の破損からくる副熱効果で火が収まらない。

消火活動を指揮していたムーア少佐が部下達に叫ぶ。


「ヨハン!引き返せ! このブロックは閉鎖する!」


カンプグルッペ(装甲兵)中隊指揮官と甲板長を兼ねていたムーア少佐は消火活動中のシュテファン上等兵達の名を呼んだ、同時にレシーバーでランダース艦長に報告した。


「艦長!右エンジンブロック伝送管部周辺の隔壁閉鎖します!手がつけられません!」


「判った、そこを撤退後に真空消火する」


副長に振り返ったランダース艦長が命じる。


「エミール、取舵一杯だ、キャンベルポイントへ向かえ」


引き続き撃ってくる「コベントリー」と「ワーウイック」の砲撃を受けながら向きを変え始めた「ブランデンブルグ」だがレーダー士官の声で中断された。


「艦長!『タカオ』と『ユキカゼ』がこちらに向かっています!」


「タカオ」と「ユキカゼ」は味方の巡洋艦と駆逐艦だ。


「『タカオ』後方、距離110!敵艦10、15、20以上!」


「先頭に「チャーチル」見えます!」


「チャーチル」はイギリス軍旗艦の戦列艦だ。


「イギリス軍主力の機動部隊です!3Gで高速接近中!」


レーダー士官の悲鳴に近い報告は最早絶望的な状況である事を知らされたランダース艦長、前門の虎に後門の狼だった。

メイン画面では後方からズタズタに砲撃され、火を噴く「タカオ」が映し出される。


「タカオ、エネルギー反応ありません!」


事実上の撃沈だ、総員退艦が始まるだろう、「タカオ」の乗員と残った「ユキカゼ」だけでも救わねばならない。

どうせこの艦の船速では逃げきれない、ランダース艦長は覚悟を決めて叫ぶ。


「シールド解除!どこでもいい撃ちまくれ!」


敵の砲火を引き受けるべく黄色の輝きを無くした「ブランデンブルグ」は次々に敵の砲火を受けていく、艦首艦橋問わずに吹き飛ばされていった。

メイン画面に若い艦長の顔が映し出された、士官学校で二年後輩であるシバ艦長を見つけたランダース艦長は間髪入れずに命じる。


「ゲン!そのまま突っ切れ!」


「ブランデンブルグ」と「ユキカゼ」が交錯する、すれ違いざまにランダース艦長は発光信号が見えた、さっきの映像は音声が無かった、既に通信設備がやられたのだろう。


「シールド再展開!」


「シールド展開します!あと20秒です!」


叫んだ後に発光信号を見届けるランダース艦長。

ランダース中佐はフッと笑った、ゲンジロー・シバ少佐が何とかして感謝の意を贈ろうとして必死に命じている姿を思い浮かべた。

敵の火線に挑むかの様に「ブランデンブルグ」は斜めに回頭しながら前進した、再びシールドの光を灯した「ブランデンブルグ」は戦列艦主力のイギリス艦隊から「ユキカゼ」の盾となった。


「ホーキンスより降伏勧告です!」


「6文字送っておけ」


「アイアイサー」


続けてランダース中佐は最後の命令を発した。


「クライマックスだ、総員退艦! これより我が艦を敵艦隊に飛び込ませるぞ!」


「ブランデンブルグ」は群がってくる敵艦隊に向かって突撃していった。

ランダース艦長の命令で全ての乗組員は来るべき時が来た事を知った、即座に準備していた強襲艇や脱出艇に乗り込み始めた。


「レディファーストだ、君達も脱出しろ」


顔を強ばらせた女性士官達は敬礼をしてランダース中佐から立ち去っって行った、続いて副長のブラウアー少佐が敬礼をしながら言う。


「左舷の中央スラスター脇に脱出ポッドを残しています」


「有難う、エミール」




「ブランデンブルグ」からのキツい一発から立ち直った「ホーキンス」の艦上ではハウンド艦長が前方90キロで起こっている戦場を見つめている。

「ホーキンス」の前部の第三砲塔は生きており、射程内だったが彼には射撃命令を出す気は無かった、大勢は決したからだ、既に味方のユーラシア連合軍の艦も「ブランデンブルグ」への砲撃に加わっている。


(シールドを持ってるとは言え、あの一斉射撃では持ちこたえられまい)


「ブランデンブルグより返信です!」


「・・・」


口篭った通信士官を見たハウンド艦長はスクリーンに向き直して笑って言う。


「構わん、言え」


「Fuck it(糞っくらえ)です・・・」


ハウンド艦長は降伏勧告の拒否を最初から予想していた、さっきのハイガードの駆逐艦はまだキャンベルポイントまで到達していない、ここまで来てブランデンブルグは最後の義務を果たさない筈が無い。

自分でもそうするだろう、だが降伏勧告を送らずにはいられなかった。


「ブランデンブルグが退艦し始めました!」


「ホーキンス」の艦橋の大画面にはシールドを張ったままの「ブランデンブルグ」から幾つもの光点が流星のように散り始めている。

「ブランデンブルグ」から乗員の脱出が始まったのだ。



イギリス艦隊の砲撃の矢は過去に受けた屈辱を返すかのように断続的に「ブランデンブルグ」に送り込まれていった。

残った左舷エンジンの出力が急速に落ちていくのを確認したランダース中佐は己の最期を悟った、今から脱出しても安全圏に行くまで10分は掛かる、エネルギーシールドはあと3分も持つまい。


(ジョエル・・・)


艦橋に照らされるレッド・アラートの点滅の中でランダース中佐は一人の女性の名を思い出した。


(すまん、約束は守れそうに無いよ)


ランダース中佐の目の前のモニターに映し出されたレーダーには敵艦を示す赤い光点で一杯になっていた、おそらくこのハーデルにいる敵艦が全てこちらに向っているだろう。


「艦長!」


艦橋の画面に現れたのは強襲艇で既に脱出したムーア少佐だった。


「早く脱出してください!シールドが青くなり始めてます!」


「ブランデンブルグ」を覆うシールドの色からして既に12000度を超えている、ムーア少佐は見ただけでシールドジェネレータが限界に近づいている事を知っている。

エンジンの出力が落ちてシールドジェネレータに送られているエネルギーが減少した事で「ブランデンブルグ」のエネルギーシールドは制御の限界に近づいている。


「戻るなよ、ロイ、手遅れだ」


ランダース中佐は陰のある笑顔で返した。

敵艦と輸送船の総撃破数は860万tを超え、国連軍からは「最も危険な船」としてマークされていた「ブランデンブルグ」は最後の時を迎えようとしていた。

砲撃で全ての砲塔は潰され艦体には無数の弾痕を残している、26隻のキルマークを記した艦首は既に砲撃で破壊されて無い。

ブランデンブルグを蒼く覆った光球は一瞬の輝きを放った後に消滅した。



「生存者を回収してやれ」


「ブランデンブルグ」の最期を見届けた「ホーキンス」のハウンド艦長は副長に一言命じて黙祷した。



(あの輝きは未来の自分の姿だ)



このハーデル攻勢で戦争は終わるだろう、国連側もハイガードを擁する星間通商同盟ももう限界だ、国連側の燃料資源は底を尽き、再び攻勢を掛けるには何ヶ月掛かることか。

ハイガードもこの戦闘で失った艦艇を復旧させるだけでも2年は掛かるだろう。


そして互いに主戦力を残したままの講和は再び戦端が開かれてこの光景が繰り返されるだろう、エネルギーシールドは我が軍も実装中だ、次こそは今大戦の様な燃料精製の戦略施設の先制攻撃を受ける事は無いだろう。

あのブランデンブルグの輝きが自分の艦になる日が来るかもしれない、それを思うとこの虚しさに耐えるのが自分の勤めだとハウンドは己に言い聞かせた。


ブランデンブルグはニック・ランダース中佐の肉体と共に消滅した、多くの人々に記憶を残して。

3日後、ハイガードと国連軍の間に講和条約が締結された、そして27年の歳月が流れた・・・。


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