私の刺繍が幸せを呼ぶ?なんででしょう?
アルティナは、兄の王太子アランに突然呼ばれて執務室に向かった。
ここは、リンデーン王国で私は第一王女だ。小さい国だが自然豊かな国だ。
「お兄様、ご用とは何でしょうか?」
「アルティナすまない」
アルティナの顔を見るなりアランは頭を下げた。
「頭を上げてください。急にどうしたのですか?」
執務室には、バーン帝国の第2王子のアルベルト様もいた。
アランとアルベルトは、バーン帝国に留学していた時に知り合ったそうだが卒業した今でも仲が良く、時々こうして外交がてら遊びに来る。
「今、ドリランカ帝国から無茶な要求をされているのは知っていると思うが、アルベルトが間に入って交渉してくれていたんだ。で、属国になるというのは避けられたんだが、お前を行儀見習いに寄越せと言ってきた。要は人質だ」
「アルティナ嬢、すまない。他に方法がなかったんだ」
アルベルト第2王子も頭をさげる。
ドリランカ帝国は隣国で、大きな国で今最も勢いのある国だ。その国から属国になるように要求されていた。
リンデーン王国は従わざるをえないと結論を出そうとした時、助けてくれたのがアルベルト第2王子だった。ずっとこの国のために交渉をしてくれていた。
「アルベルト様ありがとうございます。私が行く事で属国にならなくてすむのなら喜んで行きます。これでも王女ですよ、それ位の覚悟は持っています」
こうしてアルティナはドリランカ帝国に出発した。ドリランカ帝国まではアルベルト第2王子の側近であるルーフェス・ソルヴェン様が護衛をしてくれた。ソルヴェン家はバーン帝国の伯爵家だが、ルーフェスはアルベルト第2王子の従兄弟でもあるので小さい頃から仲が良かった。アランとも留学している時に知り合い、アルベルトと3人とても仲が良い。アルティナにも優しく接してくれる彼は、アルティナの憧れの人だった。
ルーフェスはせめて今だけは楽しく過ごして欲しいと道中少し観光をしたり、美味しいお菓子を求めて寄り道をしたりした。アルティナは人質になるのは不安だったけど、ルーフェスの気遣いがとても嬉しくて、少し楽しいと思っていた。
ドリランカ帝国に着いて与えられた家は城の端のほうにある、長年使われていない建物で掃除もされていなかった。一緒にきた侍女やメイドは帝国に入る事を許されなかったので1人残ることになった。アルティナは部屋の掃除をしなんとか住めるようにした。
「国を出る前にいろいろ教えてもらってよかった。1人でもなんとかできそうだわ」
リンデーン王国は小国だったので、何かあった時のために、小さい頃から掃除や洗濯、料理や護身術など練習していたのだ。そして出発が決まると更にたくさんの事を教えられた。着いてすぐに必要になるとは思わなかったけど。
初日に騎士がきて、担当のメイドをつける、その担当が食事を運んでくる事や掃除洗濯などもするから生活に困る事はないと説明をしていった。最初は毎日来ていたメイドも、2、3日毎になり、1週間毎になりと段々と来なくなった。まあ来ても食事を置いていくだけで何もしてくれないのだけど。食事だってどんどん粗末になっていき、それも届かない日が出てきた。
担当のメイドが何人かいたけど、みんなアルティナを見下していて世話をしてくれる人はいなかった。でもリアという新人のメイドだけはアルティナに優しくしてくれた。
「アルティナ様、遅くなって申し訳ございません。食事をお持ちしました」
「リア、忙しいのにありがとう。うわぁ今日もたくさん持ってきてくれたのね」
「本当は毎日伺えればいいんですけど・・・」
「ううん、それよりこんなに運ぶのは大変でしょう?」
「こう見えて力はあるので大丈夫です。それより面白いことがあったんですよ」
リアは食べ物を運んできた時に城や町の話をしてくれる。アルティナはリアから色々な話を聞くのを楽しみにしていた。
食事が届かない時は国から持ってきた非常食を食べていたが3ヶ月もすると残り少なくなってしまった。
ある日、家の前の庭で野草を探してみる事にした。兄に持たされた本の中に野草・薬草図鑑があったので、食べられる野草があるかもと思ったのだ。そんな時、ひょこっと兎が出てきた。アルティナの姿を見ても逃げないで、じっと見てきた。
「かわいい、仲良くなれないかな」
アルティナはゆっくりと兎に近づいたが、なんと兎も寄ってきた。そしてアルティナの伸ばした手に顔をスリスリとした。アルティナが頭をなでると兎は気持ちよさそうに目をつぶった。少ししたら兎はどこかへ行ってしまった。
次の日、アルティナはパンを持って庭に出た。しばらく待っていたら、兎が来た。
「兎さん、こんにちは。よかったらパンを一緒に食べない?」
アルティナは小さく切ったパンを手のひらにのせて兎に差し出した。兎はゆっくりとだが食べてくれた。
そうやって少しずつ兎と仲良くなっていき、兎はアルティナの足の上でアルティナに頭をなでてもらうようになった。
いつものように兎の頭を撫でながらアルティナは
「とうとう非常食もなくなってしまったの、これからどうしたらいいかしら。お店に買いに行く事もできないし。まあ、お金もそんなにないから買いに行けたとしても同じね」
と兎に話しかけた。
突然兎が草むらまで走ったかと思ったら止まって振り向いて、アルティナをじっと見た。
「兎さんどうしたの?そこに何かあるの?」
アルティナは兎の所まで歩いた。そうするとまた兎は少し進んで振り向いた。
「なんか、ついておいでって言われてるみたい。どこに連れて行ってくれるの?」
アルティナは兎に続いて草むらの中や狭い通路を進んだ。ふと気づくと城の外に出ていた。
「え?もしかして城の外へ出る抜け道を教えたくれたの?」
兎は更に進んでいくので慌てて追いかけた。
そして、ある建物の前で止まった。
どうやら雑貨屋さんのようで、中から女の人が2人出てきた。
「刺繍できる人がいたら連れてきておくれ」
「ええ、知り合いに声をかけてみるわね」
「急に辞めてしまって困ってるんだ、頼んだよ」
そして、1人はまた中に戻って行った。
アルティナは、その会話を聞いて、お店の中に入っていった。
「いらっしゃい、何かお探しかい?」
「刺繍をできる人を探していると聞いたのですが」
「ああ、今まで頼んでいた人が急に辞めてしまってね」
「これ、私が刺繍したハンカチです。これだったらここでお仕事いただけますか?」
と、ポケットに入っていたハンカチを見せた。
「ほお、お嬢さん上手だね、これなら喜んでお願いしたいね。じゃあ試しにこれに刺繍をしてきてくれるかい?そうだね、図案はこれで」
と、ハンカチと紙を渡された。
「できたら持っておいで」
アルティナはまた来た道を戻った。
「兎さんありがとう。もし仕事ができれば食べ物も買えるし他に必要な物も買えるわ。刺繍は得意だから頑張る」
そして早速刺繍を始めた。
次の日、アルティナは抜け道を通って雑貨屋さんに向かった。
「こんにちは、刺繍できました」
「おや、もうできたのかい?どれどれ・・・」
アルティナから受け取ったハンカチを見て
「うん、いいね、ええと名前は?」
「アルティナです」
「それではアルティナ、これがハンカチ1枚分の報酬だ。この金額でいいなら早速仕事をお願いしたいんだけどいいかい?」
アルティナは銅貨5枚もらった。
「はい、よろしくお願いします」
「私はマリアだ、じゃあハンカチを10枚ほどお願いしたいけど1週間位でできるかい?」
「はい、やってみます」
「じゃあ、これがハンカチでこれが図案だ。5枚ずつお願いするよ」
アルティナは、城に戻り早速刺繍に取り掛かった。
天気のいい日に庭で刺繍をしていたら兎がやってきて、アルティナの膝の上で昼寝を始めた。
「兎さん、道を教えてくれてありがとう。報酬がもらえたらパンを買ってくるから一緒に食べましょうね」
兎はちょっと顔をあげたけど、また寝てしまった。
刺繍を3日ほどで終わらせると早速雑貨屋さんへ行った。
「え?もう出来たのかい?嬉しいけど無理はしちゃ駄目だよ」
とマリアはびっくりしていた。
「うん、今回のもいい出来だ。また仕事持っていくかい?」
と銅貨50枚を渡してくれた。
「はい、ぜひお願いします」
とハンカチをまた10枚預かった。
「今度は少し複雑な図案をお願いしたいけど大丈夫かい?」
と図案を見せてくれた。
「これなら大丈夫です」
雑貨屋さんを出て、アルティナはパン屋さんを探した。
そしてパンをいくつか買った。
城に戻って庭に出ると兎がいた。
「兎さん、パンを買ってきたの、一緒に食べましょう」
とパンを1つ差し出した。
「あ、このままじゃ食べられないよね、ちょっと待ってね」
と小さくちぎったパンを渡した。
「美味しいね、また買ってくるね」
アルティナは次はパン屋を探している時に見つけたお菓子を買えるようになるといいなと思った。
雑貨屋さんの刺繍を初めて半年ほどたった。
いつものようにアルティナは雑貨屋さんに行った。
仕事も順調に貰えていて、食べたかったお菓子も時々は買えるようになっていた。
「こんにちは」
「やあ、アルティナ。相談があるんだ」
「マリアさん、何ですか?」
「アルティナが刺繍した小物が、町で幸せを呼ぶ刺繍と大人気でね。刺繍の数を増やして欲しいんだけどどうだろう?」
「私の刺繍がですか?」
「おや、知らなかったのかい?少し前からお店に並べるとすぐ売れてしまっていたんだ」
「そうなんですね。知らなかったけど嬉しいですね。頑張ります」
「しばらくはリボンやハンカチなどの刺繍をお願いするよ」
城に戻っていつものように庭で刺繍をしていたら兎がひょこっと顔を出した。
「兎さん、今日はお菓子があるから一緒に食べましょう。
ねぇ、聞いて。私の刺繍が今人気なんですって。なんで幸せを呼ぶのか分からないけど誰かの幸せのお手伝いできるなら嬉しいわ」
兎はアルティナからお菓子を一緒に食べた。その後は刺繍をするアルティナの横で昼寝をしていた。
リアがパンとスープを持ってきてくれた時、アルティナはリボンを2本差し出した。
「アルティナ様、これは?」
「私が刺繍したの、いつもリアにはお世話になっているから。こっちなら仕事の時にも使えるかなと思うんだけど」
「こんな素敵な物をいただいていいんですか?ありがとうございます。大切にします」
リアは喜んで受け取ってくれた。そして仕事の時はいつも使ってくれているようだった。
ドリランカ帝国にはシャーロット王女がいる。他に子どもはいないため、いずれ女王となる予定だ。
そのシャーロット王女は城でお茶会をしていた時にある雑貨屋の話になった。
そのお店で売っている刺繍の小物が人気との事だった。
「あら皆さん、そんな平民が買うようなお店の物に興味があるの?」
お茶会に参加していたご令嬢たちはみな
「とても素敵な刺繍で、その上持っていると幸せになれるとか」
「ええ、私の友達もそのお店のハンカチを買ったらすぐ婚約者ができたとか」
「私はこないだリボンを買いましたの」
「あら、うらやましいですわ。大人気でなかなか買えないのよね」
「そう、面白そうね」
お茶会の後、シャーロット王女は、侍女にその雑貨屋の話を聞いてみた。
「町で今人気のある雑貨屋を知っている?」
「はい、王女様。そのお店で売っている刺繍が入った物を持っていると幸せになれるんです。
刺繍もとても奇麗なので入荷してもすぐ売り切れてしまうのでなかなか買えないんですよ」
「そう、じゃあその刺繍が入った物を買ってきてくれる?買えるまで帰ってこなくていいわよ」
「は、はい、かしこまりました」
と侍女は大慌てで部屋を出て行った。
しかし、その侍女は1週間たっても帰ってこなかった。
「まだ買えないのかしら、もういいわ、騎士団長を呼んで」
そして、シャーロット王女は騎士団長に、その刺繍をした人間を連れてくるように命じた。
「幸せを呼ぶのが本当なら私の刺繍だけをさせればいいわ」
アルティナが頼まれた刺繍が終わったのでいつものように雑貨屋へ向かうとお店の周りに騎士がたくさんいた。お店で何かあったのかと気になったが、今日は帰る事にした。次の日も雑貨屋に行ってみたが、やはり騎士がいた。近くで様子を見ていたら、騎士は雑貨屋に来た人全てに声をかけていた。どうやら刺繍をしている人を探しているようだ。
多分、私を探しているのだろう、でも、なぜ?
今、騎士に捕まったら、マリアにもお兄様にも迷惑をかけてしまうかもしれない。しばらく雑貨屋に来るのはやめた方がよさそうだと城に戻る事にした。
シャーロット王女はイライラしていた。
騎士に雑貨屋を張り込ませているのに刺繍をした人間が見つからないのだ、雑貨屋の主人も知っているのは名前だけで済んでいる場所を知らないという。
そんな時に、サナンサ伯爵が訪ねてきた。サナンサ伯爵は元はバーン帝国の貴族だが、今はドリランカ帝国の親戚の養子となっている。
「シャーロット王女、何かございましたか?」
「人探しをしているんだけど見つからないのよ。なんでも幸せを呼ぶ刺繍をする人間がいるとか」
「ああ、そういえば今すれ違った侍女から妖精の力を感じました。何か知っているのでは?」
「どういうこと?」
「バーン帝国では妖精に力を借りる事があるのですよ。その妖精の力を身につけていたリボンから感じたのですよ。聞けば何か分かるかもしれません」
「すぐその侍女を連れてきて」
侍女が1人連れてこられた。
「サナンサ伯爵、この侍女で間違いない?」
「はい。そのリボンがそうですね」
「あなた、名前は?」
シャーロット王女は侍女に尋ねた。
「リアでございます」
「では、リア。そのリボンはどうやって手に入れたの?」
「知り合いからいただきました」
リアはなんとなくアルティナの名前を出さない方がいいと感じたが、シャーロット王女に隠す事はできず、アルティナの所まで案内させられた。
「へぇー、小国とはいえ、王女がこんな所に住んでいるの」
シャーロット王女はアルティナの部屋をいきなり開けると見渡してそう言った。
一緒に着いてきたサナンサ伯爵は部屋の片隅にあったハンカチを見つけ、シャーロット王女に手渡した。
「この刺繍をしたのはあなた?」
「シャーロット王女にはご機嫌麗しく。
それは私が刺繍した物で間違いありません」
「そう、では今日から私の物だけに刺繍してちょうだい」
というなり帰っていった。
「アルティナ様、申し訳ありません」
「リア、何があったか教えてくれる?」
「町で持っていると幸せになると言われている刺繍が今すごい人気なんです。私がいただいたリボンもそれに関係していると思っているようで、誰が刺繍したのか聞かれました」
「そうなのね。その幸せになる刺繍と私の刺繍がどう関係あるのか分からないけど、断る事はできなさそうね」
次の日、ハンカチやリボンがシャーロット王女から届けられた。
「幸せになる刺繍ってよく分からないけど、いつもと同じでいいのよね」とアルティナは横で日向ぼっこをしている兎に話しかけながら庭で刺繍をしていた。
何日かしてシャーロット王女の侍女がきた。出来上がった刺繍を受け取ると
「1週間後にあるお茶会に使うのでそれまでに終わらせてください」
と新たにリボンとショールを置いていった。
アルティナは庭でショールに刺繍をしながら
「ねぇ、兎さん。マリアさんの所に行ってないんだけど心配しているかしら?この刺繍が終わったら行けるかしら」
と兎に話しかけた。兎はひょこっと顔を上げてアルティナを見たがすぐに寝てしまった。
シャーロット王女はアルティナが刺繍したリボンとショールを身につけてあるお茶会に参加した。今日のお茶会は社交会デビューを来年に控えている貴族の令息や令嬢が参加する大規模のお茶会で、婚約者が決まっていない人にとっては出会いの場でもあった。シャーロット王女も近隣の国から王配として王子を迎える話を進めているもののまだ決まっていないので、国内でも候補を探す事になり、気合が入っていた。
お茶会が始まると
「素敵なショールですね」
と声をかけてきたのは公爵家の嫡男だった。シャーロット王女の国内での婚約者候補でもある。
「もっとゆっくり話す機会をいただけないでしょうか」とお誘いも受けた。
色々な令嬢からもリボンとショールを褒められ、どこで買ったのかと声をかけられた。そして、ぜひ我が家でのお茶会に出席して欲しいので招待状を送らせて欲しいとお願いされた。
シャーロット王女は、こんなに話しかけられてお誘いがあったのは初めてで、驚いていた。そして、本当に幸せを呼ぶ刺繍だと思った。
お茶会用のショールにの刺繍も終わり、やっと落ち着いたアルティナはのんびりしようと庭に出た。
「あら兎さんこんにちは。今日はゆっくりできそうよ」と日向ぼっこをしていた兎に声をかけた。
兎はぴょこぴょこと抜け道の方に移動した。
「もしかして今ならマリアさんに会いにいけるかしら?」とアルティナは、部屋に戻りマリアから預かっていた刺繍を持って抜け道に向かった。
お店の近くに出てこっそり覗くと騎士達はいなかったので、お店に入った。
「マリアさんこんにちは」
「アルティナ、顔を見せないから心配していたんだよ。」
「騎士さん達がお店の周りにいたから近づけなかったの、心配かけてごめんなさい。これ、遅くなってしまったけど」
「何か訳があるようだね。とりあえずはアルティナが元気そうでよかったよ」
とマリアは何も聞かずにアルティナを抱きしめた。「前のようには来れなくなるかもしれないの。落ち着いたらまた刺繍の仕事をさせてください。」
「わかった、待ってるよ。また時間がある時には遊びにおいで。」
「ありがとう。本当は怒ってるんじゃないかと思ってたの。こんな風に言ってもらえると思ってなかった」
「何言ってるんだい。心配はしてたけど怒ってないよ。だからいつでもおいで。何か困った事があったらすぐに言うんだよ」
アルティナはマリアのお店を出ると、兎へのお礼にクッキーを買って急いで戻った。
幸いな事に誰にも見つからなかった。
「兎さん、ありがとう。誰にも見つからなくてよかった。クッキー買ってきたから食べましょう」
とクッキーを割って兎の前に置いた。
1ヶ月後にシャーロット王女の誕生日祝いのパーティーが開かれる事になり、近隣の国に招待状を送った。バーン帝国からはアルベルト第2王子が出席すると返事があった。アルベルト第2王子は、シャーロット王女の好きな人で何度か婚約の打診をしているがいい返事が返ってきていない。シャーロット王女は、ドレスに刺繍をする事を思いついた。こないだのお茶会の後も刺繍を身につけて出席したお茶会やパーティーでは男女問わず声をかけられ、刺繍の効果を信じていた。
どんな刺繍にしようかしら、あの刺繍が入ったドレスをきていたら絶対にアルベルト様から求婚の申し込みを受けてくれるはず。やっと夢が叶うのねとシャーロット王女はご機嫌だった。
そして、アルティナの元にドレスが届けられた。図案を見るとかなり複雑な物だった。
「パーティーまでには無理です。もう少し時間をください」
「シャーロット王女の誕生日祝いです。何が何でも間に合わせるように。それからドレスが汚れては困るので庭では絶対にしないように」
シャーロット王女の侍女はそう言うと、ドレスと刺繍糸を置いて帰っていった。
アルティナは朝から夜遅くまでひたすら刺繍をし続けた。庭に出て休憩をしたくても見張り役の騎士が出してくれなかった。それどころか少しでもウトウトとしようものならたたき起こされる。時々、様子を見にシャーロット王女の侍女がきてはまだ終わらないのかと文句を言って帰っていく。
アルティナは初めて刺繍をするのが辛いと思った。
バーン帝国のアルベルト第2王子とルーフェスがリンデーン王国のアランの所に来ていた。
「アラン、最近アルティナ嬢から何か連絡があったか?」
「いや、最近はきてないな。どうした?」
「バーン帝国の王族は妖精と契約できるのは話した事あるよね?」
バーン帝国は妖精がたくさん住んでいる国で、妖精が気に入った人がいると手伝ってくれたり、加護を与えてくれたりする。その中でも王族は生まれた時に妖精と契約を結ぶ事ができるが、王族の血を受け継いでいる人間の中には、妖精に気に入られると契約できる事もある。ルーフェスも王族ではないが、空の妖精と契約をしている。
「ルーフェスと契約している妖精がアルティナ嬢があまりいい状態ではないと教えてくれたそうだ。
ちょうどシャーロット王女の誕生日祝いのパーティーに招待されているから様子を見に行かないか?場合によっては助けが必要になるかもしれない」
「そうなのか?連絡がないから気にはなっていたんだ。招待状ならこの国にも来ているから私も行こう。アルベルト助けてくれるか?」
「もちろんだよ」
「ルーフェスも教えてくれてありがとう。そして、教えてくれた妖精にも感謝だな。それにしてもアルティナの様子を見てくれるなんて妖精はすごいんだな」
「ルーフェスは昔から妖精に好かれているからね、王族じゃないのに妖精と契約できているのがその証拠だよ」
「ルーフェスはアルベルトの従兄弟だよな?」
「そうだよ、それにしても私の妖精は最近、姿を見せないんだ。どこに行ったんだろう」
「妖精っていつも近くにいるんじゃないのか?」
「私の妖精は気まぐれだからね、そうとも限らないんだ。ルーフェスは妖精に好かれているから色々な妖精が集まってるよ」
「ほぉ、アルベルトは妖精に人気がないという事か」
「そうでもないと思うけど。ルーフェス見てると自信がなくなるな。いや、ルーフェスがおかしいのか」
とアルベルトは何か悩みはじめた。
「ルーフェス、よろしく頼む」
「もちろん」
3人はその後、パーティーの日の動きを考える事にした。
睡眠時間を削ってひたすら刺繍をした結果、なんとかパーティーの前日には終わらせる事ができた。間に合ったとアルティナはほっとした。
でも、ドレスを取りに来た侍女はドレスとワンピースを1着ずつ、なるべく早く終わらせるようにと置いていった。
届けられたドレスを見たシャーロット王女は
「とても素敵なドレスになったわ。これならアルベルト様も婚約を申し込んでくれるに違いない」
とご満悦だった。
誕生祝いのパーティーの日、アランとアルベルトはまず国王とシャーロット王女に謁見をした。ルーフェスは、アルベルトの従者として後ろに控えていた。
「シャーロット王女、誕生日おめでとうございます。このような素晴らしい日にご招待いただき幸せにございます。」
「アルベルト様、ありがとうございます。今日はぜひ私とダンスを踊ってくださるかしら?」
シャーロット王女はアランへの挨拶もそこそこにアルベルトにダンスを申し込んだ。
「光栄です。ぜひ」
アルベルトは、さすがに今日は断れないなと了承した。
「国王、アランの妹のアルティナは元気にしていますか?」
アルベルトは国王に尋ねた。
「何かあったと報告は受けていないから元気にしているのだろう」
「もしできましたら、一目会えればと思っていますが許していただけるでしょうか?」
アランも国王に話しかけた。
ルーフェスはシャーロット王女のドレスを見て驚いた。
あのドレスから妖精の気配を感じたからだ。
なぜ、ここで妖精?とルーフェスは疑問に思ったが全然分からなかった。
「アルベルト様は彼女とお知り合いですの?私は彼女と懇意にしておりまして。よくお茶会でお話しています。
今、彼女は体調を崩しておりまして、はやり病の可能性があるので、隔離しています。手厚く看病していますのでご心配なさらぬよう」
今、アルティナと会わせる訳にはいかないと、シャーロットは咄嗟に嘘でごまかした。
「皆様に会えるのをとても楽しみにしていたのですけど、病をうつしてしまうから会えないとがっかりしていましたわ」
「そうでしたか、妹がお世話になっているようでありがとうございます。妹に会うのはまたの機会にしましょう」
とアランは残念そうだった。
次の日、アルベルトはシャーロット王女に城の庭園を案内してもらう事になっていた。これは、アランとルーフェスと打ち合わせの通りだった。
アルティナの様子を調べるためにも時間が必要だった。シャーロット王女がパーティーで誘ってくるのは予想できたので、アルベルトは嫌がったが、その誘いを受けてもらい、その間に探す事にしたのだ。
約束は午後だったので、午前は3人で話をしながら城の中を散歩する事にした。護衛の騎士に案内してもらっていたら、鳥が空で旋回しはじめた。
「私と契約している妖精です。アルティナ嬢に何かあったのかも」
とルーフェスは鳥を追いかけて走り出した。
2人も従って走り出した。慌てたのは騎士で突然の行動に出遅れてしまい、急いで追いかけた。
少し先の部屋でで誰かが騒いでいる声がした。
鳥はそっちの方へ飛んで行く。
「まだ終わってないの?早く終わらせなさい。午後にはそれを着るんだから」
シャーロット王女はアルティナをベッドから引っ張り出した。
「ほら、早く」
その時勢いよくドアが開いた。
ルーフェスが飛び込んできた。
「アルティナ嬢、大丈夫ですか?」
とアルティナを抱き起こした。
「シャーロット王女、これはどういう事ですか?説明を願いたい」
アルベルトがシャーロット王女に詰め寄った。
「アルティナ嬢は病にかかっていたのではないのですか?」
「アルティナは一度こちらで預かります」
とアランは言い、シャーロット王女の侍女に国王陛下への取次を願い出た。
アランがアルティナを抱き抱えて、連れて行こうとした時、ひょこっと兎が顔をだした。
「えっ?どうしてここにいるの?もしかしてずっとここにいたの?」
とアルベルトは驚きながらも
「一緒に行こう」
と兎を抱っこして、アランを追いかけた。
アランが宿泊している部屋にアルティナを寝かせ、何があった聞いた。アルティナは3人に今までの事を話した。3人はあまりに酷い状況だった事に怒りしか禁じなかった。国王との謁見が許可されたとの事でアルベルトとアランが向かった。ルーフェスはアルティナについている事にした。
「あら、兎さんもいてくれたのね」
アルティナの前に姿を現した兎を優しく撫でた。
「アルティナ嬢、この兎を知っているの?」
「ええ、私が庭にいるといつも近くに来てくれたの。この兎さんにはたくさん助けてもらったわ」
「そうだったんだ。ずっとついていてくれたんだね、ありがとう」
そう言ってルーフェスも兎を優しく撫でた。
国王からは、シャーロット王女がアルティナに無理に刺繍をさせていたと聞き、謝罪があった。
「アルティナを国に連れて帰りたいので許可をいただけないでしょうか。かなり衰弱しているので療養させたいと思います」
アランはこんな所にアルティナを置いておけないと
願い出た。
「それは許可できん。こちらで責任を持って療養させる」
「では、私の国で療養させてもよろしいでしょうか?」
とアルベルトは申し出た。
バーン帝国にはあまり強く出れない国王は渋々許可を出した。
「アラン、勝手に決めて申し訳ない」
アルベルトはアランに謝った。
「いや、こちらこそ助けてもらってありがとう。この国には置いておきたくなかったから。アルベルト、アルティナをよろしく頼む」
「任せて。いつでも会いに来ていいからね」
とアルベルトはアランの大切な妹なのだから当たり前だと言った。
アルベルトが部屋にルーフェスを呼んだ。
「あの場にナスティス侯爵の令息がいたの気づいた?今はサナンサ伯爵と名乗っているようだ。」
「ナスティスって、確か妖精を利用しようとして瀕死の状態にさせてしまい、全ての妖精から避けられてたとかいう?顔を知らないので、いたのかどうかも分からない」
「私もあった事はないんだけど、父親にそっくりだったから分かったよ。妖精を怒らせてしまったから国外追放になったんだよ。恐らくシャーロット王女にあの刺繍の事を教えたのは彼だろう。行方不明になっていたけど、ここで伯爵になっているとは思わなかった。調査しておいて」
「かしこまりました」
「今後、関わってこない事を祈るよ」
バーン帝国に移動する前にアルティナはどうしても行きたい所があると言った。許可できないというアランに、アルティナはお世話になったマリアにお礼を言いたいと、どれだけマリアに助けられたかを話した。次にいつ会えるか分からないというアルティナにアランは許可を出すしかなかった。
マリアの店へはルーフェスがついて行ってくれる事になった。
「マリアさんこんにちは」
「アルティナ、こないだより元気そうだね」
「今日はお礼とお別れを言いに来たの」
「お別れ?」
アルティナは兄の友人の国に行く事になったと伝えた。
「何か事情があると思っていたけどまさか王女様だったとは」
と、ものすごく驚いていた。
「これ、お礼にと思って、私が使っていたショールに刺繍をしたの。新しい物でなくてごめんなさい」
「何言ってるんだい、アルティナが刺繍してくれたんだ。こんな嬉しい事はないよ」
そしてルーフェスに話しかけた。
「アルティナは刺繍も上手だし、幸せを呼ぶって評判だったんだ。何よりこんないい子はいないよ。幸せにしてやっておくれ」
「はい、もちろんです」
ルーフェスは、おそらくアルティナの刺繍は妖精の力だろうと思ったが、ここでは何も言わなかった。
バーン帝国へは兄のアランも行く事になった。
皇帝に挨拶をして、アルティナの事をお願いするためだが、もう少し妹についていたかったからだ。
馬車にはあの兎も乗っていた。
「その兎、連れてきてよかったのか?」
「アルベルト様もルーフェス様も大丈夫って」
「そうか、アルティナによく懐いているんだな」
「私をたくさん助けてくれたからこれからも仲良しでいたいわ」
「それより国に戻してやらなくてすまない」
「ううん、あの国から離れられるだけで充分よ。それにアルベルト様の国だもの、安心よ」
「そうだな、いつでも会いに行けるしな」
「アルベルト様はお父様やお母様に会いたくなったらいつでも会いに行っていいよって言ってくださったの。落ち着いたら一度お願いしてみようと思ってるわ」
「そうだな。喜ぶよ」
バーン帝国に着き、皇帝への挨拶もすみ、アルティナの滞在許可も出た。
皇帝は
「アルベルトにとって大事な友人の妹だ。ドリランカ帝国が何か言ってきてもこちらで対応するから安心しなさい」
とアランにとっては何よりも気になっていた事を問題ないと約束してくれた。
しばらくしてアルティナの体調も順調に回復したので、アランは国に戻る事にした。
その前にと4人で話をしようと庭でお茶の準備をしてもらった。
アルティナの膝の上にはあの兎もいた。
「ねぇ、その兎、ずっとアルティナ嬢の所にいた?」
とアルベルトはアルティナに尋ねた。
「そうですね、天気がいい日は一緒に庭で日向ぼっこをしていました」
「姿が見えないと思ったら、そっちにいってたのか。その兎はね、森の妖精で、私と契約をしている妖精なんだ」
「そうだったんですか?ドリランカ帝国にいる時からずっとそばにいてくれた兎さんなんです」
「全然姿を見せないから、どこいったんだろうと思っていたんだよ。まさかアルティナ嬢とあの国に行ってたとは思っていなかった」
「その妖精が、アルティナ嬢が危ないと私と契約している妖精に教えてくれたんですよ」
とルーフェスは肩にとまっている鳥を指差し
「こちらが契約している空の妖精です」
と教えてくれた。
「多分、アルティナ嬢は妖精に好かれやすいんだな。ここに来てからアルティナ嬢の周りに妖精がいるのを見かけるよ。ルーフェスも妖精に好かれているんだ」
アルベルトは羨ましそうに言った。
「アルベルトは嫌われているからね」
ルーフェスがアルベルトを揶揄った。
「そんな事はない、お前がおかしいんだ」
と仕事の時とは違って仲の良い2人をアルティナは笑顔で見ていた。
「お兄様、これをお父様に、これはお母様に。そして、これはお兄様に」
と刺繍を渡した。
「アルティナありがとう、でも無理したんじゃないか?」
とアランは嬉しそうに受け取ったが、すぐに心配する顔に変わった。
「久しぶりに刺繍が楽しいと思いました。あちらでは刺繍が嫌いになっていましたけど。」
「アルティナ嬢の刺繍は、そこにいる妖精が少し協力していてね、だから持ち主の思いに答えて願いを叶える後押しをしていたんだ。だから幸せを呼ぶ刺繍と言われていたんだと思うよ。そのプレゼントの刺繍には強い妖精の力を感じるよ。おそらくたくさんの妖精が協力したんだろう」
「そうか、アルティナ、大切に使うよ。ありがとう。妖精がアルティナを守ってくれるから大丈夫だな」
「シャーロット王女のドレスにも刺繍をしましたが、幸せになれたんでしょうか」
「あのドレスか、あれは妖精の怒りを感じたな。幸せを呼ぶどころか幸せが逃げていくだろう」
とアルベルトが言った。
「怒り?なるほど、私には妖精の力は感じだがそこまでしか分からなかった。アルベルトはすごいな」
ルーフェスは感心したが
「自分の契約している妖精が関わっていたから分かっただけだよ。まあ、シャーロット王女は今後どうなるか、気にはなるが、あれだけ酷い事をしたんだ。どうでもいいな」
「サナンサ伯爵は、シャーロット王女に取り入っていたようですが、今回の事で遠ざけられたそうです。」
ルーフェスが報告をした。
「彼自身も妖精から嫌われただろうからもう表に出てはこれないんじゃない。妖精はこの国は特に多いけど、どこにでもいるんだ」
と、アルベルトは将来女王になる事が決まっているシャーロット王女の王配にと正式に申し込みがあったが、この事で断る事ができほっとしていたと話した。
「私は明日、国に戻るよ。アルベルト、ルーフェス。アルティナをよろしく頼む」
とアランは頭を下げた。
そして
「森の妖精、空の妖精。アルティナをよろしく」
と妖精にも頭を下げた。
森の妖精の兎は、顔をあげてアランの方をチラッと見てまた昼寝を始めた。空の妖精の鳥はアルティナの肩に止まってアランをじっと見ていた。
「アルティナ嬢は本当に妖精に好かれているよな」
アルベルトは羨ましそうに言った。
ルーフェスも
「本当に。この国出身でないのにここまで好かれるのは珍しい」と不思議そうな顔をしていた。
「じゃあ安心だ。何かあったら妖精が助けてくれるな」
「いや、そこは私を頼ろうよ」
とアルベルトは妖精に負けた気がしてアランに言い返した。
次の日、出発するアランを、アルベルトとアルティナが見送った。
「アルティナ元気で」
「はい、お兄様も」
「ごめん、今日ルーフェスはどうしても抜けられない仕事があって」
とアルベルトが謝った。
「昨日の夜、話したよ」
「じゃあ…」
「ああ、聞いた。昔からアルティナには優しかったからな。いいんじゃないかな」
「そうか、よかった」
「お兄様、何のお話ですか?」
「いや、こっちの話だ。アルティナ、何かあったらいつでも連絡しておいで」
「はい、お兄様」
「落ち着いたらアルティナ嬢を連れて遊びに行くよ」
「よろしく頼む」
そう言ってアランの馬車は出発した。
実は昨日の夜、ルーフェスはアランの部屋を訪ねていた。
「アラン、明日は抜けられない仕事があって見送りできそうにないんだ。申し訳ない」
「わざわざその為に来てくれたのか?気にしなくてよかったのに」
「それだけじゃないんだ。実は」
とルーフェスはなかなか話さない。
「何、そんなに話しにくい事なのか?」
深呼吸を1回した後、ルーフェスはやっと話しだした。
「アルティナ嬢の事なんだけど、ずっと気になっていたんだ。ただ、私は王族の血をひいているとはいえ、1国の伯爵でしかない。身分が釣り合わないと諦めていたんだ。今回、こんな事があって諦めきれなくなった。アルティナ嬢を守っていきたい。私が求婚してもいいだろうか」
「ルーフェスは昔からアルティナを可愛がってくれていたから、そうかなとは思っていたよ。うちの国は小国だからアルティナは大国との繋がりの為に嫁がせたい」
「そうか、やっぱりそうだよな」
ルーフェスは明らかに落ち込んだ表情を見せた。
「でも、その大国がバーン帝国でもいいんじゃないか。アルベルトの兄が皇帝になった時に、アルベルトの立ち位置は変わってくるだろう。その前に、王族の血が流れているルーフェスと政略結婚というのはいいと思うよ。まあ、そうはいってもアルティナは辛い思いをさせたから、好きな人と結婚させたいけどな」
「え?それって」
「アルティナがルーフェスを選ぶなら私は歓迎するよ。私の大切な幼馴染のお前ならアルティナを幸せにしてくれると思ってる。」
「アラン、ありがとう。頑張る」
アランは昨日の事を思い出しながら、ルーフェスの恋が叶うように願っていた。
天気のいい日はアルティナは庭で日向ぼっこをしながら刺繍をしている。ルーフェスも忙しいなか、時間を作ってはアルティナの所へきていた。妖精に好かれている2人がいるので自然と妖精が集まってしまっている。
ルーフェスはアルティナを町に遊びに行こうと誘ってみようと思っているが、なかなか言い出せないでいた。
「ルーフェス様、良かったらこれ使ってください」
とアルティナからハンカチを差し出された。
そこには鳥の刺繍がしてあった。
「ルーフェス様の妖精を刺繍してみました。空の妖精に相談したら、ポーズを取ってくれたので図案もすぐ決まりました」
「ありがとうございます。大切にします。しかし妖精がそこまで協力してくれるなんて知りませんでした。」
「ルーフェス様にお礼をしたいと言ったら空の妖精だけでなく、たくさんの妖精が手伝ってくれました。ルーフェス様は本当に妖精と仲がいいんですね」
その時、ルーフェスの肩に空の妖精がとまった。ルーフェスは妖精も自分の事を応援してくれているんだと気づき、勇気を出した。
「アルティナ嬢、今度よかったら町に遊びに行きませんか?刺繍糸がたくさん揃っているお店を教えてもらったんです」
「本当ですか?行きたいです。実は侍女の方から町の話を聞いていたので行ってみたかったんです」
「何の話しているの?」
とアルベルトも来た。
「ルーフェス様が町へ連れて行ってくれる事になりました」
アルティナは嬉しそうに答えた。
「そうか、美味しいお菓子のお店があるから行ってみるといいよ」
「はい、ぜひ」
アルベルトは、ルーフェスに何かささやくとどこかへ行った。
「アルベルト様、何か言っていたようですが」
「ああ、お勧めの店を教えるから後で来るようにって」
「そうなんですね、楽しみです」
ルーフェスは、咄嗟にごまかした。
本当は「雰囲気のいいカフェがあるんだ。そこで告白するといい返事が貰えるって言われてるから行ってみるといい」とアルベルトは言った。余計な事をと思ったけど、アルティナが好きそうなお店なら行ってみたいとルーフェスは考えた。まずはこの国を好きになって欲しい、気持ちを伝えるのはその後にしようかな、でも…と悩むルーフェスを空の妖精はじっと見ていた。




