【超超短編小説】産めば勝手に育って適当に生きると思っていた
いつか見た夜景の中には、こんな部屋もあったのだろうか?
黄色いLEDが照らす室内は散乱した家財で足の踏み場も無かった。
「何故産んだのか」
息子がおれを見据えている。
「遺伝性の病気もそうだし、大学にやれないってのはどう言うことだ?」
息子のそれはとっくに質問の域を出ていた。詰問や尋問ですら無い。
ホームセンターで買ったと思われる真新しい箒にはまだタグが付いたままだ。
その先端にはまだ何も切った事が無いであろう包丁が括り付けてあり、ガムテープで巻かれた柄の上から乱雑に打ち付けられた釘の頭が見えていた。
17番目のコードに致命的な欠陥を抱えて産まれた存在の苦痛は、それは酷いものだ。
過剰と言う欠落のコンプレックスは死ぬまでどうにも出来ない。
電脳と義体はまだ夢のまた夢。
つまりその屈辱と劣等感を腰にぶら下げた斤量戦をずっと続ける事になる。
おれも同じ病気だ。17番目のコードに欠損が有る。
しかし俺は自然発生だった。
そしてそれは50%の確率で遺伝する。つまり何も分かって無いと言う事だ。肉体が死ぬ訳じゃない病は、治療の優先順位が低い。
そう、見捨てられた難病患者達だ。
息子の目はおれを見据えて動かない。
おれは息子の目と包丁の切っ先を交互に見ながら黙っていたり
「だいたい、アンタ達は親に大学まで出してもらってるのに」
ご尤も、としか言いようが無い。
親には大学まで出して貰った。その後は酷いものだが、それは自分の責任でしかない。
氷河期だとか社会情勢なんて言い訳が効かない。
実際に同級生は医者だの広告代理店だのメガバンだの大手保険だのと勤めている訳で、有限会社なんぞでプラプラと業務委託されてるのは、おれくらいなものだろう。
おれの喉元にある即席槍の切っ先を、妻も黙って見つめていた。
息子の構えた包丁が数センチ動く。
「なぜ産んだ?なぜセックスをした?なぜ避妊をしなかった?なぜ堕胎をしなかった?」
そう言えば、おれたちはなぜ死を選ばなかったのだろう。
妻を見ると、同じ事を考えている様な気がした。
愛してるよ、と思った。
「さぁな、そこんとこだが、おれにもワカらん」
愛してるよと言うべきだったかも知れない。さようならかな。
あぁ、君はいつまで経っても洗濯ネットの裏表を気にしなかったね。
いや、そんな事じゃな…………
…………
いつだって、熱いな、これは……




