30. 水と氷の神殿関連の調査依頼
ガシャアァァァァン!!
セイランの剣が氷のゴーレムの肩の付け根に大きなヒビを入れる。突き立てた剣に体重をかけてさらに押し込み引き抜けば、そのヒビはすぐさま自らの重みで傾ぎ、ズガン!と大きな音を立てて凍り付いた湖面に落ちた。その衝撃で氷の湖面がぐらりと揺れる。
「おおおぉぉぉーーー・・・・・・!!!」
椎名の背後から、その揺れとセイランの一撃に興奮した観光客が大きく歓声をあげ、レックスが嫌そうに舌打ちをした。
晩秋のベラトロから戻ると、王都ニウェルはすっかり冬になっており、厚いコートの人々であふれていた。冬の観光はニウェルの主な収入源らしく、街には見知らぬ顔や服装の者が多い。
それでも冒険者ギルドはいつも通り賑やかで、アウレウィアへ向かう前と変わらず、マリエルが元気な声と笑顔で迎えてくれる。
「おかえりなさい。おつかれさまでした。ご無事で何よりです!」
ほんわかと微笑む柔らかな顔立ちと、髪からのぞく垂れた耳に、見ているこちらの気持ちもほんわりと和む。寒さでスリングから出ようともしなかったマルも、のそのそと出てきてカウンターにごろりと横になった。
「あの、アウレウィアのギルドで職員のミレットがセイランさんにご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
眉尻を下げてマリエルがセイランへ謝罪を口にする。申し訳なさそうな顔をしつつ、手は自然にマルの腹を撫でている。
「なに?何かあったの?」
「いや?覚えはないが」
椎名が訪ねると、背後に控えるセイランは常と変わらぬ不愛想な顔で返す。その横でレックスが物言いたげにしているあたり、何かはあったんだなと理解する。
「いえ、気にしてなければ良かったです」
にこりと微笑んで、マリエルは手続きに移ってくれる。
今回は、難しい案件であったせいか手続きに少し時間がかかった。ベラトロの依頼はアウレウィアで受けたものだったが、ニウェルとも共有されており、椎名が村長から手紙を預かってきていたこともあり、その場で完了の手続きができ報酬を受け取ることができた。
また、猫探しの依頼も、領主からの完了の手紙が届いていたようで、こちらも問題なく完了となった。さすがに報酬額が金貨5枚と高額だったため、左右の受付カウンターにいた冒険者たちが目を丸くしてざわめいたが、金銭価値の分からない椎名やセイランはまるで気にしていない。
さらには領主からはランクアップの口添えもあったようで、椎名とセイランはその場でDランクへの昇格となった。
「あ、あともうひとつお話があって」
全て片付いたので掲示板を見に行こうかと腰を上げかけたところ、さらにマリエルから声がかかった。
「指名の依頼が来ています。内容を説明してもいいですか?」
「えっ、なんかイヤです」
反射的に答えてしまった。豪華な屋敷や応接室で丁重に扱われる感じの神経を使う依頼はしばらく遠慮したい。
「いやいや、まってまって。シーナ、話くらいは聞こ?イヤだったら断ればいいし」
絶望したように目を見開くマリエルに気付いて、レックスが慌てて割って入る。セイランが呆れたようにため息をついた。
「えっと、先日の水と氷の神殿の新発見をした方に指名したいということで、おそらく水と氷の神殿に関連すると思われる祠があるので同行してほしい、だそうです。あの、お受けいただけるようでしたら依頼者さんを呼んできますが・・・」
「じゃあ、そこで!」
おずおずと説明を続けるマリエルに、椎名はギルド併設のフードコートを指差してにこりと微笑んだ。
「位置的にはこのあたりなんですケド・・・」
ニウェルの王城の北に広がるニウェル湖は、水と氷の神殿が沈む湖だ。冬になると湖は完全に凍りつき、神殿の付近は湖底まですべて氷に閉ざされる。人々はその氷をくりぬいて階段を作り、冬季のみ湖底の神殿を参拝することができる、王都ニウェル屈指の観光名所だ。
その湖のほとり、さらに北側の山麓の林の中を王立魔法研究員のエルマーが草木をかき分けながら進んでいく。
その後ろをついて歩きながら、椎名は「祠があるというのなら道くらいあるのでは?」と思うのだが、依頼人の機嫌を損ねるのも良くないかなと考え、黙っている。
エルマーは時折立ち止まっては胸ポケットから小さなメモを取り出しては戻し、ぶつぶつと呟いてまた歩く。動きにくそうな白衣に、ぎゅっと雑に結んだ茶色の髪は魔法か薬品の失敗だろうか、チリチリに痛んで、ところどころピンクや水色に変色していた。
ほとんど外に出ていないことを思わせる、白くて血色の悪い首筋に流れる汗を眺めて、この世界に来て自分より体力のなさそうな若者を初めて見たかもしれないと椎名は思った。
「あ、あったあった。ありました」
エルマーが林の一点で立ち止まり、蔦をブチブチと引きはがす。すると、柱のように見える石碑が姿を現した。依頼では『祠』と言っていたため建物らしきものを探していたが、これでは見つからないわけだ。
「で、こちらなんですが、ここから神殿へ行けるって書いてあると思うのですが、どうやら危ないことがあるよって書いてあると思うので、先に進めずにいまして・・・」
この研究員は新人なのだろうか。調査したと思われる内容がだいぶ憶測に富んでいる。
「(全文がよめていないのかな)」
それならば、と椎名は身を乗り出し、石碑の古代語に目を向ける。
「えーと、なになに?湖が固く結ばれし刻、白の番人在り。
影の道は死の息吹に満ち、冷たき淵に閉ざされる。
水が揺らぎ、白き道が消えし刻、影の道は清き者に開かれん。・・・・・・うーん?ちょっと意味が難しい」
ひと通り声に出して読み上げてみるが、意味が読み取れない。困ったように後ろのセイランを見ると、椎名の頭に顎を乗せて碑文を眺め、少し考える。
「あー、湖が凍ってる時は、影の道?この道のことか?この道は凍ってるから危ないぞ。番人をつけておくから入るな。湖の氷が解けたらこの道を参拝に使え。ってことじゃないか?」
「えっ、じゃあ今は使えねーってことじゃん。調べようがなくね?」
セイランの解説にレックスが夕焼け色の頭の後ろで手を組んで、なぁーんだと気が抜けたようにぼやく。
魔法研究員エルマーはそんな3人の顔をきょどきょどと見比べて、えっあれ?なんで?と口ごもる。魔法や遺物、古代文字を研究し、一般の人より魔力量も学もあるはずの自分に解読できなかったものを、いわゆる学がないと思われる冒険者がすらすらと解読するのが理解しがたいといった様子だ。
「セイランはエルフなので」
椎名が、妙な空気を宥めるように言う。エルフが古代語を日常的に使うことは、魔法を知る者ならだれでも知っている。
「え・・・?・・・え?、えっ!?あっ・・・!えっ??」
だがエルマーはそもそもセイランがエルフであることにさえ、今になって気づいたようで、見事な二度見をしていた。
魔法の祖とされ、現代ではいっさい姿を現さないエルフの存在は、魔法研究者にとっては神にも等しい存在だ。驚く気持ちはわかる。だが、前回の神殿の報告書も読まずに依頼したのがありありと分かる様子は、「魔法を研究する人は下々の者に興味を持たない」というレックスの話は本当だったらしい。椎名は半ばあきれ顔で苦笑をこぼす。
「まあ、でもこれじゃどうしようもないし、今回はこれでしゅーりょー?また春になったら依頼してねってことで?」
先の指示もできなくなってしまうほどに呆けているエルマーにレックスが水を向けるとようやく正気を取り戻したようにはっと顔を上げる。
「あっいえ、あの、それであれば、その番人の存在も確認したくて、ですね、あの・・・!」
・・・・・・なるほど。番人の姿も見たいのか。
「それはもはやDランクの依頼を超えてると思うんだけど」
「だよな。そもそも番人の強さがわかんなければ、どのランクに依頼していいかもわかんねーよ」
椎名の呟きにレックスも同調する。
これ以上は依頼に合わない、それは椎名はよく理解していたが、エルマーと同じく番人を見たいという気持ちもあった。夢の中で見たあの穏やかで無口な氷の神に、なぜだか親近感を覚えたのも理由の一つだ。
椎名の目がどことなく迷いを浮かべたままにセイランを捉える。
「・・・お前も、見たいんだな?」
呆れたようなため息交じりの言葉に、椎名は小さく頷いた。
「ムリかな・・・」
レックスが「あー・・・」と空を仰ぎ、セイランが深いため息を地に落とした。ただエルマーだけが、なんだかわからないといった風に両手を合わせ、オロオロとしている。
「・・・やるか」
「シーナが言うなら、そーなるよねぇ」
セイランとレックスの返事に椎名の顔がぱっと明るくなる。
「だいぶ走ると思うぞ。大丈夫か?」
セイランが椎名の背を大きな手で撫でる。それから椎名の胸元へ手を差しこんで、スリングからするりとマルを抱き上げて地面に降ろした。マルも心得たように草木の中へすっと身を隠す。
「じゃあ、やりますかー」
手持ちのスリングショットと火薬の弾数を確認し、ボウガンを左腕に装着し終えたレックスが気合を入れる。椎名も念のため、魔導書を左手に開き魔力を流しこんだ。
「おにーさんはとりあえず、安全そうなところに隠れる準備でもしてて」
レックスはエルマーに声をかけ、地面に這いつくばって石碑を調べ始めた。石碑と地面の境目、地面の隙間、石碑の摩耗など、くまなく調べて番人の発動条件を確認する。
「確認だけど、番人を発動させるのでいいんだよね?」
レックスが振り向く。椎名はエルマーに視線を投げ、エルマーがこくこくと頷くのを確認してから、レックスに頷き返した。
「よし、じゃあ行くよ」
レックスが、石碑の正面からぐいっと体重をかける。
ずりずりと石同士がこすりあうような音で石碑が動き、その下に地下へ降りる階段が姿を現しはじめる。
だがそれが全て露わになる前に、ぴし、ぴし、という音が空気を裂き、空中に巨大な氷塊が現れる。
空気中の水分がパリ・・・パリ・・・と小さな音を立てて凍り、氷の塊に吸い寄せられる。氷がビシッビシッと大きな音を立てて割れ、組みあがり、やがてひとつの大きな氷像に形を成し始めた。その一連の変化の中、椎名は意識を魔導書へ集中させる。
「(炎の付与を二人に)」
椎名の魔力を通した魔導書は、いまや自動で必要なページを開くほど馴染んでいた。術式も記載の文字をすいと指でなぞるだけで展開できるようになっていた。大きな仕事をこなしたわけではないが日々の鍛錬が椎名の魔法使いとしての経験を底上げしていた。
セイラン、レックスそれぞれに指をすいと向けると、セイランの剣とレックスのボウガンがそれぞれ淡く緋色を宿す。
「くるぞ!」
ガシャアァンー・・・!!!
耳をつんざく衝撃音と共に、セイランが声を上げる。
セイランの倍もあろうかというほどの巨躯から繰り出される打撃をセイランが斬撃で弾き返す。氷片がパリン!と飛び散るが、切り落とすには程遠い。
「ぐっ!硬い!!ここでは狭すぎる!湖の方へ誘導してくれ!」
セイランが切っ先から弾ける火花をちらりと見やり、レックスに声を張る。
「えっ!弱ちょろの俺にそれができると思う!?」
応じるレックスの声は拒否ともとれるものだったが、手は裏腹にスリングショットに火薬弾を詰め込んでいる。
「お前が弱かった覚えはないが!?」
「やだーイケメンに言われると惚れちゃうじゃーん。・・・よっ!」
火薬弾は氷のゴーレムの目に当たり、派手な色を放って弾けた。
「ほらほらこっちだよ。あんよがじょーず!」
氷のゴーレムのターゲットをセイランから強引に奪い、絶妙な距離感で湖へ誘導する。
その前を、マルが「こっちだ!」とばかりに駆け出し、椎名もそのあとを追って湖上へ駆け出す。
背後からセイランの剣が氷のゴーレムの背を削るが、パリパリと砕ける氷片が飛び散るばかりで、深いダメージには至らない。
「この辺にすっか!あんまりあっち行って観光客が巻き込んでもヤだしな!」
レックスのボウガンから放たれた矢が火を纏いながらゴーレムの左膝をあっさりと貫通しそのまま湖面に突き刺さる。
セイランの剣が通らなかったことを見ていた椎名とレックスは思わず目を見合わせた。
ゴーレムがぐらりと傾き、片膝をつく。ズゥンという重みに湖氷が大きく揺れた。
そうか。刺突なら通る。氷を砕くアイスピックのように。
「セイラン!刺したらダメージ通るかも!」
「わかった。任せろ!」
そして冒頭の戦闘の状況に戻る。
レックスが片膝をつかせた湖氷の揺れに反応し、観光客がまるでイベントでも始まったかのように集まり、さながらボクシングの観客席にいるかのように、セイランの一刀に雄たけびを上げる。
「おい!俺はもう片腕を落とす方に賭ける!銀貨3枚だ!」
「じゃあ俺はあの剣士が反撃食らって殴られる方に賭けるぞ!!」
ゲラゲラと笑う観光客に椎名は戦慄さえ覚える。
「(なんでこんなに緊張感ないんだろう。こんな距離で笑ってられるわけないのに。まるでテレビの前で観戦してるみたいだ)」
この国の冒険者たちは確かに荒くれ者が多くて、人の喧嘩で賭け事をするようなこともあるが、魔物相手では絶対にそんなことはしない。なぜなら、次に狙われるのが自分だということが分かっているからだ。
ちらりと流し見ながら、椎名はセイランに継続回復をかける。
「・・・・・・やりづれぇ」
忌々し気なレックスのぼやきが耳に届く。
氷のゴーレムは落ちた腕を拾い、ギシギシと嫌な音を立てながら元の位置につけ直す。空気中の水が凍り、いとも簡単に元通りだ。
「くそ、キリがないぞ!レックス!核はどこだ!?」
「核はねえよ!祠の中だ!!さっき確認した!」
会話の最中にも飛び散る氷の破片を椎名はひとつずつ丁寧に水の魔法で包んで溶かして落としていく。放置していては観光客にあたって怪我をさせかねない。
「レックス?レックスってあのレックスか?」
「逃げ上手のレックス・・・だったか?ソルテアの恥かき子じゃねーか!あいつがいるんじゃ、どんな強いヤツが仲間でも負けだな!」
観光客たちの下卑た笑いが場違いなほどに響き、椎名の心に不快感が満ちる。レックスの顔が再度忌々し気に険しく歪み、舌打ちが氷の冷たさよりも重く響いた。
もうこの場に居たくなかった。氷のゴーレムに集中しなくてはという気持ちと、観光客たちの歪んだ価値観に、ぐるぐると目が回るようで耐えられなかった。
「こらーーーっ!貴様ら、湖氷は観光客は立ち入り禁止だ!割れて落ちたらどうする!?参拝なら列へ並べ!!」
神殿の警護をしている騎士が割って入り、屈強な騎士たちが観光客たちを元の列へ引き戻していく。
「(ありがたい)」
雑音に目が回りそうになっていた椎名は小さく息を吐く。目の前を通り過ぎて行った複数の氷片はあえて見逃した。そのかけらの一つが観光客の足元に突き刺さり、少し騒ぎになっていたがもう聞く気はなかった。
「・・・大丈夫か?」
レックスが戦闘態勢を崩さないまま、声をかける。レックスのボウガンは正確に関節を砕いていく。セイランが一人で攻撃を受け続けていてくれるからこそ、無防備な背中にレックスの攻撃がすんなり入る。
「ごめん。俺がわがまま言ったせいだね」
椎名はレックスに小さく謝る。それから、ぎゅっと目を瞑り、両手のひらを大きく広げた。お湯をティーポットに注ぐように。森のエルフの里でシオンがお茶を淹れてくれたように、椎名は魔力によって呼び出した大量の熱湯を氷のゴーレムに注いだ。
湖の北の林の石碑のところで、がたがたと震える白衣の襟をずるりと引っ張って、セイランがエルマーを草木の影から引っ張り出す。
「で、満足できました?」
椎名の問いに、エルマーは真っ青な顔のまま、かろうじて首を上下に動かす。
魔力が多くて、魔法の研究にかなう知能を持つものは、産まれた時からのエリートだ。だが、それは必ずしも実践は伴わないことがよくわかる。
エルマーが怯えて隠れていてくれたおかげで、椎名の魔法は彼の目に触れずひとまず安堵する。人の世に失われてしまった魔法をやすやすと使える人物がいると知られれば、大騒ぎだ。
「じゃあ、依頼は完了ということで、街まで送りましょうか」
こくこくと頷くことしかできなくなったらしいエルマーに手を差し伸べ、立ち上がらせる。肩をぽんぽんと叩き、ゆっくりと他愛のない会話をしながら、そっと寄り添う。
今日は朝から動きっぱなしだったから、街に戻る頃には遅めの昼食の頃だろう。なにかあったかいものが食べたい。昨夜も食べた気がするけれど、シチューがいいな。あれはほっとするから寒い日こそ心に染みる。
椎名の脇に、するりとセイランの腕が手が差し込まれ、ふわりと体が浮く。エルマーにはレックスが寄り添い、代わりに手を引いていた。
「お前も疲れているだろう。飯のこと考えてる顔してた」
「う。バレてる」
「そりゃあんな大きな魔法使えばな」
くたくたの体を抱えあげられ、歩調に合わせてゆらゆらと揺れるのが心地良い。
スリングのマルが横にされるとバランスが悪いのか、椎名の腹の上に出てきてくるりと丸くなった。
「で、まだ気になるからもう一回行くんだろ?」
「え、それもバレてるの」
セイランが口の端を笑むように僅かに上げ、椎名は目をぱちぱちと瞬かせた。
少し前を歩くレックスが落ち込むエルマーに見えない角度で、唇に人差し指を立てて「内緒」の合図をしてくる。
「(二人とも、優しいな)」
椎名はほんのり微笑むと、おなかのうえの暖かさとゆらゆらと揺れるセイランの腕の中で、体力回復のために静かに目を閉じた。
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「マリエルさん、郵便ですよ」
普段通りに勤務している私に、ある日郵便が届いた。
そもそも街外に知り合いのいない私に手紙など、とても珍しい。
受け取って、ひらりと翻してみれば、差出人はアウレウィアの獣人仲間、ミレットだ。
「(なんだ、進捗報告ね)」
この国、シルヴァランでは、国内のギルドはそれぞれ連携していて、別の街で受けた仕事の報告もできるようにしているし、逆にこちらで受けた仕事の進捗の報告なども、こうやって手紙や伝令鳥などで共有している。
冒険者さんたちは、街の中だけではなく、街の外にも依頼をこなしに出かけるから、心置きなく最寄りのギルドに報告してほしい。依頼の完了は場合によっては遅れてしまうこともあるけれども、極力冒険者さんたちに添えるように、心を配っているつもりだ。
かさりと手紙を開けると、予想通り、シーナさんたちを含む冒険者さんたちの進捗報告だ。
シーナさんたちはどうやら王都で完了報告をするらしい。そういえばアウレウィアの領主様からも手紙が来ていたと聞いた気がする。
さすがに貴族からの手紙は私のような下っ端では拝見することはできないので、おそらく近日中にギルド長からなにかしらの事務手続きを言い渡されるだろう。
「(あら?)」
進捗報告の既定の書類を何の気なしにひっくり返すと、そこに小さくメモ書きがある。
『セイランさんは私が目を付けたんだからね!』
・・・・・・・・・
何があったのかは分からないけれど、セイランさんはミレットのお眼鏡にかなったということなのかもしれない。そんなことを言われてもセイランさんの良さは私には分からないのだけれど。
とりあえず、迷惑をかけたらしいことはこれを見たら一目瞭然だ。
兎の獣人族として、本能に流されそうなこともあるけれど、仕事は仕事。こうも仕事と私事を一体化させることができるのが驚きだ。
「(狙った獲物は業務外でお話するべきでしょうに)』
だってギルド建物内で『そういった行為』は禁止なのだから。
外で声をかけ、逃げられる前に頂くのが、おいしく頂けて、お咎めもなくて、後腐れもなくて、いちばん簡単だもの。
ふふふと口元に笑みを浮かべて、マリエルはミレットからの進捗報告を破り、焼却処分する箱に入れた。
シーナさんたちが戻ったらひとまずお詫びをしましょうと決め、マリエルはまた途中だった書類に目を戻した。




