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神のいとし子(代理)と申します。  作者: かもしか


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23. アウレウィアで猫探し(1)

 昼下がりのカフェ、通りに面したテラス席は柔らかな陽だまりに包まれていたが、椎名はカップを手にしたまま小さくため息をついた。

 秋の日差しは穏やかで、頬を撫でる風は心地良い。だが機嫌はあまり良くない。


 原因は、向かいに座るセイランだ。


 この街で猫たちについて情報を集めようと、地元の人々に声をかけてみたが、肝心の内容はほとんど聞けなかった。誰も彼もがセイランの美貌に見とれてしまって、椎名の声など最初からまるで聞こえていないようだったのだ。

 しかも収穫期ただ中の農業都市とあって、街を歩くのは買い物に出た妙齢の女性たちばかりだったのも良くない方向に働いた。


「(ほんとにセイランは目立つなあ)」


 困ったなと首を傾げ、椎名が紅茶のカップをソーサーに戻したところでレックスが軽やかな足取りで近づいてきた。


「おっまたせ!ギルドの用事、頼まれたやつも済ませてきた」


 「ありがとう」そう返す椎名にひらひらと上級街区への通行証を振って見せながら席に腰を下ろした。

 遠くのウェイターに椎名のカップを指差して、身振りで器用に「同じもの」と伝える。その所作はいつもの調子で、妙に板についている。


「で、頼まれてたやつ、『他の』猫探しの依頼なんだけど、2件出ててどっちも白猫。それ以外の特徴は書かれてない。依頼人はどっちもカルシレオール男爵家だった」

「・・・カルシレオール男爵?」


 椎名は小さく首をかしげる。もちろん貴族のことなど分からないので最初から聞き覚えなどは全くないのだが、もう少し身分の高い人物ではないかという予測をしていた。少し考えてみるが現状では答えは出ない。口に手を添え、うつむき加減に考える。

 視界にはスリングに収まって気持ちよさそうに寝ているマルの顔も映ってはいたが意識は頭の中をめぐる考えに沈んでいた。


「・・・そろそろ考えてることを聞かせてもらおうか」


 セイランが椎名を見据え肩を揺する。はっと現実に引き戻されて顔を上げれば、射貫かれるような強い視線とぶつかって椎名は思わず肩をすくめた。


「それ、パスタ食べてからでもいい?」


 厨房の奥から料理を運んでくるウェイターを目で示して、椎名はにこりと微笑んだ。






 テーブルに置かれたのは、きのこのクリームパスタ。ぬかりなくレックスの分まであるのは熟練のウェイターの判断力がうかがえる。


「まず、『セラフィちゃん』えと、領主様の猫の場所なんだけど、レックス地図ある?」


 きのこのクリームパスタをもぐもぐ食べながら椎名は皿をテーブルの端に寄せる。「はいよ」とレックスが空いたスペースに地図を広げ、自身はパスタの皿を手にもって食事を続けている。セイランは行儀が悪いと言いたげに眉をしかめるが、あえて何も言わなかった。


「えっとね、多分このあたり」


 椎名は地図の上の一定の場所を指でくるりと囲んで見せ、レックスを横目でちらりとうかがう。


「そこはアルフェンド子爵の家だな。猫がやたら集まってる家。イ・ラの村長の猫もそこに居たよ」


 レックスは何の驚きもなく、予想通りといった表情で平然と頷く。


「猫も種族特性ってあって、ボス猫は地域の猫たちを呼び集めることができるんだ。それで人には聞こえない声で情報のやり取りをしたり、助け合ったりしてるんだ。普段はみんなバラバラなのにね。

 猫がやたら集まってる家ってまさにボスがここにいるんだなって思う」


 椎名は地図から目を離し、パスタをフォークでくるくると巻き取って口に入れる。


「ここからは俺の推測なんだけど、ボス猫は最近入れ替わったんじゃないかな。もっと力のある猫に」


 セイランが眉を寄せて問い返す。


「それが領主の猫だ、と?」

「たぶんね。領主様の猫、セラフィちゃんはいとし子の末裔なんだと思う。昨夜みたいにやたらたくさんの猫も集められるのも、その力あってこそだろうし」

「それが領主の猫だという確証はないな」


 椎名は思案するように視線を下に落とす。


「でも、領主様はこの街にセラフィちゃんがいるって知ってたんじゃないかな。じゃなきゃこの街に来るように促したりしなかったと思う」


 厳しい意見を言うセイランに肩をすくめ、椎名は軽く笑って返す。セイランは椎名の安全を第一に考えるため、自然と厳しい意見を言いがちだ。


「それからもうひとつ。多分この子爵・・・えーと・・・」

「アルフェンド子爵」

「そう、それ。アルフェンド子爵もセラフィちゃんがいとし子の末裔と知っていると思うんだよ」


 地図のアルフェンド子爵邸を指でなぞり、椎名は助け舟を出してくれたレックスに顔を向ける。


「だからセラフィちゃんと同じ白猫を集めているんじゃないかな。いとし子の力を受け継いでいる個体がいるかもしれないって、冒険者ギルドに依頼を出して迷子の猫を探している風を装ってさ」


 そう、それはまるで、行方をくらました相手をストーカーがSNSを使って探す手法のように。


「うわ、それタチ悪ぃね。雇われたやつら、知らん間に片棒担がされてんじゃん」


 レックスが最後のひとくちのパスタを口に入れ、皿とフォークを隣の空席に置いた。セイランもそれにならい隣の席へと皿をよける。


「で、最後にもうひとつ。これはまだ全くの憶測でしかないから、俺は今日このあと、それを調べたいな。確定したらちゃんと話すね。で、レックスは申し訳ないんだけどもう一度ギルドに行って、カルシレオール男爵について情報提供してもらってくれる?で、終わったらここで合流で」

「はいよ、りょーかい!」

「セイランはレックスに付いていって」

「え?」

「は?」


 地図を丁寧にたたむ椎名に、二人がそろって怪訝そうな声を上げた。


「だってセイラン目立つんだよ。午前中だってそうだったじゃん。誰に話聞いてもセイランに夢中で全然まともに話聞いてもらえなかったし」


 椎名は不貞腐ふてくされたようにパスタをつつき、フォークでくるくると巻いては戻す。

 セイランはしばらく自分の行いを振り返るように黙って思案していたが、やがて困ったように息をついた。


「・・・わかった。だが、危ないことはするなよ」

「うん。気を付ける」


 ひらひらと手を振る椎名を心配そうにセイランが何度も振り返りながら店を出ていった。その肩をレックスが軽く叩いて宥めている様子が少し面白い。


 椎名は一人残り、最後のパスタを口に運び、紅茶を飲み干した。


「さて、俺も行こうかな」


 そう呟き、椅子を押しのけて立ち上がると、昼下がりの街へと歩き出した。





 午後いちばんの冒険者ギルドは依頼の受注がひと段落しており、早々に報告に戻ってきた冒険者たちがぽつりぽつりといるだけで閑散としていた。中にはどこかの酒場で既に酒を飲んできたのか、顔を赤らめ千鳥足で笑っているものまでいる。


「・・・昼間からいい気なものだ」


 舌打ちでもしそうなセイランが低く吐き捨てるように言う。八つ当たりに近い声音にレックスは苦笑した。セイランは椎名から離れるよう指示を受けたことに承諾はしたものの納得はしていないようで機嫌が悪いのを隠そうともしない。

 しかし、普段の他に類を見ない突出した美貌を今の不機嫌な表情がより際立たせ、周囲の視線を一瞬で吸い寄せる。


「(こりゃシーナ苦労しただろうな)」


 午前中に聞き込みをしていたと言っていた椎名を思いレックスはあきれ顔で嘆息した。

 とはいえ、頼まれていた情報を聞く程度のおつかいではセイランの美貌はさして問題にはならない。レックスはたいして気にも留めずにセイランを振り返る。


「俺、さっき話を聞いたヤツ探すわ」


 セイランに告げれば「その辺の適当な奴でいいだろ」と止める間もなく通りすがりの制服姿のウサギ獣人の腕を掴んで「おい」と呼び止める。


 その瞬間、周囲の空気がざわりと揺れる。あちゃーと顔を手のひらで覆ってレックスが天をあおいだ。


「おい、てめえ、誰の許可をもらってミレットちゃんに触ってんだ?あぁ!?」


 冒険者ギルドにたむろしていた荒くれ者の一人が立ち上がり、ウサギ獣人に触れるセイランの腕をはたき落とす。


「だいたいてめえこの街にきたばっかのクセしてミレットちゃんに馴れ馴れしいんだよ!」

「顔がいいだけのヒヨッコじゃミレットちゃんには選ばれないんだぜ!?」


 一人目に続き、続々と立ち上がる者が増えるのが、ギルドのウサギ獣人ミレットの人気の高さをうかがわせる。


「Eランクの雑魚はお呼びじゃねーんだよ。ミレットちゃんの前から消えろ!」


 荒くれ者の一人がこぶしを振り上げセイランの胸にドスンと叩きこむ。


「あ?」


 セイランが無表情を崩さないまま低く呟く。

 次の瞬間、こぶしを振るった男はセイランの足払いを食らい、床に崩れ落ちた。


「やっべ。機嫌悪すぎだろ」


 レックスは小声でつぶやき、すばやくミレットの手を取ると、掲示板側の壁際に避難した。両方の腕でミレットをかばうように掲示板前に閉じ込める。


「ね、こんな状況の時に悪いんだけど、この依頼人のこと、教えてくれない?」


 猫探しの依頼の紙を掲示板からひょいと剥がし、ミレットに手渡した。セイランが次々と荒くれ者を退けていく姿をちらりと見せながら、ウィンクをする。


「連れが知りたがっててさ。あいつがここを片付けるまでに、頼むな」


 頬を赤らめたミレットはこくこくと頷き、目はセイランを追いつつ、ぽーっとした表情のままレックスにぽそぽそと小さく言葉を紡いだ。






「その顔、ぶっ潰してやる!!」


 降り降ろされる大剣を半歩左にずれて刃を交わすと、男の首元に鋭い手刀を叩きこんだ。大剣の重みに引きずられるように崩れ落ちた男を、さらに背後から蹴り飛ばす。


 セイランの背後を狙っていた短剣使いは思いがけず正面向きになってしまった。その勢いのまま切りかかったが、セイランは短剣使いの腕を引いて反対側に投げ飛ばした。


 残った最後の一人はさすがにとびかかるのはためらわれたようで、唾を吐き捨てる。

「エルフは魔法使いじゃねえのかよ!」と悪態をついたが、「魔法が好みだったか?」とセイランに風の刃を投げつけられてほうほうのていで逃げ出した。


 荒くれ者どもは呻き声をあげ床に転がるばかりで、周囲の者たちはセイランの強さに圧倒され、場が沈黙に支配される。

 だがその静寂を破ったのは、場にそぐわない、不釣り合いなほどに可愛らしい声だった。


「あの・・・!」


 ミレットが目をきらきらと輝かせてセイランに近づく。


「今夜・・・ミレットと一緒にいてくれる?」


 両手を胸の前に揃え、心なしか潤んだ瞳でセイランを見上げる。その視線をセイランは受け止めることなく、頭越しにレックスに視線を投げる。

 レックスは苦笑しつつ、その視線に指で丸を作って応える。


「・・・悪いな。用は済んだ」


 セイランはそれだけ告げるときびすを返し、床に転がる荒くれ者たちをまたいで歩き出した。


「えっ!?ねえ、ちょっと待ってよ!」


 慌てて追いすがるミレットをよそにレックスはセイランの隣に並び、セイランが押し開けたギルドの扉をくぐった。 背後から、ミレットの切実な声が響く。


「あなたとなら強い子が産めると思うのにぃ!」


 その声はギルドの建物にこだまし、残された者たちの心に妙な余韻を残した。



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