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神のいとし子(代理)と申します。  作者: かもしか


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12. 冒険者ギルドに登録しよう

 翌日の夕方と夜の境目には王都ニウェルについた。

通常、安全のために夜には外壁の門は閉じられ街は閉鎖されるのでギリギリのタイミングだった。


 早々に貸し馬を返しに行くが、こちらも最終のお客になってしまった。しかし店員がにこにこと嬉しそうに「いい馬だったでしょう」と自慢げにしていて、馬に愛のある店なのだと嬉しく思った。


 王都ニウェルは領主街アウレウィアよりもはるかに大きく賑やかだったが、大まかな造りは同じだ。

 外壁があり、下町があり、川を隔てて上級街区、そして王城だ。こちらは内壁がないことと城に王族がいることがアウレウィアとの明確な違いだ。


 また王都ニウェルは観光都市としても有名で、シルヴァラン唯一の雪が降る街でもある。大きく険しい山とその麓にある湖、湖から流れる川に隣接した美しい街だ。

 城内に雪が積もることを避けるためか、城は尖塔が林立した形になっており、月が出るとフォークに刺さっているようにも見え、お土産として人気のモチーフだ。


 通りを歩く人も多く、通り過ぎた人が振り返ってセイランを見るのはアウレウィアと変わらないが、長い耳を訝しむ声よりも、顔の造作についてのひそやかな声の方が多いのは王都だからだろうか。


「(セイラン、イケメンだからね)」


 なんとなく椎名までも嬉しくなる。

 石畳の上を音もなく歩くマルがギルドの方へ向かえば登録を先に済まそうと思ったが、そちらには全く興味を示さないので、明日の朝にすることにした。


「さすがにちょっと寒いね」

「マルは少し寒いくらいの方が元気そうだな」


しかし、間違いなく他の猫のテリトリーにいるせいか、椎名から遠くに離れようとはしない。


「じゃあマルも一緒で大丈夫な宿を探そうか」


 さすがにニウェルは都会だからペット同伴を嫌がる宿とかもあるだろう。そのあたりは気にしておかないと後が面倒だ。


「セイランが聞いたらすぐに誰かが教えてくれそう」


 特に女性が。と、思うが言わない。


「そうか?」


 腑に落ちない様子でセイランはものは試しと、通りすがりの適当な人物に声をかければ、あっという間にいろんな人から声がかかり、目当ての宿を教えてもらえる。現地まで同行で道案内までしてくれるらしい。


「ほらね」


 ふふと笑って、椎名は魚屋の店先に並んだ桶の魚に夢中なマルを抱き上げ、首を傾げるセイランの手を引いて、きゃあきゃあと賑やかな女性たちについて行った。


「(これでご飯も美味しかったら最高だな)」


 きっとしばらくお世話になるだろう宿に期待を膨らませ、椎名は1人微笑んだ。






 翌朝、2人とマルは早くから冒険者ギルドに顔をだした。アウレウィアと同じく上級街区を挟んで下町側に位置していて、一見落ち着いた場所だが、とてもそんな様子には思えないほど朝のギルドは混雑していた。

 ◯◯の酒場のイメージを引きずっている椎名は、朝の爽やかな空気に似合わない物騒な面々に驚きを隠せない。


 中に入ってみれば、これまた◯◯の酒場に似合わない、日の光の入る明るい建物で、右手の壁沿いに冒険者たちが群がっており、正面には揃いの制服を着た職員たちがいる受付カウンター、左手は所謂いわゆるフードコートのようなキッチンとテーブルが並んでいた。


 ひとまず登録受付と書いてあるカウンターに向かう。


「冒険者になりたいんですが、ここでいいですか?」

「はい、どうぞ」


 ふわっとした髪をひとつに編んだ、大きな目の女性が書類から顔を上げ、2人に椅子を勧めてくれたので、椎名はありがたく座らせてもらい、セイランは横の柱にもたれて立つ。


「担当いたしますマリエルと申します。よろしくお願いします」


 受付の女性は胸元のネームプレートを掲げて自己紹介する。


「これを渡すように言われたんですが」


 椎名は夕焼け色の髪の冒険者からもらった紙片を受付の女性に渡す。


「えっ!?レックスさんの紹介状!?ですか!」


 マリエルの驚いた声と共にふわっとした髪がびくっとして2つの髪の塊が天を突くように勢いよく立ち上がる。彼女は兎の獣人だった。間近で見ていた椎名が逆に驚いてびくっとしてしまう。

 周りの職員や他のカウンターの冒険者たちがこちらをチラチラと見る中、マルが興味津々でスリングから抜け出してくる。カウンターに乗り出して、彼女の耳がまた垂れてくるのをキラキラの目で見つめた。


「あ、ちょっとマル•••!すみません」


 もはやマリエルに足をかけて立ち上がり、垂れてくる耳を前足でちょいちょいとしようとする様子に、椎名は慌ててマルの腰を捕まえて引き寄せた。


「いえ、いえ、いいんです。私も大きな声をあげて、すみませんでした」


 恐縮しきりといった様子で頭を下げ、小さく息をついた後、登録用紙を取り出す。


「まずはこちらの記入をお願いします」


 それほど大きくない紙が2枚並べられ、そこに名前と年齢、ジョブ、出身地や種族まで、各種個人情報を書く欄が設けられている。


「ジョブ?」


 椎名の声に慣れたようにマリエルがにこりと微笑む。


「得意な武器とか、パーティの中での役割と言いますか、そういったものです。レックスさんの場合、スカウトと書かれています。


 スカウトは鍵開けや罠を感知したり、探索してくるのを得意とする人たちだ。あの夕焼け色の髪の冒険者、レックスの陽気で楽観的な様子を思い出して、そんなに慎重派だったのかと意外に思う。


「なんで書けばいいのかな。ヒーラー?」

「ソーサラーでいいだろ」


 隣に立つセイランに意見を聞いてみたが、椎名に甘えは許されなかった。「やっぱり使えるようにならないとだめかぁ」としおしおとしながらソーサラーと記入する。

 現代社会ではよく見かける、記入例というものがないため不安になるが、間違ってたら教えてくれるだろう。続いてセイランの分を記入する。


「セイラン、年齢は?」

「忘れた」

「そうだよね。どうしよ?」

「あ、わからなければ空欄でいいですよ!」


 ちょっと困ったらすぐにマリエルから助け舟が入る。ありがたく空欄にさせてもらって、最後に種族欄に「エルフ」と記入してマリエルに渡した。

 受け取ったマリエルがそれをひとつずつチェックする。


「では確認しますね。まずはこちらの方。お名前が『Shiina』さん。スペルは”ii“重なりで承ります。年齢25歳、ジョブがソーサラー?えっ!?ソーサラー???」


 また垂れた耳がぴっと立ち上がる。ロップイヤー種なのだろうか。かわいらしい。


「失礼しました。魔法を使える方はもっと権威ある仕事に就くことが多くて、こちらにはほとんどいらっしゃらないものですから」


 垂れてきた耳にまたマルが興味津々で前足を伸ばすが、椎名にがっちりホールドされていて動くことはできない。


「では、続きです。出身はフォレストムーン、種族は(ヒュム)ですね」

「はい。間違いないです」


 マリエルの確認に頷く。特に問題はなさそうだ。


「では続きましてこちらの方。お名前『Seiran』さん。年齢は不明としました。ジョブはファイターですね。主に使うのは何でしょうか?」

「剣」

「かしこまりました。出身がフォレストムーン、種族がエルフ•••?エルフ!?」


 再度、耳がぴょこんと立ち上がる。マルがもはや堪え切れずに椎名の腕を無理やり抜け出て、マリエルの頭に飛びかかった。


「うっわ!ちょっマル!ほんとやめて!やめなさいって!!」


 椎名が咄嗟とっさに立ち上がり、椅子がガタンと大きな音を立てて倒れた。そこまでしてるのに手を伸ばしてもマルには届かない。

 マリエルがその音にさらにびくっと驚いて椅子ごと後ろに倒れそうになるが、セイランが腕を掴んで引き戻し、彼女の頭のマルを片手でがしっと捕まえた。


「マル。椎名が困ってるぞ。いいのか?」


 吊り上げて目を合わせ、マルに諭す。猫はそんなこと意に介さない生き物だが、それでも少ししょんぼりした顔で椎名の腕に戻った。

 椎名の椅子もセイランが戻してやる。


「あ、あの•••。ほんとにエルフの方ですか?魔法の始祖と言われる、あの•••」


 マリエルがマルのせいで酷く乱れてしまった頭のままセイランに確認を取る。心なしか顔が赤いのはセイランの顔を至近距離で見たからか、絵本に出てくる伝説の種族エルフに出会えたからか、自分の乱れた姿を恥じているからだろうか、判別はつかない。もし最後のパターンだった場合、非常に申し訳ないことをしてしまった。反省しきりだ。


「そうだ。エルフだが、問題でも?」

「いえ、いえ、あの、魔法の始祖ですのに、ファイターで合っていますか?」


 驚き、慌て、パニックになっているように見えるのに、しっかりと職務を全うしてる。驚いてる姿ばかり見ているから気づかなかったが、彼女は実はすごく有能な職員なのかもしれない。


「剣で殴った方が早い」

「な、なるほど。分かりました」


 マリエルは腑に落ちない顔ではあったが、内容を全て確認した後「ギルドカードを作ってきます」と、背後の職員を呼び、案内を入れ替わった。


「続きまして、冒険者ギルドのシステムや注意事項の説明を致します。質問があれば条項ごとに時間を取りますので仰ってください」


 黒髪に銀縁の眼鏡が良く似合う男性職員が『冒険者ギルド規約』の冊子を取り出し、はっきりとした口調でひとつずつ説明してくれる。登録やランク制度、禁止事項や退会の方法まで、実にわかりやすい。

 椎名たちは最下位ランクのFランクで、Fランクの横には(新入り)と注釈があった。

 Fランクはほぼお試し期間の意味合いが強く、やる気が有る者ならばあっという間に通り過ぎるが、ここで辞めていく者も多いという。

 そしてFランクの最後に先輩冒険者によるダンジョン研修を終えて、Eランクに昇格する。そこで晴れて冒険者と名乗れるのだという。


「それなら早速、依頼を受けてみたいです」


 説明してくれた職員さんに告げると、そのタイミングでマリエルが戻ってきた。髪も綺麗に整えられている。


「そちらは彼女に。規約説明、ご静聴ありがとうございました」


 丁寧に頭を下げてマリエルと入れ替わる。


「お待たせしました。ギルドカードです」


 マリエルに渡されたカードは限りなく白に近いが薄く青みがかかっていて美しい。大きく『F』と書かれた文字がまるで紋章のようにデザインされ中央に配置されている。

 ひっくり返してみるとそちら側は詳細がかかれてあった。


Silvaran guild member

Shiina 25 sorcerer

Forestmoon hum


 先ほど用紙に書いたものがそのまま全て記載されている。このカードが今後の身分証として使われるが、ファミリーネームがなくても通用するというのだから、ごく最低限の身分証なのだろう。

 セイランのものも見せてもらうが、レイアウトはほぼ同じで、ジョブのFighterの後ろに剣のマークがついているところだけが違った。

 カードの端にはレックスにもらった紙片に書いてあった鳥の羽にRがデザインされたマークがついている。


「これは?」

「これは紹介者のマークです。紹介者になるには資格が必要でして、レックスさんはギルド貢献度が高いので、すごく特別なんですよ」

「そんなに有名な方なんですね。知らなかったです」


 純粋な驚きに、マリエルがくすりと笑う。


「レックスさんはマッパーさんです。マッパー自体もとても珍しいんですが、レックスさんの作る地図はとても正確だと評判です。国家間のやり取りでも使われることがあるんですよ」


 思ってたよりもずっとすごい人だった。セイランはどうでも良さそうにしているが、彼に出会えたのは本当に幸運だった。自分には過ぎた幸運に「神様ありがとう」とつい独りちる。


「では次に依頼の受け方です。振り返っていただいて真後ろに見えますのが依頼を貼り出す掲示板です。近い方からFです。お2人はまずFから依頼を選んでください」


 Fの掲示板はカウンターのほど近く。初心者サポートの意味合いもあるのだろう。Fランクに限っては掲載数はそれほど多くなかった。


「これがいい」


 椎名がぼんやり掲示板を眺めているうちにセイランが早々に目星をつけていた。


『ランクF No.13235489

虹色鶏を捕まえてほしい。

限りなく傷つけないように生捕り希望。

1羽につき銀貨1枚。2羽以上10羽まで。

受注日より5日以内』


「よくわからないけど、これが楽そう?」


 受ける前から楽をする気の発言にセイランが呆れ顔で見下ろしてくる。


「魔法の練習になる」


 それを言われてしまうと少し弱い。


「わかった。それにする」

「決まりましたらそれを剥がして、今度は受付カウンターへどうぞ」


 マリエルが次に案内してくれたカウンターは受付と書かれたカウンターだった。指示に従ってそこの職員さんに剥がした紙を渡した。


「こちらで依頼の紙を渡しますと、詳細なファイルを職員が持ってきますので、確認してください。貸し出しはできないので、必要があればメモをお願いします」


 大きなファイルがカウンターに届けられる。そこには依頼主の情報や対象となる虹色鶏の詳細データ、生息地の地図などがあった。


「うぇ。お肉も虹色だって。なんかやだ」

「でもとろけるように美味しいそうですよ。羽も幸運の御守りとして人気です」


 マリエルのフォローがあるが、それでも椎名は渋い顔になってしまう。青や緑の肉とかどう考えても傷んでるかカビが生えてるかとしか思えない。


「では最後にフードコーナーです。こちらでは通常の食事の他にもお弁当も頼めるので良かったらどうぞ。あと、外には必要な道具、今回でしたら虹色鶏を入れるカゴですが、貸し出しがありますのでそちらもご利用ください。フードコーナーも貸し出しも実費かかりますのでご了承ください」


 そこまで言ってマリエルはカウンターの向こうでにっこり笑った。


「あとは依頼をこなしてお戻りの時に説明しますね。できなかった場合も速やかに報告をお願いします」


 では、いってらっしゃいとペコリと頭を下げ、最初にいた登録カウンターに戻って行く。

 マリエルはとても丁寧で感じのいい職員さんだった。気持ちのいい接客はこちらも気持ちがいいものだ。同じく接客業をしていた者として見習いたい。


 さて、と、振り返ると常と変わらぬ無愛想な顔のセイランと目が合った。愛想がなくてもイヤではないから人の心は面白い。


「さっさと終わらすぞ」

「はぁーーい」


 どうやらセイランが魔法を教えてくれる気があるようだ。今までセイランに教えてもらったことはなかったから、少しワクワクしながら、椎名はセイランの背中を追いかけた。

セイランがどれほどの美貌の持ち主なのかを描写してたら文字数が多すぎて話が見えなくなったのでざっくり削りました。


エルフの女性が森から出られない規則なのは国が崩壊するレベルの美貌だからです。男性でも美貌で国は壊せると思う。

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