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お嬢様、決断する

梨華を乗せたリムジンは空港に着いた。


「ボス、お待ちしていました。こちらへどうぞ」

すでに空港で待機していたSPが裏口へ案内する。そしてそのまま滑走路までノーチェックで通される。


「では、失礼いたします」

安藤に促され、梨華はプライベートジェットのタラップを上がる。機内に入ると、広々とした内装と豪華な家具が目に飛び込んできた。シャンデリアまで吊るされているのはどうかと思うが、とても快適そうだ。


「まるで空飛ぶリビングルームですわね……」

主人公は小さくつぶやき、座り心地の良さそうなふわふわのシートに腰を下ろした。

向かいに座る安藤に目を向け梨華は尋ねる。

「それで、私たちはいったいどこへ向かっているのですか?」



「南シナ海です」

安藤はあっさり答える。

「南シナ海?」

梨華は首をかしげた。

「それはずいぶん遠いところですわね。それに、どうしてそんな場所に?」


「お嬢様のお父上――先代ボスが財力を駆使して作り上げた人工島がございます。そこが鳳凰会の本拠地となっています。島は極秘に作られていて地図にも載っていません」


「人工島……!?」

梨華のが裏返った。

「あの、父が大富豪なのは存じていますけど、人工島を作れるほどとは……正直、ちょっと引きますわ」


安藤は淡々と続けた。

「その島には会議室、トレーニング施設、宿泊エリア、さらには完全に独立した電力供給システムまで揃っております。世界中の鳳凰会メンバーが集えるよう設計されております」


「そこまで壮大な話だと、逆に現実味がございませんわね……」

梨華は頭を抱えた。

「そんなところで私が一体何をするというのですか?」


「すでに主要幹部たちが島に集結しており、今後の計画を話し合う会議が行われております」

「……それで?」

「最終決定権はボスであるお嬢様にございます。」


「えっ、私が参加するんですの!?」

梨華は席から身を乗り出した。

「そんなの無理ですわ!何をどう決めればいいのか、見当もつきません!」


安藤は冷静に答える。

「今回の会議は非常に重要度が高いのです。ボスが不在では話を進める事ができません」


「確かにそうかもしれませんけども…」

梨華は不安そうに窓の外を見つめた。



飛行機が滑走路に着陸する音とともに、梨華は目の前に広がる景色に驚愕した。

人工島は都市のように整備されており、高層ビルが並ぶ中心部には鳳凰会のロゴが大きく掲げられている。周囲を取り囲む青い海が、島の豪華さをさらに際立たせていた。


「本当に島ですわね……」

梨華は呆れたようにため息をついた。

「父は一体どこに向かっているのかしら…」


安藤が微笑みを浮かべる。

「この島で鳳凰会の運営が効率化されたと、多くの幹部たちから称賛されております」


梨華は感心するよりも、もはや疲れを感じた。

「もうどこからツッコんだらいいか分かりませんわ……」


タラップを降りると、鳳凰会のメンバーたちがずらりと並び、一斉に頭を下げた。

「ボス、お待ちしておりました!」

「いやいやいや、私は『お嬢様』で――」

「ボス!」

全員の声が揃う。


梨華は押し黙ったまま、内心で『何なのこの連中……』と苦笑いを浮かべた。


またもやリムジンに乗せられた梨華は島で一番高いビルまで向かう。

「あのビルの52階に会議室があります。そこで幹部たちがお父上の救出計画を立てている最中です」

安藤が説明する。


「人工の島にこんな高いビル建ててしまって…地盤とか大丈夫なのかしら…」

梨華は建築法の勉強をしようと心に決めた。


ビルに着いた梨華は緊張した面持ちで会議室の扉をくぐり長テーブルに座る。目の前にはずらりと並ぶ幹部たち――全員が一様に鋭い視線を向けている。テーブルの上には膨大な資料が広げられており、部屋の空気は異様な緊張感に包まれていた。


「えっと……その、皆さん、まずはお集まりいただきありがとうございます……ですわ」

梨華はしどろもどろに挨拶したが、幹部たちはピクリとも動かず、ただ真剣な表情で彼女を見つめている。


安藤が小さく咳払いをして助け舟を出した。

「本日は、お嬢様――ではなく、ボスにお越しいただき、先代ボスの捜索についてご意見を伺いたく存じます」


「その……」

梨華は安藤をちらりと見てから、何とか言葉を紡いだ。

「あの、まず一つ言わせていただきますが……『ボス』と呼ばれるのは、どうにも落ち着きませんの。ですので、今まで通り『お嬢様』でお願いできませんこと?」


幹部たちは一瞬顔を見合わせ、困惑したような雰囲気が漂った。だが、若頭の水島がやや厳しい口調で口を開く。

「申し訳ありませんが、それはできません。ここではボスとしての責務を果たしていただく場ですので」


「そ、そう言われましても……まだ私、自分がボスだなんて全く実感が湧きませんのよ!」

梨華は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。

「いえ、正直に申し上げますと、どうやって皆さんを指揮すればいいのか全く分かりませんの……」


「ご心配には及びません」

安藤が冷静にフォローする。

「既に幹部たちが具体的な提案を用意しておりますので、ボスにはそれを確認し、最終的な決定を下していただければ大丈夫です」


梨華は少しホッとしたように安藤を見た。

「そ、それなら何とかなる……かもしれませんわね」


安藤が資料を手に取り、説明を始めた。

「現在、先代ボス――お嬢様のお父上の行方不明に関して、我々は三つの行動案を用意しております」


「まず、特殊部隊を現地に派遣し、足取りを追跡します。具体的には、現地の協力者や監視カメラのデータを徹底的に洗い出します」


「次に、『黒蓮』という敵対組織の関係者を調査し、交渉の際に何が起きたのかを解明します」


「最後に、東南アジアの政府機関や友好組織に働きかけ、協力を要請します。外交的なルートを使うことで、より広範囲な情報を得ることが可能です」


「鳳凰会の力、凄すぎませんこと……」

梨華は資料を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。

「ですが、それぞれにリスクもありますのよね?」


水島が口を開いた。

「はい、特殊部隊の派遣はコストがかかる上、見つけられなければ無駄になります。敵対組織への調査は、彼らを刺激する可能性が高い。そして外交ルートは時間がかかりすぎるのが問題です。」

梨華はうなずきながら、少し考え込んだ。

「……どうしてもリスクを取らなければならないのですね。」


しばらくの沈黙の後、梨華は顔を上げた。

「まずは、特殊部隊を派遣してくださいませ。父が危険な状況にいるのだとすれば、一刻も早く手を打つべきですわ」


幹部たちは静かにうなずき、安藤が補足した。

「かしこまりました。ただし、特殊部隊の派遣だけでは情報が不足する可能性もありますので、並行して外交ルートの準備も進めます」


梨華は安心したように微笑んだ。

「ええ、それでお願いいたします。『黒蓮』については……刺激するのは避けたいですわ。慎重に進めていただけますか?」


「承知いたしました」

安藤は軽く頭を下げた。


「……これでよろしいのでしょうか?」

主人公は不安げに幹部たちを見回した。

「まだまだ至らぬところが多いですけれど、私にできるのはこれが精一杯ですのよ」


幹部たちは少し驚いた表情を浮かべつつも、やがて小さく笑みをこぼした。水島が口を開く。

「十分です、ボス。その決断がある限り、我々は全力で動きます」


「……そ、そうですの?」

主人公は照れたように目をそらした。

「それなら、よろしくお願いいたしますわ」



会議が終わり、部屋を後にする梨華は、緊張から解放されたのか大きく息を吐いた。


「はぁ……父の捜索が第一ですけれど、ボスなんて大役、私には重すぎますわ」


隣を歩く安藤がやや微笑みながら答えた。

「ボスはまだお気づきではないかもしれませんが、こうして決断を下し、進むべき道を示しているだけで十分にボスとしての資質をお持ちです」


梨華は少しだけ顔を赤らめた。

「そ、そうですの……?でも、まだまだ未熟ですわ。皆さんに助けていただかなくては、到底務まりませんのよ」


「それで構いません。鳳凰会は、ボスを支えるための組織ですから」


主人公は少し微笑みながら、空を見上げた。

「お父様……どうかご無事で。私、できる限り頑張りますから……」



会議を終え、少しホッとしたのも束の間、安藤が静かに言い放った。


「言い忘れていましたが、ボスには特殊部隊に同行して指揮を取っていただきます」


「…………はい?」


梨華は一瞬、何を言われたのか理解できず、ぽかんとした顔をした。しかし、数秒後、ようやく意味が飲み込めると、勢いよく安藤に詰め寄った。


「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! そんな話、聞いておりませんわよ!」


安藤は平然とした顔でうなずく。

「ええ、今初めてお伝えしました」


「えええええ!? そんな大事なことをさらっと言わないでくださいませ!」

梨華は頭を抱えた。

「わ、私に特殊部隊の指揮ですって!? そんなの無理に決まっておりますわ!」


安藤は落ち着いた表情で続ける。

「ボスのことをよく思わない幹部やメンバーもいます。これは威厳を示す絶好のチャンスです」


「そう言われましても!」

梨華は叫ぶように言い返した。

「そもそも私、部隊のことなんて何も知りませんし、ただの高校生ですのよ!? 万が一黒蓮の方々と戦闘することになっても二次関数の問題を解いてみせるくらいしかできませんわ!」


「大丈夫です。ボスならやれます」


「なぜそんな謎の自信がございますの!?」


安藤はまるで当たり前のことを言うかのように肩をすくめた。「ボスは既に会議で冷静な判断を下されました。その判断力があれば、現場でもきっと適切な指示を出せるでしょう」


「いいえ!そんな簡単に言われましても無理ですわ!」

梨華は両手をバタバタと振った。

「それに、私が指示を出しても、皆さんが聞いてくださるとは思えませんの!」


安藤は少し微笑んだ。

「そこは、ボスの振る舞い次第です。堂々としていれば、自然と人はついてくるものです」


梨華はぐったりと肩を落とした。

「……あの、お願いですから、私のことを普通の高校生として扱ってくださいませんか?」


「申し訳ありませんが、ボスはもう普通の高校生ではありません。」


「そんな……私は花も恥じらう女子高生ですのよ……?」


「今日から戦場を駆けるマフィアのボスです」


「そんなの嫌ですわーーーー!!!」


梨華の悲痛な叫びは、南シナ海の空にむなしく響いた。


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