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33 モンテスパン侯爵夫人の足掻き

後、数話で終話します。現代物、歴史物と来ましたので、次は現代物を投稿しますので、宜しく。

 取り巻きからモンボワザンが逮捕され、火刑裁判に掛けられる事を聞き、モンテスパン侯爵夫人は歯噛みした。モンボワザンが自白すれば、毒殺事件と彼女の係りが露呈する。しないまでも、国王の寵愛を失ってしまうのは自明である。

 自分は火刑裁判に出廷しないだろう事は分かっていた。それをすれば、愛妾の一人が魔女と断定され、フランスカトリックの保護者たる国王の権威は地に墜ちてしまう。民衆の一揆が起こるかもしれない。そうならなくとも、国外の敵対勢力は此処を先途に攻勢をかけてくるだろう、武力か外交交渉で。

 そのような環境に置かれている事など理解しないモンテスパンではあるが、この事件が己の致命傷になる事は理解していたから、あらゆる伝手を使って、モンボワザンの自白内容を探った。そして、彼女の自白ではなく、彼女の子供の自白である事を知って、多少は安堵した。彼女の子供とは面識もないし、会った事すらないのだから。



 ベルサイユの自室でモンテスパンはクロードと話していた。


「如何致しましょう、侯爵夫人?」

「おゝよその事は聞きました。『モンボワザンは一言も私達の事は話していない』との事です。ある事ない事、全て彼女の子供が話した事ですから、高等法院にて採用されるか、裁判で公表されるか怪しいものです」


「彼女の子供はどの様な告白をしたのですか?」

 クロードは不安を隠さずに聞いた。

「それはですね、私が彼女のお店に行き、直接毒物を購入したとか、貴方が毒殺の依頼をしたとか、途方もない事をさも事実であるかのように自白した、と聞きました」

 モンテスパンの話しは半分事実であり、半分は創作である。それを知ってか、彼女の話しは幾分饒舌であった。


「確かに私は彼女のお店に行きました。それは認めます。しかしですね、それは産後の浮腫みをとる為に、お薬を頂きに行った訳ですから、何もやましい事はしておりません。それを知っている彼女からは何も話しがない訳ですから、それが真実です。子供達が何を言おうと、その場に居た訳ではありませんから、後で伝え聞いた事をあたかもそこに居て、見ていた様に話しているのですから。笑止千万」

「そうでございますか。そうしますと侯爵夫人は宜しいとしまして、私の方は如何なのでしょうか?」


 クロードの件になると、彼女の顔は一瞬曇った。

「貴方はお店で子供達に会った事はあるのですか?」

「いえ、ございません」


「それならば構いません」

「それは如何様な判断でございますか?」


「確かに貴方を派遣したのは私です。『彼女に相談しろ』と言いました。ですが、相談内容迄、モンボワザンは話しておりません。毒殺の依頼など、出任せです」

「確かに依頼はしておりませんが、『良き方法をご教授願いたい』とはお伝えしましたが」


「それを話すモンボワザンではありません。それを話したらどうなるか? 彼女は良く知っておりますから、指を3本折られても話さなかった訳です」

「『指を3本折られた』のですか?」


「そう聞きました。どの様な拷問であったのか分かりませんが、拷問に耐えて、私への忠誠を示してくれたのです。それに比べて子供達と言ったら、最早、この世界で生きて行く事など出来ない事が、分からないのかしら。お客との信義に基づいてなされる仕事なのに。辛い拷問から一時でも解放されたい、その一念だったのでしょうが・・・」

「それでは私も安心して宜しいのですね?」


「大丈夫ですよ。いざとなれば、陛下におすがりして、この難局を切り抜けましょう」

 モンテスパンはクロードの不安を取り除く為、ルイ14世による裁判介入迄話して、彼女を安心させた。


「それより、あの件はどうなりました?」

「はい。矢張り私がやらざるを得ないと思います。彼女から具体的な方法は、教えて頂けませんでした。幾つかの使用方法は伝えて頂きましたが」


「そうですか・・・。この事件が表面化する前に、して下さいね」

「分かっております。しがない旅芸人の子供がこの様な高貴な方にお仕え出来る事になりました御恩は、生涯忘れるものではございません」


「そう言って頂けると貴方への信頼、安心感が高まるというものです」

「恐れ入ります」


「それで何時実行するのですか?」

「過日、王弟妃殿下にお会いしまして、親しくお話しさせて頂きました。大層、私をお気に召されたご様子で、演劇の話しを明日、オルレアン公フィリップ殿下の居館で致します。その時にあの女性も招いて頂けるとの事ですので、明日の午後には」


「そうですか」

「ご期待に添えますよう」


「宜しくお願い致します。それでは、私はこの事件が私達に及ばないよう、内務卿閣下とお話しを致します。貴方の事も依頼致しますから安心して励んで下さいね」

「お気遣い感謝申し上げます」

 そう言うと、モンテスパンは侍女の一人をコルベール内務卿の下に使いに出した。そして、クロードは夫人の自室を退出した。



 彼女からの呼び出しに応じた内務卿が、彼女の部屋にやって来た。

「侯爵夫人。ご機嫌麗しく、ご同慶の至りに存じます」

「内務卿閣下に於かれましては増々のご隆盛、大慶至極に存じ上げます」


「侯爵夫人よりの心温まるお言葉、恐縮に存じます。さて、本日はどのようなお話しでしょうか?」

 コルベールは夫人からの呼び出しが何なのか、薄々知ってはいたが、素知らぬ顔で尋ねた。己の手の内を明かさなくとも良いだろう、との算段からだ。


「実は、侍女達が噂をしておりまして。何ですか、魔女裁判が又始まるとか」

「ご心労をお掛け致します。私の処にはそのような噂は、上がっておりませんが」


「それはそうでございます。下々の間で流れているものですから。閣下の様な、お国のお仕事に勤しまれている方が、お耳にする類のものではございませんので」

「国民の声は、如何なものであれ、参考になります。否、参考にしなければなりません。どのような噂なのでしょうか。後学の為、お教え願いますでしょうか?」


 彼女は少し躊躇った。何処迄話したら良いのか? 何を隠しながら話すのか?

「侍女達が言いますには、占い師や産婆等がパリ警視庁に逮捕されて拷問を受けたようだ、との流言飛語が飛び交っているとか。恐ろしい事ですわ」

「左様でございますか。それでしたら、前の毒物密売事件に係ります捜査で、逮捕された者共の自白を基にした捜査でしょう。卸しを捕まえましたので、次は買い手ですから」


 コルベールは話しながら、モンテスパン侯爵夫人の一挙手一投足を観察した。挙動不審な点はないか、表情に陰りは出ないか凝視した。彼女は内務卿の視線に違和感を見て取り、感情を読み取られないよう、侍女に向かってコーヒーを出すように命じた。

「気が付きませんで、申し訳ありません。直ぐにコーヒーをお出し致しますので、お待ち下さい」

「恐れ入ります」


 そう言うと、夫人はコルベールに椅子を勧め、彼も素直に腰掛けた。コーヒーがテーブルに運ばれ、夫人に断ってコルベールは飲んだ。

「これは素晴らしい。貴重な品を頂き、感謝申し上げます。この飲み物の様に口に入れても安全な如く、事件も何等心配する事などございません」


 夫人の顔が少し微笑んだように、彼には見えた。恐らく、何等かの関与が有るのだろう。それが如何なるものなのか、今の彼には分からなかったが、逮捕したり、高等法院に出頭させたりはしない、とのメッセージを伝えたので、その反応だと反射的に悟った。

 この会話から、何が起ころうともモンテスパン侯爵夫人は、事件の対象者から削除された。


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