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23 ルイの外交 3

 今日、某市役所に書類を提出しました。一月程掛かった仕事が終わり、ホッとしています。それにしても、役所は良く人を待たせますね。「お待ち下さい」の一言で50分待ちました。

 ルイの沈黙が外務省案に対する不満と解釈したポンポンヌは、どう取り繕うか思いを巡らした。そして、ルイの話しを蒸し返した。


「陛下。先程ポーランドの動きは、ウクライナを巡るオスマン帝国との再度の衝突を想定している、とのお考えをお示し頂きましたが、外交交渉についてはお話しがございませんでした。こちらは誰が担っておるのでしょうか?」

「少し口を滑らせてしまいました。未だお話し出来る段階ではないのですが、まあ良いでしょう。ポーランド・オスマン戦争の最中、亡くなりました先のポーランド王ミハウ・コリブト・ヴィシニョヴィエツキ陛下(在位1669年~1673年)の後を我々が推しました、ヤン・ソビェスキ殿がヤン3世陛下(在位1674年~1696年)となりました事はご承知ですね」


「存じ上げております。随分と国庫からの支出があった旨、聞いております」

 ポンポンヌが応えながらコルベールの顔を見た。そして、仕方なくコルベールが言葉を継いだ。

「スェーデンと比べましたならば、如何程のものでしょうか」


 これは明らかにポンポンヌに対する批判である。軍費支援を決定した国王に対するあからさまな非難が出来ないので、スウェーデン王国からの要請をそのままルイに伝えた外務卿に、嫌味の一つでも言いたい気持ちがあったのだろう。


「額はさて置き、話しを続けます」

 ルイが不機嫌そうに言った。まるで「細かい事には触れるな」とでも言うかのように。ルイに向って直接言われたものではないが、王もコルベールの皮肉が癪に障ったのだろう。

「畏まりました」直ぐに察したポンポンヌはルイの話しに耳を傾ける仕草をした。


「ポーランド王ヤン3世陛下ですが、実はコンデ公(ルイ2世・ド・ブルボン・コンデ、1621年~1686年)※にお願いをしたのです。ヤン3世陛下が若い頃、兄弟でフランスに来られた事がありまして、公が色々と世話をなされたと聞き及んでおりましたので、その伝手で公に特命で動いてもらいました。軍から引退しておりましたし、良い運動だったのではないでしょうか」


 ※フロンドの乱を当初は政府側で鎮圧したが、マザランとの反目からスペインに逃れ、ルイ14世と敵対した。後、赦されてオランダ戦争ではブルゴーニュ総督として従軍、勝利に貢献した。


 テーブルに用意されているグラスの水を飲み、一息入れてルイはさらに続けた。

「その公の交渉相手が、ヤン3世陛下の後添えであるマリー・カジミール・ド・ラ・グランジュ・ダルキアン王妃陛下(1641年~1716年)なのです。王妃陛下は先王ミハウ・コリブト・ヴィシニョヴィエツキ陛下の王妃でありました、故マリー・ルイーズ・ド・ゴンザーク・ヌベール王妃陛下(1611年~1667年)の侍女としてポーランド宮廷に入っておりました折、国王陛下に見初められたとの事で、お父上のアンリ・アルベール・ド・ラ・グランジュ・ダルキアン侯爵殿から頻りに援助の要請がありました。侯爵殿が申しますには、幾度かフランスに戻って来ており、フランスの援助を要請したい旨の話しを私に伝えて貰いたいとの事でしたので、コンデ公をご紹介して、ワルシャワに向かって貰いました」


 ルイの説明を聞いていたルヴォワは、王の話しが終わってからコンデ公の話しを続けた。

「コンデ公でございましたら良く存じ上げております。この度の戦争で、フランシュコンテを3週間で攻略した手腕は、先王の頃と少しも変わっておりませんでした。ご病気で軍を引退なされましたのは、誠にフランスの損失でございました」

「公の手腕の良さも、善し悪しです。公のお蔭で私はパリを逃れて、国中をあちこち家族と移動させられましたから」


 マザランからコンデ公について聞き及んでいたコルベールが、ルイの話しに相槌を打った。彼は先王ルイ13世の時代にスペイン帝国、神聖ローマ帝国を相手に獅子奮迅の働きをしており、その軍歴は文字通り軍神と呼ばれるに相応しいものであった。その輝かしい軍歴がマザランからは獅子身中の虫と恐れられ、弟のコンティ公の反逆と相まって王国の敵に、一時なってしまったのだ。


「フロンドの乱でございますな。私はマザラン枢機卿の命により、イタリア王国に派遣されておりました時期でございました。陛下のご苦労を存じ上げませんでした」ポンポンヌがルイにゴマを摺った。


 この頃、コルベール派とルヴォワ派の確執は顕著になっていたので、両派共に自派の勢力を拡大すべく、主要な大臣職や総監職に身内を任命して送り込んでいた。ポンポンヌはどちらの派閥にも属さなかったので、外務卿のポストは争奪戦の的になっていたのだ。それを知ってかどうかは分からないが、彼はルイにそれとなく己の心情や忠誠心を伝えていた。


「コンデ公からヤン3世陛下に、我がフランスとの同盟について、話しを伝えて頂いた次第です。但し、そこで問題となりますのが、オスマン帝国でして。ヤン3世陛下は76年迄、オスマン帝国と戦っていた経緯があります。我がフランスと同盟を結べば、オスマン帝国とも同盟関係に入ってしまいます。その辺りがどうも納得頂けない処なのかと思います。それは当然オスマン帝国も同様で、その為にギレラグ伯にはイスタンブールに飛んで頂いて、カラ・ムスタファ・パシャにバルカン侵攻を仄めかしている理由として、後方からのポーランドの脅威がなくなるという利点を強調して伝えてもらっている訳です」

「三国同盟ですか?」コルベールが尋ねた。


「そうです。しかしながら、スェーデンの様に軍費の援助はありませんから、ご安心下さい」

 ルイは皮肉を込めてコルベールに応えた。ポンポンヌとの会話の時に彼から言われた皮肉に対し、形の上では言い返した事になる。

「陛下。私は何もそこ迄申し上げたい訳ではございません。コンデ公とのご友情を下敷きに交渉を行っているとの事ですので、ご友情に対する対価など、たかが知れたものでございます。そして先程申し上げました渉外費も、金額面では対応出来るものですと」


「そう言ってもらえますと助かります。そのような訳で東と南からの圧迫があれば、レオポルド1世陛下も迂闊にブランデンブルク選帝侯と我がフランスとの条約締結に、異議を唱える事はしないと考えております。物理的に出来ない状況に彼を追い詰める算段をしている訳ですから」

 ルヴォワがルイに尋ねた。

「陛下。そう致しますと、サンジェルマン・アン・レイ宮殿にてのブランデンブルク選帝侯との条約締結はレオポルド1世陛下からの関与もなく、単独で選帝侯と交渉出来るであろう、と言う訳ですね」


「布石を打ちましたので、左様になりますね」

「それでは強気な交渉が出来る訳ですから、初めから我がフランスに有利な条件提示をして、一気に締結に持ち込みましょう」


「ルヴォワ殿、そこなのですが。私は選帝侯に有利な条件でも構わないと思っているのです」

「何ですと・・・」

 ルヴォワが意外だ、とでも言いたげな反応をした。コルベールもこの時ばかりはルヴォワと同じ反応を示した。一人ポンポンヌは沈思黙考して頷いた。


 それを見たルイは目尻を下げ、満足気にポンポンヌを見やり、賛同を二人に伝えてくれと目配せしたのだ。


「陛下の御慧眼には唯々、驚嘆するばかりでございます。私も外交政策を自ら立案して、部下に遂行させておりますが、最高地位者の離間策など考えもしませんでした。“飴と鞭”で動くのは常日頃不満を持つ者、との先入観がありましたので、選択肢にも上がりませんでした。それを陛下がお考えだったとは。流石、マザラン枢機卿の一番弟子でございます」

 聞いているルイも照れ臭くなったのか、追従は良いから本題に入れ、とばかりに話しの先を促した。


「陛下のご本意は皇帝と選帝侯との確執を利用した離間策にございますな。本来、神聖ローマ皇帝は世襲制ではなく、選挙により選ばれるものでございます。今はハプスブルク家からの選出が続いている訳ですが、ナッサウ家、ルクセンブルグ家、ヴィッテルスバッハ家からも選出された過去がございました。嘗て、ハプスブルク家は選挙を有利に進めようと、選帝侯の数を調整した事もありましたから、選帝侯の権限を不可侵なものと認識しておりました大方の辺境伯からは、皇帝に対する不信感が見て取れる位でございましたから」

「そこ迄陛下がお手配して頂けましたならば、外交交渉は簡単ですな。一言『ウィ・ウ・ノン』と言えば良い」ルヴォワが直ぐ発言した。


 それを聞いたコルベールとポンポンヌは「気楽な事を言うな」とでも言いたそうな顔を見せた。物事をシンプルに解釈しようとするルヴォワに対し、コルベールは締結後の国内情勢への影響と言うか、国王の評価を気にしていたし、ポンポンヌは、外交交渉が単純には進まない事を嫌という程経験してきたから、そのような物の見方をしなかった。


 二人共、ルイの求める明瞭な全体像を描けない事がルイの評価を下げた要因に思える。それはそうであろう。物事が順調に進む事など、それ程あるものではない。

 ルヴォワは陸軍卿に就任して以来、弱気な面を見せる事は、国民の軍に対する信頼を毀損する事につながると理解していた為、強気な対応をしなければならなかった。対する二人も己の地位に基づいて解釈をしているので、悲観的な見方をする事によって最悪の事態を回避しようと努めていたので、必然的に対照的な対応となっていた。


「中々まとまりませんね。何時迄も条約締結問題に係る時間もありませんから、休憩を取りましょう。如何ですか、コルベール殿?」


「仰せのままに」コルベールが応えた。

「依存ございません」ポンポンヌとルヴォワも同意した。


 最高国務会議の決定は本日中に決まるのか? それとも次の最高国務会議に持ち越されるのか? はたまた、全て外務省案通り承認するのか? 四者四様の考えがまとまる事はないのか?


 何とか時間を作り、書き上げました。未だ依頼された仕事が残っていますので、今しばらく、不定期での投稿になると思います。

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