22 ルイの外交 2
何とか一つの仕事に目途が立ちましたので、投稿します。今少し、仕事との調整が必要ですので、了承願います。
「宜しいですか。ハプスブルグ家としては、神聖ローマ帝国の各選帝侯の力が巨大になる事への懸念を抱いています。如何な皇帝と言えども、辺境伯が力を付け、帝国内での主導権を握られては、ハプスブルグ家としての神聖ローマ帝国の統一性、正統性が問われます。それにカトリック教国としてまとまらなければ、仮にオスマン帝国がウイーンに侵攻して来た場合、対抗出来ませんからね。外務卿がお話しした、ポーランドの動きというのは、ウクライナを巡るオスマン帝国とポーランド・リトアニア共和国との間で起こりました紛争の再現だと思います。バルカンでの争いは、ハプスブルグ帝国の動きを牽制する良い作戦ですね。」
国王の言葉を聞いたルヴォワは、ルイの考えを言葉の通り解釈した。それはコルベールも同様に思った筈だ。マザラン枢機卿の時代から、フランスは北方を除いた東西と南にハプスブルク家の領土がある為、常に反ハプスブルク政策が至上命題であった。それを知っていたからこそ、ルイの言葉の真意が那辺にあるのか尋ねたい気になったのだ。
それとオスマン帝国の話しが唐突に出た事に少し驚いたのである。反ハプスブルク帝国の友人として、フランスは1673年頃にオスマン帝国と同盟を復活させた。カトリック教国としての絆よりも、異教徒であっても反ハプスブルクの旗印がルイにとって重要なのは分かるが、昨今のヨーロッパ情勢はフランスを中心として離合集散が繰り返されており、常に反フランスの思想がその底流にある。そこにオリエントからの外圧が考えられるのだろうか?
「陛下。今後の方針を御明示願えますでしょうか」コルベールが尋ねた。
「私は常にフランスを第一に考えております。この方針で話しを進めて下さい」
ルイの話しを受けてルヴォワが発言を求め、己の持論を明かした。
「この度の戦いは、南ネーデルラント及びフランシュコンテの獲得、並びにペイバの領土割譲を目標に掲げて起こしたものです。しかし、ロワヨムユニ(イングランドのフランス語読み)の脱落により、スウェーデン王国の参戦を求めねばなりませんでしたので、彼の国の要望も達成せねばなりません。講和にはなりましたが、目標達成がなされねば、条約締結などせずに、継戦をちらつかせる事も選択肢の一つとして考えられるのではないでしょうか」
強気な発言であった。直ぐにコルベールが間に入って来た。
「ルヴォワ殿の方針もあろうかと思いますが、世論はフランスの勝利による条約締結を求めております。フランスの威光を内外に示す事によりまして、フランス包囲網が如何に無益であり、フランスとの友好を求める環境を築く好機と考えられます。ですので、ここは外務省の考えの通り、締結すべきかと存じます」
「コルベール殿はフランスの栄光を内外に示す事が出来るとお考えか?」
「左様に考えております」コルベールはルイの問いに、間を置かず応えた。
「私は甚だ弱気に過ぎると考えます。領土の割譲だけではなく、交易の拡大、関税の撤廃若しくは高税率の撤回を同時に求める事によりまして、海外植民地からの交易品がペイバやロワヨムユニ、ブランデンブルク、ルクセンブルグにも及びます。従来の殖産政策と合わせれば、莫大な利益が約束されるのです。これはコルベール殿の政策の一部ですが、お忘れかな?」
ルヴォワはコルベールに当てつけのように、彼の重商政策を引き合いに出して反論した。面と向かって反駁出来ない舞台を用意したのだ。
「私は何もそのような事を述べている訳ではございません。陛下のお示し頂いたフランスの栄光を第一と思いまして」
明らかに歯切れが悪かった。ルイの言葉を引用して迄反論しなければならないとは、己の考えの弱さが露呈されたも同然だ。
「それは当然の事です。それを前提に陛下が『議論を進めるように』と仰せでございましたからな」
追い打ちを掛けられ、コルベールは言葉に窮してしまった。それを見てルイは助け舟を出した。
「ルヴォワ殿。コルベール殿は、財務総監として戦争の継続が難しいと言っている訳ですから、継戦は難しいと思いますよ。ここで賠償金を獲得する事によって財政の赤字が補填されるのでしたら、貴殿にとっても歓迎すべき事ではないですか? 如何お考えか?」
「陛下。私は戦争の継続を求めている訳ではございません。獲得出来る果実をより多く得る為には、如何すべきかを申し上げた訳でございます」
ルイとルヴォワとコルベールの話しにポンポンヌ外務卿が割って入って来た。
「陛下、先程のポーランド・リトアニア共和国の動きでございますが、我がフランスが同盟の裏切り者オランダに対しまして報復行動を起こしました1672年、オスマン帝国もウクライナのコッサクが、ポーランドからの自立を求めてオスマン帝国に支援を要請した為、帝国が彼の地に進出した経緯がございます。その時の外交はオスマン駐在大使、ギレラグ伯ガブリエル・ジョセフ・ド・ラベルニュ殿(1628年~1684年)が陛下の命を受けまして、イスタンブールにてフランスの中立を伝えた訳でございますが、今回もギレラグ伯に対オスマン外交を任せているのでございますか?」
「違います。今回はハンガリーのプロテスタントでありますテケレ・イムレ伯爵殿(1657年~1705年)より支援要請がありまして、私が支援を約束したのです。その為、ギレラグ伯を通じまして、2年前にオスマンの宰相になりましたカラ・ムスタファ・パシャ(1634年~1683年)に、ウイーン侵攻をけしかけているのです。何せ宰相になりたてなので、どうしてもメフメト4世(在位1648年~1687年)の信任が必要なのでしょう。前任者のファーズル・アフメット・パシャ(1635年~1676年)がオスマン帝国最大版図を築いた功績者ですから、それを上回る実績を創ろうと必死なのが分かります。そこで私からの焚き付けとイムレ伯の要請とが合わされば、動くと判断したのです」
「そのような要請があったのでございますか・・・ 陛下。少しは私共にも情報を伝えて頂ければ、僭越ではございますが、陛下のお手を煩わせなくとも宜しかったのではないでしょうか」
「イムレ伯の要請につきましては内密に進めておりましたので、ポンポンヌ殿にもお教えしませんでした。それと言いますのも、10年前にオスマンの使者で無礼なソレイマン・アガなる人物がいたではないですか。あの非礼に対し、どうしても意趣返しがしたく、カンディア包囲戦やクレタ島救援などで十分にメフメト4世陛下にはフランス軍の力を見せつける事が出来ました。以来、あのような無礼な対応をフランスに対して取れなくなりました事は、ご存じと思いますが。その良い例が、オスマン帝国との通商特権ではないでしょうか。我がフランスが要請せずとも、戦後直ぐに特権取消しを無効にして、通商特権を復活させたのはオスマン帝国自身ではありませんでしたか? 最早フランスの栄光に対して、何人たりとも異を唱える事は出来ないでしょう」
ルイの自慢話を三人は静かに聞いていた。経過はどうであれ、結果としてオスマン帝国はフランスを同盟国として遇している。神聖ローマ帝国だけが敵対国であれば良いのだが、サファビー朝ペルシャの台頭やポーランド・リトアニア共和国、ロシア帝国との対立もあり、味方はいくらでも欲しい時であった。
このような複雑な国際情勢が背後にあり、ルイの画策は厄介な動きを見せるのだ。
ルヴォワが10年前の事を思い出し、話し出した。
「陛下のお話しの通り、全権大使ではなく、単なる使者を我がフランスに遣わすなど、オスマンの非礼にも程がありましたな」
他の二人も当時を振り返って、頻りに首を縦に振っている。フランスを格下に見ていたオスマン帝国に対し、事ある毎にフランスは嫌がらせを行なって来た。それでもトルコは西ヨーロッパに己の同盟者を求めたのだ。
「話しが横道に逸れたようですから、元に戻しましょう。何処迄話されたのですか、外務卿殿?」
雑談を制してルイがポンポンヌに先を求めた。
「今年予定されておりますサンジェルマン・アン・レイ宮殿とフォンテンブロー宮殿での条約締結内容でございます。ルヴォワ殿が『継戦も辞さず』との交渉を望まれ、コルベール殿が戦費調達の問題で、戦争の終結を望まれております」ルイの求めを受けて、ポンポンヌが経過を話した。
「そうでしたね。お二人の意見が違っておりましたので、如何致しましょう」
ルイが二人を見やりながら話すと、ルヴォワがすぐさま応じた。
「交渉事ですので相手がおります事は理解しております。弱気に過ぎると、外務卿の説明でもありましたように、ペイバとの条約は我がフランスが相当譲歩した内容になってしまいました。それに引き換えスペインとの内容は満足のいくものとなりました。選帝侯との条約は外務省案にプラスしてスェーデン王国の意向を汲み、関税の撤廃を求めるべきと思います。スウェーデン王国とデンマーク王国・ノルウェー王国との条約は、大枠は外務省案で宜しいかと存じます。詳細は後日両者の交渉で決めて頂ければ宜しいかと」
話し終わり、彼はルイの顔を見た。王の反応を伺ったが、顔色からでは賛否の判定が出来なかった。コルベールの顔を伺うと、こちらもルイと同様表情からは何も伺い知れない。
「コルベール殿は如何ですかな」ルイが発言を促した。
「はい。私の考えは条約締結内容云々よりも戦争の終結を第一に考えております。世論はフランス勝利が大勢でございますので、王家の威光が増々称賛されるものと考えております。更にスウェーデン王国とデンマーク王国・ノルウェー王国との条約締結は軍事援助の終了につながりますので300万リーブルの節減が大きなものと信じております」
「ポンポンヌ殿、貴方は如何様にお考えか?」
二人の意見を聞いて、ルイは判定を外務卿に求めた。己に意見を求められるとは思わなかったポンポンヌは、少し動揺したと言うか、虚を突かれた感じであった。
「お二人のお考えを聞いておりますと、左程の違いはないと存じます。交渉に臨む気概と申しましょうか、そのようなものかと。私と致しましては、外務省案にご賛同頂き、私共にお任せ頂きたく存じます」
それを聞いたルイは黙ってしまった。特段、外務省案に不服な訳ではないが、ルヴォワの言う通り、最大の果実を獲得する為に、皆で検討しているのである。外務省案より良い案がないのか? ルイには考えが及ばなかったので、忠臣達に意見を尋ねたのだが、これはと思う話しが出てこない。何かゞ足りないのではないかとルイは思った。
いいね、評価ありがとうございます。正直、もらう迄は大して気にもしていませんでしたが、もらえるとはっきり言って、嬉しいですね。




