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16 国王の愛妾 2

 ルイがコーヒーを飲み終わって暫くすると、コルベールがやって来た。

「陛下。お呼びにより参上致しました。本日は如何様なご用件でございましょうか?」

 彼はルイとフォンタンジュ夫人が寛ぐテーブルの空いた椅子の前で、ルイに挨拶をした。次いで夫人に向って挨拶をした。


「お座り下さい、コルベール殿。公爵夫人、卿にコーヒーをお願いします」

 ルイがそう言うと、コルベールは空いた椅子に座り、夫人の侍女が新しいカップにコーヒーを入れて持って来た。そして、ルイと夫人のカップにもコーヒーを注いだ。


「ゴブラン工場の稼働は如何ですか?」

「陛下」すかさず、夫人が小さな声で咎めるように言った。


「いや、先程の事ではありません。ご安心下さい」

 ルイと夫人の遣り取りが終わるのを待って、コルベールは話し出した。

「はい、陛下。増築によりまして増産体制が出来上がりましたので、軍備増産対応は十分かと思われます」


「そうしますと、軍への納入は直ぐにでも可能ですね」

「はい」


「レース工場は?」

「はい。こちらも準備は整っております」


「それでは、手始めに近衛兵とスイス傭兵部隊への制服納入に取り掛かって下さい。その結果を見て、順次他の部隊にも納品してもらいます」

「そのように手配致します」


「それに伴います歳出予算は如何ですか?」

「予算内に収まるかと・・・」


「では、前の大法官から依頼のあった予算流用は可能ですか?」

「モブージュ要塞の件でございますね」


「そうです」

「モブージュ要塞の予算は当初から計上しておりましたので、特に問題はないかと思っておりましたが、当初予算の枠を既に超えておる状況でございます。額が確定次第、不足分を流用したいと考えておりますので、今暫くお時間を頂きたく」


「ヴォーバン殿の設計する要塞は先のオランダ戦争で、既にその有用性は証明されました。勿論、彼の攻城戦理論もナイメーヘン、マーストリヒト攻囲戦等で有力な戦法として実証された訳ですから、我がフランスの躍進は、彼が実現したと言っても過言ではないでしょう。しかし、スペインからフランシュ・コンテ(神聖ローマ帝国内ブルゴーニュ伯領で1678年にフランスに併合)と南ネーデルラントの一部及び神聖ローマ帝国からフライブルク(現在のドイツ、フライブルク・イム・ブライスガウ市)を獲得しましたが、オランダからは何一つ得る物がありませんでした。このままオランダを放置しておけば、貴方の再建した東インド会社によるアジア貿易の独占が画餅になってしまいますよ。私はそのようなフランスを見たくありません」

「陛下の後段のお話しにつきましては、私も賛成致しております。イギリス、オランダに遅れて参入したフランスですので、アメリカやアフリカを中心として交易を進めておりました西インド会社は既に解散致しました。是が非でもアジアに於ける交易は確保しなければなりません。しかし、前段の軍費につきましては、国家財政が危機的状況にある今、財務担当としましては、少しでも抑えて頂きたくお願い申し上げます。無論、ヴォーバン殿の要塞予算を削るような事はございませんが、財政も限りがございます。その点をご配慮頂きたく、お願い申し上げる次第でございます」


 ルイは「又か」という顔をした。コルベールは最高諮問会議でも財務諮問会議でも、常に歳入の減少をお題目として予算の削減を提案している。ルイが万座の中で彼を叱責する事はないので、何時もルヴォワがルイの代役を買って出て、コルベールと丁々発止の議論を戦わせているのだ。

 「予算を担保するのは財務担当の仕事だ」と、ルイは言いたいのだが、それを口に出してはならない事位、彼も知っている。だから尚更、周りに官吏がいない処で、きつく彼に要求するのだ。どんな臣下であれ、メンツを潰してはならないよう、彼は神経を使っていた。


「オランダ戦争が終わって一年経ちました。国力は徐々にではありますが回復しております。勿論、貴方の経済政策で歳入は飛躍的に増したので、東部で編入した土地に要塞を築いている訳ですから、何ら問題はないと思いますが、如何ですか?」

「仰せの通りにございます。経済政策で増加致しました歳入は、全て軍事費に回っております。歳入増と同じか、それ以上に軍備増強が図られ、ヨーロッパ最大の陸軍を持つに至っておりますれば。そこから更に『増額せよ』と仰せでございますが、如何なものでしょうか? 『ない袖は振れない』と申す者も財務省にはおります」


「では何時になったら、流用出来るのですか?」

「陛下。それを今聞かれましては、正確な数字が手元に揃っておりませんので、陛下にご心配をお掛けする事態にもなりかねません。今暫く、お待ち願いたく存じ上げます」


「分かりました。現段階で時期は不明ですが、予算流用は担保して頂ける訳ですね」

「はい。そのようなご理解で宜しいかと存じます」


「コルベール殿、有難うございました。予算流用について、ルヴォア侯に貴方からお話しゝて下さい。その時には彼の御父上からの要請もあった旨、一言添えて下さい」

 コルベールとルヴォアの間柄についてはルイも知っていたので、自分で伝えた方が良いとは思っていたが、どのようにコルベールがルヴォアに予算の説明をするのか、興味をそゝられたので、敢えて彼に依頼したのだ。

 コルベールもルイから嫌な仕事を頼まれたと思い、陰鬱な気になった。それでも臣下の務めとして国王の命は絶対である、と認識して了承した。

「陛下、他に御用はございませんでしょうか」


「それだけです。お引き取り下さい」

「では、私の方から一つだけご報告がございます。内密なご報告故、お人払いをお願い致します」

 ルイはそう言われたので、フォンタンジュ夫人と侍女に退出を促した。彼女達が居なくなり、部屋にルイと自分の二人だけであるのを確認して、コルベールは話しを始めた。


「陛下よりご依頼のありました件についてご報告申し上げます。宮廷関係者の事件への関与が認められました。現時点で全員とは申しませんが、複数の貴族やご婦人方が関与している旨の供述が得られました。このまま捜査を進めますと、必ず宮廷関係者にも逮捕者が出て参りますので、その点につきましてのお心積もりをおきかせ願えれば、幸甚に存じます」

「捜査の終局には後、どれ程掛かりますか?」


「年内には全て解明する方針でございます」

「それでは全容が明らかになりました時点で、私の考えをお伝えします。それ迄は、貴方の方針に異を唱える積もりはありませんので、思う存分、力を振るって下さい」


「力強いお言葉を賜り、身の引き締まる思いでございます。全力で事件解明に邁進致しますので、何卒、心お健やかに」

「有難うございます」


「それでは、これにて失礼させて頂きます」踵を返すとコルベールは素早く退室した。彼の退出と同時に夫人と侍女達が入って来た。


「陛下。大層お難しいお顔でございます」夫人が入室するなり、ルイの顔色を伺いながら心配そうな顔をした。

 ルイの心配事の一つが毒薬事件であったので、夫人に内心の動揺を悟られないように、ゆっくり鷹揚に答えた。

「何でもありません。財務総監の何時もの口癖が、今日は特に酷かっただけですから。ご心配には及びません」

 ルイのその一言に安心したのか、フォンタンジュ夫人の顔色が明るくなった。侍女達も夫人の表情がほぐれたので安心したのだろう、ワイワイガヤガヤ喧しくなった。

 そんな女性達が発する喧騒の中で、ルイは仕事から離れて一時の安逸を貪るのであった。



 翌日もルイはフォンタンジュ夫人の部屋を訪れるのかと思いきや、彼は別の愛人、ド・ポリニャック夫人※の部屋に入って行った。ド・ポリニャックも愛妾ではあったが、モンテスパンやフォンタンジュと比べると知性、機智、美貌、妖艶、肉体どれをとっても見劣りしてしまう。それでも月に一回は彼女の元を訪れるルイではあった。その晩の夜伽の相手はド・ポリニャック夫人であった。


※ルイ・アルマン・ド・ポリニャック子爵の妻。有名なのはマリー・アントワネットに仕えた玄孫の妻、ポリニャック公爵夫人で、当代一の美女と言われ、王妃マリーが絶句する程の美貌だったと。


 男性の異性に対する好みは人によって様々であるが、全く性格や容姿の異なる異性と恋愛関係や肉体関係を持つ者がいる。守備範囲が広いと言ってしまえばそれ迄だが、兎に角容姿端麗な異性だけが対象者ではない男性もいるのは事実である。

 占いの世界では生まれた日によって自分でも認識していない好みの対象が分かったり、離れられない男女の仲があったりと、外見だけでは判断出来ない恋愛事情を教えてくれるのだが、ルイにもそれが見て取れる。

 彼の隠れた好みは自由奔放な女性であろうと思われる。彼自身の気質としては謹厳実直で保守的な面があり、突拍子もない事を実行するよりも、着実な前進を好む傾向がある。己と血色の違う異性を求めるタイプに思われた。

 付け加えると女性の好みは美醜で判断するのではなく、容姿以外の趣味嗜好の合う女性がタイプの男性と思われる。この点を強調する訳ではないが、彼の最初の恋人はマザラン枢機卿の姪で、イタリア人のマリー・マンチーニである。彼女は当時のフランス女性の美の基準からすると、色黒でやせ過ぎていると言われており、ルイが彼女に惚れたのはその美貌よりも博識さに惹かれていたと思われている。

 確かに、モンテスパンは機智に富む女性であった。それでなければ、王妃の向こうを張ってサロンを主催する等出来ない事であろう。ド・ポリニャックは彼女とは対極の女とルイには思われた。勿論、フォンタンジュも知性の点からは同様であった。


 ベッドの中でルイは久々に興奮していた。彼はフォンタンジュの若い体を楽しむ時は、己の精力を使い果たす勢いで求め、モンテスパンとの性交渉では言葉の刺激や変態的嗜好を満足させる行為を彼女が提供してくれた。

 二人の行為とは違い、ド・ポリニャックはルイの求めをはぐらかし、焦らし、中々体を許さなかった。


「陛下。ご覧下さいませ、私のこの体を」

 そう言いながら彼女はルイの前で白くてまばゆい両脚を広げ、己の秘部を両手で広げた。陰毛の中から見え隠れする膣口に己の右手の中指を挿入し、妖しく動かした。暫くすると、淫猥な音がルイの耳に届いた。ルイは食い入るように彼女の下半身を凝視した。


「陛下。未だでございます」

 身を乗り出したルイを制し、彼女は中指を動かし続ける。バルトリン氏腺液が滲み出し、小陰唇が肥大して広がる。充分濡れて来た事を感じると、彼女はベッド脇のチェストから教会で使う大型のローソクを取り出し、自分の口の中にいれて唾液を付けるとおもむろに膣口に挿入した。その時、僅かに「あゝ」と小さな声を発し、自然と彼女の腰が前後に動き出した。

 ルイは固唾を飲んで見ていた、彼女の行為を。明らかに興奮しているのが見て取れた。ド・ポリニャックは自慰行為をルイに見せ、彼の反応を伺っていた。


「どうですか、陛下。私の身体はお気に召しましたでしょうか?」

 ルイは首を小さく縦に振った。見慣れた女性の裸体が今は別の生き物の様に見えた。興奮して来てのどが渇いたのであろうか、彼は一度ベッドから降りて、テーブルの上に置かれた水差しからコップに水を注ぎ、ゆっくり飲んだ。喉を通り過ぎる水の流れが、喉仏を通して分かった。

 その様子をド・ポリニャックはベッドの上から見ながら、尚も自慰行為を続けた、ルイの反応を楽しんでいるかのように。


「私、興奮して参りましたわ。陛下は如何でございましょう」

「素晴らしい。貴女の妖艶さに今日は魅入られました」


「まだまだ、楽しんで下さいませ。私も楽しませて頂きますので」

 ルイの眼を見つめて彼女が呟いた。既にルイは臨戦態勢に入っていた。


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