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13 王弟オルレアン公と王弟妃パラティーヌ 1

 国弟オルレアン公フィリップ(1640~1701)はルイ13世と王妃アンヌ・ドートリッシュの次男として生まれた。ルイ14世より二歳年下で、オルレアン家初代当主である。最初の妻はアンリエット・ダングルテール(1644~1670)、二番目の妻はエリザベート・シャルロット(1652~1722)、所謂ラ・プランセス・パラティーヌである。ルイ14世との関係で言うと、アンリエットは一時ルイの愛人、エリザベートは良き相談相手となった。


 フィリップは1672年より始まっていたオランダ戦争に、兄のルイ14世に付き従がって、1676年の東部戦線に従軍した。彼が指揮官として大きな勝利を得た戦いは1677年4月、フランドル地方でのカッセルであった。この戦いはフランスでは“ペーンの戦い”と呼ばれている。

 スペイン領ネーデルラントのサントメールを34000の軍で包囲中、救援にやって来たオランダ総督ウィレム3世率いる32000の軍をこの地で迎え撃ち、死傷者8000人、捕虜3000人を超える勝利をフランスにもたらした。この戦いを指揮した彼は意気揚々とパリに凱旋したのである。

 彼の功績は兄ルイ14世を大いに喜ばせたが、同時に彼の手腕に王が嫉妬する遠因ともなり、これ以降戦場に派遣される事がなくなり、彼は宮廷で博打等をして過ごす日々を送る事が多くなった。反面、妻と接する時間が十分に出来た事により、晩年の夫婦仲は大層良かったとも言われている。



 1679年3月、国王と王弟オルレアン公フィリップそして王弟妃エリザベート・シャルロットは、大勢の貴族を従えてサンジェルマン・アン・レイにある王領にて鷹狩りを楽しみ、そこから南に15km程離れているベルサイユ宮殿に帰って来た。既に週の半分をここで過ごすルイに伴って、王弟夫妻も週の何日かは夫妻用にあてがわれた部屋で過ごしていた。


 朝早くに始められた狩りは、昼には野兎を仕留めた事に満足したエリザベートの要望で昼食をとった後、ベルサイユに向け帰途に着いた。夫妻の居城はパリのパレ・ロワイヤルであったが、ルイがベルサイユで祝宴を開く為、事前に宿泊するようオルレアン公に伝えていたからだ。


 ベルサイユに戻り、王侯貴族は各々にあてがわれた部屋で、19時から催される祝宴迄、午後の一時を過ごしていた。

 国王の控えの間で開催される祝宴は宮殿の侍従や侍女、担当官によって既に準備が整えられ、狩猟係が持ち帰った獲物を料理人が世話しなく調理をしていた。時間を持て余した貴族の一部は既に鏡の間に集まり、ビリヤードやカードゲームなどに興じていた、と言っても奥方や愛人を伴わなかった男達ではあったが。

 シャンデリアと食卓に置かれた燭台のロウソクには担当者によって火が灯されている。彩色の施された豪華なロウソクの炎が辺りを照らし、室内の暗さを十分補っていた。


 19時になり、国王と王妃がオルレアン公夫妻と共に国王の控えの間に姿を現した。その場にいた全員が国王と王妃に向かって一斉に挨拶をし、それを合図に給仕係が料理を運んで来た。

 スープにパテ、山盛りの果実、鶏肉に鴨肉のパイ、鹿肉に牛肉のロースト、ヒエやアワの野菜サラダ、鮭や魚介類の煮込み料理が銀皿に盛られて各自に給仕された。それに本日の野兎のパイも配られた。大きなテーブルに置かれた料理の豪華さを見物客は周りから見ている。食事が進むにつれてワインも次々に運ばれて来る。

 よく見ると、ナイフとフォークを使って食事をしている者もいれば、手掴みで食べている者もいた。これは巷間良く言われた事だが、宮殿内での暗殺を恐れたルイが鋭利な刃物を持ち込ませなかったからだとされている。

 ルイは咀嚼していない時は、頻りとエリザベートに話しかけていた。エリザベートも国王との会話を楽しんでいるように見えた。間に入ったオルレアン公は両者に相槌を打っていた。

 給仕がワインを注ぎに廻り、その後をロウソクの芯切り係が卓上のロウソクの芯を鋏で切って回っている。


「妃殿下、今日の鷹狩りは如何でしたか?」ルイがエリザベートに向かって話し掛けた。

「はい、国王陛下。大変面白く、感激致しました。野兎があんなに沢山獲れるなんて。又、ご一緒させて頂きたく思っております」


「妃殿下に喜んでもらえて、殿下も満足した事でしょう」

「有難うございました、陛下。久々の鷹狩りなので、妃も大層なはしゃぎようで」

 王弟もにこやかにルイに応えた。戦場での高揚感とは違った爽快感を狩りで味わい、久々に汗を流した疲労感が、彼には嬉しかったのだろう。にこやかに話し、出された品をどれも美味しそうに食べていた。


「妃殿下はハイデルベルグで暮らしていたのでしたね? 狩りは経験があったのでは?」

「はい、陛下。私の育ちました国は、フランスとは随分違いまして田舎でございました。ネッカー川が流れ、その右岸にハイリンゲンベルグ山があり、幼い頃より父上に連れられて狩猟には参りました。勿論、鷹狩りだけでございます」


「それでは次は、鹿狩りなど如何ですか?」

「陛下。それはお許し下さい。妃は馬で走り回る狩猟には足手まといかと存じます」

 間髪入れず、オルレアン公がルイの誘いを断った。エリザベートはそれを聞いて、にこやかに食事を続ける。


「殿下が妃殿下を疎かにしてはいけません。何も彼女だけを誘っているのではありません。一緒に楽しみましょう」

「陛下のお言葉、感謝申し上げます。殿下も私の身を案じて仰せられた事ですので、お気になさらずに」エリザベートがすかさずフォローした。


「殿下は私の大切な弟です。気遣いには及びません」

オルレアン公は出過ぎた事とルイに謝罪して、その場を収めた。


「それよりどうですか、野兎の味は?」

「大変おいしゅうございます。ハイデルベルグでも食しましたが、これ程美味しいものとは存じ上げませんでした」


 ルイはエリザベートの感想に大変満足した様子で、あれもこれもと料理を進めた。それを見ていたドートリッシュは、ルイに少しは遠慮するよう目配せした。

 料理とワインが祝宴の間、切れる事なく運ばれ、会話が程良い調味料の役割を果たしている。


 祝宴の終わりが近づき、ルイは王妃と連れ立って席を立った。同時にオルレアン公夫妻もその後に続いた。他の王侯貴族もそれに続き、祝宴は終了した。


 祝宴担当官や侍従達は大急ぎで跡片付けに入った。残った料理は手の付けられていない物と残飯に分けられ、残飯は豚や畑の肥料に、手付かずは担当官の物になった。卓上の燃え残ったロウソクも同様であった。全ては彼等が持ち帰ったり、パリ市民に売却したりして、彼等の収入になるのだ。



 少し時間を置いて改装中の鏡の間で夜会が引き続き催されるので、係の者達は準備をしていた。国王夫妻、王弟夫妻は準備が整った後に現れるよう、担当官から伝えられていた。

 宮廷貴族は既に三々五々集まり、各々のサークルを作り、歓談に興じていた。


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