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忘れられた他力本願

「あ、村長。こっちこっち動いたよ。早くきて」

 若い女性の声がした。

 ここはどこだろう?確か俺は、、、沢田に殺されたんだっけ?じゃあここは天国かな。いや他力本願で楽をしながら生きてきた俺は地獄だったりして。

 でもあんな最悪の結末を迎えたんだ。その上で地獄行きというのは割に合わない気がする。というか俺は別に犯罪を犯したわけでも無ければ、特別他人に迷惑をかけたわけで無いし、あれ?俺って何も悪い事していなくないから?

 何ならちょっと頭が良くて、要領が良かったっていうだけの話だよな。

 よし!俺は天国行きだ!間違いない!だって何も悪い事してないんだもん!

「村長!目が覚めそうだよ!早く早く!」

 真っ暗な闇が広がる中、若い女性の声と共に一筋の光が差し込んできた。

 この可愛らしい声は恐らく天使だな。うん、間違い無い。よっしゃ天国だ。

 思わずガッツポーズをしながら喜んでしまう。

 徐々に光が辺りを包み込んでいく。

 おぉ!もうすぐでこの闇から抜けられるぞ!

 来る!来るぞぉぉぉぉぉぉ!

 目を開けると目の前には薄汚れた二本の角が生えて、顔がシワだらけの髭面ジジイがいた。

 グッパイ天国。そう思わずにはいられずため息がついた。

「おい、わしの顔を見るなり溜め息とは、いきなり失礼な奴だな。メイよ、こいつはハズレだ。その辺の森に捨てて来い」

 何の話か分からないがこのジジイ、会って間もないのに人の事をハズレとか言い出したぞ。やはりここは地獄なのだろう。頭の上に角まで生えて、物凄い悪人面だ。ここが天国な訳が無い。

「おいお前。心の声が全て漏れておるぞ。メイやっぱりこいつを捨てて来い。いや、もうわしが捨てて来る」

「何だよ。人を捨てる捨てるって物みたいに。俺だって一応は生きてるんだからな、、、いや?もう死んでるのか?あぁあ、地獄かぁ。ねぇ何で俺地獄なの?そんなに悪い事してないと思うんだけど」

 半ギレ状態のジジイになかば呆れながら言った。

 周囲を見渡すと小さな納屋の中にいて、ベッド、、、と呼ぶには随分と荒っぽい。シングルベッドくらいのサイズの岩の上に薄い藁を引いただけ。恐らく寝床なのだろうが。

 俺とジジイが睨み合っていると、一人の女の子が割って入って来た。

「はいはい、ストップストップ。会って数秒でよくもそんなにも喧嘩出来るわね。お兄さんこんにちは。私はメイって言うの。よろしくね」

 黒くて長い髪に整った目と鼻と口、頭からは角が生えていて服装もボロボロだが、ジジイとは打って変わって優しく微笑んでくれるその顔が可愛らしくもあった。

 メイに笑顔で俺に手を出してくれたので、その手を握り返す。

「俺は本村宗一郎。よろしく。なぁここはどこなんだ?地獄かと思ったが、君は角は生えているけど悪魔にしては、、、何か違う気がする」

 そう、悪魔といえばもっとこのジジイの様な悪人面というイメージがあるんだけどなぁ。

 ジジイは俺の事が気に入らないのか、腕を組んでそっぽを向いている。

「そうだよね。今の状況がよく分からないよね。一から説明するね。ここは地獄でも天国でも無くて魔界、そして魔界の中でも私達悪魔族が暮らす村、エルロド。今は私達の力も弱まって、村もだいぶ荒廃しちゃってるけどね。でこの人が悪魔族を束ねるこの村の村長のガドロフ。ほら村長!せっかく来てもらったんだから挨拶くらいしたらどうなの!?ほら!手!」

 ガドロフは嫌そうにしていたが、メイの半ば強引な説得により渋々俺に手を出した。まぁいけすかない悪人面のジジイだが、村長ともなれば何かしらお世話になる事だろうと思い、その手を握る。

「よろしくガドロフ」

「よ、、、」

「こら村長!」

 よろしくという言葉が中々出て来ない村長は、再びメイから怒られる。

「よ、、、よろしく」

 ガドロフが物凄く嫌そうに言う。どうやらメイの言うことには反論出来ないようだ。どちらかというとメイの方が村長っぽいな。

「ところでさっき"来てもらった"って言ってたけど、俺はここに呼ばれて来たって事なのかな?」

「そうよ。あなたは昨夜私達悪魔族が儀式を行って召喚された、言わば救世主よ」

 なるほど。見た感じだとこの村は荒廃しており、ジジイも村長の割には服装もボロボロだ。

 さっき力もだいぶ弱まったとか言ってたし、恐らく俺は悪魔族を助け、皆を導く勇者に、、、。

「あれ?でも俺人間だよ?人間が悪魔を、、、助けるの?」

「やはりこいつは失敗だ。自分の事を人間などと言っておる。そんな頭をしておいてよくも嘘がつけたものだな。恐らくこいつの頭はパーだ」

 ガドロフが呆れたように言う。

 勝手に召喚しておいて、人の事を失敗だのパーだの好き勝手言いやがって、このジジイ後で覚えてろよ。

 そんな俺の疑問に対し、何を言っているのかと言わんばかりに摩訶不思議な表情で二人が俺を見る。

 というか俺の頭を見る。

 恐る恐る自分の手を頭に乗せると、、、。

「何じゃこりゃぁぁぁぁぁ!え?頭に何か乗ってるんだけど。いや、何か生えてるんだけど。何これ。え?どゆこと?」

 メイが部屋の隅にある古びた棚から手鏡を持って来ると俺の顔へと向けた。

 そこには俺の頭から立派に生えた二本の角が映っていた。

「マジか、、、。死んだら人間から悪魔へジョブチェンジするなんて。これって普通はあれだろ?流行りの異世界転生的なあれだろ?だったら魔王を倒す為に聖剣を持った勇者とかそんなんになるあれだろ?何で悪魔なんだよ。どうせなら勇者になって世界を救ってヒロインの美少女と結婚とかちょっとしたハーレムとかそういうのは無いのか?」

 現実から目を背けるようにそんな事を呟く。

 俺が落ち込んでいると思ったのか、隣に腰をかけると両手で手をギュッと握られる。

「いきなり召喚とか何とか言われても困るよね。でもね。私達本当に困ってて。助けて欲しいの」

 メイが瞳の中に涙を潤ませ切実に助けを求めて来る。

 一言。可愛い。

 いや、何というか、、、悪魔っ子も悪くは無いな。

 思わず手を握り返すと、ここでヘタレな事を言っては男としての沽券に関わる。

 そう思った俺は勢いよく立ち上がると。

「俺に任せてください。どんな問題があろうと俺がズバッと解決して見せます」

 自信満々な表情で何とも頼りのない胸を張り、勢いよく自分の胸を叩く。

「ゴホッゴホッ!」

 勢いよく叩き過ぎてしまったようだ。

「大丈夫ですか?」

 と潤んだ瞳で心配そうに駆け寄ってくると、背中をさすってくれた。

 あぁ、やっぱり悪魔っ子も悪くない。

 その後ろでガドロフは大丈夫かこいつと言わんばかりの顔でこちらを見ていたが、まぁ気にしないことにした。

 だがこの時、俺は忘れていた。

 これまでの己が人生、自分の力で何かを成し遂げた事は無く、全て超ハイスペックな同級生や超ハイスペックな先輩、超ハイスペックな後輩頼りだったという事を。

 俺の人生そのものが他力本願だったということを。


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