他力本願な人生
他力本願。
それが俺、本村宗一郎の座右の銘である。
佐賀県という常に全国魅力度ランキングの最下位にある県に産まれた俺は小さい頃から勉強やスポーツが苦手だった。
というよりかは得意になる為の努力が苦手なのだ。
とある有名スポーツ選手は言った。
「どうやったらプロになれるかって?それはね。ただひたむきに努力する事だよ。頑張れ!」
却下。
とある学者が言った。
「どうやったら学者になれるかって?それはね。小さい頃からしっかりと勉強してテストでも良い点数を取る事だよ。頑張って!」
却下。
努力何で時間の無駄だ。そんなものは他人にさせて俺は美味しい所だけを持っていく。それが一番賢やり方だ。そんな卑怯で捻くれた考えを幼いながら抱いていた。
その為、俺は授業中にまともに勉強をした事が無い。日本の学校で重要なのはテストで何点取れるかだ。テストで良い点だけ取っていれば良い高校、良い大学にも入る事が出来る。つまり勉強するのはテスト前だけで良いということ。
テスト前になると俺はクラスで一番頭が良い奴の所に行き勉強を教えてもらった。テストで良い点が取れる頭が良い奴は、大体人に勉強を教えるのが上手い。
テスト前はクラスでも一番頭の良かった松野君の家に行き勉強を教えてもらうのが決まり。
その結果、俺は常に学年でも成績が十位以内には必ず入っていた。
勉強は何とかなる。しかしスポーツはそう簡単にはいかない。極力は運動の出来る人と同じチーム入るようにしていた。サッカーの授業では、サッカー部の奴と同じチームに。パスケの授業では、バスケ部の奴と同じチームに入るようにした。結果として、そこそこな確率で試合に勝つ事が出来た。
しかし個人の実力が重要であり、そう簡単には習得する事が出来ないのがスポーツというもの。どれだけ上手い奴と同じチームに入ったとしても、元々の運動神経が底辺である俺が上手くなったわけでは無い。
やはり負ける事もある。そして個人競技である走り幅跳びや少人数で行うバトミントン等のスポーツでは百発百中でボロ負けとなっていた俺の通知表は、体育だけがどうしても上がらず諦める結果となった。
まぁ受験は五教科だけ点数を取れば何とかなるのだからと開き直る事にした。
普段から東大に行って日本一有名な医者になり沢山の人を救うんだと豪語していた松野君に受験前は勉強を教えてもらい無事に偏差値八十の超有名高校に進学する事が出来た。
高校に入っても変わらず他力本願という言葉の通り、他人の知識を上手く吸収しながら、そこそこ良い大学に出て、みんなが羨む某有名大手企業に入る事が出来た。
会社に入ってからは顔がイケメンで身長も高く仕事も出来て、なんなら性格も良いという超ハイスペックという腹立たしい程完璧な先輩、永瀬さんについて行く事にした。優秀な先輩の後ろについていき、ここぞという時だけ前に出て、さも自分が手柄をあげたかのように振る舞った。
普通の人間だったらそこで怒る所だろうが、そこは超ハイスペック先輩の永瀬さん。
「本村も頑張ったんだから正当な評価だと思うよ」
と爽やかな笑顔で言ってくれる。大して頑張ってないけどありがとう、と心の中で礼だけは言った。
もちろんそんな俺を見て妬む人間もいる。それは同期だった。そんなずる賢い方法で同期の人間の中でも俺だけがぶっちぎりで昇進していってるのだ。妬んで当然だろう。
昇進していった俺は大きなプロジェクトを任される事となった。俺は誰と一緒にプロジェクトをするか指名する権限が与えられた。
しかしそこは大手企業。日本中の有名大学を卒業した頭の良い奴等が集まっていた。そして俺はその中でも超ハイスペックな後輩達を指名し、プロジェクトを完璧に遂行。
その時の取った行動はこうだ。
広い会議用テーブルの一番先頭のテーブルに座ると某大人気ロボット型人造人間アニメの碇◯◯ドウの様な雰囲気を漂わせつつ、手を顔の前で組む。
「今回のプロジェクトを気にみんなには成長して欲しい。そこでみんなの意見を聞きたい。それぞれ明日までに自分の意見をまとめてきてくれ」
「うん。みんな素晴らしい案だ」
「この意見について君はどう思う?」
「こう言ってるが君はどう思う?」
「分かった。では一番意見が多かったこの方法でプロジェクトを進めていこう」
こんな具合で超ハイスペック後輩に意見を出してもらい、超ハイスペック後輩に意見を決めてもらっただけ。俺は頭良さげな顔と雰囲気だけを醸し出し、碇ゲ◯◯ウのモノマネする。ある意味ではこれが俺の仕事だ。
後輩達のおかげでプロジェクトは上手くいった。結果が出たわけだから上司からは褒められ、後輩からは尊敬されていき、どんどん昇進していった。
そんな時、同期である沢田が仕事に失敗し、遠方に飛ばされる事となった。沢田は同期の中でも特に俺に対し強く妬んでおり、裏ではある事ない事を言って俺の悪口散々言い回っていた。何度か言い合いになった事もある。
人の悪口ばかり言う沢田は周囲からも嫌われていた。そんな沢田が転勤になる事を知ったある日のこと。
俺は仕事が終わってパソコンの電源を切り、時間を確認した。十九時かぁ。何か食べて帰ろうかな。
「お疲れ様でした」
後輩達に挨拶をして、独身の俺は今日の夕飯をどうするか考えていた。
最近は外食が多かったから久しぶりに弁当でも買って家で食べるか。
会社を出てスーパーへと足を向ける。太陽が沈みかけて紺色の空が広がっていた。夏も終わり少し肌寒くなってきたから、長袖を出さないとな。などと考えていると、目の前に沢田が現れた。
「沢田。お疲れ」
うわぁ、何で沢田がいるんだよ。正直会いたくなかったな。しかも何か様子がおかしいぞ。着ているスーツもボロボロで、目が虚になっている。顔も蒼ざめており正直気持ち悪い。さっさと帰ろう。
適当に挨拶をし、足を早めて沢田の横を通り過ぎろうと横を通った瞬間。沢田の小さな声が聞こえた。
「お前のせいだ。何でお前だけ。ずるい。ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい」
これは何かがやばい。そう思ったのも束の間。俺が横を通り過ぎた瞬間に沢田が振り向いてポケットから出したナイフで俺の心臓をひと突き。
それを見た周囲の人間が悲鳴を上げたのが聞こえた。正直自分では何をされたのか分からなかったが、何とか首を回して後ろを見ると自分の背中にナイフが刺さっていたのを見て絶望した。
自分の心臓が上手く動かなくなっているのが分かる。身体が地面に倒れ、頭に血が行かなくなってきたのか意識が遠のいてきた。
嘘だろ。それの人生これで終わりかよ。
仕事も上々で結婚もしたかったなんて希望もあったんだけどな。
俺の顔を沢田がただひたすらに見ていた。
何で人生最後に見る顔がお前なんだよ。せめて絶世の美女が良か、、、た。
そう思った瞬間。俺は死んだ。