一話 私のバイト
ガチャ
弾倉を装着する。弾は込めない。この世界の銃の技術はかなり発展している。弾丸は込める必要がなく、この世界では弾丸ぽい光のエネルギーのような弾が発射される。威力は…受けたことないから分からないけど、多分また転生してしまう。
「最近値上がり激しいからなぁ…」
近年はエネルギー不足で弾の値段が段々高くなってきている。少し古いエネルギーの弾だと安いのだが、それでも弾を節約しながらバイトをしなくてはならない。最近は弾を買うためにバイトをしてるんじゃないかとも思えてくる。そんなの本末転倒だ。
魔法は無いのかって?私も期待はしたけどそんなものはないらしい。その代わりに地球にはないエネルギーが豊富に存在し、科学技術は同程度かそれ以上に進歩している。そこらへんは難しくてよく分からないけど…
「さ、行こう」
当然だがこの世界でも生活をするには、稼ぐしかない。今日はとりあえず高い建物の屋上で待機して、稼ぎ時を待つ。元の世界では女子高生の年齢だけど、私に青春はない。元の世界で高校に通学途中にトラックに跳ねられた。ありきたりな展開すぎて自分でも驚きだ。気づいたらこの世界に飛ばされていた。なんとか状況を理解し、この世界で生きていくために今のバイトにありついた。
目的地へ向かっていると何やら人だかりができている。少し気になったのでチラッと横目に見ると、小さい赤色の怪獣が倒れていた。元の世界とは違い、この世界では怪獣の存在は珍しくない。この世界では人ではない動物全般が怪獣と呼ばれ、人間の社会に時折現れ、一部人間に害を与えるものもいるが、ほとんどは特に何もせず、最近はペット化しているものいる。
「こいつ怪我してるぞ」
「人は襲わないみたいだ」
時間もなく、見物人が多くいるためその場を後にした。ただ一つだけ気になることは、あんなに小さい怪獣がなぜ怪我をしているのかということだ。
目的の場所に着いた。私は友達がいないし、いつもバイトは1人だ。別に友達なんていてもいなくても変わらないし、私はいつもバイトをしてるから忙し...
「おーい!ミヤちゃーん!」
「…」
「ちょ、無視しないでよ。どこ行くのさ。」
「…」
「知ってるよ。バイトでしょ!」
「…!?」
「ふふーん。なんで知ってるかって?それはねぇ…私がミヤちゃんを愛してるか…ってどこ行くの!?待ってよー!」
「ふう、なんとか撒けたかな…」
なんとか変質者を撒いて、屋上で息を整える。「ピロピロ」通信機器が鳴った。元の世界の携帯のようなもので、おそらく怪獣注意報の通知だ。出現場所を確認し、私は屋上から飛び降りた。流石は異世界、今のバイトを続けているうちにレベルが上がったのか、身体能力がとてつもないほどに向上した。もう私が怪獣では?と思ってしまうほど、元の世界では考えられない能力を手にしている。急いで出現場所へと向かう。そう私のバイトのために。
出現場所に着く前にすでに標的は見えていた。そこにはおよそ30mほどの大きな赤い怪獣が、周りの建物を破壊しようとしている。ただ、最近の建物には怪獣対策でエネルギーによるバリアが展開され、被害はほとんどない。周りに人はいない、避難できたみたいだ。怪獣のほとんどが人を襲わないが、一部人間を襲うものがいる。この世界ではこういった危機に対処するために、怪獣ハンターという職業が存在する。怪獣ハンターはいわゆる正社員。私はその非正規雇用版で、少しもらえるお金が少ない。現場にはまだ他に討伐者はいないみたいだ。
「ん?あの怪獣さっきの…」
先ほど向かう途中に見た赤い怪獣と姿がよく似ている…ってか同じだ。サイズが変わる怪獣は存在するが、数十倍も大きくなる怪獣は聞いたことがない。それでもやるしかない。
「私にも生活があるんだ…」
大きくジャンプしビルの屋上まで飛び、そこから怪獣目掛けて一直線に走り抜ける。そして怪獣の眉間を目掛けて銃口を構える。怪獣もこちらに気付き、口を大きく開いた。私はその開かれた口へと引き金を引いた。2発ほど打ち込み、怪獣を大きく後ろへとよろけた。どのくらいダメージを与えたのか分からないが、確実に命中した。
しかし空中で着地場所を確認していると、なんと目の前にいた怪獣が一瞬で消えたのである。
「どこにいったの!?倒したのかな…」
消えた瞬間は何も見えなかった。怪獣がいた真下は砂埃が舞っており、よく見えない。すぐに真下まで向かうと、そこには小さくなった赤い怪獣が倒れていた。さらに口に傷がついている。
「全く意味がわからない…」
さっきの大きな怪獣と、目の前の小さな怪獣が同じ怪獣だとしか思えないような状況に混乱している。こんなことは今まで聞いたことがなく、どうすることもできなかった。通常怪獣を倒したら、その討伐した怪獣を引き取ってくれる場所まで運ぶか、大きいものは引き取りに来てもらう。とりあえず小さな怪獣を抱き抱え、私は1番近い引き取り会社へと向かう。この世界にはギルドは存在せず、現代日本のように資本主義と似たような制度で成り立っている。引き取りには引き取りの会社があるのだ。
引き取りの会社に到着すると、すでに引き取りをしてもらおうとしている人が何人か並んでいた。すぐに自分の番がやってきて、窓口に怪獣を提出する。
「この怪獣、サイズが数十倍も変化したんですけど…こんなことあるんですか?」
「うわーまじかあ…」
「?」
「いやー、最近ちらほら確認されてるみたいでさ、新種かもしれないってんで、処理がちょっと面倒なんだよねー…」
「なんか…すいません。」
「さらにこの怪獣の討伐の報酬、小型怪獣と同じ取引額なんだよ。」
「ええ!?そんなぁ…」
「まあ引き受けとくよ、ハンターカード出してね。」
「はい。」
ピッ
カードを機械に読み込ませ、手続きは完了した。まさかの新種の落とし罠に、私はため息をついた。
「はあ、大型なら3倍以上もらえるのにな…」
「おーい!」
「また、ため息案件だ。」
「またまた〜、さっきはなんで逃げたのさ。」
「面倒だから。」
「寂しいこと言わないでよ!ね!それより、私とペアで討伐しようよ!」
「何度も言うけど、私は1人でやるの。」
「なんでよ、報酬は全部そっちでいいし、2人でやると楽だし、私はミヤちゃんと一緒に…うふふ。」
「そんなの申し訳ないし、第一にアンナはランクが私よりかなり上じゃない、釣り合わないよ。」
怪獣ハンターには、某モ◯ハンのようにランクが存在し、私はさっきの討伐で30になった。アンナのランクは150近くまであり、さらに私と違って正規雇用だ。ランクによって貰える報酬が多くなるし、信用が大きくなる。
「私はミヤちゃんのセンスに惚れたの。さっきの戦いだって遠くから見てたんだよ。」
「見てないで、手伝ってよ!」
「だってミヤちゃん手伝ったら、報酬が減るって怒るじゃない。」
「た、たしかに…」
「とりあえず私とのペア、考えといて!じゃあね!」
実のところ、アンナとペアを組むのはアリな選択だ。ただアンナは私たちと同じ世代ではトップ級の活躍で、私と組むより他の人が適任だと感じるのだ。さらに私は非正規雇用で、不安定な職である。正規雇用にすることも考えたが、まだこの世界のことを完全に把握できていない中で、正規雇用になるのは早計だと考えたのだ。
そんなことを考えている内に、もう日が暮れそうだ。スーパーのようなところで、オワゾー(鳥型のモンスター)の照り焼き弁当とビエール(ビールのようなもの)を買う。この世界では私はもう飲酒ができるのだ。
「よし、帰って晩酌だ。」
今日はもう疲れたので、ゆっくり休もう。なんたって明日もバイトをしなくちゃならない。私の異世界でのバイトは怪獣討伐だ。