プロローグ
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崩れる建物、血の匂い、耳をつんざくような音。
そして、瓦礫に潰され動かなくなった両親。
目の前で広がる光景はまさに地獄絵図だが、それをやったソレは悠々空を駆けていた。
「水龍」
100メートル近い体躯で天を泳ぎ水の塊を吐出し、破壊の限りを尽くしていたソレはこちらを見下ろした。
次の瞬間、押し寄せる台風並みの水から逃げ出した。
走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る
そこで目が覚めた。頭が痛いし耳鳴りもひどい。
時々夢に見る、身に覚えのないリアルな光景。予知夢ってやつだろうか。
こんな世界じゃ冗談にならない。
ぼーっとした頭で周囲を見渡す。
最近買ったばかりのホログラム時計は2148年3月15日の5時30分をしめしていた。
嫌な目覚めではあるが早起きはいいことである。
何せ今日は大阪都立探索者育成高等専門学校の卒業式だ。
そしてなにより主席であるこの、"小鳥遊慧"(たかなしけい)が皆から
尊敬の念を抱かれ、憧れと嫉妬のこもった視線を浴びる、
素晴らしき日だ。そう思うことで嫌な気持を払拭した。
せっかくの早起きだ、最後に思い出の母校を見て回ることにしよう。
「そうと決まれば準備だ」
と眠い体をたたき起こす。
最初は苦戦した制服のネクタイも5年続ければお手の物。
退寮の荷造りも完璧だ。何もない部屋を見ると寂しい気持ちになる。
「行くか」
外に出ると相変わらず薄暗く、小雨が降っていた。
ユーラシアの「火龍」が起こした噴火の影響で、5年前から続く悪天候。
だがそれすら心地よく感じる。
探索者高専のキャンパスはとにかく広し、色々な建物がある。
中でも思い出深いのは、押し合いでパンを取り合った購買や、
よく教官にしごかれた体育館だ。
いいことばっかじゃなかったけど、楽しかった。
最後にやってきたのは国立探索史資料館だ。ここは楽しくないなと苦笑い。
入学時のオリエンテーション以来来ていない。入ってみるとヤツがいた。
『よう主席様』
そうやって悪戯げに笑う男は、俺の親友であり悪友の"阿久津雄太"(あくつゆうた)だ。
身長175cmで中肉中背の俺より、一回りも大きいムキムキの男は楽しそうに聞いてきた。
「お前ここに来るの何回目よ?」
「二回目だ」
と俺が気まずそうに答えると雄太は嬉しそうに
「じゃあ見て回ろうぜ」
といった。
それから俺たちは、探索者の歴史についてよく響く声で喋っているモニターの前に座り込んだ。
『新世界』
人々は2025年以降をそう呼びます。ダンジョンと呼ばれる建造物が発生し、
探索者と呼ばれる異能力者が生まれました。
ダンジョンは様々な資源を我々にもたらし、人類にはなくてはならないものとなりました。
しかし今から12年前、世界中でおこった巨大モンスター同時出現によって東京は壊滅し、現在は復興都市東京として新たに生まれ変わりました。
そして大阪都に首都機能をうつしました。
人口の減少と防衛負担の削減のため、居住地を三大都市である「大阪都」「復興都市東京」「東北」とその周辺に集め、都市と都市を”要塞道路”がつないでいます。
人が済まなくなった土地は現在もダンジョンが発生し続ける”特定危険区域”として、
探索者以外の侵入を禁止されています。
「ふむ、つまらん」
映像を見ていた雄太が嘯いた。
「お前が言い出したんだろ」
そうつっこんでやると雄太が笑うので、こっちもつられて笑ってしまった。
ひと通り笑い終わると雄太は真面目な顔になった。
「お前さ、卒業後どうするよ」
「まだ決めてないな、雄太お前は?」
「俺は、、行きたい場所があるんだ」
なんとなくわかっていた。雄太とはもう一緒に戦えないと。
「最強コンビは解散かぁ」
と言うと雄太はまた笑った。
<キンコンカンコン>
チャイムがなった。卒業式が始まる。楽しかった5年間の終わり。新しいこれからの始まり。
希望なんてない世界で、俺たちは笑っていた。
『行こうか』
『おう』
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