後半
斬首、首が落ちる表現があります。ご注意ください。
何があって聖女は彼女達を嵌める選択をしたのか。それはわからない。もしかしたら黒幕がいるのかもしれない。でも、聖女が来ないならあの未来は回避できるかもしれない。それに賭けた彼女は王子に数年のうちに大寒波が国を襲う。今のうちに対策をと訴えました。最初は悪い夢でも見たのかと思われました。しかし彼女が前回の大寒波を記録した資料からその兆候がすでに起きていることに気づきそれをまとめた物を渡せば幼い頃から聡明な王子もことの重大さに気づきました。
幼い二人の訴えに大臣達は考えすぎだ。どうせあと数十年は大丈夫だとたかを括りました。王は今用意しても無駄になる可能性が高い。無駄金を使うことを貴族も平民も良しとしないと反対でした。
しかし彼女の父は娘を信じ、干し肉や缶詰などの長期保存が可能な食品を作る会社を設立。これなら毎年の通常の冬にも使えるから無駄ではなく、さらに新たな働き口として職に困る者を救えると言いました。彼の治める領地で行われたこと故に他の貴族はまあ自分達が損しないならと特に口出しはしませんでした。
そして数年の時が経ち、ついに大寒波が発生。保存食と干し肉となった獣の毛皮で作られた服はその役割を果たしました。そしてそれは自分の領地だけではなく他の領地にも配られました。暴動を食い止めるためだと怖い顔で詰め寄られたのでほとんどの貴族はそれを許しました。
結果として聖女は召喚されませんでした。もちろんそれにより太陽は以前よりも長い間顔を見せてくれませんでしたが、それでもようやくその光は国に降りそそぎ、大寒波は終わりを告げました。被害をゼロにすることはできませんでしたが、沢山の人が救われました。王は彼女と父に褒章と勲章を授与。この出来事により彼女はますます王族にふさわしい女性だと讃えられました。
しかしそれは全員ではありません。彼女の排除を願う者もいたのです。それは以前の世界で聖女召喚の儀式を執り行った一族でした。この一族は生まれてすぐ厳しい修行を行い召喚の儀式を執り行えるよう育てられます。全ては国を危機から救うため。そのために生きる彼らは自分達に誇りを持っていました。しかし自分達の存在意義は彼女とその父に否定された。一族の長を始めとする幾人かはそう思い込み彼女を恨みました。故に彼女を亡き者にしようと動き出しました。
結果としてこれは失敗に終わりました。勲章を頂いたことにより敵が動くかもしれない。そう考えた父が影を用意したのです。彼の読みは的中し、ことなきを得ました。そして召喚士一族は未来の王族を殺そうとした罪でことごとくギロチンにかけられました。巻き戻る前の彼女の一族とは違い実行メンバーだけが死罪なのは今後聖女召喚を必要とするかもしれない危機がおとずれた時に使えるものがいないと話にならないからです。その代わり彼ら一族の領地の一部は没収され生活もかなり制限されたものとなってしまいました。
彼女はこれでしばらく危機は去ったとホッとしました。もちろんこの後何が起こるのかわかりません。それでもこうして生き残れたのですから懸命に生き、国のため身を粉にしていこうと決意しました。
『見事だ。よく頑張ったな』
気づけば彼女はあの白い世界にいました。そして姿は見えませんが神に褒められ、貴方様の慈悲のおかげですと礼を述べた。
『実は我々の間であることが流行している。それはお前のような者の時間を巻き戻しチャンスを与えることだ。そしてお前は見事あの未来を回避した。誇るが良い。お前は我を楽しませた。だから戻ろうではないか』
戻る。その言葉に彼女の背筋は寒くなりました。そして首が痛くてたまらなくなり抑えるように触れればポロリと首が身体から離れました。
『神によっては回避した世界をそのまま本当の歴史にする。だが私はこう思う。人生は一度きり。故に美しいのだと。それに不幸なまま命を終える者は多い。お前だけを救うのは不公平だろう。だが安心しろ。いずれお前達の汚名はそそがれることを約束しよう。何年、何百年後になるかはわからないがな。あとお前達一族の次の生はできるだけ穏やかで平和にしてやろう。だから安心して眠るがいい』
気づけば彼女の視界はあの頃に戻っていました。聖女らしからぬ笑みを浮かべた聖女。結局何も変えられなかった。その事実に涙を一筋流して彼女の意識は闇へと消えたのでした。
読んでいただきありがとうございました。
やり直しによるハッピーエンドを期待されていた方はすみません。