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前半

斬首表現、幼子の死亡シーンがあります。ご注意ください。

 ある王国の王子には美しい婚約者がおりました。それは容姿だけでなく纏う気品、立ち振る舞いまでとても美しく皆はまさに王族に連なるに相応しい女性だと讃えました。王子との間に恋愛感情は互いにありませんでしたが、これからの国を背負う者としてのビジネスパートナーという意味では強い結びつきがありました。


 しかし二人は結婚することはありませんでした。彼女の親族が大きな罪を犯したのです。それは王族の暗殺。未遂に終わりはしましたが王は一族郎党全て死罪にすると決めました。婚約者である彼女ももれなく罪人となり、彼女をもてはやしていた人々は簡単に手のひらを返して冷たい視線を向けました。彼女のような人材が失われることは惜しいと思う人もいましたが重犯罪人の血筋が未来の王族に流れることを考えれば仕方ありません。


 彼女には歳の離れた十にも満たない弟がいました。共に牢屋へ入れられた弟は恐怖で震えながら姉にしがみついています。どうにかこの子だけでも助けてほしい。彼女はそう懇願しましたが王子は言いました。


 聖女の産まれた国の歴史の中に、敵の幼子に情けをかけた結果滅んだ一族がいたという。甘さは破滅への道だと。故にこの国のため生かしてはいけないと言っていた。たしかに似た歴史はこの世界にもある。故にそれはできない、と。


 それでも彼女は牢屋の中で弟の釈放を訴え続けました。そんなある日、兵士があるものを持ってきました。それは二人の好きな菓子でした。王子からの差し入れだ、ありがたく頂くように。兵士はそう言い姉弟それぞれに菓子を渡しました。


 二人は王子に感謝し菓子を食べました。少しして弟が眠いと言って目を閉じました。消化による眠気だと最初は思いましたが、弟は二度と目を覚ましませんでした。


 弟の亡骸を抱きしめて泣きじゃくる彼女。それでも彼女はわかっていました。これがせめてもの情けだと。おそらく公開処刑となる自分達には沢山の人の憎悪の目が向けられる。石も、罵倒も投げつけられるだろう。幼すぎるこの子にその最期は不憫。そう思った故の残酷な優しさだと。


 その内彼女も薬が効いてきたのか頭がぼうっ、としてきました。眠気はないですが、何かを考えるのが億劫となっています。それを確認した兵士によって彼女は牢から出され、公開処刑の場へと連れて行かれます。


 予想通りの光景が彼女や一族を待っていました。しかし頭の回らない状態の彼女にとってはどれも無意味でした。ちなみにこの状態は彼女だけ。他の者は恐怖で顔が歪み、やつれ、ほとんどの者が総白髪となっています。きっと彼女の今の状態も少しでも恐怖せず安らかに眠ってほしいという王子のせめてもの情けなのでしょう。


 一人、また一人とギロチンで頭と身体が分かれていきます。そしてついに彼女の番になりました。抵抗はせず、すっと自ら頭を置く彼女に周りは静かになりました。抵抗しないのは薬によるものとは知らない民衆は彼女は死ぬ時ですら美しかったとのちに語りました。


 そして刃が彼女の首に食い込んだと思ったときにはもう首は落ち、転がった首のその目に最期に映ったのは王子とその横にいる聖女。聖女が聖女らしからぬ笑みを浮かべたのを見て悟りました。我々は嵌められたのだと。




『お前は何を望む?』


 気づいた時には彼女は白い世界にいました。離れたはずの首と身体も繋がっています。そんな彼女に尋ねる声がしますが姿は見えません。しかし彼女は言いました。叶うことなら嵌められた一族の汚名を濯ぎたい。皆が死ぬ未来を回避したかったと。


『では時を遡ろう。聖女がこの世界に来る前が良いだろうか?そこでどうするかはお前次第だ』


 気づけば彼女は幼い頃の自分になっていました。おそらくあの声は神。我々に情けをかけてくださったのだと深く感謝しました。


 あの未来を回避するためには王子との婚約がなければ良い。そう思いましたが名門貴族の令嬢である彼女は産まれてすぐに婚約者として選ばれたためそれは不可能でした。では主犯にされた親族を国外に避難させるのはどうだろうか?それも考えましたがおそらく別の親族が代わりになるだけです。


 聖女が企んだことだとするのなら、彼女がこの世界に来なければ良いのではないだろうか。たしか彼女が召喚されたのは百数十年に一度起こると言われる大寒波のため。周期を考えれば近いうちに起こるかもしれない。それは数十年前から懸念されていたこと。しかし数十年何も起きなかった故に油断していたのです。そしてろくな対策もなされぬまま発生してしまった大寒波。太陽は厚い雲に覆われて何日も何日も姿を見せず、寒さにより植物は枯れ植物を食べる動物も痩せていきます。幼い家畜は寒さにやられすぐに死んでしまいました。次第に人々も食糧不足により衰えていき、その弱った身体を病魔が襲ったことによりあっという間に感染症が流行りました。


 それは所謂平民に起きた出来事。貴族はその財力で快適な温度での暮らしと食糧を確保しました。自分の領民に配る領主もいましたが、ほとんどの貴族は彼らのことは放置しました。これにより怒り狂った平民による暴動があちこちで多発。国は混乱していき、それをおさめるべく聖女を召喚することになりました。


 聖女は突然の召喚に最初は驚き戸惑っていましたが無事聖女としての務めを果たしてくれました。聖女の祈りで雲は割れて太陽の光が国を照らしました。そして祈りの効果はそれだけでなく、枯れた植物、農作物があっという間に復活したことです。残念ながら人間を含めた動物の復活はできませんでしたが、おそらくそれは神の領域。故に不可能なのだろうと結論づけられました。


 彼女も祈る聖女を見ており、美しいと感じました。聖女と仲良くなりたい。そう願い合流を始め、少しずつ友情は育まれ親友と呼べる仲へとなりました。しかし今にして思えばそう思っていたのは彼女だけだったのかもしれません。

後編へと続きます。

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