アレンという男
「観光の予定だったけど、やめて飯の調達だな。
ハァ…街の名物だとか観光スポットだとか見て回りたかったんだけどな」
「誰のせいだと思ってんだ」
「あんたら二人よ」
運ばれてきたサラダをモシャモシャと食べながら二人を睨む。
だが肝心の二人はその視線にいい加減慣れてしまったのか、こちらの事など気にもとめない。
アルタイルはサンドイッチを下品にかぶりつき、デネブはそんなサンドイッチを寄越せと必死に交渉している。
「買い物する時に荷物持ちはやりなさいよね!?
あんたらが食べちゃったんだから!!」
「ハ、ハーイ」
ベガの怒りは未だに収まる気配がない。
アルタイルもデネブもなんとかこの怒りの炎を鎮火したいところではあるが、この調子では二人が何を言っても逆効果にしかなるまい。
今日しばらくはベガのご機嫌取りをしなくちゃならないだろうな。
「お待たせ致しました。ステーキになります。
ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「以上です。ありがとうございます」
かしこまりました、と若い店員さんが深々と頭を下げ、また厨房に向かって踵を返そうとした時、不意に入口が開かれ新しいお客さんが入ってきた。
「あ、いらっしゃいませー」
即座に営業スマイルを顔に貼り付け、新しいお客さんに空いてる席へ座るよう誘導を始める。
毎日繰り返す行為のためか、まだ若いながらも非常に手際がよい。
酒場の看板娘というだけはあるな、とアルタイルは人知れず感心した。
「あぁ、僕は客ではありませんよ、人を探しているだけなので。
用が済んだら退散しますので」
「そうでしたか、失礼致しました。ごゆっくりと」
こういった客、というよりはこういった訪問者も多いのだろう。
訪問者の対応までもが、淡々とこなされ業務に一切の支障をきたさない。
その仕事ぶりを見てアルタイルは彼女はデカくなるだろうな、と一人笑った。
さて、人探しとは一体誰を探しているのか、
ふと気になり、入ってきたお客さんを横目で覗き見ると金色の髪の長身の男がいた。
その男は今まさに噂をしていた…
「アレン……さん?」
噂をすればなんとやら、思わず名前が口に出たアルタイルの声に気がつき、呼ばれたアレンはキョロキョロと周りを見渡した。
やがてテーブルを囲んで食事をするアルタイル達を見つけるとパァッと顔を輝かせ一直線にテーブルに向かってきた。
「おぉ!皆さんもこっちに来てたんですね!」
「おぉアレンさん!ちゃうど噂してたとこだったんですよ!」
「それは光栄です!」と恥ずかしそうに鼻をかき、俺達の席のそばにきた。
立ち話もなんだしとアルタイルは近くのテーブルから使われてない椅子を持ってきてアレンの足元に滑り込ませる。
アレンは律儀に「ありがとう」と頭を下げて感謝を伝える。
別に気にもしないような事だが、どんなに些細な事でも感謝の気持ちを忘れない辺り、やはりアレンは人が良いみたいだ。
「お元気ですか!ベガさん!!」
「え、えぇまぁ」
ベガに対してアレンはとびきり弾けるように笑った。
目元口元のどれをとっても「整っている」と言わざるを得ないアレンの容姿からの人懐っこい笑顔は同じ男のデネブとアルタイルでさえも思わず見惚れる程に輝いていた。
だが、ベガは何故かヒクついた表情筋と冷たい視線を向ける。
アレンとベガの態度から(なにかあったな)と察したアルタイル。
対称的にそれを察せないデネブは構う事なく無遠慮に会話を続ける。
「お、ナンパっすか!?ベガはやめときましょ!死ぬぞ!!」
(まぁ…そこは同意する)
静かにアルタは頷く。
「あんた喧嘩売ってんの!?」
デネブに飛びかかるベガを抑えようとアルタイルが立ち上がった辺りでアレンが一歩下がり胸を張った。
「はい、これはナンパです」
…………………………………………………………え?
アルタイルは耳をほじくり耳クソを出せるだけ出す。
聞き間違いで何かとんでも無いことが聞こえた気がしたからだ。
見ればデネブもフリーズし、ベガは再びヒクついていた事から彼が何かとんでもないことを言ったのは間違いないようだが、今さっき聞こえた寝言ではないだろう。
「ごめんアレン。もう一度言ってくれないか?」
咄嗟の事に思わず呼び捨てで呼んでしまったが、それは後で謝るとする。
今はもう一度言ってくれと懇願するほか無かった。
「僕はベガさんに愛を捧げます」
「そこまでは言ってなかったよな!?」
デネブが食い気味に否定するとアレンはキョトンと真顔になった。
「あれ?聞こえてたんですか?でしたら話は早いですね。
単刀直入に言います。
僕はベガさんとお付き合いをしたいです」
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?!?!?
「お前中々勇気あんな!!」
「まだ人生諦めるなっ!!」
「ぶち殺されたいの!?」
これは流石に予想外だ。
いや正直何かあったとは予想していたが、何があったらこうなるのだろうか。
「アレン何故だ!ギャンブルにでも負けたか?罰ゲームか!」
「失礼ねあんた!」
「いえ!僕は本気です!お二人には分かりませんか!?
ベガさんの魅力が!この溢れんばかりの愛が!?」
「分かるか!教えてくれよ!」
「まずは癖のない艶やかな茶髪!
太陽のような優しい微笑み!
掴めば折れてしまいそうな細い腰も!
彼女を彼女たらしめるその何もかもが僕を夢中にさせるんですよ!」
アレンの中々耳に痛いポエムが終わりベガは死んだ顔でただ口角を上げる。
この笑顔のどこに太陽を感じるのだろう。
「……えっと…とりあえず昨日何があったんだよ」
色々確認したい事はあるが、まずは何があったらこうなるのかを確認しておくべきだろう。
ベガはヒクついた表情でポツリポツリと語り始めた。
「その…彼を助けただけよ」
それだけ聞くと十分惚れ込みそうなエピソードだが
「助けたといってもあれよ!?
ただえっと…石…そ、そう!石が飛んできてたからそれを弾いただけ!!」
イケメンかよお前
思わず声に出してしまいそうだったが、グッと堪えてまだベガの話に集中する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ふむふむ、なるほど。
なんでも試験が終わり、帰宅しようとしたところ、偶然現役の騎士団の者達が模擬刀で稽古をしていたのを見かけたそうだ。
ベガとアレンを含めた複数の見習い兵士が邪魔にならない程度に目を輝かせながら見学していると
それに現役の騎士も気を良くしたのか、打ち合いはより激しくなり迫力も段違いになっていった。
最初は座っていたのに思わず立ち上がっており、握り拳には手汗が滲んでいたという。
相当凄い打ち合いだったのだろうな。
しかしその激しい打ち合いに先に武器が耐え切れなくなり、片方の模擬刀が折れてしまったのだ。
そしてその剣先がアレンに直撃しそうになる。
「!!! 危ないっ!!」
咄嗟にベガはいつものように手につけて遊んでいたお手製のゴム玉を勢いよく跳ねらせてその折れた模擬刀を吹き飛ばしたという。
神業である。
現役の騎士からは慌てて感謝と謝罪の言葉を述べられ、他の同期達からもありったけの賞賛を浴びたそう。
そして助けられたアレンはその時の光景が目に焼きついて離れずに、そのままプロポーズ。
その日はベガが根負けして逃げ出す瞬間まで永遠に同じような言葉を囁かれ続けたそう。
「とりあえずぶつかりそうだったのは石じゃなくて模造刀なんだな。
しかし、お前そんなにイケメンな奴だったっけ?」
「というか試験の日にまであのゴム球持ってきてたんだな。
この依存症」
「うっさいわね!!もう私の一部なのよあれは!!」
お前つくづく騎士団なんて入るなよ。
大道芸人の方が性に合ってるぞ多分




