少年達は青年となる
「では行ってきます」
「あぁ、いってらっしゃい」
その日、とある街から3人の若者が旅立った。
歳は20 男二人に女一人 それぞれ動きやすい軽装で身を包み、腰には腰袋と剣が備えられている。
腰に携えた剣には白と金の装飾がいくつも施されて、持ち手の根元にはなにか紋章が刻まれている。おそらく国のシンボルである不死鳥だろう。
そして彼等を見送る人混みからさらに数歩先に6人の大人がいた。
おそらく旅立つ彼等の両親だろう。
そしてその背後には多くの町民達が笑いながら手を振っていた。
少なくとも彼等の旅立ちは街の人々から祝福されているようだ。
「たまには顔見せに来てくれよ」
「うん、先生……いや、、父さん。行ってきます」
若者達はもう一度だけ街に大きく手を振って馬車へと乗り込んだ。
馬車が遠く離れていき、やがて見えなくなってしまう時まで、人々は手を振り続けていた。
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馬車に揺られて数時間、やがて城壁に囲まれた建造物が見えてきた。
「見えてきたぞ!!」
王国 ホープだ。
ここからだ。
ここから俺達はこの世界を変えてやるんだ。
「試験会場は確かこっちだったっけ?」
「一回下見に来たんだからちゃんと覚えときなさいよ」
銀の髪をした青年が困ったように振り向き、茶髪の娘が呆れながらある方角を指差した。
「この先よ。ずっと真っ直ぐ」
どうやら道自体は合っていたようだ。
このまま進めば騎士団の会場が見えてくるはず。
「変に目立たないようにすることね。
同期の中で私達は弱い方かもしんないし、強い方なのかも分かんないから」
茶髪の少女は不安そうに、しかししっかりと前を見据えて歩き始めた。
「えっと…753番です」
「755番です」
「754番です」
「……はい。
それでは先に筆記試験がありますので、手前から4つ目の教室に進んで下さい」
受付の方に案内されるまま、俺達は試験会場へと向かった。
教室を開けるととんでもない数の椅子と机が並んでいた。
100?いや200はあるかもしれない。
俺達の席は後ろの方だった。これはよかった。
後ろの席であればこれから同期になるかもしれない人間を後ろ姿だけでも覚えられる。
これは好都合である。
椅子を引いてそれぞれ席に着く。
若者達の席は隣り合っており、茶髪の娘を挟むようにして青年二人が座った。
まぁ3人同時に申し込んだのだから自然とこういう席になるのも読めていた。
茶髪の娘は着席するなり深呼吸を始めた。
まだまだ心が落ち着ききってないのだろう。
「お、ベガさんでも緊張するんだね〜」
「当たり前でしょ。大体アルタもちゃんと勉強してきたの?」
ベガと呼ばれた娘は緊張を隠しきれぬ様子で苦笑いをした。
一方でアルタと呼ばれた青年は少し余裕そうに足を組んでみせた。意外にも足が長い。
「もちろん勉強したよ。でも実技の方でいい結果出せたらそれだけで合格なんだからさ。そんなに心配いらないんじゃないか?」
「あんたそれが出来ない可能性とか考えないわけ?」
ベガはまたも呆れ、視界から友人達を外そうと無意識的に窓を眺める。
「少しは肩の力抜かないと肩凝るぞ」
「あんたは抜きすぎなのよ」
「うわー、今のセリフちょっとやらしー」
「あんた達ここがどういうとこか分かってんの!?」
二人の能天気っぷりに頭に血が昇ってしまう。
この二人と到着時間をずらすべきだったと早速後悔し始めていた。
「あ、ペン落としましたよ」
声のする方を振り向くと背の高い金髪の青年がこちらを、、、というよりは私一人を見ていた。
「あ、ごめんなさい。ありがとうございます」
手に持たれたペンを受け取ると控えめにお礼を言った。
「初めまして。僕はアレンです。お互い合格出来るように頑張りましょう」
アレンと名乗った男はニコリと微笑むと踵を返し、自分の席へと向かっていった。
「なんか、、、すごい奴だな。いかにも聖騎士っていうか…」
「あぁ、おまけに結構イケメンだしな。
ハァ…いきなり強敵が出現したかもな」
デネブは溜め息混じりにアレンの背中を見つめる。
背筋がピンと立ち、服にシワ一つ見られない。
立ち振る舞いから彼の育ちの良さが伺える。
デネブの強敵という予感は案外当たっているかもしれない。
デネブ達がお喋りをやめた頃に、続々と人が入って椅子が埋まっていく。
筆記試験の開始時刻になり、教授が入室するまでには200はあったであろう椅子が全て埋まってしまっていた。
おそらく他の教室でも同様の光景が見られる事だろう。
意外とこの世の中は命知らずの人が多いようだ。
未来ある若者達が次々命を投げ出しているこの現状をなんとかしてもらいたいものである。
「それでは始めて下さい」
教授の号令を合図に一斉に紙がめくられ、ペンと机のぶつかる音が響き渡る。
しかし元騎士団であるアルタの母親が立てたガッチガチの対策勉強が功を奏し、ベガ、デネブ、アルタの3人は大半の問題にキチンと解答する事が出来ていた。
だが、それでもなお、この筆記試験は確かに難しかった。
この時ばかりは血の気の多いアルタにデネブ、そして他の騎士達も沈黙し、ただ目の前の用紙に集中していた。
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筆記試験は終了し、いよいよ身体能力測定が始まった。
番号を順に呼ばれ、科目ごとに測定を行う。
反復横跳び、垂直跳び、1500m走、握力計測等、身体能力の数字がわかりやすく出る種目が揃っている。
そして種目をこなしている騎士候補の者達を見ていれば一人一人が相当の能力を備えているのが目に見えて分かる。
もしも平和な世界で生まれ育っていれば、きっとスポーツ選手として国の名を背負う大スターになっていただろう
そんな優秀な人間が何人も集まっていた。
基本騎士団の入隊に人数制限などはないので、倍率等は存在しないのだが、当然新入り間での比較はされる。
これだけの人数が全員合格というのは流石に考えられないが、それでも相当の数が合格するだろう。
「な、なんか皆ヤバくない?
まさか毎年このレベルなのかしら?だったら私自信無くす…」
ベガにとって修行に注ぎ込んだあの10年間はどうしても不安を取り除けない心の支えになっていた。
しかし目の前に広がるとんでもないレベルの高さに心の支えが崩壊しつつある。
「そんな後ろ向きになるなよ!お前らしくない!!」
アルタイルが背中を叩き、不器用なりにベガを勇気づける。
しかし思ったより強く叩かれたベガは思わずよろけてしまい、前に並ぶ男の背中に頭突きを炸裂させてしまった。
「キャッ!!ごめんなさい!」
「あぁ?んだよ?」
振り返った男は小柄なベガから一回りデカいデネブよりさらに一回りデカい新入騎士の中でも一際大柄な男だった。
またその腕にはいくつか切り傷が見受けられ、全体的に威圧感があり、いつぞやのトカゲの手をしたエボミーを思い出す。
「あぁごめんなさい!よろけちゃってつい押しちゃっただけなんです」
ベガは大柄な男の見下ろす視線に怯む事もなく、丁寧に謝罪した。それに続けて原因を作ったアルタイルも謝罪した。
「すいません!悪気はなかったんス」
二人の謝罪を聞いた男はジロリと見回した後、ベガを見つめて僅かに口角を上げてニヤリと笑った。
「……ケケッ。まぁ気ぃつけとけや」
それだけを言うと男はまた前を向いて背中を向けてしまった。
見た目によらず温厚な人間で良かったとベガは安堵し、間髪いれずにアルタイルを睨みつけた。
「ちょっと!あんた力入れすぎよ!」
「悪かった悪かった!!元気付けようと思ってつい…」
怒り心頭のベガに今回は非を感じるアルタイルはただ縮こまる。
それを一人無関係のデネブは高みの見物を決めていた。
(でも体勢崩して背中に頭突きとか笑っちまうな)
前の人に聞かせない為に心の中で呟いたデネブは一人笑いを堪えていた。




