家族と友達
「町を出るって…。こんな時にあんた何言ってんの…?」
「レダが言ってた。 この世界は最低だ、って。
俺はレダの言う事は正しかったと思ってる。
俺達はただブラフマーを見に行っただけだ。
それだけで俺は腹を抉られて、妹を殺された…!!
イカれてる。俺達は何もしてないだろ!!
レダの為にも!!俺達カゲロウの為にも!!
こんな世界変えてやる!!」
デネブは立ち上がり、窓を開けまだ雨の降る空に拳を向けた。
最愛の妹を失った悲しみは誰よりも強いだろうに…
本当は誰よりも涙を流したいだろうに…
こいつは本当に強い男だ。
「それで、町を出るのか…?
出るのはいいとして、そこからどこに行く気だよ」
「まずは隣国のホープに向かおうと思ってる。
そこで騎士団に入隊して、実力を付けていくつもりだ」
ホープとは、世界でも数少ないカゲロウの民が主権を持つ大国だ。
世界中で差別を受けるカゲロウの民の心強い味方であり、象徴のような存在でもある。
ごくごく稀にだが、この国を滅ぼさんとエボミー主権の国々が攻撃を仕掛けてくる事もあるにはあるそうだが、それらから国を防衛する役目もまた担うのが騎士団だ。
そして騎士団というのは志願制だ。
入隊するにあたって、年齢制限は騎士団には存在しない為、必要最低限の常識と肉体強度が備わっていれば子供でも騎士を名乗る事は可能だ。
だが、普通に考えてそんな子供が自分から死にに来るなんて有り得ない。
そのため、騎士団は成人を終えた兵士が中心に構成されている。
「はぁ!?あんた騎士団って何してるのか知らないの!?
エボミーとの戦争よ!?エボミー退治!!
場合によっては野獣とかドラゴンとかも相手にしてるらしいし!!
あんたが行っても役に立つ訳ないでしょ!!」
騎士団の業務とはあくまで街の治安維持が目的だ。
その為には各地で暴れる野獣退治、だけではなく隙を見ては侵攻してくるエボミーを相手取る。
街の平和を脅かす敵達の討伐。
その相手がエボミーか、野獣か、もしくは龍か、それだけの違いだ。
「やってみなきゃ分かんないだろ!!」
「分かるわよ!!その抉れた腹に聞いてみなさいよ!!」
文字通りエボミーに容易く抉られた腹に聞けば、自分が行ってもどうなるかなんて目に見えて分かる。
「う、で、でもよ…」
文字通り痛い所を突かれたデネブは言葉に詰まり苦い顔を浮かべる。
それに対してベガは容赦なく追撃を仕掛ける。
「大体あんた…!!
世界を変えるだとか実力をつけるとか言ってるけど、そんなの建前であんた死ぬ気なんでしょ!?
そんなの許す訳ないじゃない!?」
「!! 俺はそんなつもりねぇよ!!」
「じゃあなんでいきなりそんな事言い出したのよ!?」
「話は聞かせて貰ったぞ」
閉じられたドアが開かれ、アルタイルの父親が剣を持って現れた。
「父さん!?なんで!!!」
「重要な話は、もっと静かに行うべきだぞ」
どうやら外には筒抜けだったようだ。もっとボリュームを考えた会話をするべきであった。
「さてデネブ君。君は本当に…騎士団に入りたいのだね?」
デネブは無言で頷く。
それを見た父さんは、深く眼を閉じ、やがてゆっくりと開く。
「まず確認だ。
君はベガちゃんの言う通り、騎士団に入隊して死ぬ気なのかい?」
「そんなつもりはない!!俺はレダの無念を晴らす為に戦う!!」
腕を大きく振り払い強く否定する。
デネブが、いや俺達3人の誰かが死ねばレダはきっと悲しむだろう。
だからこそ、誰も死なせない為にデネブは戦うのだ。
その言葉に偽りはない。
「よし、それが聞けただけで十分。
その話は、君の両親にも必ず話しておくんだ。
ご両親の許可が下りたら、私と妻が稽古をつけてやる」
!!!!!!!
「あ、ありがとうございます!!」
「ちょ!ちょっとオジさん!?
普通止めてくれるんじゃないの!?」
ベガがもっともな反論をする。
当然だろう。
妹が殺されたあとに、その兄が自ら危険な地に赴くというのだから止めるのが自然だ。
「子供を導く大人としては止めるべきなんだろうね…。
だが、デネブ君には親がいる。それも立派な方達がね。
あくまで私は部外者だ。
この問題は私ではなく、デネブ君の家族が決めればいい。
私はあくまで、デネブ君の選択を尊重する事にするよ」
父は自前の剣を片手に微笑むように笑った。
「な、なにそれ…」
ベガは頭を抱えてしまった。
デネブが死ぬかもしれない。そう思うと体が震え、視界が狭まる。
ここでなんとしてもデネブを止めなくてはならない。
そう思ったベガはもう一度デネブを睨みつけ、肩を掴んで前後に振り回す。
「私は絶対に認めないからね!!
騎士団に行くなんて今すぐに取り消して!」
「デネブが行くなら俺も行く」
アルタイルが呟くように話した。
「ちょっと!!アルタ!?!なんであんたまで!!」
「俺もレダの無念を晴らしたい。
だから俺も戦うさ。
父さん。デネブがいいなら俺にも稽古、つけてくれるよな?」
まさか息子まで言い出すとは思わずに、流石の父も驚き少し困ったように笑ったが、やがてしっかりと頷いた。
「あぁ、構わない」
「ねぇなに言ってんの!?あんた達死ぬ気なの!?」
ベガは心底有り得ないものを見るような表情で俺に掴み掛かった。
友達として、レダを想って、ベガは必死に二人を止める。
だがベガの無我夢中な主張は男二人には届かないようだ。
「俺も死ぬ気なんてないよ。
どうしてレダが殺されなきゃいけなかったのか、俺はそれを知る為に戦う。
もちろん、レダの分までしっかり生きるつもりさ」
「生きるつもりなんだったらそれこそ騎士団じゃなくても!!」
「レダの仇討ちだ。闘わないといけない」
「おいアルタ。本当にいいのかよ。死ぬのかもしれないんだぞ?」
言い出しっぺのお前が言うのか、と思ったが俺の答えは決まってる。
「あぁ、構わない。
大体お前は死なないんだろ?だったらその近くにいる方が安全そうだ。
死ぬ気はさらさらないけど、それでも死んだらその時さ」
!
ベガは少し喉を止めた。
少し考えに変化があった為だ。
そしてその考えは、すぐさまにベガの頭を支配していった。
「そうか。
ならアルタは今日からでも稽古をつけてやろう。
強くなれ。誰にも負けないくらいに」
「………おじさん、その稽古…
私も…お願いします」
ベガはゆっくりと手を上げた。




