再会
「着、着いた…」
4人は昨日登った山とは別の山を登り、再びブラフマーを待った。
今度は下手に騒がないようにして…
常に細心の注意を払い、人の気配に集中し続けた。
……ここが街の中ならばこんなに気を張る必要もないのだが。
「あ、そうだ。俺飴玉持って来てるから食うか?」
アルタイルが小さな飴玉を4人に配った。
「お!気が効くなぁ!!」
「ありがと!!」
「ありがとうアルタさん」
元々4人はまだまだ大人の庇護下にある子供なのだ。
甘味が好きなのは至極当然なのかもしれない。
舌の上で飴玉を転がしながらブラフマーが通る時を今か今かと待ち侘びる。
木にもたれながら足を揉んだり、道草で冠を作ったり、腕相撲をしたりと暇を潰しながらそれぞれが時間を過ごす。
「遅くね?本当に通んのかよ?」
「お前が言い出したんだろ。お前が責任持てよ?」
「う…ま、まだわかんないだろ?」
自信が無くなって来たのかデネブのボリュームが下がっていく。
「ここまで待ったんだし、もう少し待ってみようよ」
レダは草の冠を作りながら兄の肩にもたれかかった。
突然甘える妹にギョッとしながらも妹LOVEが止まらない兄はドサクサに紛れて妹の肩に手を伸ばして…
「キモい。やめて」
レダの言葉にデネブは泣いた。
「何やってんだか…
!! ちょっと待て!!誰か来る!!皆隠れろ!!」
アルタイルの言葉に慌てて全員近くの草むらに身を隠す。
アルタイルの指差す方角を見ると確かに一人、誰かが山を登って来ていたのが見えた。
「よく気がついたね、アルタさん」
「偶然目に入っただけだよ。
それより、あいつはカゲロウか?それとも…」
アルタイルの予想は外れて欲しかった。
こちらに向かってくる者が、隠れる必要のないカゲロウであったならどれほど良かったか、
「…あいつ、エボミーだ…」
「し、しかも…」
その腕はトカゲのように変化しており、さの額からは角が二本生えていた。
そいつは
「昨日の、昨日のトカゲ野郎……!!!」
レダの目に憎悪が灯る。
「レダ落ち着け!!兄ちゃんは大丈夫だからよ」
そうは言うデネブだったが、その目には隠しきれぬ怒りが見えていた。
「出来るならぶん殴りたい…」
そう言った次の日に幸か不幸か、こうして遭遇してしまったのだ。
少し隠れて様子を伺っていると男は近くの木にもたれかかりタバコを吹かし出した。
おそらくあの男は今日もまたブラフマーを見るつもりなのだろう。
せっかく違う山に来たというのに、まさか今日もまた遭遇するとは思いもしない。
デネブは昨日を思い出し、少し傷が痛んだ。
男はタバコを吹かして山の向こうを見る。
ブラフマーはまだまだ通らない。
男は両手を後ろに組んで頭の下に敷き、文字通りお手製の枕を作り、硬直してしまった。
ここからでは目元を確認できないが、おそらく目を閉じて眠っているのではないだろうか?
と、すれば俺達がでていってもあの男が気付くのに時間がかかる。
「なぁ、今ならあいつに痛い目見せられるんじゃないか?」
アルタイルは全員の頭に浮かんだ事を口に出した。
「だよね。やってやろうよ」
一番最初に賛成したのはレダだった。
近くの石を手に持ち、今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。
「えぇ、やってやろう」
「デネブ兄さんも!早く兄さんも武器持って!」
「え?あ、あぁ。本気でやるのか?」
手負いとは言え、4対一。
相手はこちらに気付いていないので不意打ちを仕掛けられる。
圧倒的に有利だ。
昨日の鬱憤を晴らすにはちょうどいいかもしれない。
だが、そんな事をすれば他のエボミーにも知れ渡る可能性が増え、命の危機を感じるかもしれない。
だが、まだ子供の彼等にはこの土壇場でその事まではどうしても考えが及ばなかった。
「よし、俺が最初に殴るからお前らは俺に合わせてくれ」
アルタイルに従い、後ろをこっそりついていく。
奴までの距離はもう3mもないだろう。
もう少しで奴の頭に一撃を喰らわせられる。
「お前ら昨日のガキ共かー」
!!!!!!?!?!?!!!!?!?!?!!
なんと後ろを向いていながら男はこちらに気付いていた。
気配は消していた。足音も当然。
なのに何故…
「お前らエボミーを舐めすぎなんだよ。テメェら雑魚とは根本的に違うんだよ」
失念していた…そうだ。こいつはエボミー。
常人でも気付くようなことに、気付かない訳がないのだ。
「2回も俺の時間を邪魔か?
昨日は見逃したが、今日という今日は殺してやるよ」
男が変異した腕を伸ばし、再びデネブの腹を切り裂こうと腕を振り上げた時、
ガスっ!!
「ガァッ!!?!?」
その目元に石が直撃した。
レダが石を投げたのだ!
「ンにしやがんだ!!このガキャアアアア!!!!」
「うっさいのよ!!このトカゲ野郎!!」
憎悪を剥き出しにしてレダは吠える。
「よくもお兄ちゃんとアルタさんを!!」
「レダ!!落ち着いて!!」
ベガの静止を無視してレダは男に立ち向かう。
レダの目には憎しみの炎が灯る。
トカゲ男を殺さなくては彼女から火が消える事はない。
今はただ怒りのままに、レダは走る!
「よくもおぉぉぉ!!!!」
「このガキガァ!!!」
潰された片目からは血が流れ落ちていく。
目玉に石が直撃したとあっては流石の奴といえども重傷だ。
だが、それでも勢いは収まらない。
今度は標的を変え、レダを切り裂かんと再び腕が振り上げられた。
「し!しまっ!!?」
我を忘れ、その結果回避の遅れたレダの首から鮮血が飛び出る!!
「レダアアァ!!?!!!!!」
デネブが大慌てでレダを抱きかかえトカゲ男の射程から外れる。
トカゲ男も間髪入れずにレダに襲い掛かるが、ベガとアルタイルがそれを許さない!
ガスッ!!
「ガッ!!また石をッ!?!?」
「お前だけは許さねぇ!!!」「許さない!!!」
ベガとアルタイルが石と木の棒をぶつけ、かつ自分達は避けることにのみ徹する事でなんとか奴の攻撃を避けていた。
「このクソガキ共が…!!ちょこまかとしやがって!!」
(あのガキは殺す!!
俺の目を潰したあのクソガキだけは絶対に殺す!!)
トカゲ男はレダの方向を見る。
その先には確かにレダとそれを介抱するデネブの姿があった。
トカゲ男は爬虫類のようなその爪を光らせ、レダに狙いをつけた。
しかしそれは悪手であった。
男はその数瞬、後ろの二人から目を離してしまったのだ。
「ダリャア!!!!」
アルタイルが尖った石ころをトカゲ男の目玉に突き刺したのだ!!
途端に辺り一面に断末魔が響き渡る。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「ベガアァ!!」
待ってました!とばかりにベガはお得意のゴム球を操り、アルタイルの突き刺した石ころにぶち当てる。
ベガの抜群のコントロールに振り回した事による遠心力も加わり、そのゴム球はとてつもない威力となっていた。
男の目玉を破裂させるには十分なほどに!!
「メェェぅァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!!!!!!!」
男は狂ったように暴れ狂い、右目を押さえて地面に転げ落ちる。
そして暴れ狂ううちに男は山道特有の急な斜面へと近づいて行く。
「オガァァ!!ァ!?!?!メガa!!!!アァagaァァ!!」
「あ!おいそっちは!!」
アルタイルが咄嗟に止めたが、遅かった。
男は山道を後ろから転倒し、地面を転がり落ちて行った。
頭を打ち、腕を折り、足はひしゃげてそれでも山道を転がって行く。
やがて雑木林へと男は消え去って行った。
「・・・奴の自業自得…なんだよな?」
「なの…かな。人殺すなんて初めてだし…今はそんな事よりも」
レダの安否だ。




