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それぞれのカナン   作者: 笹原 カエデ
第一部 4人の戦士
3/21

レダの苦悩


夕方

デネブの家から帰るアルタを支えるようにしてベガもまた家に帰った。


アルタの怪我はかなり浅いし、大した事はない。

次の日にはいつもと変わらず、元気な姿を見せてくれるだろう。



そして夜

デネブは包帯でぐるぐる巻きにされた腹を抱えながら夕飯を食べる。

時折痛そうに顔をしかめているのが、レダには辛かった。


「今日はお風呂はやめておくんだ。早めに寝るんだぞ」


仕事から帰宅した父は一足早く食事を済ませると食器を洗いに台所へと向かった。


怪我をした息子を気遣い、余計な詮索はしない父にデネブは感謝した。


「あぁ、ありがとよ親父」


デネブは傷を指でなぞって症状を確認してみた。

昼間は痛かったが、今はなぞっても痛みを感じなくなっていた。


薬が効いている証拠だろう。

なんにせよこの調子ならすぐにでも良くなりそうだ。



「ねぇデネブ兄さん。あんな気持ち悪い奴らに怪我させられてデネブ兄さんは悔しくないの?」


レダには負けん気の強い兄があれだけ理不尽な暴力を受けて平然としてる事が理解出来ないのだろう。

兄へ困惑したような表情で問いかける。


「そりゃ悔しいよ?

兄ちゃんだってあいつらはムカつくし、一発ぶん殴ってやりたい。でも…


仕方ないんだよ。

エボミーの一族は格段に身体能力が優れてる。

俺達カゲロウじゃ、エボミーには絶対に勝てないんだ。

でも平気だ。


兄ちゃんがいつか強くなってあのトカゲ野郎にあの時はすいませんでした!!って鼻水垂らしながら謝らせてやるさ!」



最後にスープを飲み干して台所へ食器を運ぶ。


「じゃあ兄ちゃんはもう寝るよ。

レダもあんまり長風呂しないようにな」


「…うん、そうするわ。おやすみ、デネブ兄さん」


レダは残りの夕飯を噛み締めるように口に運び、最後に両手を合わせて「ごちそうさま」


兄に言われた通り、長風呂をしないように今日は湯船に浸かるのは控えめにしておこう。



兄が寝室に向かいドアを閉めた事を確認した上でレダは風呂場へと向かった。

私を溺愛するあのバカ兄ならば覗きをする可能性がなきにしもあらず。


実際にデネブが覗きをした事は無いし、本人もその気はないので不要な心配なのだが、レダはそういうことに対して過敏になるお年頃なのだ。


服と下着を掴んで同時に脱ぎ、一気に裸体になる。

ふと鏡で自分の姿を認識する。



銀色のロングヘアーに幼さの残る顔立ちと体つき。


うん、いつもの私だ。


自分で言うのもなんだが、美少女の類に入ると思う。

少なくともブサイクちゃんではない。


後ろ髪を手で払い、風呂場の戸を開いた。


髪を丁寧に洗い、流し、次に身体を洗って泡まみれになる。

そうやってキレイになっていく中でもレダの頭には悔しさが残っていた。



「…お兄ちゃん…。本当に…それでいいの?」



レダには終わった事をキレイさっぱり忘れてしまう事がまだ出来なかった。


いや、というよりはそれだけデネブのことが大好きなのだろう。

本人も自覚しているが、人のいない所、もしくは切羽詰まった状況ではデネブを「お兄ちゃん」と呼ぶのが証拠だ。


「お兄ちゃんがよくても、私は良くないよ…。

許さない…。絶対に」


怒りに任せて湯を叩き、長い髪を後ろで纏める。


「………ハァ…やめよ。これ以上は長風呂になっちゃうな」


レダは考える事をやめ、足早に風呂を出た。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


後日


4人は再び同じ空き地へと集まった。


「デネブ!怪我は!?大丈夫なの!?」


ベガが開口一番にデネブの身を案ずる。


よく見れば髪がほつれていまいち決まっていない。

朝の身支度が雑になってしまったのだろう。

それだけ心配されていたと分かれば流石のデネブも恥ずかしくなってしまう。


「ま、まだ少し痛むけど、どうってことねぇよ」


「そ、そう。良かった〜」


ベガは胸を撫で下ろして分かりやすく安心する。

その心配性なベガに思わずアルタイルは笑ってしまう。


「何笑ってんだよ?」


「い、いやごめんごめん。ベガってそんなに心配性だったか?」


「友達を心配すんのは当たり前よ」


そんなもんか、とまた笑ったアルタイルにつられて今度はデネブも笑う。

笑われた事で少しムッとしたベガであったが、変に言い返す気にもならないのでそのまま笑われておく。



「ま、無事ならなによりだな」


「うん。アルタさんも無事で良かった」



アルタイルもあの時腹に膝蹴りを二発まともに受けている。

デネブに比べれば軽傷とはいえ、十分ダメージの残る怪我ではあるのだ。


「…ごめんね、助けてあげられなくて」


「いいって。元はと言えば俺が大声出したせいだしな」


「いやそれを言うなら山頂に行こうと言い出した俺のせいだろ」


怪我をした当人同士で責任の取り合いをしてる中、レダはある提案が浮かんだ。


「せっかく集まったし、今日はショッピングでも行かない?」


「あ、いいね!新しい服欲しかったんだ」


「えぇ…お前らのショッピング長いんだよな。 

てか、こないだ行ったろ?」


少しうんざりしたようにデネブが苦笑いをした。

以前も買い物に付き合わされ、しばらく離してくれなかった事があるのだ。どうやらそれがトラウマになっているらしい。


「えぇ〜?じゃあどっか代案ある?」



「俺は今度こそブラフマーを見たい!!」


なんとデネブがとんでもない提案をしてきた。



「あんた昨日大怪我したばっかでしょ!?ダメに決まってるでしょ!!」


当然ベガは止める。

ブラフマーを見に行ったせいであんな目に遭ったのだ。

なのに何故また行こうなどと言い出すのかこいつは…


「い、いやでもよ?

結局見れなかったし、あいつらはブラフマーを昨日見ただろうからもう近くには居ないだろ?


それにブラフマーは近くの国々を回って、それからまた元の道に戻るらしい。

つまり昨日通ったところをまたブラフマーが通るんだよ!!

それも今日!!」


今日が本当にラストチャンスかもしれないんだ!!


そう言ったデネブは必死に頼み込む。

そしてアルタイルもまたデネブの横で頭を下げて頼み込む。

どうやらアルタイルもブラフマーを見たいようだ。


ブラフマーを見たい気持ちはベガもレダも一緒だ。

だからこそ昨日の日を楽しみにして、山を駆け上がったのだから。



だがそれでも昨日の事が頭にチラつく。

もしまた何かあったら…


「あ、大丈夫だからな!?昨日とは別の所に行こうと思うんだ。

別の山からもブラフマーが見えると思うからさ」


デネブのこの一言が決め手となった。


「まぁ、ならいいか…」


もう一度言う。ベガもレダもブラフマーを見たいのだ。


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