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それぞれのカナン   作者: 笹原 カエデ
第一部 4人の戦士
21/21

月明かりの夜


「ヴァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


背中から腹を貫通された女はアルタイルを肘でぶん殴り、首を掴んで前方へ投げ飛ばした。

傷口を庇い、片手しか使っていないというのにだ。



「あ、あんたたち…!!」

「大丈夫か!?ベガ!!」

「よくも俺達の仲間を…!!!」


アルタイルは女のベールめがけて剣を振り下ろす。

それを女は戦鎚の柄で受け止め、そのまま弾いて押し返す。

そして剣を弾かれ、無防備になったアルタイルに流れるように斧を斬り上げる。


しかしアルタイルはこれを寸出で回避した。


斧の太刀筋に合わせてアルタイルの茶色い髪が数本切り飛ばされ、力無く宙を舞う。

一旦距離を取ろうとアルタイルはバク宙で後ろへ下がり、女を注意深く見ながらフッと息を吐く。

あとほんの少し回避が遅れれば舞い散る髪が自分の首になってたかもしれないと思うとゾッとする。


「……フゥゥ!!なんつー怪力だよ……こいつ…!!」

「一対一で勝てる相手じゃなさそうだな」


横を見ればデネブが剣を抜き、アルタイルより一歩前へ出ていた。


「俺もやる。

こいつだけは許せねぇ……!!俺が殺す!」

「…一緒にやるぞ!」


二人の目は怒りの炎で染まっていた。

握った剣はミシミシと音を立て、額には青筋がのぼる。

二人が睨みつけるその女は武器を構えるでもなく、不気味に立つだけ。


睨み合いの末、デネブが一瞬早く飛び出して女の懐へと入り込む。

そのまま剣を振るも同じように戦鎚で受け止められ、女は弾き返す構えを取った。

だが、間髪入れずにアルタイルが切り込みそちらは斧で受け止めさせる事でデネブへの攻撃を封じる。


「……ッフ!!」


女は二人同時に押し返しデネブには戦鎚で突き、アルタイルには斧で斬り下ろした。


アルタイルは押し返された時、幸いにも剣を持った右手が真上に飛ばされた為、上からの斬り下ろしには防御が間に合う事が出来た。


だがデネブは防御が間に合わず、腹に思い切り突きを喰らいベガの真横まで吹き飛ばされた。


「ッッガハッ!!」

「デネブ!!」


叩きつけられたデネブを心配してベガは肩に触れる。


女はアルタイルが受け止めた斧に更に力を加える。


「ウッッグヴヴゥゥ!!!!」


女の包帯まみれの片手に筋肉の筋が現れ、斧を握る手が震え出す。


アルタイルは指一本たりとも力を抜かずにただじっと耐えている事しか出来ない。

なんとか攻めに転じたいところではあるが、そんな余裕がとても作れ出せない。


防戦一方というのはまさにこの事だろう。

こいつの行う事一つ一つが俺たちが処理するにはデカすぎる。

まだ打ち合い一つ出来ていないというのに、力比べ一つで全身がミシミシと音を立てている。


「この……!!バケ…モン!!」


苦し紛れに言い捨てるが、女には届いてすらいなかった。

斧に込めた力はそのままに…空いた片手で戦鎚を構え、ただ固まって耐えるアルタイルの横腹に狙いを定めた。


「ッ!!」


それに気付いたのは離れて傷を庇っていたデネブとベガであった。


女はアルタイルに肋骨を粉砕させようと戦鎚を振る。


「させるか!!」「させない!!」


デネブとベガが間に入り、二人の剣で戦鎚を受け止めた。


だが



「……ヴウヴヴアアアアアア!!!!!!!」


女は再び女とは思えない獣同然の叫び声を上げ、力任せに戦鎚を振り回し2本の剣で受け止めた3人まとめて吹き飛ばした。


「ゴホッ!!」


3人はより強く壁に叩きつけられ、ひどく背中が痛む。

アルタイルはまだ動けたが、デネブはヨロヨロと立ち上がり、深いダメージを負ったのが目に見える。


ベガはこれがとどめとなり、目を閉じてそのまま倒れてしまった。


「……ク、クソ…!!」



あまりにも強い……強すぎる…。



俺達はこの10年間、やれるだけの訓練と積めるだけの経験をしてきた。

騎士になる前からだ。


正直な話、俺達はかなり強い部類なんだと本気で思っていた。

いや実際、新兵の中ではそうだった。


確かに騎士を目指すだけあって試験に来た新兵候補達は全員相当な手練れなのは見て分かった。

だがその中でも俺達は指折りの実力を持っていたんだ。

まぁ考えてみれば当たり前と言えば当たり前。


彼等が騎士を目指しだしたのは物心つき、騎士団の活躍を見始めた若い時だろうと思う。


しかし俺達はまだまだ遊び盛りの10歳という子供の頃からすでに騎士として闘う事を目的にして専用の特訓を10年間繰り返し続けてきたのだ。

そりゃあ多少の自信も付くだろう。


だがいざ騎士になってみて思い知らされた。


確かに新兵の中では優秀なのかもしれないが、熟練の中ではむしろ足手纏いでしかない現実に。

聞いた話よりもずっと大きく、強い始祖の生物を



そして、目の前にいる今の俺たちでは絶対に越えられない壁を…



「・・・」


女は斧を持ち上げ、今にも振り下ろす体勢を取る。

女を見ればその表情は変わらずに無表情のままで、包帯に覆われたその目から目線を伺う事は出来なかった。



バン!!


不意に銃声が鳴り響き、同時に女がよろめいた。

そして遠くの方から大勢の足音が聞こえてきた。



これは……もしや…




「サロメ隊長!!!目標を発見!!」

「総員散開!!一般の方達を守るんだ!!」



サロメ隊長率いる騎士団の方達が応援に来てくれたのだ。

その中には先輩であるゴルーダさんやワトソンさんの姿もある。


「ん?もしかして、ベガちゃんとアルタイルか!?

なんだってこんなところに!?」

「今日の君達は非番のはず…。

まさか、居ても立っても居られなくなって俺達より先に闘っていてくれてたのか!?やっぱり君達は最高の騎士だ…。


よし!!あとは任せてくれ!!」


若干誤解が入ってるが、闘っていたのは嘘ではないので何も言わないでおく。


「ようやく会えたな。()()()()()

君が大人しく捕まってくれればそれで終わりだ」

「あなた、面白いわ…」

「不気味な奴だな」


サロメ隊長は槍を振り回し、遠心力を加えてより素早く突く。

それを避けた女は避け様に戦鎚を構え、振り上げる。


そうしてサロメ隊長に振り下ろされた戦鎚をゴルーダが盾で受け止める。

アルタイル達を3人まとめて吹き飛ばした戦鎚をゴルーダはたった一人で受け止めきった。


不死鳥の騎士団印が刻まれた盾は大きく凹み一撃でもう使えなくなってしまったが、盾を回して戦鎚を受け流すとすかさずに腰の剣で女に切り掛かった。


「……」


女は半歩下がる事でそれを躱す。

だが、そうして下がった先にはまた別の騎士が剣で切り掛かってきていた。


女は咄嗟にその剣を斧の持ち手で受け止めるとそのまま片手で斧ごと剣の刃を捕まえて強引に騎士から剣を奪い取り、そのまま壁に斧と一緒に剣を投げつける。


剣と斧は円を描きながら宙を舞い、そのまま壁に深く突き刺さった。


そうして手空きになった片手で騎士の頭を鷲掴みにし、その恐るべき握力で騎士の頭を握り締めた。



「ギイィィヤアアアァァァぁぁぁぁ!!!!!」


バン!!!!


ワトソンさんの銃撃が発射され、弾丸は女の手首を撃ち抜いた。

怯んだ女は騎士の頭から手を離す。その僅かな隙を突いてサロメ隊長が懐へと潜り込む。


「雨突き!」


そしてサロメが槍を雨のように連続した突きを繰り出し、女の逃げ道を塞ぐ。

そしてその槍は女の肩と脇腹を掠める。


「……フッ!!」


女は息を吐き、サロメの音速を超える槍をまさかの素手で掴み、そのまま握り締めてメキメキと音を立てて折ってしまった。


「き、昨日買ったばかりなのに!」


すかさずにサロメは槍を捨てると女の手を掴み、押さえつけてそのまま拘束。数瞬だけだが動きを止める。


それを見て先ほど倒れた騎士とゴルーダの二人が剣を左右互いから同時に攻める。


だが女は変わらず冷静な表情で手を掴んだサロメを騎士に向かって放り投げて向かってくる騎士ごと吹き飛ばす。


そしてゴルーダの剣を戦鎚で受け止めて弾き返し、腹に蹴りを入れた。


「ウゴオ!!」

「バケモンかよ!あいつ!!」


ワトソンは悪態をつきながら3発の銃を撃つ。

女はそれを避けるでもなく戦鎚で全て弾き落とし、地面を殴り上げてそのまま抉り壊し、石を飛ばした。


「ハ!ハァ!?」


ワトソンは瞬時にそれを右に避けつつ再び女に照準を合わせようと回避体勢のままスコープを覗いたが、その姿はどこにもない。

動揺したワトソンは姿を探したが、女は既にワトソンの後ろにまで移動していた。


振り向くワトソンの顔面に女は拳を入れ、壁に激突させた。


「こ、こいつ…!!」


あまりの強さに流石のサロメにも焦りと動揺が隠せない。


(近頃出現した人斬りは間違いなくこいつだ。

まさかここまで強いとは…!!

クソ…。ドレイクにも声をかけておくべきだったかな)



壁に突き刺さった斧を抜き取った女はゆっくりとこちらを振り向いた。


「……今日の月はキレイね」


不意におかしな事を言い出した。


「……?

そうだね。どっかの誰かさんが人殺しなんてしなければ今頃僕も月を見ながら安い酒を飲めていただろうにね」


「あぁ、それは悪い事をしたわ…。

ウフフ、また会いましょう」


不敵に女が笑ったと思うと、突然女は地面を蹴り上げて屋根の上へと走り上がっていった。



「!! ま、待て!!」


突如逃げ出した女に動揺し、サロメも慌てて槍を突き刺し、屋根に登る。

だが、そこからは月明かりに照らされた王国 ホープの夜景色が見えるだけ。


「逃げられた…か」


ふと後ろを見れば騎士とゴルーダがもどかしそうにこちらを見上げていた。


「隊長!あいつは!!」

「・・・すまない!逃げられた!!

ワトソンは奴を追いかけてくれ!

他の皆はアルタイル達の手当てだ!」



その声を聞いて安心したアルタイル達はフッと目の前が暗くなり、瞳を閉じた。


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