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それぞれのカナン   作者: 笹原 カエデ
第一部 4人の戦士
2/21

男の正体


「ガハッ!!」

「オラ!!もう一発!!」


アルタイルは二発の膝蹴りを腹に受け、その場で地面に転がる。


「アルタ!!」


ベガ、デネブ、レダは慌ててアルタイルに駆け寄りその身を案じる。

手元には医療の道具など何もない。

目の前で苦しむ親友に何もしてやらない自分達が情けない。


我慢ならなかったデネブは怒りのままに男を睨みつけ、そのまま手を振り上げ、突撃した。


「てんめええぇぇ!!!」


しかし若い男にはそれが気に食わなかったようだ。


「あー?ンだこのガキ」


トカゲのように醜く変化した腕を振り上げ、デネブの身体に振り下ろす!

デネブの服に3本の切り込みが入り、そこから赤い液体が勢いよく飛び出た。


            血だ。


「アグッ!!」


「ヒイッ!!」

「お兄ちゃん!!」


胸元を抑えて痛みに顔をしかめる。


「ニヒヒ、やりすぎちまったか?」

「おいもうやめてやれ。さっきからうるさくて敵わん」


老人が男に機嫌の悪そうな声で戒める。


「あー?」

「ブラフマーが通るぞ。早くこっちに来い」


それを聞き、男は意外にも素直に腕を下げて老人の横に腰かけた。


あの様子ではアルタ達にこれ以上危害を加える気はないだろう。


だが、危害を加えられていないベガとレダはともかくアルタイルとデネブは未だ立ち上がれずにお互い傷を庇って転がっている。


「大丈夫!?立てる?」

「ゲホッ!ゲホッ!!な、なんとか…」

「し、死ぬ…マジで死ぬ…!!」


デネブは切り裂かれた胸を押さえながら掠れた声で地面を握り潰す。それは痛みを和らげる為だろうか?


「うん!すぐにママの所に連れて行くからね!!」

「二人とも立って!早く逃げるわよ」


ベガがデネブの肩を担ぎ、レダはアルタイルを支えてなんとか山を降りていく。


ブラフマーの事など今更知った事では無い。

今は俺たちの命が大事だ。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「オバさん!!救急箱!!デネブとアルタが!!」


なんとかデネブの家に到着した俺達はすぐにデネブ家の母の手にかかって応急処置を施してもらう。


デネブの母は、まず重傷のデネブから先に手当てを施し始めた。

手慣れた様子で傷口を消毒し、薬を塗り、包帯を巻く。


負った怪我は深かったそうだが、必要な処置は施された。

あとは安静にしていれば治るはずだ。


「大丈夫。大丈夫。あとは横になってるだけよ」

「次はアルタね。いらっしゃい」


俺は膝蹴りを腹に二発受けた程度だ。

こうしてる今もズキズキと痛んでいるし、決して()()で表せるダメージではないのだが、胸を抉られ、出血までしたデネブに比べれば軽傷と呼べるだろう。


だがそれを説明しても尚、デネブの母は俺を気遣って貴重な包帯をお腹に巻いてくれた。


「子供なんだから遠慮なんてしなくてもいいのよ?」


デネブの母はそう言って微笑んだ。



「あいつ…!!絶対許さない!!よくもデネブ兄さん達を!!」


一転してレダは怒り心頭だ。怒りの炎は簡単には収まらないだろう。


「ホンット!!あいつホントにムカつく!!」


片やベガは自作のゴムヨーヨーを円を描きながら振り回し、不機嫌を隠さない。


男二人が倒れ伏しているというのに、女二人は逞しい。


「ベ、ベガ…壁に当てるなよ?」

「当てる訳ないでしょ!!あたしが今更!」


今以上に幼い頃からゴム球を扱い続けてきたベガはその扱いにとても長けている。


本人もゴム球の扱いは自信があるようで、ある時には「当ててみて」と軽い気持ちでやってみた木の板への的当てゲームで十発中8発命中という脅威の腕前を見せつけ、若干引いてしまったほどだ。


まぁ、そんな技術があっても将来なんの役にも立たないというのは本人もよく分かってるらしい。


「ねぇ、そろそろ説明して。この怪我はどうしたの?

一体何があったの?」


デネブの母はレダへ問う。


「なんか…変な男にやられた。

手から鱗が生えてて頭に角が二本生えてた変な奴。

あ、あとなんか、む、虫?みたいな羽が背中から生えてた変なおじいさんもいた」


それを聞いたおばさんはみるみるうちに顔が青くなり、恐ろしい形相でレダの肩を強く掴んだ。


「その人達は【エボミー】よ!!!」


「エ、エボミーって何?」


おばさんの言葉を聞いたアルタイル、デネブ、ベガは同じようにひどく青ざめた。

この3人等は幼い頃にそれを幾度も教えられたからだ。


だが、3人よりも幼く人一倍勉強嫌いなレダはその事を教わりながらも彼女の記憶に残っていなかったのだ。


レダはエボミーがなにかを知らない。


「!?

レ、レダ…この間教えたでしょ?


………エボミーっていうのはね、選ばれた種族の名前よ」


「え、選ばれた…?」


「レダ?300年前に何が起こったのかは知ってる?」


「え?

えっと…えっと…戦争が起きてて、それで、えっと…せ、戦争してる最中に、途中で隕石が落ちてきちゃって、たくさんの人が死んじゃって…」


「えぇ、そうよ。

たくさんの人が、戦争とその隕石落下で亡くなった。


それともう一つ。


隕石が落下した事で地殻変動が起き、眠っていた海底火山までもが活動を始めてしまって、史上最大規模の大噴火が起こった。


そしてその火山灰が降り積もり、食べ物も飲み物もみんなダメになってしまったの。


するとどうなると思う?」


「…お腹が空いちゃう」


「そうよ。

みんな食べ物が食べられなくて、お腹が空いて、それでまたたくさんの人が亡くなったの」


「確か…亡くなった人口の8割は飢えで亡くなったんだっけ?」


アルタがおばさんの解説に補足を付け足した。

アルタだけではない。ベガとデネブもまたその事は知っていた。


「そう。でもそこから異形の姿と引き換えに、その過酷な環境に適応した生物が現れ始めたの。それが【エボミー】」


「そして環境に対応出来ないまま特に変化もなく現代まで生き残っちゃったのが、あたし達【カゲロウ】って訳」


ベガは半ば投げやりのような態度で壁を睨む。

ぶつけようのない苛立ちをどうしたものかと目元が揺れているのが分かる。


「じゃ、じゃあなんでさっきの変な奴らは私達を攻撃したの!?」


レダが核となる部分を質問する。それに答えたのはデネブだった。


「向こうは俺達が嫌いなんだよ。ッ!痛てて…」


デネブが傷を抑えながら静かに語り始めた。


「エボミーは俺達カゲロウの事を出来損ないって馬鹿にしてるのさ。

何をしてもいいと思ってる。俺たちの事を心底見下してんだよ」


「ふざけた話だけどね…。いわゆる差別よ」


納得出来ない、という表情でレダは固まる。


「何それ…。ね、ねぇそれって捕まったりとかってしないの!?」


「捕まるなら、世界人口の半分以上は牢獄暮らしをしてる事になるわね」


「この世界の中心はエボミーなの。

自分達の首を絞めるような法律を制定するバカがどこにいるの」


レダ以外の4人は諦めたように俯いてしまった。


仕方ない事なのだ


そう自分に言い聞かせてるようだった。



しかしアルタ達に比べても一回り幼く、純粋なレダにはそんな諦めの感情は出てこなかった。


「この世界………最ッ低…‼︎」


レダの心は怒りでいっぱいだった。

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