人攫いと黒い怪物
「ん?」
ふと窓の外を見たアルタイルは女性が猿ぐつわを嵌められ、今まさに連れて行かれるところを目撃した。
「あ!あいつら!!」
反射的に立ち上がり、護身用の短剣片手に窓を飛び降り単身で人攫いに立ち向かった。
「え!?おい何して!!」
後ろから困惑したデネブ達の声が聞こえるが、耳に届かず。
屋根を飛び降り、街灯にぶら下がり、足早に駆けつける。
デネブはただ前のみを見つめ3人の人攫いを睨みつけ、その中で女性を押さえつける男に飛び蹴りを喰らわしてやった。
「アダァ!!」
「こ!このガキ!!」
「お前らが最近有名な人攫いか?
もし違うんだったら謝るけど」
指をパキパキと鳴らしながら歩み寄るアルタイルの目は正義の炎に燃えていた。
元々の強い正義感に最近なにかと話に上がる人攫いを単独で捕らえられるかも、という期待が身体を熱くさせる。
もしこいつらがその人攫いだった場合、それを捕らえたとなれば俺達3人の名前がより多くの人に認知される。
そうなればよりたくさんの人に俺たちの声が届くようになる。
俺たちの夢 世界をひっくり返すというのにちょっとだけ近づけるかもしれない。
「チッ!正義のヒーローごっこかよ」
男は腰からナイフを取り出し、構える。
どうやらこちらを殺すつもりのようだ。敵意を含んだ冷たい目つきと手に持ったナイフに付着した赤い血がそれを証明する。
「へっ!まだ見習いだけど騎士様だからな!
ごっこじゃなくて正義のヒーローなんだよ!!」
ニッと笑い片手で短剣を構えて一歩踏み出す。
3VS1とは不利な条件だが、そこは狭い路地裏を使って数の利を生かさせない立ち回りをしよう。
時間なら人の目を気にしなくてはならない人攫い達の方が不利。
「おいさっさと女を連れてけ!
このガキは俺が口封じしとく」
「了解!」
「うい!」
あ!しまった!!
「てめぇらも俺と闘え!!逃げるなんて卑怯だぞ!!」
「俺が残ったのはてめぇの口封じだつったろ。
大体卑怯もクソもなんでわざわざ全員お前と闘って無駄に見つかるリスクを犯さなきゃならないんだ」
ごもっとも
「さっさとてめぇを倒して追いかけねぇと…!」
「やれるもんならやってみろよ」
一瞬で間合いを詰め、男は首を掻っ切ろうとナイフを振る。
「おっと」
まぁその位なら俺でもいなせる。
一歩後ろに引いて軽々とナイフをかわす。
軽々とかわしたアルタイルは後隙にパンチの一発でもお見舞いしようかと思ったが咄嗟に引き下がる。
ふと見れば男が空振りしたナイフをもう一度振り、来た道を戻るように今度は掻き切るというより突き刺すようにして男はナイフを振っていた。
アルタイルはその手を受け止め、背負い投げの要領でその背に男を引っ張り上げ、地面に叩きつけた。
「痛ッッヅァ!!」
痛みに顔をしかめる男にすかさずに頬を一発ぶん殴ってやればそれだけで男はのびてしまったようで動かなくなった。
「いっちょあがりっと」
仮にも訓練を受けた軍人。
扱いに慣れているとはいえ、素人のナイフなど捌けて当然。
アルタイルはあっという間に人攫いの一人を叩きのめした。
(さて残りのあいつらを追わねぇと…!!)
近くのゴミ捨て場に捨てられていたボロボロのロープ(おそらく港の廃棄物)で街灯に縛りつけ、念の為にもう一発男を殴って気絶させておく。
「アルタお前何してんだ!!こんな夜中に!!」
振り返ればデネブ、アレン、ベガの3人が部屋から降りてきていた。
俺もそうだが寝巻きの姿のままなので、夜の街には少し不恰好である。
「人攫いがいたんだ!
こいつは今俺がぶっ倒した。誰かこいつが逃げないよう見張ってくれないか?
あと二人向こうに逃げて行ったから追いかけないと!!」
「人攫い!?マジかよ」
「そんなに遠くには行ってないはずだし、手分けして探しましょ!!
アレンはこいつを見張ってて!!もし残りの人攫いがここに戻ってきたらすぐに知らせてね!」
アレンに見張りを頼み、アルタ、デネブ、ベガの3人は裏道を進む。
「早く見つけて俺たちだけで捕まえちまおうぜ!!
先輩達に追いつけるチャンスだ!!」
「既に一人倒してるだけでも十分だと思うけど」
3人それぞれが護身用の短剣を構えて狭い裏道を進む。
やがてそれぞれが別の道を進み、手分けして逃げた人攫いを探す。
「ったく!!どこだ!?
アルタの話じゃ女性一人抱えてるらしいからそんなに早く動けないはずなのに…!」
〜人攫い視点〜
(ハァ…!!ハァ…!!
クッッソが!!この女重いんだよ……!!!)
「おいおい…!!レディーに向かって重いはねぇだろ」
なるべく住人達に気付かれないように、と小声で話す俺だが、同僚はいつもと変わらない声量でケタケタと笑う。
ゲラゲラと笑いながら走る同僚を見て頭に余計に血が上る。
見つからないようにしねぇといけねぇのになんだってこんなに騒がしく動くんだこのバカは!!
(黙れバカ!!人に見つかるだろーが…!!)
(おぉ!!そうだったそうだった悪りぃ!!)
こいつは…!!
ハァ…まぁいい。
とりあえずこの女は隠れ家に置いてくるとしよう。
一人囮になってくれた奴が直に戻ってくると思うが、あいつはもう切り捨てるのが正解かもな。
寝巻きだったから気づきにくかったが、あいつの下げてた短剣には騎士団の紋章が刻まれていた。
どうもあのガキは本物の騎士様のようだ。
決してあいつが弱い訳じゃないんだが、本職が相手じゃ流石に分が悪い。
うーむ。今思えば3人で袋叩きにしちまうべきだったかもな。
だが、変に騒ぎを起こせばそれこそ取り返しつかなくなるしな…。
ぶつぶつと考え事をしながら走り回り、曲がり角を曲がった瞬間、そこに黒いコートを羽織った何者かがいた。
(ヤベ!人がいたか!!)
反射的に人攫い達は身を隠し、物陰からバレないようにソーッと横目でそいつを見る。
そいつは明らかに異様だった。
黒いコートから覗く包帯だらけの汚れた腕
存外高い身長と細い身体。
頭には赤と黒基調のベールを被っており、その表情を隠す。
しかしそのベールは年季もののようで所々穴が空いており、隙間からはボサボサの白く長い髪が見え隠れしていた。
今まで多くのカゲロウ達を襲い、いろんな風貌の者たちを見てきたが、そんな彼らから見ても明らかに異様であり、近寄りがたい雰囲気があった。
(な、なんだあいつ?
ほ、他の道から行くか)
(そ、そうだな。触らぬ神にはなんとやら、だ)
いつぶりか、人に恐れを抱いた人攫い達は他の道を探して来た道を引き返す。
だが、後ろを振り向いた瞬間、凄まじい轟音と共に隠れていた物陰ごと壁が破壊された。
異様な人物の手によって
音を立てて破壊された瓦礫が命中し、激痛が走る。
思わず顔をしかめて、傷を抑えればヌルリとした感触が手のひらを包む。
血だ。
〜アルタイル視点〜
地響きと共に凄まじい轟音が聞こえた。
まるで爆弾が破裂したかのようだった。
突然の出来事だったため、状況が分からずに数瞬間立ち止まったが、慌てて音のした方角へ走る。
あれが人攫いのしかけた囮の音だった可能性もあるが、それでもそっちに走った。
デネブ達もそちらへ向けて走っているのだろうか?
いやベガならば囮の可能性を考えてより遠くへ陣取るかもしれないな。
可能性はいくつか考えついたが、なんにせよ音の正体を突き止めておきたい。




