ベガの悪夢
アレンからの衝撃的な話を聞くのに夢中になっていた俺達は外は日が落ちてきて、続々と仕事終わりの男達が酒場に集まり、店が賑わってきていることに気がつかなかった。
周りの喧騒が聞こえてきて、不意に辺りを見渡したベガがそれに一番早く気がついた。
「それで、多分アグドは世界中全ての国を支配下に置いて、完全な独裁国家を作るのが目的なんだよ!
そんな事は絶対に」
「あぁー、ンッンン!!!
みんな、ちょっと席を替えよ?
そういう話をするにはここは人が多いわ」
ベガに言われて俺達はやっとこんな地雷話が出来る環境ではない事に気が付いた。
というか、何故俺達はよりにもよって酒場でこんな話をするのだ。
「それもそうか…。じゃあ俺らの家に向かおうぜ」
この街にやってきて一番最初に向かった古風な民家。
ベガ、アルタ、デネブ3人の親がそれぞれお金を出し合い、俺達がホープに到着するよりずっと前から購入してくれていたらしい。
元々空き家だったらしいので割と安価だったと親達は笑っていたが、それが本当でも嘘でも余計な出費にしてしまわないよう、俺達は立派にならなくてはならない。
「うん、そうだな」
ーーー
店を後にし、夕日が照らす街道を4人並んで進んでいく。
「そういえばふと思い出したんだけど、最近このあたりで人攫いと殺人が頻発してるみたいよ」
「らしいな。俺ら二人はその警護でしばらく近くの村に滞在してたんだ。
村長さん達には悪いが、あんな小さな村にも警護を立てるなんて新聞の記事にある数字よりも相当な数が犠牲になったんだろうよ」
「うん、新聞を見るたびに犠牲者が増えてるから早急になんとかしたいんだろうね」
「だが、これはチャンスだ。この事件を騎士団の先輩方じゃなくて、俺達が解決できりゃあ、俺達の名前が広まって地位向上にも繋がる」
こんな時にもデネブは自分の事を考えている。
いや別に悪いことではないし、自分本位の理由でも世間を悩ませる問題を解決してくれるならそれでよいのだが…
「デネブが名声を求めるなんて意外だな。
なんだか、そういうのには興味なさそうなのに」
「ん?いや俺は…
あぁそっか。そーいやアレンにはまだ話してなかったな。
俺らが騎士団に入った本当の理由」
レダの死。理不尽な世界。そして彼女の残した夢。
俺達の夢の果てだ。
「え!?何か目的があるの!?」
「あるぞ。その話は家に着いたらな」
デネブもすっかり落ち着いたようで、今までと変わらない様子でアレンと会話している。
からかうように笑うデネブと人懐こい無邪気な笑顔を振り撒くアレンを見て、心配はいらない、とベガとアルタは人知れず安心した。
そうして夕暮れの中を歩くこと数分、アルタ達の家が見えてきた。
「あそこの薄汚い家が俺達の家。
つまりベガの家だな」
「薄汚いとは貴様」
「お、おじゃましまーす」
部屋は少し散らかっていた。
元々帰ることの少ない家なので、そもそも置かれた物が少なかったのだが、アレンが来ると分かっていればもう少し片付けておくところだった。
「あ、ちょっと散らかってる」
ベガは恥ずかしそうにそそくさと片付け出した。
アレンは落ち着かない様子で目線を泳がせていた。
俺達も一緒に住んでるとはいえ、好意を寄せる相手の家なのだから緊張するのも当たり前だろう。
ベガが部屋を片付けている間、アレンが少しでもリラックス出来るようにとまずは椅子に座らせてみた。
「ま、座れ座れ。俺らの話をする前にお前に見せたいものがあるんだ」
「え?なに?」
俺は棚の引き出しを一つ開け、一冊のアルバムを取り出し広げて見せた。
「どうよ?ベガが小さい頃の写真だ」
「おお〜〜〜〜!!」
今では滅多に見られないベガの太陽のような笑顔
祭りに参加し、浴衣を着込んだ姿
稽古に打ち込み、額に汗を貼り付けた真剣な表情
アレンは知らない当時のベガの姿を写した写真を渡してみればアレンは嬉しそうに写真を見て笑っていた。
「え!?ちょっとなんでそんなの持ってきてんのよ!?」
対称的にベガは恥ずかしそうに赤くなり、片付けの手を止めて写真を奪おうとアルタとアレンに掴み掛かってくる。
「いいだろ別に!減るもんじゃなしに!」
「ふざけないでよ!!恥ずかしいじゃない!!」///
ベガはアレンの胸ぐらを掴み、振り回してなんとしてでも写真を奪い取ろうと躍起になっていた。
だがアレンはベガに急接近されたことと幼少期ベガの可愛さに頭をやられ、とうにグロッキーになっていた。
そろそろ助け舟を出すか、とデネブはベガを掴み、そのまま羽交締めにする。
同じ修行をした身であっても男と女。流石に力はデネブの方が強い。
「水溜まりにこけてベソかいてる写真。
どうよ?今の凶暴なベガからは想像も出来ない泣きっ面」
「やあァぁめぇェぇてえぇぇぇーーーー!!!!」
ベガの叫びはしばらく続いた。
夕日が沈み、晩御飯の匂いが町中からしだすくらいの時間まで
やがて外は日が沈みだし、街灯がポツポツと輝き始めた。
そして暗くなり始め、人がだんだんと少なくなってきた頃、路地裏から数人の男達が現れ始めた。
その男達は街角を歩く二人の男性と一人の女性に目をつけた。
しばらく後をつけた後、やがて男達は男二人を後ろから殴り気絶させ、女一人に猿ぐつわをはめて袋に詰め込み、流れるように路地裏へと運び入れた。
彼らは人攫いだ。




