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それぞれのカナン   作者: 笹原 カエデ
第一部 4人の戦士
17/21

日記


「僕は、アグドが世界を滅ぼした理由を知りたいんだ」


胸に手を当て、力強くまっすぐな瞳でアレンは前を向く。


「は? 滅ぼした?何言ってんの?」

「バカみたいな話だけどさ、僕は確信してる。

…皆は300年前に起きたとされる大戦争と、大規模な自然災害の事は知ってる?」


あぁ、それこそ耳が痛くなるほどにガキの頃から聞かされてるからな。

巨大な戦争が起きてる最中、追い討ちをかけるように巨大隕石の衝突と火山噴火でとんでもない数の死者が出たっていう。


そして、火山灰が積もり、ろくに飯も育たない過酷な環境に耐えられる進化を遂げたのがエボミー。出来なかったのがカゲロウなんだったか。


「知ってる。それがなんだよ」

「アグドにある図書館。そこで調べ物をしてたらすごい物が見つかってね

偶然にも300年前、つまり戦争当時の農民が遺した日記が見つかったんだ。

分厚い辞書みたいな本に隠すように挟まってたからきっと見落としたんだろうね」


そう言ってアレンは小さな日記を腰ポケットから取り出して見せてくれた。

随分と古ぼけており、タイトルなど色褪せてほとんど読めない。

中心に途切れ途切れなれど文字が書かれ、かなり薄くなっていたが右下には人名らしきものが描かれてる。


中の字は大丈夫なのか?と気になったものだが、開いて見せてくれたページの文字は薄くなった字の上から新たに加筆が施されていた。

読みやすいようにアレンが描いたのだろう。

これならば問題なく読める。


デネブとベガも身を乗り出し、机に置かれた日記を4人で囲む。




ーー


○あぁ、今日で何日経ったのだろうか?

日記を遡って数えてみたら外の戦争は2年と174日も続いてる事が分かった。

もういい加減にしてくれないか

俺は……いや、俺達皆、もう疲れたんだよ


この避難所にいつ敵が攻め込んでくるのか考えるだけで嫌になってくる。

戦争で一人闘う兄は大丈夫だろうか?

今の俺には心の拠り所がそれだけしかなくなってるのを感じる。



○今日兄の死を知った。

葬儀はしないそうだ。

死んだ兵士一人一人にしていたらお金がもったいないとの事。

流石は自称世界一の大帝国だ。

死んだ兵士一人一人には帰りを待つ家族達がいる事実は奴らの目にも入っていないらしい。

随分とボケた目玉を持ってるようだ。


追記

母と友人達と一緒に転がっていた兄の亡骸を見つけた。

身体は酷いもんだったが、幸運にも顔に怪我はほとんどなく、俺たちの知ってる顔のまま、見送れる事だけが救いだった。

形だけでもと皆で火をつけて手を合わせ、弔ってやった。






○今日は何年かぶりに日記をつけてみようと思う!

兄が死んでから随分と手をつけていなかったが、今日ばかりはそうもいかん!


さて、今日のビッグニュースはなんといってもこれ!

戦争が終わったのだ!

あぁ、ダメだ興奮が冷めきらない!!


戦  争  が  終  わ  っ  た  !!


こんなに嬉しい一文があるもんか!

部屋の外からも歓喜の雄叫びが聞こえてきて正直うるさい!

今日の避難所は当然大宴会だ!!

早く俺も兄に報告に行かなくてはならない!



○昨日は本当に楽しかった。

あんなに酒を飲む日は2度とないだろうと思う。

おかげで今日は悪夢である。二日酔いはやはり慣れない。

頭が割れてしまいそうだ。

今日はここで終わる。すぐにでも寝るとする。



○横になっている時、看病にきてくれた村長が話をしてくれた。

戦争が終わった理由は彗星落下なのだそうだ。

そういえば数千年に一度の流星群が近づいてるとか新聞に書かれていたかもしれない。

だとすればありがたい話だ。

きっと神が天誅を下したのだろう。

中々よい話だ。


ーー


確かに興味深い日記だった。

当時の人々がどんな生活をしていたのか、どんな心境だったのかが文字を通して伝わってくる。

でも正直ここまでは知ってる話しか描かれていない。


というか、当時の人が残した日記というのは中々見つからないのでこれ、かなり貴重な物なのでは?

アレンが保管するよりもどこか専門の所に預けるべき代物だと思うが…


「ここまではまだいいんだ。

問題はこのあとなんだよ」


そう言ってアレンはページをめくり、指差した。



ーー


○ここしばらく日記をつける余裕がなかった為、また数日空ける事になってしまった。

正直今も眠る前に描き込んでいてここ数日、寝ずの見張りをした明け故、正直かなり眠い。


だが、この事は後世に伝えなくてはならないと判断しまだ命ある内にここに記しておく。



宴の片付けを終え、一人一人が避難所を立ち退き、自家に戻る準備を進めている時だった。


避難所に突如火が放たれた。

内部構造の大半が木造だった避難所はあっという間に焼け広がっていった。今思えば火の広がりが早すぎたような気もする。

誰かが油でも撒いていたのだろうか?


多くの人が焼け死んだ。母も友人も老人も子供も。

そこには俺もいた。かなり火傷を負うことになったが、幸いにも窓から脱出出来た。

ただ窓から出て、俺は衝撃を受けた。


この世界が

少なくとも俺から見える景色のその全てが燃えていた!!

所々で黒い人影が動いているのが見えた。反射的に大きく手を振り、喉を痛めて叫んだ。「助けて」と


それがいけなかった。


その人影こそが火をつけた張本人達だったのだ。

奴らは俺を見るなり剣を持って襲いかかってきた。

今でもよく逃げられたなと自分を褒めたい。


あの日のことは忘れもしない。

だが、その中でも特に印象に残っている事がある。


奴らは皆アグドの印章のついた服を着込んでいた事だ。

それに何人か知ってる顔もいた。

奴等は各所で蛮行を繰り返すから自然と民衆の間で有名になっていくからだ。

避難所に火をつけて、村のみんなを殺しまくったのはアグドの兵士達と見て間違いない。


だが理由は分からない。

戦争で闘っていたのはアグドだったことから考えて、奴等の狙いは深刻に不足している食糧や金品か?


だとすれば火をつけた理由は?

村の住民達を無差別に殺してるのは?



ここで俺は筆を取り、文字にしてみて初めて気がついた。

奴等の目的は略奪ではなく、殺戮だった、ということだ。

そうでなければ火をつける必要はない。

ただ自分達も動きづらくなるだけだからな。


何故皆殺しにするのだ?

口封じ?アグドと俺達はなんの関係も持っていないはずだ。

なにか罪を犯した?犯したのはどう考えても向こうだろう。





ダメだ。

しばらく考えてみたものの答えはどうにも出てこなかった。

何より眠気が強くて限界だ。

仮眠だけでも取っておけばよかったと後悔している。


ただ少なくともこのままでは俺も生き残った村の人達もいずれ殺される。

もしかすると明日には俺も兄や母がいる所に送られてるかもしれない。

だからせめてこの日記を決して奴等の目の届かない所に隠しておこうと思う。


もし俺が死んでしまったとしても、アグドが俺達の村を滅ぼしたという事実を書き記したこの日記を未来に届けられたならば、俺の存在意義はあったと言える。


書いておきたい事は全て書き記した。今日はもう寝るとする。


ーー



次のページをめくれば白紙。ずっとずっと白紙だった。

ここで日記は終了している。


自分の表情が固くなっている事が分かる。

見ればデネブは眉間にシワが寄り、ベガは目を閉じ、深いため息を着いた。

二人とも不機嫌な表情を浮かべている。


アレンは最後に日記の一番後ろを開き、こちらに見せてくれた。

そこにはただ一文のみが記されている。



これを読んでる者がアグドの人間ではないことを祈る。



「とんでもないなこりゃ」


「とりあえず、アグドがどうしてこの村を襲ったのかを考えないとね」

「これは僕の考えなんだけど、アグドは多分この村だけじゃなくて、他の都市や村も同じように滅ぼしたんだよ。

アグドの目的は、戦争が関係していたのかもしれない」


「アグドがこの村以外も滅ぼしたかもっていうのはどうして?」

「アグドに残ってる記録を調べたんだ。

そしたらこの村以外にもたくさんの村や街が滅んでるんだ。

あの隕石落下の日にね。


でもこの日記を見る限りだと流石にたくさんの街が一瞬で消え去るほど大きな規模じゃなかったと見える。

と、なるとアグドが順に滅ぼしていったんだろうね。

実際は滅ぶまでにはそこそこ時間かかったのかもしれないけどさ、記録なんて後からいくらでも書き換えれる」



「アグドの株がドンドン下がってくわ」



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