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それぞれのカナン   作者: 笹原 カエデ
第一部 4人の戦士
15/21

始祖とカナンの意思


宴から更に3日後


アレンとデネブは同期の中でも頭ひとつ抜けて高い腕前を買われ、一足早く最前線の現場に参戦し、野獣との闘いを経験していた。





ゴアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!



天高く空を舞い、太陽と重なるようにして上空から地面を見下ろす。

人一人くらい簡単に覆い被せそうな巨大な翼には幾人もの命を奪ってきた爪がつき、硬い鱗で覆われる。

そして、その目には獲物を見つけた狩人特有の冷たい殺意が確かに灯っていた。


翼龍の一種だ。




元騎士であるアルタイルの母親も『騎士団は野獣よりも始祖の生物を相手にする事が多い』と言ってたくらいだし、当然その覚悟はしている。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


始祖の生物


それは300年前の戦争より以前からこの世界に存在している古代の生物達の総称である。

種族はバラバラ

体格もバラバラ

生態もバラバラ

皆が皆、独自の進化を遂げて独自の方法で生き抜いてきた生物達。


ただ一つ共通して言えるのは全員とんでもなく強いという事。

はるか昔からを生き抜いてきた生物達には時に現代兵器ですら役に立たない事もあるという。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


だがそれでも入隊してわずか3日で龍と対峙するなど流石のデネブも予想外すぎた。



「やるしかねぇのかよ…!!」


先輩騎士達もいるとはいえ、命の危険は皆平等。

このような状況では自分の身は自分で守るしかあるまい。

兵士全員に支給された短剣を構え、デネブは龍の目を見る。


獲物を見定めた龍は視線を交わした瞬間に吠えた。




ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァーー!!!!



「う!」


龍の咆哮に頭を殴られ、思わず耳を塞いで目を閉じてしまう。


一瞬の油断が命取りとなる殺し合いの場面で、それがどれほど愚かな行為なのかは説明せずとも分かるだろう。


敵にどうぞお好きに、とお願いしてるようなものなのだから



「ーー!!!  ーーっ!!!!」



先輩騎士達がデネブに向かって何か叫んでいたが、デネブはそれに気付きすらしなかった。


目を閉じ、耳を塞ぎ、自らの感覚を自ら塞ぎ込む愚かなデネブは今まさに自らの命が消えようとしている事に気付きすらしなかった。



「え」



デネブはほんの僅かに目を開き、周囲の景色を目にした。


まず真っ先に飛び込んできたのは、今まさに振り下ろされたのであろう自らを覆い隠すように頭上に広がる巨大な翼



そして、それを真正面から受け止める先輩騎士の姿だった。

「ドレイク隊長!」

「今のうちだ!逃げろ!!」


ドレイク隊長の指示に頭では理解出来ても身体がついていかず、ただ困惑の色を浮かべてデネブは固まってしまった。


それに助け舟を出したのはアレンであった。


「デネブ!早くこっちへ!!」


アレンの声に我に返ったデネブは弾かれたようにアレンのいる後方へと駆け出した。


デネブの退散を確認した先輩騎士はいまだ翼を受け止めるドレイク隊長に加わり、その圧力を半分いただく。


「隊長!新入りは退散しました!!」

「攻撃せよ!!」



ドレイク隊長が号令をかけると、痺れを切らした先輩騎士達が一斉に龍に襲いかかった!!

まずは翼を切りつけ、その羽に穴を開ける事で二度と飛び上がれないようにする。

その動きは手馴れており、人によってはそれは作業をしているようにすら見えた。


龍は、羽をやられた怒りと全身に絶え間なく続く痛みに思わず咆哮を上げる。


しかし先輩騎士達は怯みこそすれどそれで手を緩める事はなく、むしろ過激さを増していった。


ある者は脚を切って飛び立つ跳躍を困難にしたり、

ある者はガラ空きの腹に刃を突き立てて鮮血を飛ばし、

ある者はその脳天に槍を突き刺した。



ギャアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーー!!!!


龍は再び耳を壊す咆哮を上げ、自らに纏わりつく小さな生物達を払おうとする。

だが、奴らはその程度では振り落とす事さえも出来ない。

それどころか闘志を燃やす者さえもいるくらいだ。


分が悪いと判断し、流石の龍も退散を図る。

飛び立つ為に翼を広げて、鳥によく似た2本の足で大地を蹴って空へ行こうとした時、足と翼に激痛が走った。



見れば龍の翼は既にボロボロ。

翼膜も穴だらけになっており、これではとても風を掴んでくれないだろう。

足で逃げ出そうにも既に自らの足は自らの巨体を支える巨大で頑強な筋肉の筋の大半が切り裂かれ、立つ事ですらやっとの状態になっていた。



空へは逃げられずに、足で逃げようにも歩くことすらままならない。



龍は自分が既に詰んでる事に気が付き、その目に絶望が灯る。


そして、既にボロボロになった自らの身体に鞭を打ち、もう一度命乞いのようなか細い鳴き声を自らの脳天に槍を刺した人間を見つめながら鳴く。


それを見たドレイク隊長は、何も言わずに槍を引き抜き、再び目を突いた。



ギャアアアアアアァァァァァァ……!!!


龍は力尽き、背中から地面に倒れ伏した。



「す、すげぇ…!!」


思わず感嘆の声が漏れた。

あんなにも巨大な龍をいとも容易く瞬殺した先輩騎士達の働きに戦慄し、同時に感動した。

デネブは初めて見る龍殺しの瞬間に興奮を抑えきれなかった。


「す、すみません。俺のせいでドレイク隊長に迷惑を」

「気にするな。新兵は皆こんなもんさ」


デネブの謝罪にドレイク隊長は一笑いして許し、ついさっき仕留めた龍の亡骸を満足気に見つめる。


「それよりもよく見ておけ。

これからは君達もこんな奴等と闘わなくてはならないのだから」




………今度は、俺達が…


正直、勝てる気がしないのだが…。






「ロドリーゴさん。

龍を倒す為のコツとかってありますか?」


「んんー……そうだなー…。

ひたすらに攻撃を喰らわない立ち回りをする、だな。

そうすれば図体のデカい向こうの方が先にスタミナ切れを起こす。あとはそこを狙うってわけよ。


ま、その避け続けるってのが難しいがな」


先輩騎士達にいろんな事を聞きながら俺とアレンは見回りを行なっていた。

人間の10倍はあろうかという巨大な龍を拍子抜けしてしまうほどに瞬殺した先輩騎士達の姿がまだ目に焼き付いている。


「僕からも質問が…」

「まぁ待て待て!

質問攻めは仕事の後だ!今は見回りに集中だ、集中」


ついさきほどまでウキウキ顔で一つ一つの質問に丁寧に応じてくれたロドリーゴさんだったが、止むことのない質問の嵐に流石にお手上げの表情で逃げた。


だが、言ってる事もごもっともだ。


聞きたい事が山ほどあっても今は職務中。

不測の事態が発生したとき、他の事に意識を割いていては対応する事が出来ないかもしれない。


「そ、そうですね。すみません」

「分、分かればいいさ」


あとはお願いしますね、と小さくドレイク隊長に告げ口していたのが見えた。

ドレイク隊長はあれで中々苦労人のようだ。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







「そういえば前から聞きたかったんですけど、騎士団でたびたび交わされる『カナンに自由を』ってどういう意味なんですか?」




アレンの質問にドレイク隊長は困ったように上の空を見た。



「う〜〜ん………。

なんだそりゃ、ってなるだろうけど、実ははっきりとした理由が分かっていないんだよ。

諸説あるけど、定説はこうだ。


カナンというのはかつて300年前に実際に起こっていた戦争での犠牲者達の事であり、自由を、というのは魂は解放され安らかな眠りをという意味である」



つまり、戦死者を弔う、もしくはその魂の未練を絶つ、という意味がある。

先人達の勇姿を称える言葉だったのだな。


「ただ、僕はこう考えているよ。

カナン、というのは戦争時代にいた奴隷の名前であって、


つまり『カナンに自由を』というのは『奴隷に自由を』


言葉の通り、奴隷解放を謳った自由を叫んだ言葉なんじゃないのかな?って」



あくまで僕個人の考えなだけだから、本当はどんな意味だったのかは誰にも分からないよ。


ドレイク隊長は言い残し、逃げるように兵舎を後にした。


「実際はどんな意味かはわからない。

けど俺はドレイク隊長の説が好きだな。

自由を求めるなんて、かっこいいぜ」

「僕は、戦死者の弔いだったらいいな。

誰にも知られずにただ忘れられるなんて、死んだ人達も報われないから」


見回りも終わり、騎士達共通の寮内の一室で二人は談笑する。

元々二人は気が合ったようで、会って数日だというのにはもう馴染んでしまった。



しかし二人の間にはまだ壁があった。



その壁はエボミーであるアレンが相手だからこそ発生したどうやっても避けられぬ巨大な壁であった。






デネブは、最愛の妹をエボミーに殺されたのだ。





デネブはふとアレンの方を横目で見た。

いつ見ても変わらない整った顔立ちと見回りの疲労が残った疲れ気味の表情。

エボミー特有の異形に発達した肉体が見られないアレンは、レダを殺したあのトカゲ野郎と同じ種族にはとても見えない。


だが、アレンは言った。自分はアグドの出身だと。

アグドはエボミーが主権を握り、世界的にも特にカゲロウ差別が激しい国だ。

そんな国の出身という事は、どう考えても俺達と同じカゲロウではないだろう。




ふとデネブは目を閉じ、今は亡き妹に、心の中で問うてみた。


俺はエボミー(アレン)を許せるだろうか? と




妹の命を奪った男と同じこいつを。


いずれ闘う事になるエボミーと同じ種族のこいつを。



俺は友達として、その手を握れるだろうか、



そう問いかけても空は何も言わない。


代わりに窓から柔らかい風が吹き、デネブの髪を遊ぶように膨らませた。



「………よし、決めた」

「え?何を?」


突然言い出したデネブにアレンは困惑の表情を浮かべる。

デネブは真剣な表情で向き合った。



「アレン。明日の見回り後、俺の部屋に来てくれないか?

大切な話があるんだ」

「愛の告白ですか?」

「違う」

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